深き森 自愛に満ちた 聖女様7
雄々しく右手を天井に向け、何やらへっぽこな宣言をした私は、少しスッキリしました。
右手を降ろし、姿勢を正し、礼。
「ご清聴ありがとうございました。こうじさん」
お辞儀をしただけなのに、某映画のマック○クロスケの様に、ズササァァ~と私から離れます。
何故?
さて、どうしましょう?
本当に、殴りに行きましょうか?
悩んでいると、声が聞こえてきます。
「アキ!アキ?アキ、どこにいる?」
「アスク様!どうか目を覚まして下さいませ!」
むぅ。おまけ付きですか。
「…カタリナ大概にしろ」
「あの者は、この世界の者ではない異質で異物なのですよ!人間ではありません!あんなものに、心奪われるなど!それでも気高きエルフ族なのですか?!
アスク様は、アレに操られているのです!私が目を覚ましてさしあげっぎゃっあがぁあー!」
え?!何その悲鳴?!ダメダメ!殺っちゃダメです!
「こうじさん、力を貸して下さい!アスクさんを止めます!」
後に冷静に考えると、何故私はこうじさんに、普通に助力を求めたのか…今でも自分が謎です。
作業室から飛び出て、声がする方を向きます。
「アスクさん殺ってはダメです!ダメ!絶対!」
「アキ!」
嬉しげにこちらに手を伸ばすアスクさん。
それどころじゃないですよ!
腕を掻い潜り、カタリナさんを探します。
…うん、カチカチに氷漬け?!
「アスクさん!カタリナさん救出!助けて!」
「死にはしない」
「凍傷怖い!解凍して下さい!」
「凍傷も死にもしない。ただ冷たいだけだ」
「女性冷え性大敵!解凍求む!」
あら?この緊迫感漂う雰囲気で、この会話おかしくないですか?
緊迫感漂うの私の脳内だけ?
人生初の人の氷漬けを目撃して、軽くパニック起こしている私は、尚もアスクさんに言い募ります。
「…う」
「まさか?!解凍出来ない?!」
「自然解凍で、ちゃんと戻る」
「自然解凍って!冷凍食品じゃないんだから!あぁどうしよう」
すると、ぽやぽや浮いていたこうじさんがワサ~ッと、カチカチカタリナさんを包み始めます。
「こうじさん!何とか出来ますか?」
「こうじ?!…光ってないか?」
「進化なさいました!私の愚痴で!」
「愚痴でっ?!」
再び、阿呆っぽい会話をしてから、こうじさんを見ます。
カタリナさんの全身を包むこうじさん。
任しとけ!という雰囲気が伝わって来て、少しほっとします。
「アスクさん、反省。どれだけ腹を立てても、女性のカチカチはいけません。女性は、身体を冷やすと大変なんですから。
私、お風呂の湯を沸かして来ますので、ここで待ってて下さい。お話があります」
返事を待たず、隣の家に行こうとし、ふと考えてしまった事を口にします。
「こうじさん?まさかしないとは思いますが…解凍するだけですよ?醸したら駄目ですからね?」
「アキ」
「直ぐ戻りますよ」
お風呂の準備をして、いつ解凍出来るか分からないので、保温の術をかけます。
…あら?この湯に入れれば、解凍出来るのでは?
あ、直ぐ温めるのは、心臓に負担がかかるので駄目でしたね。
お湯に入れないほどの重症の場合の為に、ホッカイロ代わりの魔石を布に包んで、何個か作っておきます。血管の太い場所に当て、ゆっくり体温を上げる方法です。
こちらの世界の方の心臓が、鋼の様に強靭でありますように。
こうじさんがやる気になっているし、大丈夫でしょう。風呂場を出ます。
「…アキ?」
「いひゃおぅ!あ、アスクさん。ビックリさせないで下さい」
「す、すまん」
「解凍終わりましたか?」
「まだまだかかるそうだ。終わったら教えてくれると、こうじが」
「じゃ、お店に戻りましょう」
「いや、ここで。話をしよう」
「いえいえ、カタリナさん一人残しては…」
「こうじがついてる、絶対大丈夫だから」
こうじさんへの、その信頼度!人外ならぬ、菌外ですね。
……もう、神様なのでは?
「あ、でもあちらに食べて頂きたいものが」
「これだろ?」
岡持ちを持ってました。準備いいですね。
因みに、保温も付いてるのでまだ熱々でしょう。
「ありがとうございます。じゃあダイニングで頂きましょうか。発光こうじさんの最高傑作ですよ!きっと絶対美味しいです」
「食べてないのか?」
「…試食第一号は、アスクさんですから」
「あ、き」
何かに感動されたのか、うるうるした瞳でこちらを見てきます。
おかしいな?私の身体が勝手に罪悪感を感じているようで、目線が下がります。
決して、毒味ではなかった筈なのに。
「さ、さあアスクさん。こちらへどうぞ」
スンッスンッと鼻を啜る音が聞こえます。
あらら?少々罪悪感が…。
ダイニングテーブルにつき、岡持ちから味噌汁を出します。
「はい、どうぞ。何故か光り輝く鰹節から、出汁を取った味噌汁です。
先に言いますが、飲んで感想聞いてから具を決めようと思いまして。汁だけです。汁だけ」
「芳しい香りだ」
「ですよね?!凄く良い香りなんです。力が抜けるくらいの香りで…」
「それって、常習性のある危ない物では…」
「いえいえ!こうじさんに限ってそんなことは…まさかね?」
「アキ、俺が先に飲む」
おおっと?!謀らずとも、先に飲んで…いえ、我らがこうじさんです。信じましょう。
「いえ、一緒に飲みましょう?大丈夫ですよ!こうじさんですから」
「そんなにこうじを…長ではなく、こうじが…」
「どうかしました?」
「…いや」
「では!「いただきます」」
フーフー、コクり。
………ふわぁ………。
美味しすぎて、涙が滲みます。
二人で無言で飲んでます。
二人で、鼻啜ってます。
味噌汁を啜る音と、鼻啜る音が響きます。
…………ぷはぁ…………。
二人で、良い笑顔です。
極上の笑顔のアスクさんを見て、怒りも無く、言うつもりも無かったのですが、するりと口から出ます。
「アスクさんの綺麗な顔に、右ストレートぶちかましたい」
「ブホッ!ゲホゲホッ!ゲホッ」
綺麗な顔が、驚きとムセの苦しさに溢れてる様を見て、胸がスッとしました。
あら、何ですか?自分の性格の悪さは、自覚済みですよ?
お読み頂きありがとうございます。




