第20話:激戦!黒の狼団!
カナン達はペラルの砦から戻ってきたクルーからベルガー将軍の企てについて聞いていた。
(カナン)
「つまり……ベルガー将軍は僕達を騙すつもりなんだね?」
(クルー)
「はい、そうでやす。料理に眠り薬を盛ると言っていたでやんす」
(カナン)
「そうか……だったら、この作戦を逆手にとって騙された振りをしてペラルの砦に入り込もう」
(レクトル)
「カナン様、その方法とは一体どのような作戦なのでしょうか?」
(カナン)
「まずは僕達の部隊を二つに分ける。そして、片方の部隊が砦に行ってベルガー将軍のおもてなしを受けるんだ。僕達に料理が振る舞われる頃合いにもう一つの部隊が外で騒ぎを起こし、その間に眠り薬入りの料理を食べたふりをしてわざと捕まる。あとはクルーに牢屋の鍵を開けてもらい、手薄になった砦を内部から攻め落とすという作戦なんだけど……どうかな?」
(レクトル)
「そうですね……とても危険な作戦です」
(カナン)
「そうかもしれないけど……これが一番攻め易く犠牲が少ない方法だと思うんだけど?」
(レクトル)
「人選はどのようになされるのですか?」
(カナン)
「そうだね……魔法部隊と重戦士部隊を連れていこうと思っている」
カナンは足が重く力の強い戦士と雷魔法が使える術士を選択した。
(カナン)
「エルメスさんとファーストさんには外部から魔法を使って陽動してほしいから連れていけない。あとは足の早い騎馬隊も陽動部隊に必要かな?」
(レクトル)
「……ということは私はこちら側の部隊ですか?一緒に付いていかなくても大丈夫ですか?」
(カナン)
「大丈夫だよ、レクトル。レクトルには陽動部隊の指揮を取ってもらいたいからこっちの部隊でよろしく頼むよ」
カナンは不安を滲ませるレクトルを説得すると外部の指揮を取るように命令した。
(レクトル)
「……分かりました。私はこちらの部隊で指揮を取ります」
(アースティア)
「当然っ!私はカナンに付いていくわよ」
カナン達が作戦をまとめていると部屋の外で話を立ち聞きをしていたアースティアがいきなり乱入してきた。
(カナン)
「君も一緒に付いてくる気なのかい?」
(アースティア)
「ええ、そうよ」
(カナン)
「……駄目だよ。アースティアはここでレクトル達と共に戦っていてくれないかい?」
(アースティア)
「それは嫌っ!私も絶対に付いていくっ!」
(カナン)
「お願いだ……アースティアを危険な目にあわせるわけにはいかないんだ……」
(アースティア)
「だからよっ!そんなに危険な場所にカナンだけを行かせるわけにはいかないわ」
(カナン)
「……」
(アースティア)
「それにいくら砦に忍び込んで戦うとはいえ回復役の一人も必要になるでしょ?」
アースティアはフィリルから貰った回復の杖を翳してみせると満面の笑みを浮かべた。
アースティアは少しでもカナンの役に立つためにフィリルから回復術を習っていた。
(カナン)
「やれやれ……君の熱意には負けたよ。分かった……一緒にペラルの砦に行こう」
(アースティア)
「やったっ!」
アースティアは子供のように無邪気に喜ぶとカナンに飛び付いた。
(カナン)
「それじゃ……レクトル。あとのことは任せたよ」
(レクトル)
「はっ!お任せください」
レクトルは背中は真っ直ぐに伸ばすとカナンに敬礼した。
それから間もなくしてペラルの砦からベルガー将軍の遣いがやってきた。
(ペラル兵)
「……というわけであなた達のおかげであの街はアサシン達から開放する事ができました。よって、あなた方を砦にお招きして感謝の晩餐を開きたいと将軍様が申しております」
(カナン)
「……そうですか。僕達はただ成り行きでそうなっただけなのですが……それではあなた方のご好意に甘えさせてもらいますね」
カナンは作戦通りに雷部隊と重戦士部隊を引き連れてペラルの砦に向かった。
(ベルガー将軍)
「カナン様、この度はようこそおいでいただきました」
