深き森 自愛に満ちた 聖女様3
私の家へとカタリナさんを連れて参りました。
『猫を被る』とはよく言ったものですが、カタリナさんは、昼行灯の油を舐める、化け猫級のものを被ってました…。脱ぐの早すぎです。
「お前、アスク様とはどういう関係なの?その程度の顔で身体で身なりで、よくもあんなに親しげに出来るわね?恥ずかしくないの?あの方には、私こそが相応しいわ。
今後、話すことも視界に入れることも禁止よ。分かった?分かったら、さっさと部屋へ案内なさい。愚図ね」
……ぽっかーん。
ええー。まさか家入って直ぐ、全力で槍ぶん投げてくるとは…ちょっとビックリしました。
というか、面倒臭くなってきました。
「お部屋はこちらですね。ここは基本、自分の事は自分でします。分からない事があったら聞いてください」
「何この粗末な部屋!明日模様替えをして。家具は全て入れ替えよ!湯を使いたいわ。準備なさい」
「では、教えますね」
「お前が準備するのよ。ずっと。馬鹿なのね?教育しないといけないかしら?」
え?もう、暴力?
扇を出して、畳みます。(それどこから?乳?)
それを上に振り上げて…パシッ!私の30cm上の空気を叩きます。
「は?何よこれ?!防御壁?何故お前が!」
はい、そうなんです。魔法頑張りました。
森燃やしたら大変ですから。
教えてくれるアスクさんのセクハラ…あ、思い出しちゃ駄目!今は、聞きたいことがあるんです。
「召喚をしていたなら、知りませんか?この世界の黒は魔力が強い事」
「なっ?!お前は私が喚んだ者ではないけれど、魔法が使えるのね?忌々しい異界人!」
「本当に、喚んだんですか…。誘拐ですね。犯罪です。反省し」
「はあ?異界人など人間ではないわ。化物よ!どう使おうが私達の勝手よ」
「…あなたが喚んだ方は、どちらに?」
「知らないわ。直ぐ転移で消えてしまったもの。役立たずの癖、その上、復讐までしてきたのよ!穢らわしい獣人を使って!王子や騎士、大勢殺されたわ!」
「あなたが、あの滅んだ国の…」
「折角、王太子妃になれたのに!穢らわしい異界人は、穢らわしい獣人ととてもよくお似合いだわ。
あなたも、ここにいたら高潔なエルフ族や私が穢れるから、早く出ていきなさい!」
どうしましょう?言葉が全く通じる気がしないんですが?!
獣人…会った事ないですが、復讐してくれるほど慕っているんでしょうか?
無事なんでしょうか、その方は。
「私は今、長様から仕事を任されている身。独断で放棄するわけにはいかないので。では、お風呂…湯の使い方を説明しますね」
「なんですって?!」
「はい。こちらですよー。説明しますよー。私は、あなたの使用人ではないので、これからは自分でやってください」
「なっ?!」
バタン!!部屋の扉が閉まりました。
え?入らない選択ですか?
「はぁ。疲れた……さて」
私はそのまま家を出て、長様の所に殴り込み…ではなくお話をしに行きます。
コンコン。
「たーのーもー!」
「アキ!」
「ぐえ」
凄い勢いでドアが開き、アスクさんに抱き締められました。
「ア、スクさん、離して」
「心配した。どこも怪我はないか?何された?大丈夫か?」
おぉう。こんなに心配かけてしまったのか…でも、その心配ぶりを見て、ささくれた心が癒されました。ふぅ。
「大丈夫です。全く何もありません。長様にお話があります。良いですか?」
そして、長様の部屋へ案内され、アスクさんは何故か防御・防音・不可視の壁を部屋にかけました。なんて厳重。どれだけ危険人物?!
「長様、ありがとうございました。話をする機会を頂いて。出来れば、家には入れたくなかったのですが」
「仕方ない。ワシが聞いても、本音は話さんからな。しかも、同じ人間で若い女性。一緒にいるのが自然な流れじゃ。ワシらの家では、やはり本当の事は言わんしのぅ」
「分かってます。ちょっと愚痴りました、ごめんなさい」
やっぱり、長様には本当の事は言いませんよね…。狸様だなんて言ってごめんなさい。
「いや。…それで?本性出るの早すぎじゃろ?聞きたいことは聞けたか?」
私も思いましたよ。
今回のこの茶番劇、私からお願いしました。
以前、召喚されて逃げた方が気になって、アスクさんに聞いてもらうようお願いしたんですけど…。実のある返答はなく。
長様が、私と二人きりにして下さったんですねぇ。
まさか、カタリナさんが喚んだ張本人とは。
世間は狭いです。張本人ではなくとも、喚んだ人達が、今どうしているか聞きたかったのですが…結果はご覧の通り。
「即出ししてきました。聞いたは聞いたのですが…喚んだら直ぐに転移でいなくなったから知らないと。
その後、獣人が復讐に来たと言ってました。あの滅んだ国の事です」
「そうか。行方は分からぬか」
「はい。あの、獣人の方はどうなんでしょう?代わりに復讐するならば、良い人なんでしょうか?」
「そうじゃの。本来獣人は、人間に手を出さん。出したら最後、止まらんから。人も獣人も、全滅や激減すると、世界のバランスが崩れ森が死ぬ。それを知っておるからの。
だが今回の獣人は、敢えて手を出した。余程気に入ったのじゃろ。多分、大丈夫じゃ」
「そう、ですか…」
会いたいなぁ。同郷の人かもしれないですし、困っていたら助けたい。
強い獣人さんに任せた方が、安心でしょうが。
「それから、カタリナさんとは、暮らせませんね。とっても怒らせたうえ、異界人は人ではないと言われました。多分、あちらも一緒に暮らしたくないと思ってます」
「そ、そうか。森の意向が見えるまでは監視したい。女エルフに頼むから大丈夫じゃ。魔力は封じてあるし、心配いらん」
「すみません。お願いします」
「直接ではないがの、奪ったものと奪われたものが、同じ屋根の下は無理がある」
「自分で言い出したのに、挫けるのが早くてすみません」
「謝ることではない。そこは?」
「ありがとうございます?」
「そうじゃ。今日はここに泊まっていきなさい」
「ふふっ。いえ。ご飯も用意してないですし、お風呂も入れてないので、せめてそれはしようかと」
「アキ、必要ない」
「う~ん、知らない土地で一人ですし…その用意だけしてこちらに来ても?」
知らない土地。一人。
あの暴言を聞いても、私には身につまされる状況なのです。
「…そうじゃな。では、待っとるよ」
「アキ、俺の家に…」
まだ言いますか!アスクさん!
アスクさんに話そうと顔を向けたら、かなり険しいお顔です。おや?
「気配が近付いてる。長、カタリナだ」
「ほっ。どうやら、アキより逞しいの」
「あー…はは。もし、彼女がここに泊まりたいと言ったら、お願い出来ますか?」
「おぉ、ええぞ」
「すみま、ありがとうございます」
さて、彼女は私に見切りをつけ、ここに泊まるのでしょうか?
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