深き森 自愛に満ちた 聖女様4
ドンドンドン!
「長!長!いらっしゃるかしら!長!」
怒りが、伝わってくるようです。私は、今隠れています。ドキドキですね!探偵の気分です!
「どうしたのじゃ?」
「あぁ、エルフの長。保護して頂く身でこのような事は……ですが、私の命に関わることなのです。どうぞ、お聞き届け下さいませ」
「う、うむ」
「あのアキという方、家に着いた途端……うっうぅ、暴力を振るおうとしてきたのです!
きっと、召喚していた事が気に障ることだったのでしょう。仕方ありませんが、私には、民を守る義務がありました。いえ、言い訳ですね…。」
カタリナ劇場開催…。
味方がいるからこそ、観ていられるものですね。
何ですか?アスクさん。私自分の性格の悪さは、把握済みです。
アスクさんが、若干引いているような印象ですが。それ、どちらに?
「ふむ」
反応の薄い長様に焦ったのか、凄まじい勢いで己を正当化していきます。私も、何だか自分が悪くなっていく気分になります。なんと素晴らしい話術!
今、長様やアスクさんが、私の味方に居なかったら絶望していたかもしれません。
そして、最終的に言い放った言葉が、
「私に、アキ様を預けてください。私は、聖女として厳しく育てられました。決して無駄ではなく、私自身を高めるものとなりました。
それらをアキ様に享受させ、淑女としてあのような性に奔放な行動など、見ていて見苦しい姿を矯正します。アキ様のためにも是非!魔封じをして、私に預けてくださいませ!」
せ、性に奔放?!しかも魔封じ付き?
すると、アスクさんが剣を抜きました………剣を抜きました?!
「…ちょっと殺ってくる」
「駄目です!アスクさん、引っ込んでて下さい。これは彼女が私に闘いを挑んでいるのです」
「アキは、決して性に奔放など…俺がどれだけ苦労しているか…むしろそうなら、いや俺以外だったら相手殺すな…」
何ブツブツ言ってるんですか?
「良いですか?私が魔法有る無しに関わらず、こんなにどっしり構えていられるのは、長様やアスクさん、エルフの皆さんが居るからなんですよ?
皆さんに受け入れられていると分かるから、カタリナさんへの対応が出来るのです。とても感謝しているのです」
「アキ、嬉しい。でも、俺だけじゃないのが不満」
「…えぇ…」
とても良い言葉を伝えたと思ったのに、アスクさんは少々ざんね…
「うむ、分かった」
長様の言葉が響きます。
え?何に了承したんですか?
「カタリナ、あなたにアスクをつけよう」
……?どこをどうしたらその方向に?
あ、アスクさんが固まってます。
「アキが礼を欠くことしたのかもしれん。それが本当ならば、ワシも謝罪しよう。
ここにはここのやり方もある、それが合わない事もあるじゃろ。アキは最初、アスクについてここの事を学んだ。あなたもアスクから、色々教わると良い」
「まぁ!アスク様が?!ありがとうございます!」
即承諾!て、貞淑どこへ?
「ですが、その…アキ様の心の不安定さが、私は心配なのです。突然暴力を振るうなど…エルフの皆様に何かあった後では遅いと思うのです。
とても、言いづらいのですが…少々考えた方が宜しいかと…とても、残念ですが…」
遠回しに死ねと?!
「決して、アキ様がどうとではないのです!長の、エルフ族は、森の守り人。引いては、世界の調整をする大事な方々!」
「うむ」
「アキ様の様な危険な思想を持つ異界人が、近くにいては、アスク様が危険だと思われ」
「うむ」
「アキ様に、直接暴力を受けた私が言うのですから、間違いないですわ。手が負傷してしまいました…いぇ、こんな怪我皆さんのためだと思ったら、痛くはありません」
…長様?面倒臭くなっているでしょう?
返事が、とても適当過ぎです。[うむ]しか言ってません。
肯定されていると思っているカタリナさんが、機関銃の様に話しています。
情緒不安定から、危険思想に成長しました、私。
最終的に、暴力をしたことに変わりました、私。
め、面倒臭い……。アスクさん、頑張れ!
