第24話:分断された仲間と深まる絆
カナン達はケルト国を目指して険しい山脈を通っていた。
カナン達が山際を歩いていると何処からともなく激しい轟音が聞こえてきた。
(カナン)
「この音は一体……」
(レクトル)
「いけないっ!これは雪崩だっ!みんなっ!早く逃げるんだ……」
レクトルは慌てて逃げるように指示したが、押し寄せてきた雪の波は瞬く間にカナン達に襲いかかってきた。そして、カナン達は雪崩によってばらばらに分断されてしまった。
(レイニード)
「痛てて……大丈夫か、フィリル?」
(フィリル)
「うーん……あれ?ここは?」
(レイニード)
「どうやら俺達は雪崩に巻き込まれてカナン達と逸れてしまったようだな」
(フィリル)
「そんな……これからどうすればいいの?」
フィリルは不安そうにレイニードを見つめた。
(レイニード)
「とりあえず、どこか安全な洞窟を見つけよう」
レイニードはフィリルの手をしっかりと握り締めて雪の中を歩いた。そして、しばらくすると目の前に洞窟らしきものを発見した。レイニードは洞窟に入ると持っていた矢で焚き火を起こした。
(フィリル)
「レイニード君……これから私達はどうなるんだろう?」
(レイニード)
「なぁに大丈夫さ。こんな時はとにかく慌てずに周りの景色が晴れるのを待つんだ」
レイニードは持っていた毛皮をフィリルにかけた。
その頃、ファーストとエルメス達もカナンの部隊と逸れていた。
(エルメス)
「ファースト様、他の皆はどうなってしまったのだろうか?」
(ファースト)
「きっと皆、無事でいますよ」
(エルメス)
「ファースト様、僕達はこれからどうすればいいの?」
(ファースト)
「とりあえず、どこか休める場所を探しましょう」
ファースト達は辺り一帯を探してようやく洞窟を見つけた。
(ファースト)
「この場所で休むとしましょう……」
ファーストは持っていた布袋から中身を取り出すとその袋に小さな炎を灯して種火とした。
(エルメス)
「ファースト様……こないだは本当にごめんなさい。いきなり頬を叩いてしまって……」
(ファースト)
「いや、いいのですよ。気にしてませんから。それよりも私の方こそあの様な事を言ってしまって……あなたのことを傷つけて本当にすみませんでした」
(エルメス)
「それじゃ……ファースト様は僕の事を妹ではなく恋人として見てくれるのですか?」
(ファースト)
「……」
エルメスの質問に対してファーストは言葉を詰まらせた。
(エルメス)
「どうして……どうしてっ!こんなに愛しても受け止めてもらえないのっ!僕がファースト様に甘えていたからっ!それとも僕に魅力がないからっ!ねぇ、どうしてなのっ!答えてよ、ファースト様っ!」
(ファースト)
「すまない、エルメス殿……私はあなたの気持ちに応える事ができない。私にとってあなたは妹みたいな存在だ。だから……」
エルメスはファーストの一瞬の隙を突いてファーストの唇を奪った。エルメス達はそのままの状態で長い間ずっとキスを続けた。
(エルメス)
「これでも駄目?僕の事を恋人としてみる事はできないの?」
(ファースト)
「エルメス殿……本当に私でいいのですか?あなたにとって誰よりも兄としてあなたに接してきた私で?あなたは一番近くにいた私に淡い感情を持っているだけかもしれないのですよ?」
(エルメス)
「それでもかまわないっ!例え、この気持ちが錯覚だったとしても……今の自分の気持ちを大事にしたい。だから……ファースト様っ!僕のことを……抱いてほしい……」
エルメスは瞳を潤ませると身に付けていた衣服をはだけさせた。
(ファースト)
「エルメス……殿……分かりました。あなたがそこまで私の事を愛しているのならば、私もあなたを照らす優しい灯火となりましょう」
ファーストはエルメスの顔の横に優しく手をかけると静かにキスをした。
(エルメス)
