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グランドスター  作者: 東メイト
第二章 カトレア王国編
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第5話:襲撃、ラングス国

カナンはカトレア女王とこれまでの経緯について話していた。

(カナン)

「……という理由で僕達はここまで来る事ができました」

(カトレア女王)

「それは、それは……とても苦労をなされた事でしょう?」

(カナン)

「はい……とても苦労しました。けれど、その運命のおかげでみんなと出会う事ができました。それに……何時だって僕には希望の光がついていました。だから……挫けたりする事はありませんでした」

(カトレア女王)

「そうですか……貴方は貴方の傍にある苦労を少しも呪ってはいないのですね。本当にお強い方です」

(カナン)

「いいえ、カトレア女王。その逆です。僕自身はとても弱いです。そう見えるのは僕の傍に仲間がいてくれるからです。だから、僕はたくさんの仲間を集めます」

(カトレア女王)

「その事は決して間違ってはいません。これならば貴方に貴方の運命について話す事ができそうです」

カトレア女王は急に険しい表情を浮かべると深刻な話を始めた。

(カトレア女王)

「実は貴方がここへ来る少し前にこの国の未来について占い師達を招いて占ってみたのです。この国の未来は……」

カトレア女王とカナンが行く末について話をしている頃、フィリルの部屋の扉を叩く者がいた。


フィリルは不思議に思いながら部屋の扉を開けた。そこにはアースティアが立っていた。

(フィリル)

「どうしたの、アースティアちゃん?眠れないの?」

(アースティア)

「私にカナンを愛する資格はあるの?」

アースティアはいきなりそんなことを呟いた。

フィリルは突然の質問に戸惑いながらもアースティアを部屋に招き入れた。

(フィリル)

「一体どうしてそのような事を言うの、アースティアちゃん?」

(アースティア)

「だって、私は……カナンの親を殺し、カナンの幸せを奪った父親の娘なのよ。そんな私にカナンを愛する資格なんてないんじゃないの?」

アースティアは苦しそうな表情を浮かべると自らの心中について語り始めた。

(アースティア)

「それなのにカナンは私に言ったわ。『気にしなくていいて』……だけど、それはカナンが私の事を気遣って言ってくれた事かもしれない。本当は私の事を……」

そう言いかけた瞬間、フィリルがアースティアの唇に手を当てて口を塞いだ。

(フィリル)

「ちょっと待って。そこから先の言葉を言う前に私の質問に答えてもらえるかしら?あなたはカナン君の事を心の中でどう思っているの?」

(アースティア)

「私は……私はカナンの事が大好きよっ!だけど、私は……」

(フィリル)

「はい、また少し待って……あなたの本当の気持ちをどうして隠そうとするの?」

(アースティア)

「分からない……だけど、カナンの事を好きだと思うと胸の奥がとても痛くなるの……」

(フィリル)

「そうね……『恋をする』って苦しい事かもね。だけど、そんな痛みに負けては駄目よ。あなたが本当にカナン君の事を愛しているなら信じなさい、カナン君の事を。そして、あなた自身の事を」

(アースティア)

「私自身の事を信じる?」

(フィリル)

「えぇ、そうよ。そのカナン君の事を愛していると言う気持ちを」

(アースティア)

「私の気持ち……」

アースティアは胸に手を当てると軽く拳を握りしめた。

(フィリル)

「恋をするのは国や家柄なんかじゃない。恋をするのは自分達の心……心同志の求め合い。それが『恋をする』って事じゃないかしら?」

アースティアはフィリルに励まされて自分自身の心を信じる事にした。

(アースティア)

「ありがとう、フィリル。なんだか自分の事を信じれそうな気持ちになってきたわ」

(フィリル)

「それでいいのよ。その気持ちを大切にね。また、いつでも悩んだら相談に来なさい。相談に乗るから」

フィリルは柔らかく微笑むとアースティアを見送った。

(フィリル)

