魔族自治領騒乱後編
今回もミミが活躍してくれました。
魔王城ミミの自室side
ミミside
3代目魔王リリスにもたらされた報告書を魔術を使って纏めて読むと、面白い事が幾つか記されていた。
それは、イストリア王国とアジェス帝国が内密に密約を結んで、魔王自治領とフヨウ王国とルーフ連邦に武力侵攻をもくろんでいる事だった。もちろん、現在の魔王自治領は地球でいう所の永世中立国のスイスのように武装中立国として私の父がしでかした大規模侵略を反省材料に、私が密かに冥界に単独【侵略】を反面教師として、3代目魔王リリスは平和政策を第一に、魔王自治領を今日まで収めてきた。
しかし、イストリア王国は色々と手の込んだ武力行動を起こしていたようで、現に平和的に暮していた
コボルド族やハーピィー族が偽装されたイストリア王国の偽装馬賊の襲撃を受けていて、かなりの犠牲者が出始めていた。
(これは、元2代目魔王である私の魔王式宣戦布告外交が必要になりそうですね?)
私は余りにも理不尽な被害報告書を読んでいるうちに、無意識のうちにアイスコーヒーの入ったミスリル銀で出来たカップを片手で、グジャリ! と握り潰した。ベルを鳴らして侍女達を呼び寄せると手早く
黒衣の男装の貴族の礼装に着替える、これはかって、私と対峙した勇者達の中で余りにも無礼な連中と殺り合う時に私がそんな連中と決闘した時の礼装で、意味は【遠慮せず命を無駄に散らす覚悟で挑む者に対しての無慈悲な破滅を与える】と言う意味合いが大きい、逆にドレスの時や動きやすい礼装の時は【時間が許す限り思う存分語らい又は大いに武術を出し切り合う】と言う親愛の意味の大きい衣類を纏うが、今回のイストリア王国には後者は当てはまらない、理不尽にはより大きい理不尽な破壊で破滅させるというのが私のスタンスだ、私が使者として単身イストリア王国に赴くと聞いて、リリスに使える側近達は、ある者はその場で卒倒し、又ある者は深いため息を付き、ある者は私に命がけの進言をしてくれたが、私の決意は変わらなかった。しかし私ももう魔王を引退したので、今回は私の別の【切り札】も使う事にする。かって戦いで命を落とし、その死後も私に忠節を誓った魔王軍の騎士達を、そう、彼等【魔王の影騎士団】を惰眠から目覚めさせる時が来た。
そして、私は彼らが眠る歴代魔王の大霊廟へと向かった。
※※※※
大霊廟side
リリスside
はぁ、お母様ときたら、すっかり、あの、我が魔王自治領における【野盗】被害報告書に頭に来て、いわゆる世界規模大戦を始めかねないから、先に、大霊廟で待ち構えておいて正解のようね? 確かに、あの報告書には、ただの野盗で説明が出来ない部分があった。コボルド族が暮らしていた、ピコ村の近くの茂みにあった人間の足跡は歩き方を見れば、規則正しくて、無秩序な野盗とはまるで違うし、そして、村に撃ち込まれた銃弾や弓矢の跡を見れば上手く偽装されているけれど、正規兵の射撃と殆ど変わりは無かった、また、捕らえた【野盗】達は【イストリアなまり】で目つきが野盗とは違う、明らかに軍人のそれだった。
それにしても、お母様もお母様だ、あの漆黒の礼装を見れば誰だって、お母様が一人でイストリア王国を潰しに向かうのは明らかだ、気になって、用意されていた、イストリア王国への贈り物の箱を開けてみれば、お母様の愛用の手袋が一つ入っていた、つまり、【その喧嘩高く買った、四の五の言わずに全力でかかって来なさい、此方も情け容赦なく全力で叩き潰す】との異株表明だ。
