表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALONES  作者: 旅がらす
3/14

1-3 Itsuki 逃走

 彼女――レンは、イツキの手を取った。決まりだ。レンは自分のことを信じてくれるようだ。

 イツキは早速、レンに能力解除を頼んだ。

「じゃあ、早速だけど、レンの霧、解除してくんねぇ? このままじゃ、俺も力を出せない」

「…………」

 しかし、レンは能力の解除を渋った。後ろをちらちらと伺いながら、「でも……」と呟く。

 だが、二人に迷っている時間など無かった。


「っと、行き止まりか……」

「あ……」


 イツキとレンは公園の中でも、最も見晴らしの良い小高い場所に行き着いた。柵の向こうは、少し切り立った崖のようになっている。

 それを見て、レンは言葉を失っていた。今までで一番震えが大きくなり、それに共鳴するように霧の量も一気に増える。

 イツキはレンにもう一度頼んだ。


「……レン、頼む」

「…………」

「レン!」


 レンの震えが、小さくなった。ゆっくりと一歩柵に近づく。霧も先程より薄くなっていた。

 前を向いたまま、レンは小さな声でイツキに話しかけてきた。

「イツキさん……」

「イツキ、で構わない」

「……イツキ……逃げれる?」

「あぁ」

「どこまでも?」

「逃げれるさ。俺を信じろ」

「…………」

「生きたいんだろ?」

「……!!」

 イツキの最後の言葉を聞いて、レンは一瞬だけ息を呑み、それから意を決したような顔でこちらを振り向いた。

 今度は、レンから手が差し伸べられる。


「生きたい……!」


 霧が、消えた。

 イツキは、スケボーを地面に置いて、レンの手をギュッと握る。

「決まりだな」

 イツキがそう言うと、レンははじめて笑みを見せた。イツキの手を、弱い力で、それでも強く握り返す。

 だが、イツキたちに安心している時間など、許されなかった。


「見つけたぞ!」

「!!」


 後ろから突然、男の声が聞こえてきた。

 振り向くと、何人もの黒ずくめの人間が、二人を取り囲んでいる。中には、銃器を所持しているものもいた。

 イツキとレンは後ろにズルズルと引き下がる。背中に柵のあたる感触がした。

 もう、逃げ場は無い。

「ずいぶんと長い鬼ごっこになったが、ここでゲームオーバーだな」

 黒ずくめの一人が、笑うように口を歪ませた。その目は一瞬だけイツキを見て、再びレンに戻る。

「これはこれは、姫は騎士ナイトでも見つけたのかな? それで俺たちから本当に逃げられるとお思いで?」

 レンは、せせら笑う黒ずくめをキッと睨んだ。


「あんたらなんかに捕まんないんだから!」

「ほぉ、言うようになったじゃないか、お嬢ちゃん。でも、いくら君でもこの数には勝てないんじゃないかい?」


 リーダーらしき黒ずくめが右手を上げると、それを合図にしたように銃器を持つ黒ずくめたちが、こちらに照準を合わせてきた。リーダーも懐からピストルを取り出す。

 イツキは小声でレンに話しかける。

「レン、お前、絶叫マシンはダメなタイプか?」

 イツキの場違いな質問に、レンは呆れたような声を出した。

「は? 今はそんな話……」

「いいから答えろよ」

「……ちょっと苦手なくらい。乗れないほどじゃない」

「よし。じゃあ、俺が合図を出したら、そのとおりにしろ……」

「こそこそ何を話している!」

 リーダーがイツキたちを睨みつけながら大声を出す。ピストルの照準が、レンからイツキに移った。

 イツキは柵に手をかけ、意識を集中させた。狙いは二人を囲む、黒ずくめだ。


「こういうことだ!」


 イツキが叫んだ瞬間、地面の砂が、一気に嵐のように舞い上がった。

 彼が持つもう一つの能力、『念動力サイコキネシス』だ。物理的エネルギーを起こして、外界に干渉する力。それにより、静かな公園に強い砂嵐が巻き起こり、黒ずくめたちの視界を奪う。

「な、こいつも能力者か!?」

 リーダーの男が驚いて後ずさる。だが、そんなことに構ってなどいられない。

 イツキはレンの手を握り返した。


「飛ぶぞ、レン!」

「うん!」


 二人はそのまま、柵を飛び越えた。そのまま、重力に従って僕らは落下していく。落下した直後、何発か銃声が響いた。

 イツキはレンの頭を抱え、今度は上に置いてきたスケボーに意識を集中させた。


(来い……!)


 しかし、スケボーはなかなかやって来ない。如何せん、思った以上に距離が離れてしまったらしい。少しずつ、地面が近くなっていく。

 それでも、イツキは諦めずに呼びかけ続けた。


(来るんだ……!!)


 再び強く念じる。地面まで、あと数メートルも無かった。

 ぶつかるかもしれない。一瞬だけ、不安が脳裏をよぎった次の瞬間だった。


  ――ギュンッ!


 猛スピードで上から何かが落ちてきたと思った次の瞬間、二人は空を飛んでいた。




   ◆





「うー、危機一髪だったな」

 そう言うイツキの右手は、ようやくやってきたスケボーをしっかりと掴んでいた。スケボーが空中をすべるように走る。

 レンは、イツキにしっかりと捕まりながら、スケボーを見つめていた。

念動力サイコキネシス遠隔念動力テレキネシス……、それがあなたの力?」

「そ。まぁ、なんでか遠隔念動力の方はコイツにしか使えないから、ちょっと使いづらいんだけどな」

 そう、イツキは遠隔念動力をこのスケボー以外に使うことができない。今まで何度か試してはみたが、すべて駄目だったのだ。

 その理由は、当の本人にすら分かっていない。


「さてと、この辺りかな」


 しばらく飛んだあと、イツキは目的地のすぐ傍で能力を解除した。

 そこは、閑静な住宅街だった。何軒か家が立ち並んでいる。

 イツキはレンの手を引き、二、三分ほど歩いて、薄緑色をした壁の家の前に立ち止まった。

 レンが家を見上げ、イツキに尋ねてくる。

「あの、ここは……?」

「俺の住んでるところ。まぁ、俺は居候だけど」

「居候?」

 イツキの言葉に、レンは首を傾げた。

「イツキって、何歳なの?」

「今年で十六」

「……家族は?」

「いない。でも、まぁ、ここの連中もある意味『家族』なのかな?」

「……?」

 再び、レンが首を傾げる。イツキは笑ってごまかした。

「とりあえず、ケガの手当てするぞ」

 そう言ってレンの手を引っ張ったが、レンはなかなか動こうとしなかった。しきりに、二人が先程までいた公園の方向を見ている。

 レンは不安そうな表情で、イツキを見上げた。

「追って来ない……?」

「追ってこれはしても、あんな物騒なものはもう出せないし、俺たちに危害を加えることもできねぇよ」

「…………」

 イツキの説明に、レンは腑に落ちないとでも言いたげな表情をしていた。

 どうやら、この町の『ルール』を知らないらしい。


「じゃあ、そのことを説明するってことも含めて、中に入るぞ」

「……うん」


 まだ納得の行っていない表情のレンの手を引いて、イツキは家のドアを開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