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奪還戦記(仮題)  作者: まっさん
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プロローグ

作者の妄想が頭から漏れ出したモノ、過度な期待は禁物。

 広大な大地で、様々な音が鳴り響いていた。

 怒号、叫び、金属の擦れ合う音に断末魔――そう、戦である。

 魔族と人間。互いの種の存続と領地を賭けた戦いだ。


『ゲギャギャギャ!』


「ひ、ひぃぃぃぃ」


 ゴブリンの振り下ろす剣が、兵士の頭を砕く。

 剣とは斬る為の武器であるが、力任せなゴブリンに器用な真似が出来るはずも無く、鈍器と化していた。


「相変わらず醜悪な奴等だ、反吐が出る」


『グギョ?』


 突如表れた声の主により、ゴブリンの首が一つ飛ぶ。

 近くに居た数匹が呆気にとられていたが、地面に落ちた同胞のソレを認識すると、怒りに任せて下手人に襲い掛かった。


「阿呆が」


 ゴブリンの集団戦術は単純明快、連携の類があるでもなく、ただ近くの敵に殺到するだけだ。

 男――ガインは冷静に、淡々と、間合いを図りながら一匹ずつ切り伏せる。

 知性の低い魔物には技の概念が無い。警戒すべきは馬鹿力だけ、彼にとって取るに足らない相手だった。


『ギギギィ……』


 あっという間に同胞が倒され、危機感を覚えた一匹が懐をまさぐる。

 取り出したのは笛。それを口に含むと同時に粗末な音が鳴り響き、周囲に居たゴブリン達が集まった。

 中には、目の前の兵士を無視して向かってきたモノもいる。


 ――どのような状況であろうと、笛の音で召集される。“正面”から挑むなら厄介だ。


 集まった数百のゴブリン達を前にして、ガインが口角を上げる。

 剣技に自信のある彼も、一人でこの数を相手取るのは無謀。十数匹道連れにするのが精一杯だ。

 故に――背を向けて駆け出した。


『グギョ!? ギャギャギャー!』


 笛で招集をかけたゴブリンが、剣先をガインの背に向けると、呼応するように他の者達が走り出した。 

 その背後に迫る群れを見て、ガインは思う。

 

 ――こういう時の適度な距離とは、難しいものだ。


 ゴブリンの走力は決して高くない。その気になればいつでも引き離すことが出来る。

 しかし、速度で追いつけ無い事を彼らが悟れば、追撃を諦めてしまう可能性があった。

 ガインには、ゴブリン達をある場所に誘う目的がある。故に、付かず離れずの距離を維持していた。


 しばらく追いかけっこをしていると、ガインが狭い道に入っていった。

 当然、ゴブリン達は続こうとしたが――


『ギャ!?』


 その道を塞ぐように大岩が落ちてきた。先頭は哀れ、押しつぶされている。

 

『ギョギョ? ギャギャギャー!』

 

 突然先頭が止まった事で、後方から付いてきていたゴブリン達が不満を露にする。

 指令系統が皆無に等しい彼らに、前方の状況を把握する能力があるわけも無く、ただ不満げに唸っていた。

 得物が逃げ込んだ道は大岩で阻まれ、左右は断崖に囲まれている。迂回には時間が掛かりそうだ。

 なにより、来た道を戻ろうとしても、進めと急かすゴブリン達のせいで動けない。


「今だ、“集団魔方陣”【フレアバースト】」


『!?』


 何時のまにか、断崖に上がっていたオウルの合図と同時に、ゴブリン達の足元に魔方陣が出現する。

 ガインだけではない。何十人もの人間達が断崖に位置取り、魔物を見下ろす形で囲んでいる。

 その光景に、低能なゴブリン達も理解した。自分達は――罠に嵌められたのだと。


『グギャーーッッ』


 無慈悲に作動した魔法により、ゴブリン達が悲鳴を上げる。

 集団魔方陣とは読んで字の如く、複数人からなる魔法の事だ。

 一人ひとりが、火を放出する初期魔法【フレア】を唱えることで。

 威力を底上げして上位の魔法へと変換する。それも、通常数人の所を数十人でだ。

 その破壊力たるや、約三百匹のゴブリン達が炎の柱に飲み込まれるほど。


 まともに戦えば、倍の戦力を必要とする三百匹のゴブリンを、ガインは一部隊で片付けた。






「報告を」


「ハッ、【フレアバースト】から逃れたゴブリンを追撃隊が殲滅、取り逃がしはありません」


「斥候隊の報告、付近に敵影なし」


「だ、そうですよ。ガイン様」


「……及第点だ」


「あらら、我らがオウルは手厳しい」


 オウル軍の副将、ヴァン・グリードが溜息混じりに呟く。

 彼が言った“オウル”とは、知恵、賢明の意味を持つ、ガインに与えられた称号だ。

 