残念ながら、イストリア王国との戦いは避けては通れない、でも、一国を怒りのままに情け容赦なく立ち直りの機会を与えずに滅ぼしても良いのだろうか? 一部の間違った道を選んだ指導者ごと国を滅ぼし尽くしても、それで、死んでいった者達が喜ぶだろうか? 私は再度、お母様に意見を言うべく、大霊廟に来て、お母様が来るのを待っていた。
「あら、リリス、此処に来ましたか?」
「はい、お母様、単刀直入に申し上げいたします、イストリア王国への宣戦布告の際の国家殲滅戦を御再考を深くお願いするために、私のみ、此処でお母様をお待ちしておりました」
臣下の礼を取りながら顔を伏して、実の母にして、2代目魔王の娘として、母が行おうとする大暴挙を諌めるべく私は、お母様に懇願する、もし、今の母が本気になれば、一国の終わりどころか世界の破滅すら容易に出来てしまう、私にはそれが物凄く恐ろしかった。
しかし、お母様は私の懇願を静かに聞き止めてから、静かに私に語りかけてきた、それは、いいままで聞いた中でも穏やかなものだった。
「リリス、顔を上げなさい、大丈夫ですよ、私はイストリア王国の殲滅など考えてはいません、むしろ
王室の解体や民主国家としての、イストリアの行く先は考えてはいます。その為にも、イストリア王国の統治者には、私たちとの戦いを諦めて貰わなくてはいけませんね?」
「はい・・・・・・」
優しく私に語り掛けるお母様を見て、私は、おそらく殲滅戦は仕掛けないだろうけれど、魔王流の【反撃】はするだろうと確信をした。
「魔王の影騎士団は同盟国のフヨウ王国の国境の警備に、25万を残りの25万はルーフ連邦に、最後に50万を我が魔王自治領の護りに付かせます」
おそらく、初撃が不発もしくは出来なかった事態になった時の為の防衛策だ、そして、今のお母様は準破壊神ではなく魔王として此処にいいる。ならば短期決戦で終えるのも致し方のない事だと思い、私はお母様に使者として、イストリアに赴くように魔王として【命じる】しかなかった。
※※※※
イストリア王国首都:レムルカントside
ミミside
魔王自治領を出発して、瞬間移動魔法で半日で何事も無く国境にたどり着き、国境付近の森でローブで全身を深く覆い隠し、高い木の上から使い魔を放ってイストリア王国首都内の重要施設をくまなく探ると、そこには面白い光景が広がっていますね。
まず、首都の近くに飛行場が設けられて、冥界の休暇で見に行った地球の飛行船の形をした船が多数係留されて、爆撃用の爆弾を搭載できるようにされていた、あと、巨大爆撃機も多数確認できる、形状は第二次世界大戦の爆撃機に良く似ている、かなりの確立で地球からの転生者が係わっているのでしょう。半分は脅されて強制的に従事しているものから、自ら進んでこの国に忠誠を誓っている二つの二派が存在するようだ。次に戦車や列車砲も確認が取れた、これもほぼ地球製です、ルーフ連邦も戦車の開発や戦闘機の開発は成功しているが、布張りの木製の飛行機が主力で装甲版の取り付けた機体は実戦配備まではもう少し掛かりそうですね。まぁ、宣戦布告が終ったら、真っ先に潰す必要性がある施設ばかりですね。
「どうせ作るなら、地球製の美味しいコーヒーとか紅茶とかお菓子が万人受けできるのに、殺し合いにしか使えない無意味なものばかり無駄に作って、全くの税金の無駄づかいですね」
《・・・・・・ここ・・・・・・・出して・・・・・・だ・・・・・れか・・・・・・》
ん? 誰かの思念でしょうか? しかも、この声は聞き覚えがある声ですね? 辺りを見回すと首都の郊外の一角に物凄く大きな近代的な建物があります、たぶん何かの研究施設でしょうか? 此処の王女いや、今は女王でしたね、彼女との謁見の後に【挨拶】ついでに中を見学させていただきましょうか。
《グ・・・・・・レ・・・・・・イル・・・・・・》
