深き森 自愛に満ちた 聖女様8
変態が暴走してます。
駄目な方は、Uターンお願いします。
ムセているアスクさんの背を叩きます。
アスクさんが涙目で、こちらを見上げます。
うっ、これが世に言う上目遣いですか?破壊力半端ないです。
「大丈夫ですか?アスクさん」
「ゲホッあ、ゲホッあき?」
「はい?」
「な、殴りたい?ケホッ俺を?」
「お店にいらっしゃるまで、そう思ってました」
「俺?カタリナでなく、俺?」
「はい!」
「な、何故」
綺麗な顔が絶望なると、胸が締め付けられる程の痛みが……。
しかし、理由が…あまりにも阿呆な理由なので、ちょっと。何故ポロッと言ってしまったのでしょうか。
「えっと……」
「俺は、アキに嫌われた?俺が嫌?」
「そうではなくて…」
「じゃあ何故!!」
「むっ!カタリナさんの乳に触ってたでしょ!」
「……………は?え?」
「覚えてないとは言わせません。しっかり見たんですから!自分の上から退かすのに、何故乳を触る必要があるんですか?!」
あ、やだな。駄目だ。余裕が無くなる。
恋人でもないのにこんな責めるような権利、私には無いのに。逆上しては話も出来ない。
落ち着け、私。
深呼吸して、アスクさんを見ます。
ですが、その顔!
はぁ?何にやついてるのですか?
抑えた気持ちが再燃します。
むか、腹立つ。本当にお見舞いしますよ?!
「何ですかその顔。乳の感触を思い出しましたか?殴っても良いですか?」
「思い出さない。うん、殴って良いよ」
「む、余裕綽々ですか。乳の感触思い出して、にやついてる変態には触りたくありません!」
「な、違っ、変態?!」
「それに、よく考えたら、私は、別に、アスクさんの恋人でも何でもない、です、から?
責める権利も…無いです。どうぞ、カ、カタリナさんの乳、思い出して、にやついて下さ」
アスクさんが、いきなり抱き締めてきます。
一瞬固まる私でしたが、大暴れしてやります。
抱え直され、腕と一緒に抱き締められ持ち上げられて、アスクさんの肩が目の前に来ます。
「は、な、して!触んないで!」
「アキ、落ち着け」
「離せば、落ち着きます!」
「だめ」
怒髪天を衝く思いとは、こういう感じなのでしょうか。
こんな阿呆な事で!完全に、逆上します。
このエルフに離して欲しくて、カタリナさんを触った手で触られたくなくて。
感情のコントロールが出来ない。
気付いたら、泣きながらアスクさんの肩に噛みついてました。
「ふっぅうー」
「いっ。アキ?落ち着いて」
「やら、あなひへ!」
「やだ。離さない。小動物みたいで可愛い」
アスクさんが、肩に噛みついてる私に頬ずりしてきます。
もう、腹立って腹立って!
「やーっ!」
「だめ。本当可愛い。俺のにする。噛みついて跡つ
けて?」
「ひゃわうないへ!」
「やだ。触りたい。アキが嫉妬してくれるなんて…なんて可愛い。可愛い!本当にどうしてやろうか」
「はーっ?ひへなひひ、へうはい!」
「してる、嫉妬。ん、変態はアキ限定」
「うほふき!」
「嘘じゃない。もう、可愛過ぎてやばい。ちっちゃい生き物が一所懸命威嚇してるみたいで、あぁ…本当閉じ込めたい。一生」
「ひっ、ひやー!ひゃめへ!」
恐ろしい事を耳元で言われ、ついでに頭にキスはするわ、耳舐めるわで。ゾクゾクしてくる。
止めて欲しくて、より力を入れて噛みつく。
「うーーっ!」
「そのまま噛みついてて。離れたら何するか分からない」
「ひーっ!やーっ!!」
「本当に、可愛い。可愛い、好き。好き過ぎてもうだめ。離れるなら、このまま無理矢理にでも俺のものにしてしまう?」
してしまうですって?!それ聞いて、是と答える人がいると思っているのか!