「……嬉しい。なら僕も……ファースト様を優しく包み込む一陣の風になるよ」
エルメスは甘えるようにファーストの肩に手をかけて抱きついた。ファーストもエルメスを優しく抱いた。二人の鼓動は目の前で音を立てて燃えている焚き火のように高鳴っていた。
その頃、カナンはアースティアと逸れていた。そして、カナンの傍にはレクトルとキリトとティラミスとデライトがいた。
(カナン)
「……みんな……大丈夫だろうか?」
(レクトル)
「きっと大丈夫ですよっ!皆さまはこんな雪山になど負けない程強い戦士達ばかりです。だから……何処かでこの雪が晴れるのを待っていますよ」
(デライト)
「そうだぜっ!特にレイニードは山育ちだ。こんな吹雪に負けるほど柔な男じゃないぜ」
(カナン)
「デライト……レイニードのことを信じているんだね」
(デライト)
「ああ、勿論だっ!あいつは俺にとっての一番の親友だからな」
(キリト)
「はぁ……」
(カナン)
「どうしたんですか、キリトさん?溜息なんてついて?」
(キリト)
「……すいません。ついアースティア姫様の事が気になっていまして……」
キリトがアースティアのことを口にすると周囲の人間は固まった。なぜならば、カナンが動揺するのではないかと心配していたからである。だが、当のカナン本人は顔色一つ変えていなかった。
(カナン)
「キリトさん……大丈夫ですよ。アースティアはきっと無事だから。そんなに心配する必要はありません。アースティアは僕に約束してくれましたから。絶対に死んだりしないって……。だから、僕もアースティアのことを信じて心配はしません」
カナンは落ち込むキリトを励ますように満面の笑みを浮かべた。
(キリト)
「そうですか……カナン様は強いのですね。私なんかアースティア様の事が心配で……心配で……そう考えるとますます心配になってきました」
(カナン)
「キリトさん……僕は決して強くなんかないです。みんなが傍で支えてくれるから強く見えてるだけですよ」
(キリト)
「そう思える事が既に強いのだと思います。私もそういうところを見習わなくては……」
キリトは溜息を吐くのを止めると空の方に視線を向けた。
そんな最中、ティラミスは何も考えずにレクトルの方を眺めていた。
(レクトル)
「どうしたんですか、ティラミス様?そんなに呆然として……」
(ティラミス)
「いや……何でもないっ!」
ティラミスは顔を赤らめると視線を下の方へと向けた。そして、しばらくするとティラミスはまたもやレクトルの方に視線を向けた。
その頃、アースティア達も適当な洞窟を見つけて降り出した雪を凌いでいた。
(スフィア)
「アースティア様、お体の方は大丈夫ですか?」
(アースティア)
「ええ……私なら大丈夫よ、スフィアお姉様」
(スフィア)
「そうですか……けれど、油断は危険です。こちらに来て少しでも体を焚き火で温め下さい」
アースティアは焚き火の方に近づいた。けれど、アースティアの目線は相変わらず洞窟の外に向いていた。
(スフィア)
「カナン皇子の事が気になりますか?」
(アースティア)
「うん……少しだけ。でも、私が外を見ているのはカナンのことが心配だからじゃなくて早くカナンに会いたいなって気持ちからなの。カナンのことを信じているから……」
(スフィア)
「アースティア様はお強くなられましたね……」
(アースティア)
「皆が私の傍にいてくれたから。カナンもいてくれたし、それにスフィアお姉様もいてくれたから……だから、私は強い気持ちでいられるの」スフィアはアースティアの言葉を聞いてここ最近悩んでいた胸の穴が少しだけ埋まるように思えた。
(スフィア)
「私はそう言ってもらえて本当に幸せ者です……」
スフィアはアースティアを抱き寄せると力一杯抱きしめた。そんな光景を見た他のメンバーも心が温まる様な気持ちになっていた。
雪崩に巻き込まれなかった残りの者達はフルーレ城からルーベンスの砦に戻っている最中のドラン将軍に発見されていた。