「!?」
間違いない、グレイル君がかって私が魔王時代に娶った人間の女性のナタリアさんですね、確かこの世界に再び転生をして、ケンタウロスの女性に生まれ変わった筈、それがどうして・・・・・・
とにかく、このことも少し問い詰めてみる事にしましょう。私は木から飛び降りると直ぐさまに、ローブを脱ぎ捨て、そのままレムルカントにある王城に向かった。
正規の手続きを受けて城門から正々堂々と城内に入る、漆黒の男装の礼装を纏った私を見る貴族や使用人たちには目もくれずに、この国の主、ローズマリー・シュトルム・イストリアに儀礼的な挨拶を述べると直ぐ様に本題を切り出した。
「イストリア女王陛下、この度は、此方の会談の機会をお与え下さり、私共魔族の王、リリス・エアリル・サンダルフォン陛下も大変お喜びです」
「フン、苦るしゅうでないぞ、下賎の魔族の元王よ、妾も貴殿のような話の解る者と、こう対談が出来て嬉しいぞ」
なるほど、噂どおり、自分よりも偉い者は居ない的な教育の典型的な例の小娘ですね、我が子であったら、正直、この一言でビンタを入れてから、人との会話の術を学ばせる所でした。彼女の話を聞きながら辺りを警戒すると、何をどうしたのかは解らないですが、私と同レベルの魔神か魔王クラスの人型が5・6人くらい大臣達に混じって、何かあれば直ぐに動ける位置に立っている、特にそのリーダー格のイケメンの銀髪の長身の男は王女を直ぐにでも護れる位置にいて、私の攻撃を防げる位置にいたので、私はひとまずこの場での宣戦布告後の攻撃は断念した。仮に、この場に人間の子供達がいても
攻撃は断念しますが。今は様子を見ながら、宣戦布告しかない、現に魔王自治領のみならず各小弱国やルーフ連邦にフヨウ王国も先日の何かしらの被害が出ていて、人間側で何時何が起きてもおかしくないしくない状況です。娘の話では、他国も開戦も止む無しとの判断が何時下されるのかさえ時間の問題だという状況です。
「まず、先日、貴国からの軍の儀装攻撃の犠牲になった、ピコ村のコボルド族やヒュールの森放火事件で犠牲になったハーピィ族の件ですが、証拠資料をお持ちいたしましたので目をお通しくださ・・・・・・」
「断る、あのような、愛玩動物やインコにも劣る羽人間の事などどうでも良い、妾には預かり知らぬ事だ」
ふぅ、こんな小娘がこの国の王では先が知れますね・・・・・・ もう少し別のアプローチをかけてみますか。
「では、最近の貴国の魔族排斥運動や混血の者達の平和的なデモを武力排除した一件も全くご存知無いと?」
「そのような、穢れた血を引く者達等は妾にとっては全くどうでも良い事だ」
もはや、話し合いにもならない、私は怒りを極力抑えながら、魔族で一番の装飾職人が作り上げた箱を魔術で取り出すと、この王女の前に静かに差し出し、こう告げた。
「イストリア女王陛下、この箱は、我が魔王自治領の中でも一番の装飾職人に特注で作らせた箱に、私からの贈り物が入っています、どうぞ、お納め下さい」
「なんじゃ、箱には手袋しか入っておらぬではないか? 妾を愚弄するかっ! 魔族の元王よッ!」
箱の中身を見て、憤慨するイストリア女王陛下、ご先祖との違いが出ていた、彼は敢えて私を怒らせたが、あくまでも彼は私との喧嘩を愉しんでいた、その真意を知った時、私は腹立たしくも嬉しかったものです、だって、生まれて初めて対等に喧嘩をしようと誘ってくれたのですから。それに比べて、現在のイストリアの王女は諌めるべき者が居ないせいで、わがままし放題の力に任せた侵略しか知らない暴君なので、これくらいの挑発が丁度いいレベルです。
なので、堂々と私はここに宣言をした。
