第6話:襲撃、モルグス国
ワルツの港では戦闘が開始されようとしていた。
ワルツの港には雷の魔術師ベレーと重騎士ディザードが守備をしていた。そして、その二人がいる港に攻めて来ようとしているのが、モルグスの騎士イレイスであった。
イレイスは大変な部下思いで有名でその戦術は集団で一人を狙い打つというような指揮がよく見られると言われている。
(イレイス)
「みんな、よく聞け。いよいよ我等の戦闘が始まろうとしている。この戦いは国の為の事である。逆賊カナン皇子を亡き者とし、その首を国へ持って堂々と帰還するぞっ!」
(モルグス兵達)
「はいっ!」
一方、ワルツの砦では今回の戦闘における作戦についてベレーとディザードが話し合っていた。
(ベレー)
「俺は港の中に隠れ、モルグスの兵が通った後、前と後ろから挟み撃ちにする作戦がいいと思うのだが……」
(ディザード)
「いや、ここはカトレア城からの援軍を待ってから作戦を始めた方が賢明だと思うのだが……」
(ベレー)
「それじゃ、モルグスの兵に港で好き勝手にされてしまうぞ。手を打つなら早い方がいいぜっ!」
(ディザード)
「だが、その作戦でいけば他の兵士達が危険な目に会ってしまう」
(ベレー)
「俺の兵達はそんな腰抜けではないっ!危険な事なんて何もないさ」
ベレーはディザードの忠告を無視してワルツの港へと進軍していった。
そこでディザードは仕方がなくベレーの作戦を決行するしかなくなってしまった。
そして、ベレー達がワルツの港で待機しているとモルグスの兵達がそこを通りすぎ、ワルツの砦へと進軍していった。そこでベレーは作戦通り後ろから奇襲を仕掛かけた。
(ベレー)
「よし、みんな、今だ。一勢に攻撃を開始するぞっ!」
ベレーの兵達は雷の呪文を詠唱し始めた。そして、モルグスの兵達に目掛けて放った。
(モルグス兵)
「うわぁっ!空から雷が降ってきたぞ」
(モルグス兵)
「助けてくれっ!」
モルグスの兵達は逃げ惑った。ベレーの作戦は見事に成功したかに見えた。
しかし、ベレー達が倒したのはモルグスの先攻隊だけであった。本隊はベレーの後ろからイレイスが攻撃を仕掛けて来た。
(イレイス)
「やはり罠が仕掛けられていたのか。しかし、私にはそんな罠など通用しない。みんな、先程犠牲になった者達の為にもこの戦いなんとしても勝利せよっ!」
モルグス兵達はイレイスの言葉で気合を高めた。そして、ベレーの兵達を次々に倒していった。
(ディザード)
「これはいけない……すぐに援護しなければ……」
その状況を見ていたディザードは慌ててワルツの港へベレーを助けに行こうとしたが外には先程生き残ったモルグス兵達が攻めて来ていた。
(ディザード)
「くっ!見事にやられたな。だから、様子を見ておけと言ったのに……くそっ!」
ディザードは悔しそうにワルツの港を見つめていた。ディザードにはベレー達を助けに行く手段が残されていなかった。
そんな最中、カナン達がワルツの砦へと助けにやって来た。そして、カナン達はモルグスの先攻隊を次から次へと倒していった。
(カナン)
「大丈夫ですか?カトレア女王の命により助けに参りました」
(ディザード)
「それはありがたい……それでは早速頼みがあるのだが……」
(カナン)
「何でしょうか?」
(ディザード)
「実は今ワルツの港には私の友人がいて苦戦を強いられています。そこで私と一緒に助けに行ってもらいたのだが?」
(カナン)
「はい、分かりました。一緒に行きましょう」
カナン達はディザードと共にワルツの港へと向かった。
前線ではベレー達が戦闘をしていたが、もうほとんどの者が戦闘の中で倒れていった。
(ベレー)
「そんな、こんな筈じゃなかったのに……」
ベレーは兵達にワルツの砦へ撤退する様に指示をした。けれども、ほとんどの者が生きて撤退する事ができなかった。そして、ベレーはイレイスに発見された。
(イレイス)
「どうやら、この部隊を指揮していたのはお前だな?」
(ベレー)
「ああ、そうだぜ。だが、結果はあんたの方が一枚上手の様だったぜ」
(イレイス)
「そんな事はどうでもいい。よくも私の部下達を。死んで償えっ!」
イレイスは気合いを込めると勢いよく剣を振り下ろしてきた。ベレーは手に持っていた鉄の棒に雷の力をこめた。するとイレイスの剣はその鉄の棒に引き付けられてしまった。
(イレイス)
「くっ……しまったっ!」
(ベレー)
「なぁ、あんた。雷の磁力ってのは鉄を引き付けるって知ってたか?これで形勢は逆転だな」
(イレイス)
「それはどうかな?」
イレイスはベレーの不意を突くと持っていた水筒を投げつけた。イレイスはベレーが怯んだその隙に奪われていた剣を奪い返した。
(ベレー)
「ぐっ……何しやがるっ!」
(イレイス)
「これでさっきと同じ事はできまい?」
(ベレー)
「そういう事か……今のはただ単に俺の奪った剣を取り返すだけでなく、水浸しにする事で雷の力を放電させる気だったな」
(イレイス)
「ご名答。まったくその通りだ」
(ベレー)
「どうやら、万策尽きたようだな。ディザード、悪いな……これまでのようだ……」
ベレーが死を覚悟して、イレイスの剣が当たる瞬間、一本の槍が飛んできてその剣を弾いた。
(イレイス)
「何者だっ!」
(ディザード)
「おいおい?諦めるの少し早いようだが?」
