最終話.こうじさんあなたは…
ほぼ会話。
私は今、蛍のように飛ぶ幼精がいる原っぱで、今日は、1つだけの孤月の浮かぶ夜空を見ています。
本当に、日本で見ていた夜空に似てる。
まだ、故郷が恋しくて泣くけれど、少しずつ減っているのも、また事実。
長様との膝詰めお話をしてから、半月経ちました。アスクさんは、人間の驚異も無くなったからと、ご自宅に帰られてます。
こうじさんの、仕事ぶりも気になるからと。
どうやらプレゼンは、成功したようです。そこから、昼間の畑の手伝いと試食にだけいらしてます。
目まぐるしい、実に目まぐるしい4ヵ月。
泣いて、怒って、哭いて、笑って、疑って、カラ笑って、命かけて女優になって、聞いて、話して、そして受け入れつつある今日この頃です。
なんと濃い日々!
でも、故郷とは別に少し物悲しくなるのは、やはり、あの方のせいかと。
「アキ」
「あれ?アスクさんも、散歩ですか?」
「いや、ここにいると思って会いに来た」
「何かご用で?」
「アキ、人の国での帰り、俺が言った事覚えているか?」
「無事で良かった?」
「違う」
何か言ってましたっけ?何かあった事なら、覚えてますが…
「えーと?」
「聞いて欲しい事がある」
「あぁ!すみません。あの時、自分の事でいっぱいいっぱいで…」
「ん、分かってる」
「そのぅ、聞いて欲しい事とは?」
「アキ。アキが、好き。アキが好き。大好き。
アキが俺をどう思ってたのか、この前の話でよく分かった。俺は、全然気付いてなかった。
毎日アキと過ごして楽しくて嬉しくて、アキの事、何も見てなかった。
まさか、宛がわれたと思われてたなんて。
一人悩んでたのに…本当に、すまなかった」
こちらでは無い風習。頭を深々と下げ謝る姿。
「言いたい事、長に全部言われたけど、俺を好きになって、家族になって欲しいと思ってる」
「いえ、ですが寿命の差もありますし…」
「何とか出来る」
「断言ですか」
「寿命を延ばす魔具も、もう見通しついてる」
「もう?」
「あぁ、ずっと前研究したから。妹の寿命延ばすために」
そう言ったアスクさんは、物悲しい表情で、
「また、研究することになるとは思わなかったけど。
アキと一緒にいたいから。ずっと。完成させる」
「…」
「アキ?」
「アスクさん。私、最初アスクさんが、鬼にしか見えませんでした」
「ぐ」
「誤解も解け、アスクさんに、少しドキッとすることもありましたが、概ね御神木に見守られている気分でした。…あと、やや変態かと…」
「え?」
「いえ。変わらず優しく接してくれたのに、私が変わっていきました。
人の国でキスされたときも、心は、何も感じなかった。私を取り込もうとしてるんだなと、思ってたから」
「アキ、それは、」
「ええ、今は分かってます。単に理性がハッチャケちゃったんだと。
アスクさん、人の国で殺される恐怖があった時、一番最初に助けを求めたのは父母で、貴方ではありませんでした」
「…」
「でも、顔を見て安心したのも本当です。色々考えすぎたけど、私の中のアスクさんは、そんな位置にいます。長様と話す時、アスクさんを少し頼りにしたのも本当です。
ですが、両手広げて、私も好き!と、言える所まで育ってません」
「じゃあ、育てる」
「ふくく。即答ですか」
「ああ、これから口説く。で、堕とす」
「嫌な事をしたら、魔法で村ごと消えると思って下さい?」
「ん」
それから、アスクさんが何か包みを渡してきます。
「これ。」
「?…え?あぁ、まさか?!なんで?だって!」
「術がやっと完成して、復元できた。こうじさんにも手を借りて」
…え?あの方、菌ですよ?
「母親との思い出を燃やして、すまなかった。これで許してくれとは言わないが、やっとアキに戻せてほっとした」
「ずっと研究されていたのは」
「こうじさんとこれを」
え?だから、菌ですよ?
渡されたのは、お母さんのマフラーです。
醸すと出来るのでしょうか?こうじさん、あなたに是非とも問いたい。本気で。
やや、酒くさい気がするのは、気のせいにしておきましょう。こうじさん、貴方は何処に向かわれているのでしょうか…。
「最近、話すようになって」
だから!こうじ菌ですよ!?
異世界は、菌までアメージング。
「酒の種類も増えたし、味噌ももう少しで出来る」
「はは…確か1年くらいかかる筈なんですが…」
「そろそろ、定食屋を始めるか?」
「…そうですね。うん、そうですね!」
「手伝う。ずっと傍で」
「宜しくお願いします」
「あぁ!」
あら、良い笑顔。
「アスクさん?私が、しわしわのお婆ちゃんになってから、寿命延ばされても困るので、そちらも頑張って下さいね」
そう言って、私は颯爽と歩き出しました。
が、いきなり腕を掴まれて、へろへろになるまでキスかまされました…。あれ?
本日、オープン!
店の名は、「こうじさん」です!
いらっしゃいませ。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
作者、頭、迷走しまくってました。
もし、不快に思われる方や、不愉快な印象を受けた方は、大変申し訳ありませんでした。
お読み頂きありがとうございます。