「はい、愚弄と言うよりも、この私が直接、貴国を相手にしようと思い、この国に来たまでの事、時間はたっぷり差し上げますから、今日より、数週間で攻め込んで来なさい、私がその無謀さ加減を直接教えて差し上げましょう」
「よく吼えたぁ、魔族の元王よ! ギムリアッ、直ぐに、この者を滅せよ!」
「御意」
ギムリアと呼ばれた、側近の魔神や待機していた魔王達が一斉に、私に向かって魔力を開放し、攻撃を仕掛けてくるが、同時に私は結界を張ってこれを完全に防ぎ、謁見の間の床に魔力を必要最低限放つと
あたり一面煙に覆われた、城を破壊しても良かったのだけれど、彼等魔神達が未知数なのと、しょっぱなからしくじって捕まりたくなかったので、逃げに転じた。瞬間移動をしようとした時、何者かに何処かに引っ張り込まれていくのが解った。
気が付くとそこは巨大な水槽が幾つも置かれている研究施設だった。病院のような消毒の臭いも少々鼻に付くが兎に角、ある種の不快感はある、そんな空間をただ一人歩くといいのも、余り気持ちの良いものではない。薄暗い通路を歩いていると、目の前に白衣を着た私より年下の少女の姿をした一人の魔神がそこに立っていた。
「お待ちしておりました、魔王ミレニアム様」
「貴女は誰ですか? それに此処は何なのです?」
彼女に敵意は無いが、兎に角警戒をしないと、何しろ此処は敵国の最重要研究施設の中枢なのだから
私の直感が外れたことは余り無いので、出来れば今回は大はずれ賞が欲しいと思うくらいです。
そして目の前の少女も。
「失礼を致しました、わたしは此処の転生者研究プラントの責任者を務める、ティアラ・アルトロスです安心して下さい、ここには人避けの結界を常時張っています、わたしの研究の邪魔になりますから」
「その研究と言うのに、ある種の興味がありますが、今は余りお喋りもしたくないですね、出来れば此処に呼ばれた訳も教えて欲しいものです」
彼女には、それ程脅威になりえる要因が見られない、いざとなったら彼女を人質に大立ち回りをして逃げ回る事も考え・・・・・・。
「はい、此処に無理やりお呼び致しましたのは、グレイルさんの大事な方のナタリアさんをお返ししたいのです、この水槽ではなく、惨い実験のせいで彼女の肉体は今は、わたしが生み出した魔神核に封じてあります、此処にあるのはかって、この世界に転生した人々を捕らえて、知識を無理矢理吸い出す研究のプラントです、わたしは戦う事ができない魔神なので、彼らを再生させる条件でこのプラントで働いてましたが、何時までたっても、彼らを元に戻してくいれないのです、魔神宰相ギムリアは・・・・・・」
「なるほど、それがあのイケメン魔神の名前ですか、わかりました、ナタリアの魔神核はいただいていきます、ついでに、貴女が言い訳が立つくらいに痛めつけて、逃げるとしましょう」
彼女は静かに頷き、目を閉じる、敵ながら幼くて見事な覚悟です、私はありったけの魔力を込めるとこの施設をほぼ全壊に破壊し、その時、瓦礫が空洞に成るように上手く力を調整して、彼女をそこに閉じ込め、施設を完全に破壊して一気に逃げでした。勿論、空軍の追撃もあったがレシプロ戦闘機では私に追いつけない、たとえるなら自転車とF1車の追いかけっこのような物です。
無事救出された、ティアラ・アルトロスは施設の破壊は実験していた、ゲートと私の転移魔法の魔力干渉が引き起こした、暴走事故で施設は全壊し貴重な研究データーもサンプルも全て破壊され、彼女自身も深手を負って、どうする事もできなかった、また、ナタリアの魔神核は、この時の事故で消滅して欠片も存在しないと報告をしていた。
次回、不定期ですが更新をがんばります。
ミミが絡むと、ダークに流れていきますね