1-1 Itsuki 邂逅(前)
一人称から三人称に修正しました。
最初の一文の語り部が誰なのか、それはまた後ほどということで(笑)
もしも、時間を巻き戻すことが出来たとしても、貴方は彼女と歩く道を選ぶのだろう。
たとえ、それがどれだけ辛く苦しい道のりだとしても。
貴方は再び、彼女に手を差し伸べるのだろう。
◆
「青いなぁ……空」
清々しい春の陽気が差し込むお昼時、五十嵐イツキは、丘の上にある公園に来ていた。ベンチに横になって空を見上げる。イツキの少ない趣味の一つだ。
空は相変わらず青い。イツキの一番好きな少し薄めの、青だった。
「晴れてるなぁ……」
イツキ晴れが好きだ。そして、雨は嫌いだ。雨は嫌なことを思い出す。
黄色のレインコート
横断歩道
信号無視のトラック
近づく二つ
女性の叫び声……。
「……!!」
イツキはハッとなって思わず起き上がった。嫌な汗が体中を這い回っている。
イツキは額の汗を拭った。思い出す必要はない。そう自分に言い聞かせた。
気晴らしに、イツキはベンチの下に置いてあるスケボーを転がした。スケボーは地面をゆっくりと前進する。イツキはスケボーに全神経を集中させる。
(飛べ……!)
すると、スケボーは誰も乗っていないにも関わらず、突然猛スピードで走り出し、宙に浮かんだ。さらに、イツキが『宙返りをしろ』と心で念じると、スケボーはその通りにその場で軽やかに宙返りをする。
この力は、『遠隔念動力』と言う。
俗に言う、超能力。
近年、イツキのような力を持つ人間、『超能力者』が増えている。
原因は不明。分かっているのは、それを先天的に持つ者と、後天的に事故とか何かの拍子で目覚めさせる者の二種類の『能力者』がいるということだけだ。
ちなみに、イツキは後者である。
もちろん、超能力者は以前から存在していた。ただ、その数はとても少なく、十万人に一人いるかいないか、くらいの割合だったそうだ。
それが、二十年ほど前から急増し始めた。現在では、百人に一人の割合で、超能力者は存在する。という研究発表まで出ているそうだ。
『超能力者』は、普通の人間が使わずに眠らせている脳の機能を使えるようになった、いわゆる『人類の進化系』だと論じる科学者もいるが、それが本当なのかは定かではない。
だが、『超能力者』は、自身の能力を使えば使うだけ、脳に負担を与えるという共通点を持ち、更に、実際に能力を使いすぎて脳内出血を起こして死亡した事例も存在するため、現在はその説が最も有力な説となっている。
そして、人々は『超能力者』を恐れ、蔑んだ。
世界と言うのは、常に優良なものには厳しくできている。
『超能力者』は『人類の進化系』でありながら、同時に『畏怖すべき化け物』でもあったのだ。
「……あれ?」
突然、スケボーが動かなくなった。能力を解除した覚えはない。試しに、スケボーに『動け』と念じてみたが、スケボーはうんともすんとも言わなかった。
(能力が、使えない……?)
ますますおかしかった。『この場所』でこんなことは、本来あり得ないはずだ。試しにもう一度やってみたが、結果は同じだった。
「いったいどうなってんだ……?」
突然のことに首を傾げながら、イツキは起き上がってスケボーを拾い上げた。見たところ、異常はない。ただ、能力だけは使えなくなっていた。
「……ん、霧……?」
そこでようやく、イツキは周囲にうっすらと霧のようなものがかかっていることに気がついた。
しかし、今日はポカポカとした気持ちの良い春の陽気のはずだ。陽炎が立つほど暑くはないし、ましてや霧が立ち込めるほど湿ってもいない。
(っつーことは、この霧が原因か……? でも、こんな能力は見たことないぞ……)
イツキは、現在までに判明している能力をできるだけ思い出してみたが、自分を取り巻く霧と結びつくものは一つもなかった。
(催眠能力に似てはいるけど、違うな……。とりあえず、ここから出るか……)
原因が分からず、それ以外の対処法を思いつかなかったイツキは、小さくため息をついて公園の出口に向かって歩き出そうとした。
その時、
「きゃあっ!」
「うわぁっ!」
突然、後ろから何かがぶつかってきた。驚いて後ろを振り向くと、のっぽさんのような白い帽子を目深に被った子供――声からして、おそらく女の子――が、尻もちをついていた。
「おい、大丈夫か?」
痛そうにしている女の子に、イツキは手を差し出した。すると、女の子はイツキの手を見るなり、びくんっ。と大きく震え、素早く後ずさった。気のせいか、一瞬だけ霧が濃くなったように思えた。
さすがに様子が変だと思ったイツキは、手を差し出したまま、しゃがんで彼女と目線を合わせた。
「別に捕って食ったりはしないって。一人で立てるか?」
なるべく優しい声で話しかけると、女の子はしばらくこちらを品定めするように――こちらから彼女の目は見えなかったが――見たあと、小さくコクリと頷き、立ち上がった。
改めて女の子を見ると、かなり酷い身なりをしていた。
着ている服は所々破れており、靴も傷だらけでボロボロ。手のひらや膝小僧にもたくさんの傷が……。
「って、傷!」
イツキが手を取ると、女の子は再び大きく震えた。また、一瞬だけ霧が濃くなる。
しかし、今はそんなことに構ってなどいられなかった。
イツキは彼女の手を引いて、水場に向かった。手を丁寧に洗わせ、特に傷の多い右手にハンカチを巻く。
女の子は面食らったように、ポカンと口を開け、ハンカチをジッと見つめていた。
霧は、いつの間にか消えていた。
「消毒もちゃんとしないとな。結構酷いし、包帯もした方がいいか……?」
もしそうするのならば、家に行く必要があった。さすがにそこまでは用意していない。
「……!!」
イツキがぶつぶつと独り言を言っていると、女の子は突然びくびくと震えだした。のっぽさん帽子を更に深く被るようにして俯く。
「ん、どうした?」
尋ねたが、彼女は何も言わずに震えていた。
同時に、消え去っていたはずの霧が再び吹き出し始めた。まるで、彼女の震えに呼応しているようだ。
(やっぱり、この子か……)
どうやら、イツキと彼女は『同類』のようだ。
女の子は、突然出口とは逆方向に走り出した。
「あ、ちょっと待った!」
イツキはスケボーを抱え直すと、女の子を追いかけた。
はじめての超能力ものです。
超能力について調べてみたらいろいろあってびっくりしました。
感想&アドバイス、お待ちしてます><




