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狂信者の自爆劇

作者: 雨水

ネタに走りまくってますがよろしければー!

 一面が白をベースとした部屋の中で、豪華絢爛な装飾を施した白い服を着た爺がニヤニヤと嗤っている。それも仕方ないだろう明日は彼にとって、いや彼が所属する教団にとって長年の悲願が達成する日。

 彼等の悲願、それはこの地に神を降臨させ神託を享け、彼等以外の宗教や亜人と呼んでいる人種を殲滅する事。


「よもや……よもや私の就任時にこのチャンスが来るとは!あぁ……何たる歓喜!何たる感激!もはや何者にも配慮する必要が無い!明日になれば教団全体に大号令をかけ……憎き魔族共を、半端者の獣共を浄化する事が出来る!」


 どう見てもSAN値が無くなっている様だ。まぁそれも仕方ない話だろう、彼は数日前にこの世界の神を、この地に呼ぶ事ができるアーティファクトを手に入れた。

 聖書に記されていた物と全く同じ物、ソレを手にした時、教皇と呼ばれる爺が嬉しさの余り自らの(かつら)を振り回したほどである。

 しかし教皇の想いとは別に、髪……じゃなく神がどういうもので彼等に何をもたらすかは……別である。




 朝日が昇り常時であれば人々が働き出している時間、今日この日ばかりは違った。大聖堂の前の広場に純白の装備と服で固められた聖騎士や聖職者の列、そして住民達が集まっている。

 大聖堂正面には演説台が用意され、人々はじじ……教皇の登場を待つ、様々な想いを胸に。

 そして、午前九時の鐘の音が響くと共に、大聖堂の扉が開かれ教皇が優雅に演説台の前に立つ。今日は風が強くなくてコッソリと安心しているようだ。


「信徒諸君!本日は実に目出度い日である。我らアリエーヌ教は長い歴史の中、神との交信を試みてきた……しかしだ、初代教皇以来その交信に成功したものは一人としていなかった。実に嘆かわしい話である……いや、嘆かわしい話であった!そう今ならソレは最早過去形である!」


 ぐっと握り拳を振り上げる教皇、それに呼応し信徒達の歓声が上がり気分を良くする爺……割とドヤ顔である。


「つい先日の話ではあるが、私の元に一つのアーティファクトが届いた。ソレこそが、聖書にも書かれている神と交信できるアーティファクトのボクヨ・ブーナである!本日皆に集まってもらったのは、この場でアーティファクトを使い皆に神託を聞かせてもらう為である!」


 そう言うと教皇は空を見上げ両手を高らかに、やはり呼応する信徒、爺のニヤニヤ顔が止まらないが信徒からは教皇の顔は見えない、空を見上げているから。

 それにしてもアーティファクトの名前が実に怪しい、何故疑問に想わないのか。


「では……今より神呼びの儀を行う!皆よしかと祈るが良い」


 そうして、アーティファクトのスイッチをポチ。


「スイッチを押してえーと……呪文はっと」


「教皇マイクは言ったままです……」


 そんなやり取りをしながら教皇は聖書という名のアンチョコを取り出す。呪文の場所がすぐ開けれるように栞を挟んである様だ。しかし閉まらない。


「うぉっほん、では詠唱を始める…… いあ いあ ぱすたー いあ いあ みーと にん じんは いらな いーよ!」


 詠唱が終わり、アーティファクトが光輝き、一条の光が天に放たれるように伸びる。

 しかしアーティファクトの作者は呪文を設定しながらミートスパでも食べていたのだろうか?


「ぐぉぉ目が痛い……」


 どうやら教皇はアーティファクトの近くに居た為、目に光が直撃したようだ。

 光が治まり、教皇の目も見えるようになった頃、空から逆に光が伸びてくる、まさに神降臨といった演出だ。


「おぉ……神が、神が我らの呼びかけに応えられたぞ!」


 叫ぶ教皇、祈りのポーズをしたまま涙を流す信徒、彼等の中ではこの後、神託を受け聖戦を起こすのだと気持ちが高ぶっている。


「神よ、神託を……我らに神託をぉ!」


 逸る教皇、しかしソレは一瞬にして覆る。


『誰だよ、僕を呼ぶなって言ったのに呼んだやつ。今は緊急事態じゃないだろう』


 お空から聞こえてくる女の娘の声、光が収束すると共にその姿が現れだす。齢十二~十六ぐらいと言った年齢だろうか?どうやら僕っ娘の様だ。

 しかし、教皇の心は違った意味で穏やかじゃない、何せ呼びやがったな?とこの神は言っているのだから。


「神……いや女神様?我らがお呼びしました、どうか神託を」


 教皇が出来るだけ丁寧にお伺いする、しかし女神様と呼ばれた彼女はめんどくさそう。


『神託ねぇ、僕は神託を与える為にソレ用意したんじゃないんだけど?世界がどうしようもない時の為に用意したんだけど?』


 実にお座なりな返事である、しかし教皇はめげない。


「いえ!世界の危機に御座います、魔人や亜人が蔓延り、今この時も世界の何処かで我ら人の命が狙われております!」


 教皇が以下に危険な状態なのかと身振り手振りを交えながら女神に訴える。

 しかし女神はきょとんとして、状況が状況なら実にかわいい表情だろう。そんな表情に焦りを覚える教皇だが、女神の紡いだ言葉に唖然とする。


『ん?もしかして君達ってアリエーヌ教なの?初代教皇が有り得ない事を言ってたからさ、僕が有り得ない教団だね?って聞いたら「今日より我教団はアリエーヌ教です」とか言ってたあの教団だよね』