(ベレー)
「ディザードっ!どうしてここへ?砦の守りはどうした」
(ディザード)
「砦ならカナン皇子達の協力により守る事ができた」
(ベレー)
「そうか、どうやら俺は助かったらしいな。それよりそこにいた奴は?」
(ディザード)
「どうやら、逃がしてしまったようだな」
イレイスはディザードがベレーに気を取られているうちにその場から立ち去り、イレイスの本部隊に戻っていた。しかし、イレイスの本部隊の大半はカナン達にすでにやられていた。
イレイスは残りの部隊を率いてカナン達に最後の戦いを挑んだ。
(イレイス)
「何としてもカナン皇子の首だけは取るぞっ!それが死んでいった者達に対する礼儀だ。全軍突撃ーーー!!!」
イレイス達は突撃した。カナン達もこれに対して同じように突撃していった。そして、次々と倒れていくイレイスの部隊、イレイスは最後の力を振り絞り、カナンに剣をむけて振り下ろした。
これをカナンは剣でうけた。互いの剣が音を出し、甲高い音が何度も響いた。やがて、そこにレクトルが助けに入り、馬の脚を狙って槍を放った。
その槍は見事に馬の脚に当たり、イレイスはバランスを崩した。そこをカナンが狙ってイレイスの脇腹を斬った。
(イレイス)
「ぐっ……やるな……我が人生に悔いはなかった……」
イレイスは脇から血を流して動かなくなった。そして、カナン達はイレイスの亡骸を丁寧に埋めて他に襲われているというメトラの港を目指し出発した。
その頃、メトラの砦では騎士アレンと火の魔術師ファーストが戦闘の作戦について話し合っていた。
(ファースト)
「おかしいですね。確か報告によると船は3隻あったはずですが?」
(アレン)
「それがどうかしたのか?」
(ファースト)
「あれを見て下さい。あそこには2隻の船しか近づいて来ていません……」
(アレン)
「別にたいした事ではあるまい。たかが1隻の船が消えた事など問題にはなるまい。もしかしたら、別の国の船が混ざっていたのかもしれん」
(ファースト)
「そうでしょうか?もしも、あの2隻の船が囮で残りの船が本命だとしたら今すぐにここを出て、あの2隻の船を迎え撃つのは危険です」
(アレン)
「しかし、このままあれらの船が上陸するのをただ指をくわえて見ている理由にもいくまい?」
(ファースト)
「確かに……それも一理にはあります。だけど、ここはもう少し慎重に考えるべきではないかと思いますが?」
(アレン)
「なら、どうする。どういう作戦を立てるのだ?」
(ファースト)
「そうですね……ここは少し危険ですが、部隊をアレン殿と私に分断して前と後ろに分かれて守備をするというのはどうでしょうか?この作戦でいけば、もし敵が後ろから攻めて来たとしてもすぐに対処がうてますし、仮に来なかったとしてもそちらの部隊がピンチの時にすぐに助けに行く事ができます」
(アレン)
「そうだな……その作戦で指揮をしようっ!」
(ファースト)
「それと1つ忠告しておきますが、くれぐれも形勢が有利だからといって深追いするのは辞めて下さい。あくまでも私達の方が人数が少ない筈ですから……」
(アレン)
「なぁに、心配するな。そんなへまはしねえよ」
アレンは部下達を引き連れて砦の前方に陣形を組んだ。そして、ファーストも砦の後方に陣形を組んだ。
その頃、カナン達はまだワルツの港の近郊を移動していた。
(デライト)
「なぁ、レイニード。俺は最近、活躍していないような気がするんだが……」
(レイニード)
「何言ってんだ?そんな事は無いぜ」
(デライト)
「そうかな。でも俺の存在感ってすごく薄い様な気がするんだ……」
(レイニード)
「気にするな。お前の存在感が薄いんじゃなくて周りの奴らが濃いだけだ」
レオニード達が話していると後ろの方でもレクトルとティラミスが話をしていた。
(レクトル)
「すいませんね、ティラミス様。何かどんどん目的が変わってしまいまして」
(ティラミス)
「いや、気にする事は無い。どちらにしろ、全ての国を旅するつもりであったし、それに旅は道連れ世は情けというだろ?」
(レクトル)
「そうですか。それはありがたい。ところでティラミス様はどんな人を探していらっしゃるのですか?」
(ティラミス)
「気になるか?」
(レクトル)
「いえ……ティラミス様が言いたくないのであれば結構なのですが……」
(ティラミス)
「強い男だ。私が小さい頃、ある大会があった。私はその大会で優勝候補の一人になる程強かった。だが……その男はそんな私など到底かなわないと思う程強かった。そこで私は負けた事を苦に修行の旅に出たと言うわけさ……」
(レクトル)
「そうだったんですか……しかし、私にはティラミス様を負かすというその男の存在が信じられませんね」
(ティラミス)
「ふっ……私とて人間だ。この世界には私を超える剣士などたくさんいるだろう。それにその男の放つ剣の太刀はまるで光の様であった。私には速すぎて目に映らなかった程にな。今の私でもその男に勝てるかどうか……」
(レクトル)
「何の根拠もありませんが、今のティラミス様ならきっと勝つ事ができると思います。少なくとも私はそう信じています」
(ティラミス)
「そうか……ありがとう……」
ティラミスはレクトルの真剣な眼差しを受けて頬を緩ませると微かに笑みをこぼした。