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深き森 自愛に満ちた 聖女様

 (明希さん、貴女の期待に応えたかった。でも、僕は駄目みたいです。僕には、貴女の期待に応えられるだけの力が無いみたい。ごめんね…)


 (そんな事無いです!貴方が、貴方が居てくれたからこそ…力が無いなんて言わないで下さい。貴方は充分いつも期待以上のものを私に、与えてくれました。貴方が居るからこそ、私がここに居られるんです)


 (明希さん、ありがとう。僕、もう少し頑張る)


 (無理だけはなさらないで下さい。貴方に何かあったら、私は…)


 (うん。ありがとう。僕、出来る気がしてきた!絶対、明希さんにプレゼントしてみせる!

 あの、カツオ節を!!)







「(こうじさんっ!!)」


 パチッ……あれ?

 カチャ。扉が開く音。


「アキ?今、声が聞こえた!何かあったか?!」


 …アスクさんには、パーソナルスペースの他に、デリカシーを教えなくては。


「アスクさん?女性の寝室に、断りもなく入ってはいけません」

「いや、だが」

「入ってはいけません」

「う、すまない」


 そう言って、アスクさんは、扉を閉じていきます。

 一度誘拐された身なので、心配される気持ちは、分からなくも無いですが…寝起きの顔を見られる恥ずかしさには勝てません。

 それにしても…先程の夢…こうじさん。


 ただ今、こうじさんは、鰹節を生成中。

 鰹によく似た魚を発見しました。サツウと呼ばれていましたので、こちらでは、サツウ節ですね。

 私が、鰹節鰹節言ってたら、そう広まりつつありますが。


 ただし、この作り方、人の手が入るのです。

 直接、鰹節に触れ、付いているこうじさんを落とし、またこうじさんをつける。そんな作業が必要なのです

 本来約半年程かかる作業ですが…。醸される速度が早いのか放置する期間なのか、味が落ちてしまったり、固くなりすぎたりと上手く出来ないのです。


 しかも、せっかく付いた僕を落とすの?って言ってるように聞こえるんです…。身を切られる思いでして。鰹節が、上手く作れないのは、こちら人側に問題があるような…。


「おはようございます、アスクさん」

「おはよう、アキ」


 本日も、輝く笑顔で。拝みたくなります。

 剣でキャベツを千切りならぬ十切りしていたアスクさんも、今では立派な板前さんになる修行中です。

 現在、アスクさんはご自宅より通ってますが、料理向上のため交替で朝御飯を作って食べています。

 ですが…本日の朝食は、パン…目玉焼きに味噌汁…生姜焼き?!違和感が満載ですよ?!


「アキ、本当に大丈夫か?さっき魘されていたが…」

「…え?あ、こうじさんの夢を見たのです。挫けそうなこうじさんが、最終的には、鰹節頑張ると言っておりました」

「こうじが…」

「確認なんですが、こうじさんは何者で…?」

「こうじは、こうじだろう?」


 深い言葉を頂きました。

 そうですね。こうじさんは、こうじさんですよね。何気なく呼び捨てになっているアスクさんをあえて気にしないことにしました。

 菌とエルフ…誰も萌えません。ナニガとは言いませんが。


 定食屋の方ですが常連は長様のみで、皆さん尻込みしている状況です。こうじさんが未知過ぎて、醸したものが食べられるか悩んでいるようです。

 自給自足の上、何でも作るエルフには、利益はなくとも生きていけるので困ってはいませんが…何とか、こうじさんの素晴らしさを広めたい今日この頃です。


「アキ、エルフはそんなに食は重要ではないし二、三日は平気で食べない。毎日開いても来ないと思う」


 そんな訳で、日本式に言うと月水金しか開いてません。店を開ける場所を間違えた気が…。

 一度食して頂ければ、長様のように虜になって頂ける筈なのに!


 違和感てんこ盛りの朝食を頂き、本日も、一人森に入り食材になりそうなものを探しつつ、日本食普及のための案を考えながら散歩しています。

 試食会や、店の雰囲気を可愛らしくするとか…本屋で働いていたときも、フェアを催したり、ポップを充実させたり、平台にどう何を置くか等考えましたねぇ。


 懐かしさに、クスクス笑っているといきなり声を掛けられました。


「ちょっと!アンタ誰?!なんで黒なの?!人間?!」

「はい?」


 振り返るとサーモンピンクのふわふわの髪に金目の可愛らしい女性が立っていました。王宮辺りで着るようなビラビラブワァっとしたゴージャスドレスを着用して。

 森にその格好はTPOが…エルフ?