 信徒達が固まる、まるでビシッと音がするかのように、教皇が口をパクパクさせてる、金魚のマネだろうか?しかし其処は流石教皇と言った所だろうか、最初に気を持ち直す。


「た、確かに我らはアリエーヌ教ですが……」


『あーやっぱりー魔人がーとか亜人がーとか妄想垂れ流してる所なんて、初代の頃から変わらないんだねぇ、あぁそうか、初代の妄想が教義になっちゃってるのか』


 自らの教義を妄想と断言する女神、信徒達は混乱している!教皇も足腰が抜けそうになっている、鬘もズレかかっている。誰も頭には触れないようだ。


「し、しかし奴等が蔓延っているのも事実でして!何卒、神託とご加護を!」


 教皇は信じた教義が妄想と言われようと、ソレだけを支えに訴えるのだが、女神様には届かない。

 当たり前だろう、前提が違いすぎるのだから。


『ふむ……このアーティファクトはね、全ての生命体に僕の声が届くようになっているんだ。僕が教えるような事でもないんだけどね、この世界の正しい歴史を特別大サービスで教えてあげようじゃないか!』


 満面の笑みを浮かべサービスしてくれるらしい女神、演技が実にわざとらしい。しかし歴史を教えてくれるそうだ。

 世界各地で全ての人類が其の手を止た、女神の声を聞く為に……


『そもそもは、人……いやこの世界に魔法という物は無かった、人は科学と言う物を主体に生活し魔物や魔獣と言ったものは居らず、動物や昆虫……まぁ凶暴ではあるが魔物に比べたらかわいい獣しか居なかったよ』


 どうやら現代地球と似たり寄ったりの世界だったらしい。


『ただ……人にはどうしようもない者が居た、其のせいで第三次世界大戦が始まった、沢山の生き物が死に沢山の街や自然が燃やされ毒された、地形が変わり砂漠が増え何十億といた人類もその数を減らしていった。そんな時だ、北と南の極点から〝魔素〟が溢れ出した、何処からどうやって生まれたかも解らない物……そしてソレは地上に住む全ての生命にとって〝猛毒〟だった。魔素は全ての生命に等しく死を与えだした、戦争処じゃなくなった人類は急遽地下に潜った、ただこの時もう人類は億も居なかった』


 驚愕の事実である、そもそも魔素といえば魔法を使うための魔力の根源であり、人類であれば当然使えて当たり前の力。そんなものが猛毒だったなど信じれるはずも無いが、説明しているのが女神である以上嘘だなどといえるわけが無い。


『人はね、いろんな意味で弱く強かった、学者と呼ばれた人たちがそうでない人達をコールドスリープと言う、まぁ死なないように眠らせていつか起こせるようにする方法を使って眠らせ、自分達は魔素について研究しだした。動物を使った実験や植物を使った実験色々繰り返した……そうして一定の成果を上げ遂に人間にも魔素が適応できる方法を作り出した、そうして最初に魔素が適応された人類が……魔人だ』


 世界中が固まった、女神の発言である、その女神が人類が魔族を生み出したと言ったのだ。しかし女神は世界の状態など気にせず言葉を続ける。


『魔人、彼等は試作ゆえ成功であり失敗でもあった、彼等のスペックは素晴しい出来だったけど、そのスペックの為に感情の起伏がほぼ無い。始まりの魔人はソレこそコレではロボットじゃないかと研究者達が嘆いてたものだよ、今では随分とマシにはなってるみたいだけどね。まぁそうして生み出された魔人達はそのスペックを活かして地上の探索を進め研究に大いに役に立てた』


 魔族達が居なくては地上に出る事ができなかったと言う事実、教団としては受け入れがたいのだろう苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。


『其処からは割りと早かったよ、世界再生の為に魔素を循環させるための世界樹を創り、森を再生させた。そしてその世界樹の番人として創り出されたのがエルフ達だ、そして世界樹がある森の周囲から進入を防ぐために生み出されていったのが獣人達だ。森の獣人や草原の獣人といった彼等は入り口の番人として生み出された。更に彼等が使う武器を創り出すために山や坑道と言った場所の住人としてドワーフを』


