入学初日でイベントが起こらない訳がない
入学初日でイベントが起こらない訳がない
入学式。それは偉い人の話を聞くだけだ、つまりこのイベントに関してはスルーしても構わないと思っている強いて言うならばある程度女の子に目星を付けるぐらいだろう。
俺はそんな事をぼんやりと考える。
先ほどから学園長のありがたいお話が1時間ほど続いているのだが俺は気にせずに斜め前に立っている金髪ドリルヘアの子を見つめる。さっきから自慢のドリルを指でくるくると回し先端を尖らせる作業に没頭しているようだ。
この人はきっとお嬢様気質で高飛車で最初は俺に突っかかってくるも気がつけば俺の事が好きになりハーレムの一員になってくれるに違いない要チェックだ。
俺はその後ろ姿を舐め回すかのように見た。
「何やら寒気が…」金髪ドリルが呟いた。
ようやく学園長の長い話が終わった。その間ずっと金髪ドリルヘアの子を見つめ続けていたのであまり苦痛ではなかった、最終的にはその子とのハーレム生活を妄想していたので非常に楽しい時間だった。
その後、生徒会長の挨拶が始まる生徒会長は男だったのでそのまま金髪ドリルを眺める事にした。
何はともあれ入学式よりもクラスでの『自己紹介』の方が重要なイベントだ、そこで普通の自己紹介をして窓の外を眺めていると後ろの席に座っている電波系の女の子とのフラグが立つはすだ、この日のためにシャイニングノベル(注、10代〜20代の若者向小説の事)を読みまくって勉強した俺に死角はない!はやる気持ちを抑えて挨拶が終わるのを待った。
入学式も無事終了し割り当てられた教室へ向かう。俺のクラスは普通科Aクラスだ中に入ると何人かのクラスメイトが居た。
その中に…金髪ドリルが居た。素晴らしい、これは俺にハーレムになれと言っているようなものだな。心の中でガッツポーズをした。
すぐに黒板に貼り出されている座席表を確認する。教室窓側の後ろから2番目の席なら完璧だ。
結果は、教室窓側から2列目の後ろから2番目の席だった。
「うわぁぁ…微妙」
俺はガックリと肩を落とした。
この席はあれだ、主人公の親友ポジションだ。お人好しで、事あるごとに行方をくらます主人公の事をなぜか理解していて、モテモテの主人公に嫉妬してもずっと親友でい続けるそんな健気なポジションじゃないか。ついでに言うならばモテる為の努力をするも玉砕する特攻野郎の席だ。
俺は席について必ず生きて帰ると誓った。
間も無く最初の授業が始まる。教室に居たクラスメイトはみんな着席していた、その中に1つだけ空席がある。それは俺の隣の主人公席だ。
俺はちらりと隣を見て舌打ちをした。
主人公特有のトラブルに巻き込まれた為に遅れたってやつか。
授業開始の合図がスピーカーから流れてきた。
結局隣の人は来なかった。
教室のドアが開き外から黒髪ロングでスーツをかっこよく着こなした女性が入ってきた。
「今日からお前たちの担任になった三鷹だ、よろしく。」
そう言ってにっこり笑った。
「早速だがみんなの自己紹介から進めよう。まずは、廊下側の列から順にやってくれ」
よし来た、入学初日の最大イベント『自己紹介』これが今後の学校生活を左右する分岐点となる。
変な自己紹介をすれば周りから引かれてその後、変な部活に勧誘され少人数で学校生活を満喫しのそ中の1人と恋に落ちる純愛コースだ。
普通の自己紹介をすると電波系少女になぜか絡まれてハーレムの一員になってくれる。ハーレムコース。
どちらも捨てがたいがハーレムを目指す俺は迷わず『普通の自己紹介』を選ぶ事にした。
そんな事を考えていると3人ほど自己紹介が終わっていた。ちなみに1人目は女子だったのでちゃんと聞いていた。
名前は『風間 瑞稀』と名乗っていた。見るからに真面目な委員長タイプの人だった。攻略法としては職員室へ持って行くプリントを運ぶのを手伝うか、図書室で出会うかだな。