「本当の気持ちか……」

そう呟くとフィリルは部屋の明かりを消した。


次の日、一人のカトレアの兵士が血相を変えて女王の間に入ってきた。

(カトレア兵)

「大変です、女王陛下っ!申し上げます。ラングス国と思われる船とモルグス国と思われる船がこちらの港を目指して進軍してきます」

(カトレア女王)

「そうですか……やはり、ラングス国は攻めてきましたか。けれど、まさかモルグス国の兵まで借り出してくるとは……」

(カナン)

「カトレア女王っ!僕達も港の警護に巡ります」

(カトレア女王)

「よいのですか?あなたは客人なのですよ」

(カナン)

「構いません。元々は僕がこの国に逃げてきた事が原因ですし、それに……少しでも受けた恩は返しておきたいので」

(カトレア女王)

「……分かりました。それではカナン皇子達にはレトアの港の警護をお願いします」

カナン達はレトアの港を目指して出発した。その集団の中にはフィリルの姿もあった。

(カナン)

「フィリルさん、お城にいなくていいんですか?」

(フィリル)

「大丈夫、お母様の許可は貰ってあるわ。『カナン達の手助けをしなさいて』って送り出してくれたわ」

フィリルはアースティアの横に並ぶと優しく微笑んだ。そして、カナン達は先へと進んだ。


その頃、レトアの港ではもうすでに戦闘は始まっていた。

レトアの港を守備しているのは老騎士のレオンと新米の風魔術師エルメスである。

その二人を相手にしている敵将はゲオルグ将軍であった。

ゲオルグ将軍は容赦ない猛将で暴力と知略にとても長けていた。

その為、レオンとエルメスの兵はもう全滅寸前であった。

(エルメス)

「ねえ、レオン?もう諦めて降参しようよ。ここの港はもう駄目だよ……」

(レオン)

「何を馬鹿な事を言っておるっ!これだから最近の若い奴らは教育がなってないというのだっ!」

(エルメス)

「だけどさ……この戦闘の被害を見てみてよ。こっちが20人倒されて向こうは1人しか倒れていないんだよ?どう見たってこちらの劣勢は火を見るより明らかだよ」

(レオン)

「だからと言って奴らをこの国に上げては騎士の誇りに傷がつくっ!」

(エルメス)

「何言ってんだよ。もう奴らは国に上がっているじゃないか。それに……僕は魔術士だからその言葉の意味が分かんないよ」

エルメスは風の魔術者らしい緑髪を揺らしながらレオンに抗議していた。

(レオン)

「たくっ……すぐにああ言えば、こう言い、こう言えば、ああ言うやつだな。そんなんじゃ、お前の兄の様に立派にはなれんぞ」

(エルメス)

「そっちこそ何かある事に何かと僕とお兄さんを比較するんだね。どうせ、僕じゃお兄様のようにはなれませんよーーーだっ!」

エルメスは鼻息を荒くさせるとレオンとは反対の方を見つめた。

(レオン)

「エルメス……悪かった。機嫌を直せ」

(エルメス)

「……」

(レオン)

「わしも少し言い過ぎた。だけど分かって欲しいのだ。辛いのはお前だけじゃないんだ。兵士達はみんな、この国の為に必死で戦っている」

(エルメス)

「……分かったよ。もう一度だけ兵士を率いて戦闘を仕掛けてみるよ」

エルメスは砦の中に入り、残っている風使い達を率いて港へと出陣した。そして、レオンも兵士達を率いて港へと向かっていった。

(ゲオルグ将軍)

「どうだ。何か役に立ちそうな物は見つかったか?」

(ラングス兵)

「将軍、そこの物陰に子のような者が隠れていました」

(ゲオルグ将軍)

「なんだ?ただの餓鬼ではないか。邪魔だ、殺せっ!」

ラングス兵はゲオルグ将軍の命令に戸惑っていた。

(ゲオルグ将軍)

