第10話:騎士の誇り
崖の道の復旧作業をしている男達はスフィアの事について話をしていた。
(レイニード)
「なぁ、デライト?スフィアっていう女騎士はとても綺麗な女性だったな?」
(デライト)
「ああ、ティラミスさんの様に綺麗な人だった……」
(ベレー)
「その上、何かとても上品で気品があるようだったしな……」
(サーベル)
「ああ、全く噂通りの人だったぜ」
(レイニード)
「どんな噂だ?」
(レイツ)
「その噂というのは……スフィア様が強くて勇敢で騎士の中の騎士と言われている事ですよ。そして、その一方で優雅であり、可憐でもあるという話です」
(レイニード)
「へぇ、そうなんだ。本当にあんな美人とは戦いたくないもんだな。
あんたもそう思うだろ、ファースト?」
(ファースト)
「……そうですね。あの様な美しい方とは戦いたくないものですね」
レイニード達が喋っていると突然、フィリルが口を挟んできた。
(フィリル)
「はいっ!はいっ!男やもめさん達っ!口より体を動かしましょうっ!」
(レオン)
「そうだぞ、お前達。姫様の言う通りだ。口より手を動かせっ!」
(レイニード)
「へい、へい、分かりましたよと……」
レイ二ード達は復旧作業へと戻った。
(フィリル)
「たくっ!男達ときたら……綺麗な女性を見るとすぐにこれなんだから……」
(エルメス)
「ほんと……男ときたら……だらしないですよっ!」
(フィリル)
「あら?どうしたの、エルメス?そんなに怒って?」
(エルメス)
「ふーんだっ!僕にだってもう少し可愛さがあれば、あれ位になるのに……」
(フィリル)
「ははん、エルメス。さてはあの中に好きな人がいるのね?」
エルメスは耳の先まで真っ赤にさせた。
(エルメス)
「なっ!何をっ!そっ、そんな事はありませんよ」
(フィリル)
「怪しい、動揺してるわよ?」
エルメスはますます顔を赤くさせた。
(フィリル)
「さぁ、薄情なさい、エルメス。一体あの中の誰の事が好きなの?」
(レオン)
「姫様……エルメスは困っております。お止め下さい」
(フィリル)
「レオンっ!これは私とエルメスの話よ。あなたはあっちで復旧作業を手伝っていなさい」
フィリルに命令されてレオンはしぶしぶ作業場の方へと向かった。
(フィリル)
「さて……邪魔者はいなくなったわ。一体誰の事が好きなの?」
(エルメス)
「そっ、それは……」
(フィリル)
「それは?」
(エルメス)
「姫様、やはり、恥ずかしくて言えませんよ」
(フィリル)
「いいから教えなさい。ここまで焦らしといて言わないのは卑怯よっ!」
(エルメス)
「だけど……」
エルメスが困っているとそれを見かねたファーストがエルメスを助けに来た。
(ファースト)
「フィリル姫様、もうその辺にしてはいかがでしょうか?エルメスが本当に困っております」
(フィリル)
「面白いところだったのにな……しょうがないな。また今度、邪魔のはいらない所で聞きましょう」
フィリルは残念そうな表情を浮かべると何処かへと行ってしまった。
(ファースト)
「もう大丈夫ですよ、エルメス殿。フィリル姫ときたら……人の色恋沙汰となるとすぐに首をつこみたがるんですから。フィリル姫の悪い癖です……」
(エルメス)
「……ファースト様……あっ、ありがとう」
エルメスはそれだけ言うと急いで何処かへと走り去っていった。
その頃、スフィアは決心を固めてアースティアの返事に答えていた。
(スフィア)
「……分かりました。私の力でよければお貸しいたします」
(アースティア)
「本当?本当にっ!それならば、すぐに私達と一緒に……」
(スフィア)
「お待ち下さい、アースティア様。その前に私にはやり残している事があります」
(アースティア)
「その事とは?」
(スフィア)
「私は騎士として上官のフィザーク将軍に最後の報告を為さねばなりません」
(アースティア)
「駄目ーーーっ!!!そんな事をしたら、スフィアお姉様は……」
(スフィア)
