深き森 自愛に満ちた 聖女様15
温かい…寝帰り打てない?
私は、寝返りを邪魔してるものを押した。より窮屈になった…?
目を開けると、部屋は暗い。
「おはよう、アキ」
「…え?あ、アスクさん?」
「ん?」
「暗くて何も…」
「あぁ、そうか」
オレンジ色の光が3つ浮きました。
アスクさんの顔が見え、ホッとします。
「結局こちらで眠ったんですか」
「いや?ずっと起きてた」
「…?こうじさんの事で?」
「全く関係ない」
「すみません、寝起きで頭が回らなくて」
「そんなでは、付け込むよ?」
「あぁ。こうじさんは乳酸菌とお知り合いでしょうか?糠床…おばあちゃんのやり方、思い出さなきゃ…」
「…うん。もう一度眠ろうか?」
「糠漬け…」
「…辛い…」
何か聞こえた…?また、意識が下がります。
ベッドに沈む様な感覚がしたと思ったら、こうじさんの声がします。。
(明希さん!狼に気を付けて!)
(こうじさん?狼が出たんですか?!)
(今、貴女の側に居ますから!)
(えぇ?)
(今は、戦意喪失してるみたいですが…)
(こうじさん、夢と現実では何か印象が違いますね?)
(夢だと、力を殆んど使わなくて済むので、楽に話せるせいでしょうか?)
(無理をさせてごめんなさい。大丈夫でしたか?)
(全く無理なんてしてないですよ。明希さん、僕が怖いですか?)
(へ?いいえ?何故ですか?)
(僕が、精霊になった事をあまり喜んでないから…)
(いえいえ、喜ぶ前に驚きが来てしまって。大親友が実は神様だったと言われたレベルの驚きだったので思わず。不安にさせてごめんなさい)
(大親友…?)
(はい。私に大切なものを思い出させてくれたり、故郷の味を再現までしていただいて…母のマフラーまで。母のマフラー、どうやって復元したんですか?ずっと聞きたくて…)
(企業秘密です)
(それは残念。これだと、私ばかりお世話になって…もう恩人ですね。)
(僕だって、明希さんがいなかったら、ずっと深部にいて外の世界を知れなかったんです。明希さんは僕の恩人です。新しい方法も、進化しようと思ったのも明希さんがいたから)
(こうじさん…)
(ありがとう)
(こちらこそ、本当にありがとうございます。これからも宜しくお願いします)
(はい!明希さんと、変た…アスクとずっと一緒にいたいから、僕頑張ります。目が覚めたら気を付けて下さいね)
(ん?ちょっと何か言いかけませんで…こうじさん?ちょっと、戻ってきて!何を言いかけたの?!気を付けるって何に?)
「(こうじさんっ!!)……………?あら?」
「…アキ…またこうじか?」
「え?…え゛?」
アスクさんは、起きた第一声がお気に召さなかったようで、朝から濃厚過ぎるキスをガッツリされました…。
寝起きのキスは、精神的にくるものがありますね。せめて、うがいしたかった…。
胃もたれのする朝を迎え、こうじさんを連れて長様に挨拶しに行く事になりました。
「アスクさん、何故手を繋いで?」
「手を繋ぎたいって言ってただろう?」
「そういう意味では…」
「それに、触れていたい。手が駄目なら抱えるけど?」
「グレードアップした?!て、手が良いです」
『二人はまだなの?』
「あぁ。残念ながら」
「昨日、報告した通りですよ?」
「「え?」」
『うん、分かった』
何がまだなのか、アスクさんに懇切丁寧に説明され、逃げ出したい気持ちになりました。これはいじめなのか、そこまでアスクさんを追い詰めているのか…?
