第26話:束の間の休息
カナンは再びフルーレ王の下へ向かうとレイニード達のためにもう一日だけ宿泊させてもらえるように交渉した。
(カナン)
「……というわけでして、もう一日だけここへ宿泊させてもらえないでしょうか?」
(フルーレ王)
「別に構わんよ。好きなだけ宿泊していきなさい。それよりお主の仲間が全員無事で何よりだったな」
(カナン)
「はい……お気遣いありがとうございます」
カナンはフルーレ王に礼を言うと寝室へと向かった。そして、みんなが寝静まった頃、カナンはエリスの部屋を訪ねていた。
(エリス)
「この様な時間に誰ですか?あら、あなたは……」
(カナン)
「夜分遅くにすみません……どうしてもエリスさんとお話がしたくて……」
(エリス)
「そうですか……どうぞ中へ……」
エリスは扉を開くと部屋の中にカナンを招き入れた。
(エリス)
「それで話というのは?」
(カナン)
「まずは謝らせて下さい……すみませんでしたっ!」
カナンはエリスの前に立つと深々と頭を下げた。
(エリス)
「お顔をお上げなさい、カナン……あなたは何も謝る事はありませんよ」
(カナン)
「僕がカトレア国に逃げなければ……カトレアは滅びる事はありませんでした。だから……」
(エリス)
「いいえ……それは違いますっ!あなたがカトレアに逃げてこなくてもカトレアはいずれ滅んでいました。それは決められた運命です。それはあなた達がやって来る前から決まっていました」
(カナン)
「そうだったとしても僕は……」
カナンは唇を震わせると強く拳を握りしめた。
(エリス)
「カナン……ご自分を責めるのはお止めなさい。あなたは何も間違っていませんよ。あなたはこれからも大変な運命に巻き込まれて何度も傷付き、その度に未来を見失うかもしれません。そして、最後にあなたは……」
エリスは唐突に口を閉ざした。そこから先のカナンの運命はとても過酷なものであった。
(カナン)
「お気遣いありがとうございます。その先の答えはカトレア女王より既に聞いておりますのでお気になさらず……僕は自らの運命を素直に受け入れようと思っています」
カナンはカトレア女王から自分の将来について聞かされていた。
(エリス)
「そうですか……あなたはお強いですね。私にはあなたのようにそこまで素直に自分の運命を受け入れられません」
エリスはそんな運命に抗うために伝説の武器を求めて国を飛び出したのであった。
(カナン)
「それがまともな考え方なのだと思います。僕もできることなら死にたくはありません。ですが……この運命を捨てて逃げ出す訳にはいかないんです。時代の礎の犠牲になった者達の為にも……そして、僕を慕って集まってくれた仲間の為にも僕は
決して自分の運命から逃げたりはしませんっ!」
カナンは瞳に強い光を宿すとエリスの瞳を射抜いた。
(カナン)
「ですが……僕の為に犠牲になってしまった人達には謝っておきたかったのです」
(エリス)
「……お優しいのですね。その優しさこそがあなたの下に人が集まる理由なのでしょうね……私はそう思います」
エリスはカナンに優しく微笑んだ。
カナンがエリスの部屋で話をしている頃、ティラミスはジェラートと話をしていた。
(ティラミス)
「兄上……私は病気になってしまったのだろうか?」
(ジェラート)
「突然どうしたのだ、ティラミス?」
(ティラミス)
「最近……ある男を見るとよく胸が高鳴って苦しくなるのだ。どうしてだろうか?私には原因が分からぬ……」
そんな不安を抱えたティラミスに対してジェラートは優しく微笑んだ。
(ジェラート)
「……お前は恋をしているのだな」
(ティラミス)
「恋?この気持ちが恋なのか?」
(ジェラート)
「そうだ。お前は恋をしている」
(ティラミス)
「私は……」
ティラミスは顔を真っ赤にして俯いた。ティラミスはジェラートに言われた事で初めて自分の本当の気持ちに気が付いたのであった。その瞬間、ティラミスはレクトルの事で頭が一杯になってしまった。
(ジェラート)
「あの男の事を考えているのだな……あの時、お前のことを庇ったあの男の事を……」
ティラミスはジェラートの質問に対して小さく頷いた。
(ジェラート)
「ならば……あの男に素直に自分の気持ちを伝えて好きだとはっきり言えば良いのだ」
(ティラミス)
「その様な事……私にはできない……私には言えない気がするのだ」
(ジェラート)
「そうか……分かった。これ以上、余計な助言はしない。だが……これだけは兄として言わせてもらう。時には自分の気持ちに素直になる事も大切なことだ。人を愛する気持ちは決して恥じる事ではない。気持ちの整理がついたら言ってみるといいさ」
ジェラートはティラミスの頭の上に手を乗せると優しく頭を撫でた。
(ティラミス)
「……分かりました、兄上。自分の気持ちに整理がつきましたら、あの男に自分の思いをぶつけてみます」
(ティラミス)
「それでいい……」
(ティラミス)
「相談に乗っていただき、ありがとうございました」
ティラミスはジェラートにお礼を言うとその場を後にした。
その頃、レクトルの方は窓の雪の景色を眺めながらキリトと話をしていた。
(キリト)
「レクトル……何だか最近ティラミス様の様子がおかしいようなのだが……どうしてだろうか?」
(レクトル)
「そうなのか?俺は特に何も感じなかったが……もし、そうならどうしたんだろうな?」
その答えはレクトルには分かっていた。けれど、あえて言葉にはせずに誤魔化した。その答えが必ずしもあっているとは限らないからである。
