深き森 自愛に満ちた 聖女様2
「という訳で、同じ人の女性同士ということもあるし、森の意向が整うまで、アキよ、暫く相談に乗ったりしてあげておくれ」
「……はい」
デスヨネ!何となく感じましたよ!
長様、私に丸投げですか?!丸投げですね?!
狸爺様!
狸様を睨んでいると、自称聖女様がまるで怯えたように、
「ア、アキさま。大変ご迷惑お掛けしますが、どうか、どうか宜しくお願い致します」
「……はい。宜しくお願いします」
「アキ様、と仰るんですね!可愛らしい御名前!先程森で、名を伝えたのに教えて下さらなかったから、何か気に障ることをしたのかと…。
もしそうでしたら、申し訳ありませんでした」
「……はぃ、ん?」
「そうか、森で会ったのじゃな?人には真名が重要じゃ。おいそれと伝えられぬからな」
いらぬフォローです。狸様。
さて、しかしこうも早く開戦されるとは…。
「こちらこそ申し訳ありませんでした。気に障ることなど…どうやら、聞き逃してしまったようで、呼び名をもう一度教えて頂けますか?」
「あぁ安心しました。カタリナと言いますわ」
「宜しくお願い致します。カタリナ様」
「様などと!とんでもありません!カタリナと呼んで下さいませ」
「では、私もそのようにお願いします」
「ア、アキ…?」
女同士の火花が見えたのか、アスクさんがタジタジですね。
アスクさんに呼ばれ、そちらへ向かうとコソッと言ってきました。
「アキ、大丈夫か?召喚をしていた者と共になど辛いだろう?俺の家に…」
「アスクさん、大丈夫です。辛くなったら、長様の所に行きますから」
「いや、俺の家に…」
「いえ、大丈夫です」
「…そうか」
「ふふ。でも、ありがとうございます。気遣って頂いて嬉しいです」
「そ、そうか!何かあったら直ぐに言え」
「はい」
最近、スキンシップ過多のアスクさんと一緒にいると、多少の好意はあるせいか、あの色気駄々漏れ雰囲気に、流されてしまう事もありまして…お宅にお邪魔したら、一気に貞操の危機です!
自重です、自重。
すると、後方から、
「アキ様?殿方とそのように寄って、はしたないですわよ?」
「へ?」
「あ、申し訳ありません!私、聖女として、品行方正、貞淑を常として、その、私からしたら、そのように男性に寄り添うなど淫ら…いえ、はしたないと教えられておりましたので…。
も、申し訳ありません!いらぬ差し出口をきいてしまいました。お許しください!」
み、淫ら?
凄い発想です。思いもよらぬ所から凄い槍が飛んできました。しかし、ちょっと思い当たるほど、アスクさんとの距離が縮まっていることを痛感しました。
ですが貴女、森で抱きついていたような?
「な…んだと?取り消せ。アキは、俺のむがむが。何をするアキ」
絶対零度の寒さを覆い、余計な火種を巻こうとしているアスクさんの口を押さえ、剥がされました。
「申し訳ありません。驚かせてしまって…。私の保護者と言うのもあり、距離が近かったようです」
「保護者ですか…?」
「はい。長様、話があるので少し失礼します」
その場の一番偉い方にわざと許可を取り、長様が頷いて、廊下に出ます。
「アスクさん、私まだ気持ちは育っていないと言いましたよね?」
「ああ」
こ、怖い顔。
「ですが、最近アスクさんの雰囲気に、釣られてのまれてしまう事があります」
「良いことじゃ…」
「私の中でどれだけ気持ちが育ったのか、その段階に進んで良いのか、見極める為にも暫し、保護者として接して欲しいのです。正直、なし崩しは避けたいです」
「いつまで」
「み、見極めるまで?」
「……分かった」
「ありがとうございます」
「だが、ちゃんと待てが出来たら、褒美を貰うぞ」
「マテ?褒美ですか?分かりました。新作考えておきます」
「違う。褒美は、」
アスクさんはいきなり顎に手を掛け上向きにすると、反応する間もなくわざと、ちゅっと音を立て唇の横にキスをしました。
「この先」
ぐはぁ!!
熱っぽく潤んだ瞳で見つめられ、色気たっぷりの微笑みで放つ言葉は、即死級です。
顔が熱くなるのが分かります。
すると、アスクさんは頬をツーッと撫で、
「アキ、可愛い」
ぎゃぁぁああ!
これ!この雰囲気!ちょっとクラクラしますよ!
というか、待ってません、これ!
「ほ、保護者、でお願い、しまっす」
息も絶え絶えになり、必死に言ってみる。
アスクさんはぶわっと色気を漏らし、微笑んでから耳元で囁きます。
「ん、待ってる」
だっはー!
呼吸を整え、さぁいい機会です!
自分の気持ちと向き合いながら、カタリナさんの対応をしましょう!
やはり、アスクさんを受け入れるには、8000年が気後れしますし……ね。それにも耐えられるのか、よく考えねば。少し、気が重いです。
まぁ、とにかく今はカタリナさんです!
「お待たせしました」
「アスク様!大丈夫でしょうか?」
えっ?カタリナさん?そっちを心配?!
私、どれだけ肉食女子に見えるんですか?
「?何がだ」
アスクさんなんて、全く通じてませんよ。
その言葉、私にかけて欲しいです。はぁ。
「あ、いえ。浮かない顔をなさっておられるからですわ。思わず、声をかけてしまいましたの」
「そうか」
「では、の。アキの家に暫く厄介になるから。ここにはここのやり方もある。慣れぬかもしれんが、分からない事はアキに聞くと良い」
「…はい。アキ様、宜しくお願い致しますわ」
あくまで『様』ですか…。反応しづらいです。
「敬称はいりませんよ?カタリナさん、こちらこそ宜しくお願いします。何でも聞いてください」
はてさて、どうなることやら。
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