その後の2人は男子だったのであまり聞いていなかった。
以下省略。
今のところメインハーレム要員となりそうなのは
委員長系『風間 瑞稀』
お嬢様系(金髪ドリル)『小鳥遊 麗子』
ツンデレ系『相生 遥』
クール系『船場 沙希』
なかなか豊作だな。
後もう少しで俺の番だ、そして終わる頃には『電波系』も追加されているだろう。
ついに俺の順番が来た。はやる気持ちを抑えて立ち上がる。
「俺の名前は…」
そこまで言って次の瞬間突然教室のドアが勢いよく開きそこから男子制服に身を包んだ黒髪で小柄な人が慌てた様子で入ってきた。
突然乱入してきた奴(チビ助とでも名付けよう)は
「すみません、遅れました」
と言った。
「なんだお前は、記念すべき最初の授業で遅刻とは…まぁいい、早く席につけ」
そう言って三鷹先生は俺の横の席を指差した。
チビ助がこちらに向かって歩いてくる。新品のはずの制服が所々汚れていた。
「あっ、あんた今朝私にぶつかってきた奴」
と言ったのはツンデレ系の相生遥だった。
「ごめんなさい」
と言いながらチビ助はペコペコと誤っていた。
「それじゃあ次の人から自己紹介を続けてくれ」
先生は無慈悲にもそう言い俺の自己紹介は名前すら言えずに終了した。
俺はチビ助を不審がられない程度に睨み付けた。(テメェ覚えとけよ)
そして問題のチビ助の自己紹介になった。
チビ助は立ち上がり
「僕の名前は、帯刀 時雨と言います。えっと、よろしくお願いします。」
そう言ってチビ助は座り窓の外を眺め始めた。
俺は凄く嫌な予感がしてならなかった。
入学早々に遅刻する+汚れた制服+人にぶつかる+主人公席=
そして俺の予感は見事に的中した。
チビ助の後に立ち上がった女子は眼帯をしていた。そして
「我が名は、鳳 翼我こそは魔法の…以下省略」
クラスは水を打ったかのように静まりかえっていた。
俺も身内に不幸があったかのごとくどんよりと俯いた。決して痛い自己紹介にドン引きしているわけではない…若干引いているけど。
そんな状態にクラスを陥れた電波系改め厨ニ病系は前に座っているチビ助をビシッと指差し
「お前を我が眷属にしてやる。」
と高らかに宣言した。
厨ニ病系にロックオンされたチビ助は苦笑いしていた。
あぁ、これはやばいチビ助が主人公っぽい。
静まり返った場の雰囲気を何とかしよう、といった感じで三鷹先生は咳払いし話を続ける。
「あー、自己紹介も終わったのでみんな知っていると思うがおさらいもかねて学校について、それと相棒について説明する。まずは学校についてだ、この学校には様々な科がある普通科、経済科、司法科、工業科他にも色々とある。お前らがいるこの普通科Aクラスは普通科連隊の anti-tank missile, ATMつまり対戦車ミサイル部隊の略だ授業ではミサイルを扱うので怪我のないように。」
そんな科聞いたことねぇよ。
普通科って5教科勉強するクラスじゃないのか俺は心の中でツッコミを入れる。
「…と言うのは冗談で普通科連隊をA.Bといった感じでクラス分けしただけだミサイル以外の武器等も扱うので、死ぬなよ。」
先生は真剣にそう言った。
嘘だろ…一般的な普通科だよな。冗談が過ぎるぜ。
俺は周りをチラリと見た、みんな真剣に話を聞いていた。
そんな馬鹿な…。
俺の脳裏にこの学校を勧められた日の事が浮かんできた。
あれは、中学3年の夏。将来は何となく主夫かヒモになりたいなと考えながら街を歩いていると急に声をかけられた。
「そこの君、いい体してるね。ハレム学園に入らないか?将来モテるぞ特に普通科はモテモテだ。」
と言われた。
なかなかガタイのいいおじさんだったので一瞬ホモォが頭をかすめたが『モテモテ』と言う単語を聞いて立ち止まった。おじさんはにこやかに近づいてきた。
「どうだい、ハレム学園に入らないか?」