「どうした?何をもたもたしている。早くその餓鬼を殺せっ!」

(ラングス兵)

「将軍……私にはこの子供を殺す様な真似はできません」

(ゲオルグ将軍)

「なんだとっ!私の命令が聞けないのか?」

(ラングス兵)

「私にはできません……」

ゲオルグ将軍は持っていた槍でいとも簡単に兵士の首を撥ね飛ばした。

(ゲオルグ将軍)

「ふんっ!兵士は上の命令をただ聞いておればよいものを……おいっ!誰かこの餓鬼の首をはねて、この港の広場にでも飾っておけ」

ゲオルグ将軍に命令されて一人のラングス兵がこの子供の首をはねようとした。

するとこの一部始終を見ていたレオンが急いでこの子供の所へと駆けつけた。

(レオン)

「止めろっ!その子供は何の罪も無い子供だぞ。どうして殺す必要がある?」

(ゲオルグ将軍)

「おや?これは、これは……とんだ大馬鹿者がいたもんだ。餓鬼一人の命の為に自ら一人でのり込んで来るとはな」

ゲオルグ将軍はレオンを見下すとせせら笑った。

(レオン)

「たかがじゃないぞっ!この様な子供達がこれからの国を築き上げていく大切なな者達なのだ」

(ゲオルグ将軍)

「ふん、いらぬ心配だな……これから、この国を築くのは我らラングスの兵だ。こんな餓鬼など生きていたとしても奴隷になるだけだ」

(レオン)

「そんな事はさせるものかっ!」

レオンは勢いよくゲオルグ将軍に斬りかかった。

ゲオルグ将軍はこれを難なく自分の槍でさばき、レオンを後ろへと弾き飛ばした。

(レオン)

「ぐっ!」

(ゲオルグ将軍)

「老いぼれめが……無力とは何と情けない事だ。今、いかに貴様が無力であるかを思い知らせてやる」

ゲオルグ将軍は兵の捕いる子供の首をしめて、レオンの目の前で槍を構えた。

(レオン)

「止めろーーーーー!」

レオンは渾身の力を振り絞って言った。すると突然ゲオルグ将軍の体が宙に飛ばされ、辺り一面に突風が吹き荒れた。

(エルメス)

「平気だった?もう大丈夫だよ。ほら早く向こうにお逃げ……」

助けられた子供はエルメスの言った通りに城の方へと走って逃げていった。

(ゲオルグ将軍)

「くっ……一体何が起こったというのだ?」

(エルメス)

「さぁ、レオン。早く立ち上がってここを逃げよう」

(レオン)

「今の風はお前が出したものか?」

(エルメス)

「そうだよ。レオンの叫び声を聞いて急いで唱えた」

(レオン)

「ふっ……まさか、お前に助けられる時が来るとはな」

レオンは苦笑いを浮かべると自らの不甲斐なさについて恥じた。

(エルメス)

「そんな事はいいから早く逃げよう。さもないと……そこの兵士達に捕まっちゃうよ」

エルメスがレオンの手を持ち、起こそうとした瞬間、エルメスの左腕にゲオルグ将軍の槍が命中した。

(エルメス)

「きゃーーー!」

(ゲオルグ将軍)

「ふんっ!誰一人としてここから逃がすものか。おい、早くその二人を捕まえろっ!」

兵達がエルメス達を捕まえようとした瞬間、レオンが抵抗をして周囲の兵士達を薙ぎ払った。そして、エルメスを脇に抱えると全速力で逃げ出した。

しかし、エルメスの腕からは止めど無く血が流れていた。そこでレオンはエルメスの治療のため、ある民家へと逃げ込んだ。民家の中は人が居らず静まり返っていた。

(レオン)

「はぁはぁ……ここまで来れば、しばらくは時間を稼ぐ事ができるだろう。それより早くエルメスの腕の止血をしなくては……」

レオンは家の中の物を勝手に引っ張り出してきてエルメスの傷口を塞いだ。

(エルメス)