散々、赤面する事を囁かれ、最終的には抱きかかえられ、長様の家に着きました。こうじさんまで、アスクさんに同情的だったのが、ショックです。
「長、報告があります」
「アスクお前、あっさりアキの家に泊まりおって…」
「当たり前です」
「ワシ、長なのに…」
「長様?カタリナさんは?」
「もう、送ったよ」
「はやっ」
何だったのでしょう。今回の騒動は…。
本当に、新天地でも頑張って欲しいものです。
「長、これがこうじ。進化して間もないです」
「おぉ。では、少し話をしようかの?」
『はい』
そう言って、ぽやぽやこうじさんを連れ、長様は、別室へ行かれました。
「何をしに別室へ行ったのでしょう」
「力の明確化だな。結界のある場所で解放するんだ」
「こうじさんの力…醸す?増える?」
「新種だからな…分からない」
勝手知ったるなんとやらで、お茶を用意し二人で飲みます。
ソファに何故か並んで座ってます。
元々、スキンシップの激しいアスクさんでしたが、アメリカナイズな方だと思えば気になりませんでした。
なのに、好きな方だと意識し出すと一気に緊張しますね。
不思議なものです。半年間で人生がこんなに変わるとは。菌と友人になり、大親友へ変化した。鬼のようだと思った方を好きになり、想いを返された。
人を殴りたいと思ったのも初めてですね。
「アキ?」
「はい?」
「アキは…もし帰れると言われたら帰りたいか?」
「帰れるんですか?!」
「すまない。もしも、だ」
「あ、そうですよね。か、えりたい…会いたいです。皆に…」
「…」
「…ですが、アスクさんやこうじさん、こちらで出会った方々に、二度と会えないとなったら……分かりません。躊躇います」
肩を抱かれ、アスクさんは私を寄りかからせます。
「とても会いたいです。お母さんもお父さんも。
家族や友人、仕事場の皆…でも、私、こちらに来てたった半年なのに、同じくらい離れたくないと思える方が出来てしまいました。
薄情ですよね。生きてきた23年を支えてくれた存在と同じ重みの存在をたった、半年で……」
「薄情じゃない。時間は関係ない」
口にすると、実感してしまい視界が滲みます。
アスクさんの手が宥めるように、力が入ります。
「す、少し考えてしまったんです。寿命を延ばせば帰還出来る魔法具が出来るって。
でも、帰っても、あちらも同じだけ時が進んだら、皆いない。会いたい人達は、いなくなってしまう。
それにアスクさん達に会えないとなったら、それも嫌なんです。こちらで大事なものが、大きくなりすぎました」
「ん」
「どっちか選べと言われたら、選べません。どっちも欲しい…んです。アスクさんをお母さんとお父さんに紹介したいです。
ふ、お父さんが、いつか男を連れてきたら俺は会わないぞって言ってました」
「ん」
「お母さんが、内緒にして会わせるから無理よって言って。だから、早く彼氏作りなさいって」
「そうか」
「好きな人が出来て、想いも通じて、両親に紹介するなんて、当たり前だと思っていたのに…」
「あぁ」
「何故、私は出来ないんでしょうか…?」
「…」
「会いたい。これはずっと想い続けると、思います。
……ごめんなさい」
アスクさんが、私を持ち上げ膝の上に降ろし、抱き締めてきます。慰めるように、宥めるように優しく。
「謝らない。当たり前の事だから。俺は、今のアキを育てた父母や、周囲の人間に感謝してるよ。
俺も会いたい。お父さんにも、逃げられる前に掴まえて会ってもらう。感謝を伝えたい」
「…」
「帰してあげられなくて…。会わせてあげられなくて、本当にすまない。アキの願いは分かってるのに、叶えたいのに、叶えてあげられなくて……」
「いいえ、アスクさんが謝ることでは…」
「違う…帰したくないんだ。もし、アキが故郷に帰れて二度と会えないとなったら、俺は…この手を離せない。アキが泣いても、例え恨まれても、絶対に離せない自信がある」
「…」
「本当に……すまない」
アスクさんが、悲痛な表情で謝ってきます。
…私を好きにならなければ、そんな顔も思いもすることなかったのに…。
「……では、故郷と簡単に行き来出来る魔法具が出来るまで、私は待ちましょうか。私も、この手は離せそうにありませんから…」
ぎゅーっと、抱き締める腕に力が入ります。
私もそれに応えます。
「アスクさん、好きになってくれてありがとうございます。私も、アスクさんが大好きです」
「アキ……俺の半身。愛してる。ありがとう」
「ふっふふふ」
「ア、アキ?」
「いえ、故郷で、恋に落ちる事をキューピッドの矢で心臓を射ち抜かれると言う事もあるんです。
私は、実際に矢で射たれたなぁと思ったら可笑しくて」
「…それは、俺を自分で射ち殺したくなる…」
更に、痛そうな表情になってしまったアスクさんに慌てます。
「あ、いえ、何とも不思議だと言いたかっただけですから、ね?もう、全く何ともありませんから。変な事を言ってすみません」
「射ち抜かれたのは、俺のが先だったけどな」
「あの時には、こんな未来が待ってるとは思いませんでした」
「俺は、思ってた。絶対手に入れるって」
「え?いつから?いつからでした?」
「教えない」
確か、最初子供だと思われていたような…。
「子供じゃないと分かってからだぞ」
…心、読めるんですかね?
その後は、故郷の話をアスクさんの膝の上で色々話していると、長様が、複雑な顔をして戻ってきました。
「お主ら…」
「はっ!アスクさん、降ろして下さい!」
「いやだ。長?どうしましたか?」
即答!
「いや、もうええ。こうじの力がなぁ…謎が多すぎて、時間がかかりそうじゃ。様子を見るから、今日は帰りなさい」
「明確化出来ないのですか?」
「してるんじゃが、何とも不思議でのぅ」
大丈夫でしょうか?こうじさん。
菌の精霊なんて、それはそれは不思議ですよね。
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