ハレム学園か…確かかなり頭のいい奴じゃなければ入れない学校だったはず。
「俺、あんまり頭が良くはないんだけど…」
「大丈夫、司法科とかならともかく普通科は身体検査と簡単なテストで入る事が出来る。他の科と比べると入りやすいのが特徴だ、それに…モテるぞ。」
おじさんの熱弁に負けて俺は入学を決意した。決して『モテるぞ』に負けた訳ではない。
そして現在に至る。
そう、俺はこの普通科がどのような科なのか全く知らなかったのだ。
俺、やっていけるのかな…。
「…まぁ、学校と科についてはこんな感じだ。後は相棒についての説明をする。学校生活中は常に2人1組で行動するように。どちらかが不祥事を起こせば連帯責任として2人に罰が与えられるそして、この学園は全寮制だからな、同じ部屋で過ごす事になる。つまり卒業するまでずっと一緒という訳だ。組分けの発表する。誰と当たっても仲良くするように。」
と言うと先生は大きな画用紙を取り出し。黒板に貼り付けていく。
こんな学校だったなんて…。
組分けが始まっていく当たり前だが男女別々だった。
俺はぼんやりと窓の外の空間を見つめる。
例えハーレムを形勢する事が出来ても相棒である男が常にいるという事だ。そんなの俺の望むハーレムじゃない。
次々と2人組が出来上がり2人で談笑している人達をどこか遠い世界のように感じていた。
俺の学園生活は終わった…。
仕方ない、ハーレムを諦めるつもりはないが友情に青春をかけよう。そして組分けだが…チビ助以外なら誰でもいい。
あいつは危険だ、奴とバディを組んだら確実に主人公の親友ポジションになってしまう。いや、まてよ…擬似ハーレムは満喫できるかもしれない。でも、金魚のフン的なハーレムなんか嫌だ!
どんどん2人組が増えていきクラスの男子の数が減っていく。
まだか…俺の番はまだか!
とうとう男子が6人まで減ってしまった。チビ助もまだ残っている。
そしてまた1組と消えていく。残り4人残っているのは俺とチビ助となんかフゥー、フゥーって言っているデブと無駄にガチムチのテカテカした奴しか残っていない。
うわぁ、全員嫌だ…。
そして運命の瞬間が訪れた。
結果は、チビ助とバディを組む事になった。
最悪だ…だがデブとガチムチも嫌だったのでまだマシかもしれない。俺はそう思う事にした。
ガックリと肩を落としているとチビ助が話しかけてきた。
「これから3年間よろしくね」
「あぁ…よろしく」
俺とチビ助は握手した。
「よし、組分けも終わった事だしこれから教科書等配布する。配られたら名前を書くように」
三鷹先生はそう言って配り始めた。
まずは、5教科の教科書かなり薄い。
続いて専門教科なかなか分厚い、物によっては辞書並みに分厚かった。タイトルを見ると『各国教官による作戦の指揮』、『ハンドウェポンの全て』、『ハンドサイン全集』などが配られた。
そして、作業着どっからどう見てもサバゲーとかで着るような戦闘服が配られたのだが三鷹先生は頑としてこれを作業着と呼ぶため多分作業着と思われる服を受け取った。
最後に学園の施設案内や寮の鍵などが渡された。
その後簡単に明日の時間割り等の確認をして今日の授業は終わりとなった。
疲れた、早く休みたい。俺はバディであるチビ助に「早く寮に行こうぜ」と声をかけようとしたら
「あぁ、そういえば帯刀は今朝遅刻をしたな…という訳でお前らグランド20周な、ついでに腹筋と腕立て伏せ50回ずつ」
三鷹先生に笑顔で言われた。
早速連帯責任かよ…
チビ助は申し訳なさそうに俺を見上げている。
不幸だ…俺はそう呟きチビ助と共に三鷹先生に連行された。
へとへとになって寮に帰り何をするでもなく眠りについた。
寮では歓迎パーティーなるものが開かれていたそうだが俺とチビ助は三鷹先生の熱心過ぎる指導によりパーティーに参加する体力が残らなかった。
そうして入学初日が終わった。