 この世界で獣人やドワーフやエルフの仲が悪くないのはそういった理由があったらしい、教団としては面白くない話なのだろう、教皇と共にアーティファクトを止めようとしている者が居るようだ。意味がないのだが。


『そうして世界の再生をした後、自分達の研究所がある場所を隠す為に地形を変え……世界でも最強と言われる龍人を配置しエルフ達との伝達として翼人を用意し、研究者やコールドスリープした者達は彼等に守られながらひっそりと生きる道を選んだ、伝説にあるハイヒューマンといわれる人種だ』


 ハイヒューマン、この世界で英雄や勇者と呼ばれる者に度々現れる人類であり、その出生は謎とされていた。ただ現れる時は必ず世界に何かしら不具合が起きた時だったりする。世界樹の異常事態や過剰魔素による障害やその逆といった物等。


『こうして、世界を再生と保持する為の環境が生まれた。コレが世界の正しい歴史であり、教団の教義が妄想だという決定的な現実、証拠はまぁ……この世界の何処かにいるハイヒューマンが持ってる、それ以外なら口伝としてハイエルフや眠っている始まりの魔人に龍人が知ってるだろうね』


 崩れる信徒達、しかし教皇が此処で余計な事に気がついてしまう、止めておけば良いのに聞いてしまうのはある意味しかたないだろう。


「ま、待ってくださいソレならば、我ら人はヒューマンと言うのは何なのですか!」


 女神が謳う歴史に出てこないから仕方ないといえば仕方ない。


『ヒューマンかぁ……聞きたいの?どうしても?やめたほうがいいよー?』


 口調が一気に軽くなる女神様、教えるべき最低限は教えたぞという態度である。


「やめた方がいいなど……出来損ない共と違うのに何故我等が出てこないのですか!我等こそ最高傑作じゃないのですか!」


 何処に今の話で出来損ないがいるのか、一体何を聞いていたのか頭の中を探りたくなる発言をする教皇。信徒達には、その通りだと頷く者と何言ってるんだこいつ?と言う顔をする者と真っ二つに別れている。


『はぁ……ここまで言ったまだ出来損ないとか言ってるんだ。まぁ良いけど、うんヒューマンねはっきり言って出来損ないは君等だよ。始まりの人たるハイヒューマン以外全て亜人といっても良いだろうね、その中には君等も入るんだよ、何せ君等も他の人類と同じ様に創られたんだから。君等はね、環境の変化への適応と繁殖能力を与えた……まぁ学者達曰く遊び兼保険で創った存在、何というか思考の変な環境適応で馬鹿を言ってるんだから出来損ないだよね』


「な……な……我等が出来損な……」


 声にならない声を絞り出す教皇、信じてた事が全て違ったとなれば仕方ない反応ではあるのだが、教皇達は受け入れる事ができるかどうか……できるわけが無い。


「これは……これは神の偽者だ!我等を騙す為に魔人が用意したに違いない!信徒諸君騙されるな!我等の教義は間違っていない、このような卑怯な魔人を滅ぼす為にコレより聖戦を行う!」


 最早大暴走である。教皇に続こうとする者、女神を信じようとする者、どっちつかずの状態の者、大きく分かれたこの状態の使徒達。そうして頭に響きだす女神の声。


『因みに僕はね、学者達に作り出された世界監視兼調整プログラム、観測者と言った存在かな。再びあの惨劇の世界を生み出さないようにする為に用意されたんだよ。よってコレよりアリエーヌ教を世界の敵と認定する!コレによりアリエーヌ教徒は魔法が一切使えなくなるから』


 そういうと女神は、『沢山しゃべったから眠くなっちゃった』と言いつつ消えていく。出てきた時の神々しさはどこへやら……

 そして、魔法が使えなくなったと言われたアリエーヌ教、信徒が必死に魔法を使おうとするが発動すらしない。女神が落とした爆弾は教団にはこの世界で生きるにはきつ過ぎるものとなった。




 この後、世界がどうなったかは世界が続いている以上なにも問題がないのだろう。

 信徒達は改宗した者が多く居たりし、そのままアリエーヌ教に属している者は教団としては厳しい状況に陥っているようだ。

 そして、教皇は余計な事しやがってと信徒から鬘を毟り取られ、立場も蹴落とされ、財産も奪われといろんな意味で寒い生活を送る結末となってしまったようだ、風邪を引かないように女神に祈るしかないだろう……女神や神は存在しなかった訳だが。




 それはさておき、僕っ娘AIな観測者の女神ちゃん、名前がノアちゃん。どうやら箱舟から名前の由来らしい。

 そんなノアちゃんは今日もごろごろと転がりながら世界樹などの重要な場所をモニターに映しつつ、ポテチを食べながら、旧世界の産物である漫画やゲームを勤しんでるようだ。まじめに観測しろ。

アナタハカミヲシンジマスカー?


いいえ無宗教です。


コレ実際やりました(ぁ

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