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仕事のやり過ぎがいい訳がないその3

1時間目開始のチャイムが鳴り響く。

「アイロン早がけデスマッチだ‼︎」三鷹みたか先生は教卓をバシッと叩き笑顔でそう言った。

(先生…楽しそうだな。)俺たちは教室に戻されテンションの高い先生を見る。

「ルールは簡単だ、アイロンがけが早く終わった者から教卓の前に並べ、私がチェックし合格ならば廊下にて待機。不合格ならばもう1度アイロンがけをやり直してこい。最後に残った奴とその相棒は放課後、屈み跳躍でグランド5周だ。いいな?」

「はい‼︎」全員が返事をする。

(いつの間にか全員参加になってる…。)

「お前ら、準備はいいかー?」

「イエスマム‼︎」

(なにこのテンション)クラスは異様な盛り上がりを見せていた。

「それでは、始めっ‼︎」


一斉に迷彩柄作業服のアイロンがけをする光景はかなりシュールなのだが…。

(やっべぇ、どっから取り掛かったらいいんだっけ?)俺は混乱していた。とりあえず布面積の広い所から取り掛かる事にした。

(思い出せ、家庭科の授業を)

悪戦苦闘する俺の隣では余裕の表情で作業している人がいる。そいつは帯刀たてわき 時雨しぐれだ、まるでクリーニング屋さんみたいに無駄のない動きで確実にシワを伸ばしていく。

最初に霧吹きで作業服を湿らし、次に布面積の狭い所から取り掛かっていく。ちなみに俺は見ていなかったけど。

そして、俺の席から離れている金髪ドリルもまた無駄のない動きでシワを伸ばす。これも俺は見ていない。というか周りを見る余裕なんかなかった。


俺は頑張って作業服の背中のシワを伸ばすも、小ジワがなかなか伸びてくれない。

(くそっ、ドモホルン◯ンクルぶっかけてやろうか‼︎…持ってねーけどな。)悪態をつきながらがむしゃらにアイロンがけをする。


「よし、2人とも合格だ!」三鷹先生の声が聞こえ、俺は小ジワから目を離し教卓の方を見た。そこにはチビ助と金髪ドリルが並んで立っていた。

「素晴らしい出来だな、良くやった。お前達は廊下で待機しておけ。」そう言って三鷹先生は2人に拍手を送る。

「今回は引分け、という事にしといてあげますわ、でも次はわたくしが勝ちますわ!」と金髪ドリルは言った。

「うん、僕も…負けないよ!」チビ助は笑顔で返した。

金髪ドリルをくるくる回しながら頬を赤く染め俯きがちに

「せいぜい頑張りなさい。」と言っているのが聞こえた。

(俺のイベントがぁぁぁ‼︎)俺はチビ助を睨みつけた。

(結局、霧吹きの使いどころも教えて貰ってねーし。)

俺の視線に気付いたチビ助が振り返える。

俺は霧吹きを前に突き出した。するとチビ助はピースで返してきた、しかも笑顔付きで。

(そうじゃないっ!)俺はさらに霧吹きを見の前で振った。

チビ助は照れ臭そうに笑っている。

「お前ら早く廊下に出ろ、後がつっかえるだろ」三鷹先生はそう言って2人の背中を押してドアに向かっていく。その際、チビ助は拳を握り親指を立てて俺の方に向ける。

チビ助の姿がドアの向こう側に消えるまで見つめ、俺は手に持っていた霧吹きを机の端っこにそっと置いた。

「もう誰にも頼らない。」俺は小さく呟いた。


次々と三鷹先生の合格をもらい教室内の人数が減っていった。俺はヤケクソで小ジワだらけの作業服を教卓に持っていったが敢え無く却下された。

再び小ジワと格闘する。

(はぁ、小ジワって伸びないものなんだな…。)俺は、毎朝お高い化粧品を使って必死にシワと戦う母親の光景を思い出した。

(あの時は親父と一緒にバカにしていたけど…今なら気持ちが分かるな。そしてごめん、母さんが使っていたお高い化粧品なんだけど実は中身は安物なんだ…。お使い頼まれるたびに安物の詰替品を買ってきて補充してた。おかげで美味しいものいっぱい食べたよ…。)俺は心の中で謝罪した。


