深き森 自愛に満ちた 聖女様12
結果報告。
地球の娯楽(ホラー方面)は、効果抜群でした。
ありがとうございます。
カタリナさんが全身をガッタガタさせ、ひたすら謝っております。
おかしい…こんなに怯えるとは…画面で見るのとリアルで体験するのでは違うんでしょうか?
直ぐ、幻視だと気付くと思ったのですが。
「のぅ、アキ」
「はい」
「ワシ、こやつな?召喚された子の代わりに報復した獣人に渡そうと、思っておってのじゃがな?」
「はい」
「無理じゃな?」
「…はい」
私、反省中です。
だってあんなに効くとは…。
「アキ。お主の故郷が…あー…なんかスゴイのは、分かった。じゃが、あまり故郷に関わるものを出さないように」
「すみません」
「たかが幻視の術で、受けた側がこれじゃ。お主の力を欲しがる者が出るといかん」
長様…。
「あれは、暫く使用不可じゃ」
「はい」
「アレは、力を失った土地に送る。そこで、土地の回復を手伝わせるからの?」
「はい!」
「もう、あのチュウニビョウは発動させては駄目じゃぞ?」
「…はい」
たった5分程でしたが、しっかり長様の心も抉ったようです。
まさか、あそこまで効果抜群とは…カタリナさんに近付いてしゃがみます。目線を合わせると、凄い怯えてます。
「ヒイィィィ…」
「カタリナさん、貴女が潰してきた命の分、誠心誠意償えば、彼らは命までは取りません。その代わりずっと見てます。常に影に闇に潜んで」
彼女の目から光が失われ、絶望している。
私は、尚も言う。
「ずっと貴女の横で見てます。自ら命を断てば、永遠にあそこに閉じ込められます。二度と死ねない。
狂っても無駄です。
逃げても無駄です。
闇の無い場所は、この世界に存在しませんから。
…新天地でも、頑張って下さいねぇ?」
激励という名の追い打ちの言葉を掛けた私は、二人の方へ。
あらやだ!長様が、ドン引きしています。
だって、結構な数でした。彼女に人生を潰された方。老若男女関係なく子供も。この方1つの命では償いきれぬと思える程。
見張りがいるよと言えば、頑張るでしょう?
実際にはいませんが。
彼女に直に裁いたのは私ではなく、彼女自身が築いてきた浅はかな行為ですから。
私は、ただ舞台を整えただけです。
恐怖で、無理矢理出された謝罪では、彼らは納得出来ないでしょうが。
「アキ…?」
「はい?」
「今日は休むか」
「そうですね。少し疲れました。長様、宴はまたの機会で良いですか?」
「ああ。ゆっくり休め」
「アキ、送る」
「ありがとうございます」
手を引かれ、歩きます。
ちょっと気になる事を聞こうと口を開こうとすると、アスクさんが先に話し出す。
「アキ、もうアレはするな」
「…っ。アレとは?」
「アキ、カタリナの処刑を見たんだろう?俺も見た。カタリナの記憶を引き出す魔法をかけていた筈だ。目に入ったろ?」
「…」
「もう、見るな。この世界の命は軽い。カタリナは何も思わず、楽しみのためだけに繰り返していた」
「…」
「アキの世界での技術が凄いのは分かった。だが作り物だ。アキが今回見たものは現実で、重みが全く違う。今その重さがのし掛かっているんだろう?」
「…っく」
「アキが背負うものじゃない。アレは全てカタリナが背負うものだ」
「あ、んな…たくさ、ん」
「分かってる。大丈夫だ、あの女は決して忘れられない。ずっと背負う業だ」
「私が出会う人間は、全て愚かすぎて…」
「ん」
「何故あんなに命を軽く扱うのか…環境が、考えが違いすぎて、理解が出来、ません」
「しなくていい」
「でも、私も感情に任せてカタリナさんを」
「アキ、じゃあ何故殺さなかった?」
「こ?こ、殺せるわけない…」
アスクさんが振り返り、私の頬を包み上に向かせます。
「それでいい。アキ?…アキは俺だけ見てて。アキは俺だけ考えればいい。
ああいうのは、全部俺がやるから。アキは、他は何も見ず、俺だけ見てればいい。
何でも言って?何でもする」
アスクさんが、宥めるように私の額や頬を唇で触れてくる。
「そ、それでは、以前のように、アスクさんばっかり負担に…」
「負担じゃない。エルフは一族と森以外どうでもいいんだ。他の生物は、森を維持させるための存在くらいにしか思ってない。
それに俺は、アキ以外どうでもいい」
あれ?森は?
触れて伝わる気遣いという優しさで、少し心が復活します。
何して欲しい?何か欲しい?どうしたい?と、優しい声で聞いてくるアスクさん。
「私は、アスクさんに頼りっぱなしですね」
「全然頼ってない。足りない。何なら、一歩も歩かせず全部俺がしたい」
え?
頬にあった両手が、背に回り抱き締められる。
「移動も抱えてしたい。食事も食べさせる。俺無しでは生きられない身体にしたい」
こわっ?!
言いながらアスクさんが屈み、私の背と腿裏に手を入れ持ち上げられる。
いきなり不安定になり、アスクさんの首に手を回す。
「ひゃっ?!」
「ずっとこうやって運びたい」
「ふふ。では、今日だけ家までお願いしますか」
私も、触れる部分から伝わる温かさが、心地好くて離れ難くて、口に出てしまう。
是と答え、ゆっくり歩き出すアスクさん。
「……アキ、今日は一緒にいたい」
「え?」
「何も…………しないから」
「その間は何ですか?」
「アキの世界の絵を見たら、恐くて一人でいられない。長の所に泊まるより、アキと一緒がいい」
そういえば、映像見た後言ってましたね。
少し弱った心が、まだこの温もりを離したくないと言っているのが分かる。
「ナ、ナニモシナイナラ…?」
返事が来ると思いきや、頬に唇が触れて来た。
アスクさんの顔は、蕩けたような笑顔だった。
早まった…?
アスクさんは、グンッとスピードを上げ、家まで走って帰った。
早まったかな…?
でも、分かるんです。
私の為に、言ってくれてる事も。
心が弱ってる私を一人に出来ないアスクさんが、いて欲しいと素直に言えない私の為に、提案してくれたのを。
え?そうですよね?
そうだと思ってますよ?
そうだと言って下さい?
お読み頂きありがとうございます。




