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その一 芙蓉中宮

今上帝の御世。


後宮は平和だった。


帝は、ただひとりの女性、中宮を愛し続けた。


他の女性が、帝に侍ったことはない。


今までも。


これからも。


けれども、これからは後宮は戦乱の世になる。


東宮が元服する日が決まったのだ。




芙蓉は、溜め息をついた。


東宮の童姿も、もうすぐ見納めだ。


東宮が大きくなるのは嬉しい。


けど、こうしてどんどん息子が手元から離れていく気がして寂しかった。


まあ、寂しいなんて言ってられないくらい後宮は賑やかになりそうだけど。


この十年近く、後宮には芙蓉しかいなかった。


清涼殿に近い殿舎にしか住まう人はおらず、芙蓉たちは広い御所の中で一つの家族のようにこじんまりと暮らしていた。


東宮も二の宮も姫宮も、御所の中を走り回って、鬼ごっこやかくれんぼをしていたものだ。


ここ数日、少し埃っぽくなっていた殿舎を、女嬬たちが掃除していた。


東宮が元服するのとほぼ同時に、数人の姫たちの入内が決まっている。


帝の後宮よりも規模が大きくなってしまうが、帝は大して気にしていないようだ。


むしろ、ややこしそうな問題を抱えるであろう東宮に同情していると言ってもいい。


芙蓉は東宮の後宮の問題には関わりたくないが、中宮として、関わらないわけにもいかなかろう。


かといって、いずれかの姫に肩入れするわけにもいかない。


入内が決まったのは、院の姫宮、式部卿宮の姫、頭中将の姫。


これからも増えるだろう。


かつての左大臣は、太政大臣となっているが、芙蓉の妹となるちい姫がいる。


まだ七つだけど、そのうち入内の話も出てくるかもしれない。


二の君は宰相中将と結婚し、そこにも姫はいる。


他にも、幾人か入内させたいと言ってきている親がいる。


もうすぐ入内してくる三人の姫たちは、いずれも芙蓉にとっては愛しい姫。


争っているのを見たくはない。


その時、パタパタと衣擦れの音がして、姫が一人やってきた。


「中宮さま」


その物静かな面差しは、水のように静か。


「姫宮」


院の姫宮、梅壺の姫宮と言われるこの人も、近く女御となる。


東宮とは、幼いころから仲むつまじく、一番長い時間を過ごした幼なじみでもある。


数年前に裳着をすませ、すっかり大人びてきた。


女御となる人たちの中でも最も身分が高く、最初に女御となることが決まっている。


いつも芙蓉の側近くにいた姫宮は、芙蓉にとっても、実の子のように愛しい。


「入内前に一度、父院のもとに下がることになるので、ご挨拶に参りましたの」


柔らかに微笑む。


「入内のお支度は、揃ったの?」


「はい」


春の陽の光のように微笑む姫宮は、入内を心待ちにしている様子。


ああ、この子は東宮に恋しているんだろうな。


そう思わせる笑顔である。


芙蓉は、少し懐かしい思いを感じる。


他の姫たちも、こんなふうに東宮に恋するのかしら。


それとも、もう恋してたりする?

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