「ごめんね……レオン……僕があなたを助けに行ったのにこんな事になってしまって……」

(レオン)

「気にするな。お前は十分立派であった。少なくとも一人の市民の命は救われた。本当にお前を見直したよ」

レオン達が会話をしていると外からゲオルグ将軍の声がしてきた。

(ゲオルグ将軍)

「おい、貴様らっ!よく聞けっ!貴様達がその家の中にいる事は分かっている。素直に投降しろ。さもなくば、この家を焼き炙り出してくれようぞ」

(レオン)

「エルメス、もう動く事はできるであろう?私が正面で奴らの注意を引く。その隙に裏から逃げ出せ」

(エルメス)

「そんな事はできないよっ!レオンを置いて僕一人で逃げるなんて……」

(レオン)

「いいから、早く行けっ!これは命令だっ!何としてもここから生き延びてカトレア城に戻るのだ」

レオンはそう言うと外へと飛び出してしまった。

(ゲオルグ将軍)

「ほう?やっと観念して出てくる気になったか。もう一人はどうした?」

(レオン)

「もう一人は……逃げた。途中でバラバラに走ったからな」

(ゲオルグ将軍)

「下手ないい訳だな……わしが付けてやった小娘の傷の血がこの家の中まで続いておるわ」

思わずレオンは地面に目をやった。しかし、血の痕跡などどこにもなかった。

(ゲオルグ将軍)

「なるほどな……小娘はまだ家の中にいるのだな。ならば火を付けて炙り出してやろう」

ゲオルグ将軍は容赦なく民家に火を放った。

(レオン)

「止めろっ!中にはまだエルメスがいるのだぞっ!」

(ゲオルグ将軍)

「もともと一昔まで魔女は火破りと決まっておるのだ。丁度よいではないか」

ゲオルグ将軍はけらけらとせせら笑った。

(レオン)

「貴様だけは……貴様だけは許さぬ。絶対に許さんぞっ!」

レオンは再び剣を抜き、ゲオルグ将軍に斬りかかった。しかし、またもや槍で受け止められてしまった。

(レオン)

「くっ!これまでか……」

レオンが諦めかけた瞬間、何処からともなく矢が飛んできてゲオルグ将軍の槍を持っている肩に命中した。

そして、槍が手から離れたところをレオンがゲオルグ将軍の首に一太刀あびせた。

(ゲオルグ将軍)

「ぐはっ!これで終わりだと……そんな……馬鹿な……」

ゲオルグ将軍は首から大量の血が噴出し、その場に倒れた。

(レオン)

「この矢は一体?」

(フィリル)

「レオンっ!大丈夫だった?」

(レオン)

「これはフィリル姫……なぜこの様な所においでになられたのですか?」

(フィリル)

「お母様の命令でカナン皇子達の手助けをしなさいと言われてね」

(レオン)

「そうですか?女王陛下のご命令で……はっ!それよりエルメスを助けなくては……」

(フィリル)

「エルメスなら大丈夫よ。先ほどカナン皇子達に助け出されていたから」

(レオン)

「本当ですかっ!」

レオンはエルメスが無事であると知って胸を撫で下ろした。

(レオン)

「……港の方の兵はどうなっています?」

(フィリル)

「それも大丈夫よ。あらかた、かたはついたわ。まぁ……ほとんどが素直な投降だったけど。それにしてもゲオルグという男は本当に嫌われていたようね」

(レオン)

「あの男は指揮官に向いていなかったのでしょう。あの様な事をしては誰もあの男の命令など聞きたくはないでしょうから……」

フィリルがレオンと話をしていると一人のカトレア兵がフラフラになりながらワルツの港にモルグスの兵が進行をしてきた事を伝えた。そこでカナン達は今度はワルツの港へと向かった。

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