 大国“レイバティン”始まって来の戦の天才。

 通称オウル、ガイン・クロフォード将軍。若干24歳、最年少で将軍の地位に上り詰めた男である。

 金色の長髪に端正な顔、鋭い瞳。貴公子という俗称が良く似合う、口を開かなければだが……。


「先遣隊の救助は如何致します?」


「捨て置け、どうせもう魔物共の腹の中だ」


「……了解」


 ヴァンに不満は無い。

 

 オウルの戦い方は受動的だ。有利な地形を把握し、罠を張り巡らせ、敵をおびき寄せて殲滅する。

 決して正面から戦いを挑む事は無い。そのような状況になった場合はすぐさま撤退する。

 将として起用される前から、この戦い方を曲げたことが無い。

 故に、軍部内で臆病者と罵られることが多い。そうでなくも、大将は若造なのだ。

 単純に年の差で見下す者も居れば、経験の差を引き合いに出す者もいる。

 そして始末の悪いことに、ガインはそう言った連中を無視できないのだ。


 今回の先遣隊にしてもそうだ。敵をおびき寄せる任を与えられたのにも関わらず、彼等は指示を無視して交戦した。その結果、ガイン自身が彼らの尻拭いをさせられたのだ。

 

 だが、ヴァンが返事を詰まらせたのには別の理由がある。






 先遣隊が魔物と接触する直前の事だ。


『いいんですかい大将。連中、このままだと……』


『問題ない。あいつらは俺の指示通り動いている』


『へ?』


 思わず前線に目を向ける。先遣隊とゴブリン達が戦い始めていた。

 先遣隊に与えられた任は“おびき寄せる”事。にも関わらず、彼等は撤退する動きを見せない。

 どう考えても指示に従っているとは――


『!?』


 前線の風向きが変わった。初めは数に勝る先遣隊が有利だったが、徐々に集まってきた魔物達に覆されている。

 魔物の進軍に陣形の類は無い。足並みもバラバラだ。

 そのゴブリン達が、交戦をしている先遣隊に群がっていく、まるでおびき寄せられたように――


『まさか大将……』


『……』


 ガインの吊りあがった口角を見て、ヴァンは確信した。これが先遣隊の役目だと。


 戦いが始まる前、ガインは先遣隊を選別した。その者達はオウル軍の中でも、ガインに不満を持つ者達で構成されていた。

 罠の詳細を丁寧にに説明し、おびき寄せる役目を与えた。

 傍から見れば、彼らに功績を作るチャンスを与えたようなものだ。

 しかも、先遣隊の隊長に任命したのは、オウル軍で最も功績に固執していた貴族の男。

 自分に不満を抱く者も起用する。まさに将の鑑といった所だろう。


 しかし、実状は違う。確かに、罠までおびき寄せるのは十分な功績だ。重要な役割でもある。

 だが、それで最も評価されるのは、罠を考案し実用したガイン。

 隊長である貴族の男は、彼の上を行きたかった。故に、おびき寄せるだけにしては大軍である先遣隊を利用し、魔物に戦いを挑んだのだ。

 軍務違反など、功績を立てさえすればどうとでもなる。幸い、隊の多くは反ガイン派だ。

 彼等は二つ返事で了承し、剣を抜いた。それこそがガインの狙いだったとは知らずに……。


 結果、先遣隊はガインの指示通り、ゴブリン達を一ヶ所に集める任を全うした。


『さて、そろそろいくか』


『どちらへ』


『決まっているだろう? おびき寄せるのさ』


『な!? それなら自分が!』


『馬鹿を言え、俺が行くから意味があるんだ』


 ヴァンの制しも虚しく、ガインは駆け出していった。

 おかげで魔物の誘き出しに成功。罠に嵌め、ゴブリンの大軍を殲滅した。

 するとどうだろうか、戦が始まる前はガインに不安を抱いていた者達が、彼を尊敬の眼差しで見ている。

 中には、熱い視線もいくらかあった。

 無理も無い。


 不満を抱いていた者達を起用する器の大きさ。

 単騎で魔物の群れに向かう勇猛さ。

 地形を用いた罠で、敵を一網打尽にする知謀。


 真実を知るのは副将のヴァンと、ガイン当人のみ。

 軍の邪魔者を排除し、魔物を殲滅、新設の軍に配属された兵士達の心を掌握した。

 その後、進行してきた別働隊の魔物達も難なく殲滅。交戦中の他軍に増援を送るほど、ガインにとって暇な戦いだった。

 これがレイバティンのオウル、後に神将とまで呼ばれるガイン・クロフォードの戦。


 その“初戦”である。








 故にヴァンは、親子の差ほど年の離れたこの将軍を、畏怖せずにはいられなかった。



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