(ドラン将軍)
「これは……一体何があったというのだ?」
(クルー)
「雪崩でやんすっ!突然、山の上の方からゴーっという凄い音がして後方にいた部隊が雪の中に呑み込まれて谷下の方へと流されたでやんす」
(ドラン将軍)
「そうか……それは災難でしたな。ならば、すぐに捜索隊を編成してカナン皇子達の救助に向かわねば……助かった者達はフルーレ城で待つがよい」
ドラン将軍はその場に残っていた者達をフルーレ城へと案内した。そして、若い竜騎士団を引き連れると上空からカナン達の捜索を開始した。
(デライト)
「おい、カナンっ!外に竜の群れが見えるぞっ!」
(カナン)
「本当だ……もしかしたら、雪崩に巻き込まれた僕達を探しているのかもしれない」
カナン達は外へと出ると竜の群れに合図を送った。
丁度その頃、アースティア達もドラン将軍達の竜騎士団を発見していた。
(スフィア)
「アースティア様っ!あそこに竜の群れが見えますっ!」
(アースティア)
「本当だわっ!あっちの方に降りていくわ。行ってみましょう」
アースティア達は竜の降りていく方に向かった。するとアースティア達はカナン達を発見した。
(アースティア)
「カナンっ!やっぱり、大丈夫だったのね」
(カナン)
「アースティア……君も無事でよかった……」
(ドラン将軍)
「カナン皇子……フルーレ王が城でカナン皇子をお待ちしております」
ドラン将軍はカナン達を竜に乗せるとフルーレ城へと向かった。
その頃、レイニード達は洞窟の中で待機していた。そして、フィリルは焚き火の近くで毛皮にくるまり、気持ち良さそうにうたた寝していた。
(レイニード)
(……本当に可愛いな。こうして見ていると全く普通の女達と変わらないように見えるけど……フィリルは王家の血を引いた皇女様なんだよな。本当に俺みたいな平民が傍にいていいのだろうか?本当にお前を守る権利が俺にあるのだろうか?)
レイニードはフィリルの顔を見つめながら物思いに耽っていた。
(レイニード)
「本当に俺なんかでいいのか?」
レイニードは思わずフィリルに囁いたが、フィリルからの返事はなかった。
(レイニード)
「お前は本当によく頑張っているよ。国を追われ、親から引き離されて、こんな理不尽な旅によく耐えている。そんなお前だからこそ俺は惚れたのかもしれないな。でも……少しは力を抜いてもいいんじゃないか?本当に泣きたい時は泣くべきじゃないのか?お前はもう一人じゃないだぜ」
レイニードがフィリルに囁いているとフィリルが突然話しかけてきた。
(フィリル)
「本当にいいの?あなたの前で泣いても……本当に……」
(レイニード)
「なんだ?起きてたのか?」
(フィリル)
「そ・れ・よりも……さっきの話っ!私はもう一人じゃないって意味はあなたがずっと傍にいてくれるという事なのよね?」
(レイニード)
「ああ……そういう意味だ。俺はお前の傍にいてやるぜ」
(フィリル)
「嬉しい……」
(レイニード)
「俺はお前が好きだ。正直言って今まで俺は悩んでいた。俺にお前を守る事はできるのか……本当に平民の俺なんかがお前の傍にいていいのか……そんな事を考えていた。だけど、俺は決心したぜっ!俺はお前だけを愛するっ!」
(フィリル)
「言葉でなくて態度で示して……」
フィリルは目を閉じると顔をレイニードの方に向けた。レイニードはそっとフィリルの首の後ろに手を回すと自分の方へと抱き寄せた。
(レイニード)
「俺は不器用な男だ。だからどうすれば、お前が喜ぶのかは分からない……だけど、聞いてくれっ!俺の胸の鼓動が聞こえるだろ?この心臓の鼓動はお前の為に響いている。お前の事を考える度に熱くなるんだ」
(フィリル)
「本当……優しく響いてる……私を包み込むように……」
フィリルはそのままの状態でしばらくの間、レイニードと抱き合っていた。




