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君の気持ちなんて分かる訳がない

ラッパの爆音と共に目を覚ました。身体中が痛い、目を開けるとベッドの縁からチビ助がこちらを見下ろしていた。


「おはよう!凄い寝相だね」


と言われたので現在の自分の状況を確認してみた。自分とチビ助のベッドの間の隙間で、モップを抱きしめたまま眠っていたらしい。フローリングの硬くて冷たい床の上に横たわっていた為か寒さで身震いした。


「……おはよう。」


俺は身体を摩りながら答えた。


「風邪引いてない?大丈夫」

「多分大丈夫、そんな事より早く着替えて点呼場所に行こうぜ、もう罰則とか懲り懲り」


俺は立ち上がり着替えるべく制服を取り出した、そしてチビ助の方を見て


「お前、脱衣所の方で着替えろよ」


と言った。


「うん、わかった!」


チビ助は笑顔で答えると制服を持って脱衣所に向かった。


「……朝からフラッシュとか勘弁して欲しいもんな……」


今までの経験から学習していた俺は小さく呟いた。

何事もなく着替え終わった俺たちは遅れる事なく点呼場所に整列する事が出来た。これで罰則はないはずだと思っていると、思わず欠伸がでた。

そういや俺、いつの間にか寝てたな。何て事を考えていると三鷹先生と視線が合った、先生はニヤリと笑うと点呼をとり始める。

なんとなく俺は嫌な予感がしていた。

予感は見事的中、点呼終了後に肩を叩かれ『覇気がない、腕立て伏せ20回』とニコニコの笑顔で三鷹先生に言われた。逆らう事のできない俺たちはきっちり30回やらされるのであった。

(おかしいな、10回増えてるゾ☆)

部屋へと戻る途中で、痛む腕を摩りながら


「鬼教師め、絶対に結婚できないだろ」


と悪態をついた。


「そんな事ないよ、三鷹先生って美人だよ」


チビ助が先生のフォローをいれるも俺は


「美人でもあんな奴モテるわけないだろ、女の子はお淑やかで、優しくないと、それにこんな軍隊まがいの教師なんて女のやるような仕事じゃねーよ」

「…………。」

「お前もそう思うだろ?」

「…………。」

「……帯刀?」


俺はチビ助の方を見て驚いた、こちらを睨みつけている。


「どうしたんだ?」

「……別に。早く部屋に戻って掃除しよう」


そう言うなり、チビ助は部屋に向かってズンズンと歩いて行った。俺は訳が分からなかったが取り敢えず付いていくことにした。

部屋に戻ってからも帯刀は不機嫌だった。洗濯物を掻き集めて、力任せに洗濯機に放り込んでいく。その姿を横目で見ながら俺は考えてみたが、特に帯刀の機嫌を損ねるような事はしていないはずだ。

洗濯機の操作を終えた帯刀は次に机の水拭きにかかる、所々に苛立っている為か乱暴な動きをするも、基本的には丁寧に掃除をしていく。うん、流石。

熟練のお掃除捌きを眺めていると


「ボサッとしないで手伝ってよ」


と帯刀に言われ、箒を押し付けられた。


「あぁ、ごめん……。」


俺は、床掃きを開始した。そして……ゴミ箱を吹き飛ばしてしまった。掃除する面積を増やしていく。


「君って……。不器用だね」


チビ助がボソリと呟いた。その言葉が聞こえた瞬間に俺はチビ助を睨んでいた、チビ助の身体が一歩後退する。

俺は一つ息を吐いた。

(落ち着け、俺……ハーレムモノの主人公と言ったら女の子からどんな仕打ちを受けても怒らないのが鉄則だ。ここで怒ってしまったら俺はただのモブだ。)


「……そうだな、気をつけるよ。」


俺はそう言うと散らばしたゴミをぎこちない動きではあるが、丁寧に集め始めた。怪訝そうにこちらを一瞥するが帯刀も掃除を再開させる。


「帯刀って、器用だよな流石女の子つていうか……気配りもできるし、すげぇ助かるよ」


そして、俺はチビ助を褒めちぎる事にした。機嫌が悪い女の子を宥めるには、甘いものか、とにかく褒めるのが良いと思ったからだ、それに褒める事によって俺の好感度が上がるはず。褒められたヒロインは大抵顔を赤らめて『もう……バカっ‼︎』っていう感じの反応をしてその後、ちょっとデレると思う。『流石ヒーロー』ではなく、『流石ヒロイン』を俺は推奨する。

褒めのボキャブラリーが少ない気がするが仕方がないまだ出会って3日、こんだけ褒めたら十分だろと思い、チビ助の方を見やると

まるでゴミを見るかの様な顔をして、俺を見ていた。

(おいおい、ゴミがあるのは下だぞ、ちょっと視線が高すぎませんかね)などと思っていると

帯刀は、眉間に皺を寄せ何か言いたそうに2、3度口を開けたり閉めたりしていたが


「……早く掃除終わらせよ。」


それだけ言い背を向けた。


俺は帯刀の見ていないところで大袈裟にに首を傾げた。

(なんだアイツは?)

別段気にしない事にした、俺に落ち度は無いはずだ、きっと機嫌が悪かったのだろう。何も無くとも機嫌がすこぶる悪くなる時もある、そう思う事にした。



その日を境に帯刀との距離が開いた気がする。俺自身もよく分からないが、以前に比べよそよそしく感じる。

相棒からただのクラスメイトに降格した様な感じだ、しかし、朝になれば挨拶をするし、放課後は一緒に罰則を受ける、ご飯も一緒に食べている。

行動も、言動も以前となんら変わりないのだが、俺が昔に感じていた虚しさが少しずつだが、確実にせり上がって来ていた。



続く


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