「いいのです、アースティア様。覚悟の上でございます。もし、そこで私が殺されたら、そこまでの命だったという事です。それに私は騎士としての誇り、忠誠心を捨てる訳にはまいりません」
(アースティア)
「どうして?どうして……騎士は皆、誇りの為に死を選ぶの?私には分からない。どうして……誇りの為にみんな犠牲になるの?レクサーだってそうだった……」
アースティアは目に大粒の涙をこぼしながらスフィアの胸に泣きついた。
(スフィア)
「アースティア様……聞いて下さい。騎士は誇りを生きている証としているのです。騎士は誇りを無くしては生きてはいけません」
(アースティア)
「どうして?どうして、その誇りを捨て様としないの?どうして、生き延び様としないの?」
(スフィア)
「それが騎士という者だからです。特に私は女性です。女性の私が騎士団長として任命される事は並大抵の事ではありません。ですが……私は母の築きあげた名誉を汚す訳にはいかないのですっ!」
スフィアの母親もスフィアと同様に騎士団長を務めていた。そのため、 スフィアは何としても騎士団長を全うしなければならなかった。
ちなみにスフィアの母親の前はアースティアの父親であるラングスが騎士団長を務めていたため、スフィアはアースティアに対して尊敬の念を込めている。
(スフィア)
「だから……アースティア様のお心遣いはありがたいのですが、私はザケルの砦に戻らなければなりません……」
スフィアは瞳の奥に闘志をみなぎらせるとアースティアの目を見つめた。
(アースティア)
「スフィアお姉様……」
アースティアはスフィアの強い意志を感じ取って言葉を詰まらせた。
アースティア達が話していると外から扉を叩く音がした。そして、外でカナンの声がしてきた。
(カナン)
「アースティア、スフィアさん、入ります……」
カナンが部屋の中へと入ってきた。
(カナン)
「スフィアさん、谷の道の復旧作業が終わりました」
(スフィア)
「そうですか……それではそろそろ私はザケルの砦に戻ります。色々とご面倒をおかけしました」
(カナン)
「いいえ……こちらこそ。お世話になりました」
スフィアは馬に跨がるとザケルの砦へと戻っていった。
そして、スフィアはザケルの砦に戻るとフィザーク将軍に戦線を解いてカナン達について行く事を報告した。するとフィザーク将軍は当然のように激怒した。
(フィザーク将軍)
「貴様っ!何を言っているのか、分かっているのかっ!敵に背を向けたうえに反乱軍に加担するなど……貴様はこの国の恥だっ!即刻、首を切り落とせっ!」
(ファミーラ)
「お待ち下さい、フィザーク将軍っ!姉上は……姉上は先々代の騎士団長の娘であるアースティア様が反乱軍の中にいたので気が動転しているのです。どうか……どうか姉上の処刑をお待ち下さい……」
(フィザーク将軍)
「そうか……ならば、証をたてよ。カナンの首をここに持ち帰れっ!そうすれば……スフィアの命は保証してやるっ!」
(ファミーラ)
「はっ!了解いたしました。直ちに向かいますっ!」
(スフィア)
「お待ちなさいっ!ファミーラっ!あなたは……あなたはカナン皇子とだけは絶対に戦ってはなりません。カナン皇子はあなたの……」
(フィザーク将軍)
「ええいっ!うるさいっ!誰か?誰かその女を黙らせろっ!」
(モルグス兵)
「はっ!」
モルグス兵はスフィアのみぞおちを槍の後ろで突いた。
(スフィア)
「うぐっ!」
(ファミーラ)
「お止め下さいっ!フィザーク将軍っ!姉上には傷をつけないで下さい」
(フィザーク将軍)
「ふんっ!その女を地下の牢屋にぶち込んでおけっ!」
(モルグス兵)
「はっ!」
モルグス兵はスフィアを地下の牢屋へと連れていった。そして、ファミーラ達は出陣した。
(フィザーク将軍)
「ふっふっふっ……もしファミーラがカナンの首を持って帰ってきたら今度はスフィアの事をダシに使って姉妹共々、わしの奴隷にでもさせるか……」
フィザーク将軍は高らかに下卑た笑い声を挙げた。