1時間目終了のチャイムが鳴り響く。

教室の中には俺と先生と小ジワだらけの作業服だけ。

「残念だが…時間切れだ。」三鷹先生は俺の肩に手を置きそう告げた。

俺の放課後のスケジュールが決定した瞬間だった。


教室の中へみんなが入ってくる。

「大丈夫?」と、チビ助が聞いてきた。

「あぁ……。悪い、屈み跳躍するはめになってしまって。」

「気にしないで、僕も入学初日に迷惑かけてるから。」チビ助は笑いながらそう言った。

「ありがとう。」俺は力無く言った。

「次は刺繍だけど、できるかい?」

「あぁ……多分無理。」

「きっと大丈夫だよ!」チビ助は俺を励ますように言い、そして俺の机の上に置いてある小ジワだらけの作業服を見て小さく

「多分……。」と付け加えた。


2時間目もやはり散々な結果だった。

その1、針の穴に糸が通らない。

その2、玉留めするも糸が布を貫通。

その3、手に針が刺さる。

その4、真っ直ぐ縫えない。

その5、厨二病系のおおとり つばさが魔法陣を作業服に作り出す。

その6、思わず見入ってしまったため、時間切れ。

その7、放課後に補習が入った。

(俺の放課後が消えてゆく…。)

ちなみに俺以外みんな、綺麗に刺繍を終わらせていた。


「次は体力錬成だ、全員体操服に着替えてグランドに整列しておけ!」三鷹先生はそう言って教室を出て行った。

男子は教室で着替え、女子は別の部屋で着替えることになっている。女子達はきゃっきゃっうふふと楽しそうに出て行った。

俺もさっさと着替えにとりかかる。

(とにかく疲れた、そのうえ今から体力錬成とか…酷い。)

「はぁ…。なあ帯刀、ここはとんでもない学校だな…。」俺はそう言ってチビ助に視線を向ける。

その瞬間チビ助の体に後光が差した。眩しさに目を細めるも光はどんどん強くなってくる。堪らずに目を瞑るも、そんなの関係ねぇとばかりに光量を上げていく。思わず俺は

「めっ、目がぁぁぁ⁉︎」と叫んでいた。


暫くして光が弱まった。恐る恐る目を開けるとそこには体操服を着たチビ助が佇んでいた。俺はチビ助を見つめて

「お前、いったい…。」

「何の事かな?」チビ助は笑顔で聞いてきた。

「いっいや、何でもない」俺は引きつった笑顔を向け着替え始める。

(あの光は一体何なんだ?そういえば今朝も、まるで……。)

「どうしたんだよお前、鳳みたいに叫んで。」そう言ってきたのは同じクラスの男子生徒だ。ちなみに名前は知らない。モブ夫Aと呼ぶ事にした。

モブ夫Aはニヤニヤと笑いながら

「さてはお前も暗黒竜の力を宿した戦士だったりするのか。」とからかってきた。

(ちっ、モブのくせに馴れ馴れしい奴だな)と思ったが顔には出さずに

「そんなわけないだろ、目にゴミが入っただけだ。」と言った。

「なんだ…つまんねーな」

(なんだコイツ…。)

「それはそうと、三鷹先生の指導ってどんな感じなんだ?」モブ夫Aは聞いてきた。

「は?知らん。」俺はキッパリと言った。

「そんな事ないだろ、昨日と今朝罰則受けてたじゃねーか。どんな感じの指導だったか?」

「そいういう事か、そうだな……悪魔の様な人だった。」遠くを見つめながら言った。

(喜々としながら追加で走らされたり、10数えるのに小数点入れてきたりと酷い先生だ。)

「流石は三鷹先生だな、楽しみだ。」モブ夫Aは嬉しそうに言った。

「へっ?……お前って、ドM?」俺は若干引きながら尋ねた。

「バカ、知らないのかよ三鷹先生といえば、女性初のレンジャー課程を受けた事のある人だぜ。」モブ夫Aは熱を込めて言った。

俺はモブ夫Aに若干押されながら

「へー、凄い人なんだな。」と言った。

(レンジャー課程って何だよ?)

「あぁ!いやーカッコいいよな三鷹先生って、先生のインタビュー記事集めてるから今度部屋に持って行ってやるよ。」モブ夫Aは目を輝かせながら迫ってくる。

「……楽しみにしてる。」俺はモブ夫Aの押しに負けた。

「おっと、もうこんな時間か…」モブ夫Aは時計を見ながら呟いた。つられて俺も時計を見る。後3分で授業が始まる。

「やばいな、急がないと。」俺はモブ夫Aと顔を見合わせ頷くと教室の出口に向かって駆け出す。

「おい、帯刀お前も早くしろ!」俺は窓際で黄昏ているチビ助に声をかける。

「うわぁ、ちょっと待ってよー」後ろからチビ助の情けない声が聞こえた。



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