(カナン)
「いえいえ、こちらこそ……お招きしていただき光栄です」
(ベルガー将軍)
「今日は存分に料理を楽しんでいってください」
ベルガー将軍は指を鳴らすと召し使い達に料理を運ばせた。
カナン達の前に料理が運ばれてくると外から轟音が響いて慌ただしく衛兵が入ってきた。
(ベルガー将軍)
「一体何が起こったのだっ!」
(ペラル兵)
「それが……何やら森の方からこの砦に向けて魔法らしき物が放たれているようなのですが……」
(ベルガー将軍)
「一体どこの馬鹿者が攻撃を仕掛けておるというのだっ!」
(ペラル兵)
「それはまだ確認できてはおりません」
(ベルガー将軍)
「ちっ!役立たず共が……」
(カナン)
「先程から何か騒がしい様ですが……何かあったんですか?」
(ベルガー将軍)
「いえいえ、何も問題ありませんよ。皆様は存分に料理をお楽しみ下さい。私は少し外の様子を見て参りますので……」
ベルガー将軍はそそくさとその場を立ち去ると外の部屋へと出ていった。
(カナン)
「狙い通りだな……」
カナン達は持ってきた袋の中に料理を入れると窓の外に流れている川の中へと放り投げた。そして、あたかも料理を食べて寝てしまったようなふりをした。
(ベルガー将軍)
「しめしめ……カナン共は皆、料理を食べて寝てしまっておるわ。見事に作戦が成功したぞ。今の内に地下牢にでもぶちこんでおくか……」
ベルガー将軍はカナン達の武器を奪い取るとそれらを武器庫へと保管した。そして、カナン達を地下牢へと閉じ込めた。
(ベルガー将軍)
「外の者達の片付けは済んだか?」
(ペラル兵)
「それが……外の者達はなかなか強くて誰一人として歯が立たない状況でして……」
(ベルガー将軍)
「実に情けない事だ……今の兵士達はそこまで堕落しているのかっ!」
(トリン)
「立て込んでいるところ、すまないな。将軍、ここは俺達の黒の狼団を使ってはみてはどうだ?」
(ベルガー将軍)
「おおっ!そうか、トリンっ!黒き豹であるお前が行ってくれればなんとも心強い……」
(トリン)
「その代わりに……報酬はたくさん頂くぞ?」
(ベルガー将軍)
「ああ……もちろん分かっているとも。よろしく頼む」
トリンは部隊を率いてレクトルが指揮する部隊へと討伐に向かった。
トリンが率いる黒の狼団はカナンの予想よりも遥かに強くレクトル達は苦戦を強いられていた。
(レクトル)
「魔法部隊はすぐに後ろへ待機っ!騎士部隊は前に出て傭兵部隊を抑えてくれっ!」
(キリト)
「レクトル、こちらの分隊は何人か負傷を負いました。何人か助太刀を頼みます」
(レクトル)
「……分かった。アレン、サーベルはキリト達の分隊の援護に廻ってくれ。向こうは私とディザードとレイツで抑える」
(アレン)
「ああ、分かった。すぐ向こうの援護に向かうっ!」
(サーベル)
「あいよっ!こっちは俺様にまかせておきな」
アレンとサーベルは馬に跨がるとキリトの分隊の援護にまわった。
(レクトル)
「それとキリト、負傷者はすぐにフィルト皇子とフィリル皇女の元に行かせるんだ」
(キリト)
「はい、分かっています。もう向かわせています」
(レクトル)
「それじゃ、私は前線へ戻る。向こうの隊は任せたぞ」
レクトルはその場をキリトに任せると前線へと向かった。そして、槍を振りまわしながら敵の部隊を薙ぎ倒していった。
それに続いてディザードとナイツも盾を構えながらレクトルのことを追い掛けた。
(ナイツ)
「てやっ!はぁはぁ……まだまだいくぞっ!」
(ディザード)
「ナイツ、あまり無理はするな……息が上がっているぞ」
(ナイツ)
「私は大丈夫です。私よりも……レクトルさんは大丈夫でしょうか?」
(ディザード)
「そうだな……レクトルの奴はかなり前の方へ出ているようだが……」
(ナイツ)
「危ない、ディザードさんっ!てやぁーーっ!」
ナイツは渾身の力で槍を突いた。
(黒の狼団)
「ぐわっ!」