「アキ…」
「はい?」
「二人で逃げよう」
「いや、駄目ですよ?森の意向が決まるまでは、穏便にここに居てもらうのでしょう?」
「何故、直ぐ判断つかないんだ」
「森に聞いてください」
聞いているのも飽きたので、自宅に戻って来ました。あ、定食屋どうなるんでしょう?暫くは、一人で頑張るようですかね。
「召喚か…」
故郷を全て笑って話せるほど、思い出に出来ていない。喚んだ人達は、私達を人として扱わず、勝手に出来ると言う。
滅んだ国の様に、自分達にしっぺ返しが来ることも想像すらせず…。
人様を評価するほど偉い訳ではないですが、奪われた身としては、
「この世界の人間達は、なんと浅はかな…」
とても、複雑な暗い気分で眠りました。
さて、定食屋【こうじさん】開店時間です。
何故か、長様以外のお客様がいらしてます。
言わずと知れた、カタリナさんです!
うはぁ…。
思うところあろうとも、お客様なので…
「…いらっしゃいませ」
「お前が作ったものなど口に出来る訳ないでしょう」
「…ありがとうございましたー」
「ふん。お前がそんなに余裕で居られるのもあと少しよ。長がアスク様を私に下さったのよ。当然よね?聖女だもの!」
あげちゃったんですか…。
「聞いても?」
「何かしら?」
「何をもってして聖女と?」
聞いてビックリ。
治癒魔法持ってて、教会で認定したらだそうです。
王族と婚姻させ、教会の意思が国を運営していくなかで、反映されるようにだそうで…。
それって、それって!聖女ではなく、単に政治の道具なんじゃ?
カタリナさんが、どうやって王子を落としたとか、騎士を骨抜きにしたとか、王子の婚約者をどう叩き出したとか…楽しそうにお話しています。
う~ん。品行方正、貞淑はいずこへ?
「カタリナさんはそれで良いのですか?」
「当たり前じゃない。聖女に選ばれたら一流の生活が保証されるわ。教会に利用されるのではない、利用するのよ!」
「た、逞しい」
「あなたが居なくなったら、まずアスク様と婚姻を結び、長の座に就いてもらうわ」
「は?」
「エルフは美しく強く気高いと言われるから、王宮のようかと思ったら、とんだ間違いだったわ。
こんな低俗な狩人のようだったなんて!森を切り開きを燃やして、もっと豪奢にしなければ!
この私に相応しくしなければね?」
低俗の使い方が…激しく間違っているような。
とても、許せない言葉が聞こえました。
「…美しく強く気高い。充分合っていますよ?彼らが見ているのは、森を通して世界なのだから。
決して自分達の為に、森を利用したりしない。だから、世界の調整者なのでは?
森はとても優しい。世界の為、我々生物の為に存在し、それらを維持するために頑張ってくれているんです!森を切り開き焼くなどと、思う事すら許されない!この、馬鹿!」
「何ですって?!」
「カタリナッ!何をしている?」
カタリナさんが手を振り上げようとした時、アスクさんが飛び込んで来ました。
「あ、アスク様ぁ!アキ様が、アキ様が!森を焼き払い、この生活から脱け出したいなどと、言うものですから私、私…ふっぅうぅ…」
へ?えぇ?!
茫然としている私に、アスクさんがチラと見て、カタリナさんの背をそっと押し、外へ促そうとしています。
あら?誤解されました?
「アキ、カタリナに近付くな」
「ムッ、ここは私の店です。近付くも何もありません。来ないよう、きちんと管理なさって下さい。保護者様。
それから、森をどうこうするつもりも私には、ありませんから」
「アキ…」
何ですか?本気で誤解したんですか?失礼な!
悲しそうな顔をなさってますが、知りません。
外へ促されていたカタリナさんが、くるッと回り私の元へ来ます。そして、小声で、
「昨夜、アスク様と口付けを交わしましたの。アスク様の心は、もうあなたには無いわ。無様ね」
手はやっ!
反応出来ないでいると、カタリナさんがアスクさんに寄りかかり出ていきます。
「はぁ。心がくたびれました…こんなときは」
こうじさんに会いに行きましょう。
まぁ、鰹節のため、心を鬼にして払い落とすんですが。
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