(レクトル)
「それよりもキリトこそ大丈夫か?」
(キリト)
「えっ?私に何か問題がありますか?」
(レクトル)
「ああ、元気がないように見えるが?なんというか……お前の背中がとても寂しそうに見えるぞ」
(キリト)
「そうですか……あなたには敵いませんね。全てがお見通しのようです」
(レクトル)
「たまたまさ……俺もお前と立場的には似たようなものだからな。カナン様が立派に成長なされて嬉しい気持ちと寂しい気持ちが入り混じってしまっているからな……」
(キリト)
「私もそうですね。アースティア様が成長するにつれて私の手助けが必要でなくなり、私の生き甲斐が失われていくような複雑な気持ちです。それに……」
キリトは突然に口を紡いだ。
(レクトル)
「それに……ティラミス様の事か?」
レクトルが問いかけるとキリトは何ら表情を変えずに口を開いた。
(キリト)
「やはり……あなたには気づかれていたようですね。そうです。私はティラミス様に恋をしてしまったようです。けれど、この恋は決して叶う事はないでしょう」
(レクトル)
「そうか……キリト……お前も俺の気持ちを知っているのだな」
(キリト)
「ええ……当然分かっています。あなたが私に気を遣ってくれていた事も……あなたもティラミス様を愛している事も……そして、ティラミス様があなたを愛している事も……全て理解しています」
(レクトル)
「キリト……」
(キリト)
「大丈夫ですよ、レクトル……私は別に何も気にしていません。人が恋する事は当たり前な事です。ましてや、今まで一緒に闘い続けた仲間であるなら一緒の人を愛してしまう事も多々あるでしょう。ですが……私はあなたのことを信じています。あなたにならティラミス様を幸せにできると親友であるからこそ……そう思っています」
(レクトル)
「キリトっ!俺達の友情は例え何があったとしても永遠のものだっ!ここに新たに誓いを立てよう……」
レクトルは一枚の白紙を用意するとそれを半分に折ってキリトに見せた。
(レクトル)
「これにお互いの血を染み込ませてお互いに持っておくんだ」
レクトルは小さなナイフで自らの親指を切ると用意した紙に押し付けた。
キリトも同様に自らの指を切るとレクトルが押し付けた血の印の横に押し付けた。
二人の血は折り曲げた白紙の裏側まで滲み込んだ。そして、レクトルはその紙を2つに分けて一方をキリトに手渡した。
(レクトル)
「この紙は俺達の血の誓約だ。俺はこの紙に誓う。お前が俺の永遠の親友である事を……そして、ティラミス様を必ず幸せにする事をっ!」
(キリト)
「私も誓います。あなたが私の永遠の親友である事を……そして、あなた達二人を永遠に見守る事をっ!」
お互いに誓いを立てるとレクトルは用意されていたワインの蓋を開けてワイングラスに注いだ。そして、自らの血を一滴ワインに入れてキリトに渡した。
キリトも同様にしてレクトルにワイングラスを渡した。そして、二人はそのグラスを掲げると一気に飲み干した。
次の日の朝、カナン達はフルーレ王に別れの挨拶をするために謁見の間へと訪れた。
(カナン)
「……大変お世話になりました」
(フルーレ王)
「何時でも会いに来るがよい。お主なら何時だって歓迎するぞ」
フルーレ王は名残惜しそうに手を振った。
(カナン)
「……それでは失礼いたします」
カナン達はフルーレ王に挨拶を済ませると足早にフルーレ城を後にした。
ゼナムはカナン達が立ち去ったのを確認するとすぐさま各砦の将軍達にカナン皇子がフルーレ王を暗殺したという偽の情報を流した。そして、ゼナムはフルーレ王を地下室へと呼び出した。
(フルーレ王)
「一体どうしたというのだ、ゼナムよ。この様な場所で一体何の用なのだ?」
(ゼナム)
「ですから……ぜひとも王に話をしたいという者がおりまして……」
(フルーレ王)
「ならば、謁見の間で聞けばよいであろうに……」
(ゼナム)
「その方にも色々と事情がありまして……とにかく会えば全て分かると思います」
ゼナムはバルズの待つ部屋へとフルーレ王を案内した。
(フルーレ王)
「お前は……」
(バルズ)
「お初にお目にかかります、フルーレ王よ。我が名はバルズと申します。この度は反逆者カナン皇子の逃亡に手を貸した罪としてラングス国
よりあなたを裁く為にやってまいりました」
(フルーレ王)
「何だとっ!それはラングス国が我が国に戦争をしかけるということなのかっ!」
(バルズ)
「いいえ……違います。私が裁きに来たのはあなたの国ではありません。あなた個人を裁きに来たのです」
(フルーレ王)
「このわしを裁くだとっ!この国の王である私を裁くというのかっ!話にならんっ!ゼナムよ、剣を貸せっ!この不届き者を今わしの手で葬り去ってくれるっ!」
ゼナムはフルーレ王の後ろから持っていた剣で王の背中を貫いた。
(フルーレ王)
「ぐおっ!な、何故だっ!ゼナムよ……なぜ……わしを刺す……のだ……」
(ゼナム)
「王よ……全てはあなたが悪いのです。あなたがもっと私の忠告に耳を傾けていれば、このような結末にはならなかったでしょうに……この国はあなたに代わって私めが後を引き継ぎます」
ゼナムはフルーレ王の首に剣を降り下ろした。
(ゼナム)
「……これでよいのだな?これでこの国は私の物なのだな?」
(バルズ)
「はい……これでこの国はあなた様の物でございます。私共はあなたがこの国を支配できるように何時でもバックアップいたします」
バルズは不気味な笑いを浮かべながら部屋の暗闇の中へと姿を消していった。