(ディザード)
「すまなかった……油断していた」
(ナイツ)
「ここは一旦退きましょう……」
ナイツ達は戦線を維持すべく守りを固めることに集中した。
一方、キリト達の部隊はアレンとサーベルの助太刀により大分戦況が変わってきていた。
(アレン)
「そこだっ!食らえっ!」
アレンは弓を引いて敵兵に命中させた。
(黒の狼団)
「ぐはっ!」
一方、サーベルの方は大きな斧を豪快に振りまわしながら敵兵を弾き飛ばしていた。
(サーベル)
「どうした?どうした?お前達はその程度なのか?」
(黒の狼団)
「くっ……なんって厄介な奴らだ……」
黒の狼団はサーベル達の勢いに押されてその場を後退した。
その頃、前線ではレクトルとスフィアが戦っていた。
(レクトル)
「……すみません、スフィア様。遅くなりました」
(スフィア)
「問題はない。私とって昔は一国の騎士団長だったのだ。この程度の雑兵を留めておくことなど造作もないことだ」
スフィアはレクトルが後方に戻っている間、たった一人で前線を死守していた。
(スフィア)
「それで……後方の状況はどうであった?」
(レクトル)
「あまり芳しくありませんね……かなり圧されているようでしたのでアレンとサーベルを向かわせました」
(スフィア)
「そうか……仕方がないな。まぁ、ここは貴殿と私がいればどうにかなろう……」
スフィアは槍を降り下ろすとペラル兵を薙ぎ払った。
(トリン)
「あいつらはなかなか厄介な奴らだな……仕方がねえっ!ここは俺自らが相手するしかなさそうだ……」
トリンはレクトル達に目標を定めると手薄になった前線にペラル兵を向かわせた。
(スフィア)
「……まずいな。あれだけの兵士達に雪崩れ込まれたら戦線が持たないぞ」
(レクトル)
「急いで戻りましょうっ!」
レクトル達はペラル兵が雪崩れ込んでいる戦線に加勢しようと馬を走らせようとした。
(トリン)
「行かせねえよっ!」
トリンはレクトル達の前に立ちはだかると大きな剣を振りかざした。
(レクトル)
「くっ!」
レクトルはギリギリのところで馬を止めるとトリンの攻撃をかわした。
(トリン)
「今の不意打ちをかわすとは……なかなかやるようだな」
(スフィア)
「レクトル殿っ!」
スフィアはトリンに向けて槍を構えるとレクトルに加勢しようとした。
(レクトル)
「スフィア様っ!ここは私めに……」
レクトルはスフィアの加勢を遮ると圧されている戦線を指差した。
(スフィア)
「……承知した」
スフィアはレクトルの意図を汲むとトリンを避けて圧されている戦線へと向かった。
(トリン)
「ほう?お前が一人で俺を相手する気か?止めておけ、お前一人じゃ相手にならねえぞ?」
(レクトル)
「なめるなっ!」
レクトルは力一杯槍を横に降るとトリンを薙ぎ払おうとした。
(トリン)
「ふんっ!」
トリンは大剣を地面に突き立てるとレクトルの一撃を防いだ。
(トリン)
「これで終わりか?」
(レクトル)
「……まだまだっ!」
レクトルは痺れる手首を押さえながら必死で槍を突いて牽制した。
(トリン)
「お前、なかなかやるようだが、何時までもつかな?」
(レクトル)
「心配には及ばぬ……まだまだこれからだっ!」
レクトルが槍を突くとトリンはそれを紙一重でかわし、レクトルの間合いに入ろうとしたが、レクトルはかわされると予測して後ろに下がっていた。そして、再び槍で突いた。
今度はトリンがその槍を剣で滑らせてレクトルに攻撃を仕掛けた。レクトルは辛うじて槍を垂直に立てる事でその攻撃を食い止めた。
しかし、トリンの体当たりの衝撃までは抑えることができず、レクトルはバランスを崩して馬から落っこちた。
(トリン)
「これで終わりにしてやるっ!」
トリンは渾身の力で剣を振り下ろした。
(レクトル)
「くっ!これまでか……」
(ティラミス様……)
レクトルが死を覚悟した瞬間……レクトルの頭の中にはティラミスの姿が思い浮かんだ。