 いえ、耳は人と同じですね。

 

「えと?どちら様でしょうか?私アキと申します。こちらのエルフの村にお世話になってる者で…」

「エルフ?!じゃあ、成功したんだわ!私を連れていきなさい!」

「あの、どちら様でしょうか?お世話になってる身なので、知らぬ方を勝手にお連れする訳には…」

「何ですって?!私に逆らうの?!」

「いえ、身元を明かして頂きたく、」

「いいから連れていきなさい!本来、お前のような者が逆らえば、即処刑よ!案内すれば、それに免じて許してあげるわ!」


 う~ん。言葉が…こちらが投げた言葉が、全力で振りかぶって、場外ホームランに打ち返されている気がします。


「早くなさい!役立たずね!私は、聖女よ!」


 …………せいじょ、聖女?聖女とは…


【 神の恩寵を受けて奇跡を成し遂げたとされたり、社会(特に弱者)に対して大きく貢献した、高潔な女性を指して呼ぶ言葉。

宗教とは無関係に「慈愛に満ちた女性」をさす 】


 慈愛に満ちた…?

 自愛に満ち満ちているような…?

 どうしましょう。本当にエルフのお客様だったら

 悶々と悩んでいると、別の声が掛かります。


「アキ、大丈夫か?」

「あ、アスクさ」

「エルフ様ッ!!」

「「え?」」


 自称自愛様…ではなく、聖女様がアスクさんの方へ走り抱きつきます。


「お逢いしとうございました。どうかお聞きください。

 私、とある王国にて聖女として囚われ、力を使わされ何の罪もない異界人の召喚をさせられていました…。世界の調整者、森の守り人であるエルフ様に保護を求め、恥を忍んでこうして参ったのです」


 おや?


「…召喚?」

「はい。例え脅されたとしても、してはいけない事だと分かっていたのですが…民を人質に捕られやむなく。ようやく解放され、また私の力が使われないようこちらに…どうか、どうかお願い致します!」

「異界人の召喚は、大地が疲弊し森の力が弱まる。それを知って行ったにも関わらず、ここに庇護を求めるか」


 アスクさんが、まともな事を!(失礼)


「だからこそです!再び人間の国に囚われては、また力の施行を強要されかねません。どうか、私を監視の元こちらに保護して頂けませんか?」


 その考えや、なんと立派な!聖女と言うのは本当なのかもしれません。人を見掛けで判断するとは、私もまだまだです。反省。

 ……あら?でも処刑って言ってたような?ん?


「…俺一人では決められん。長に会わせる」

「ありがとうございます!」

「庇護するか否かまだ分からんぞ」

「あの者は?」

「アキか?森の管理に手を貸してもらっている者だ」


 私、いつの間にそんな大層な者に!?

 ただ、森でぷらぷらしてるだけなんですが…。


「でしたら、私の力も必ずやエルフ様方や森の力になれます!」

「それは森が決める。長の元へ行くぞ」


 一人女性が森の中は、心細いですからね。きっと長様が良いように取り計らって下さるでしょう。


 私は、ぼんやり思いながらお二人に行ってらっしゃいの意を込めて、手を振ってみました。

 決して!決して一緒に行ったら、面倒臭そうだなんて思っていません。


「アキは…」


 付いてきて欲しい目を送られますが、そっと近付き、目を伏せ、小声でアスクさんにお話します。


「私は、森の管理のお手伝いとして、まだやるべき事がありますので……行ってらっしゃいませ。それから…」


 正直言いますと、召喚をしていた方にあまり関わりたくありません。それを抜きにしても、自愛に満ち満ちた方はちょっと…。


「分かった。何かあったら呼べ」

「はい、ありがとうございます」


 やった!絶対連れていくと言われなかった!

 笑顔で顔を上げると…わぁお!アスクさんの後ろにいらっしゃる自称聖女様が、般若の顔で見ております。こ、怖い!


「では、行くぞ」

「はいっ!」


 故郷に居られるお母様。明希は、素晴らしい女優を見つけました。

 アスクさんが振り返る一瞬で、般若から健気で一所懸命頑張ってる儚い女性へ、雰囲気を変える稀代の女優がここに!


 明希は、まだまだです。


「さて、何やら敵認定を受けてしまいました。森やエルフ達に、ご迷惑にならなければ良いのですが」


 私は、この後お二人に付いていかなかったことを大変後悔します。






お読み頂きありがとうございます。

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