「すき、好き。大好き。愛してる。俺のものになって?このままずっと、お願いだから」
「う?」
「長よりもこうじよりも好きになって?俺を一番にして?」
「ちょ?」
何か変?
アスクさんがおかしくなりました!
歯を離して、話しかけます。
「アスクさん落ち着こう。何だかおかしいです」
「ずっとおかしくなってる。アキ、可愛い。離すから…何するか分からないよ?」
「お、落ち着いて?よく考えましょう?私達、何か変ですよ?頬ずりしてる場合じゃなっわっ!」
抱えられていたのに、ふわっと浮いたと思ったら、ストンと座っています。
……座っています?え?あれ?…椅子…?
状況を理解する前に、私の両脇の肘置きにアスクさんが手を突きます。
顔が目の前に来て…見なければ良かったです…。
深い深い森の色、綺麗な綺麗な翠の目の玉。
一番最初に見た時は、感情など無い瞳に見えたのに、今は、様々な激情か渦巻いている。
引き込まれるように、言葉も忘れて見続ける。
スーと、顔がボヤけてきて、唇に触れるか触れないかまで近付くと、
「もう、ずっと前から変なんだ。頭がおかしくなった。アキが、店の事【私の】と言った。【私達の】って言わなくて、悲しかった」
「ぁ…」
「長に惚れるって言うし、あの煩いのは泥みたいにへばり付いてくるし。何度森の肥料にしようかと思ったか…」
そ、それはどうなの?
不味い!とても不味いです。アスクさんが暴走してます。
何とか止めなければいけないのが分かるのに、唇にかかる息が、ボヤけた視界に広がる翠が、身体を固まらせる。
「アキ、聞かせて?…見極めはどうだった?」
「はっ!話します!だから、とりあえず話をする適度な距離を!適度な距離をぉ、私は、所望致す所存であります!」
私の頭も大概おかしくなったキガシマス。
見極めと聞かれ、話をするチャンス!
我にかえり、とりあえず離れるよう伝える…伝わって…ますか?あの?あれ?
分かったと言ったアスクさんは、私を持ち上げソファに座る。膝の上には、横抱きの私…えぇ?
話をする距離って言ったのにー!
「こ、これは、先程より近いのでは?」
「これが話す距離。アキ、逃げるから」
「逃げませんから」
「だめ。このまま話して?逃げたら直ぐ捕まえるけど。捕まえたら……」
何ですか?捕まえたらその後は?
いや、聞いては駄目な気がします。
腕で背を支えられ、もう一本の腕で顎を掴み、顔をアスクさんに向けさせられる。
絶対今、綺麗な顔利用してますよね?
「言って」
「クッ。その前に、単なる確認ですが、カタリナさんとキスしました?」
沈黙が降りて、ふとアスクさんの顔に目線を送ると、実に腹立たしいにんまり顔。の後に悩み顔。で次が鬼の顔。何故?
「してない。したと思ってたの?すると思うの?アレと?
それに胸云々て、俺からしたら煩い肉の塊にしか思えない。どこ持って退かそうとしたかも覚えてない。アキがいたから、殺さないように退かしたのに。
アレか長かアレを泊めてた女エルフに聞けば直ぐ分かる。俺は、ずっと長の横にいた。俺が近寄れないのに、長だけ店に行ったら潰したくなるから」
「ソウデシタカ、スミマセン」
潰すって…?
氷漬けといい、恐ろしく冷たい目といい、カタリナさんもずっと食い下がってましたしね…。
このエルフこんなに表情豊かだったかな?
疑問もそのままに、私は意を決して告白することにしました。
こうじさん、早く報せに来ないかなぁ…。
お読み頂きありがとうございます。




