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深き森 自愛に満ちた 聖女様5

 店の方に移動…いえ、移住してきたこうじさん。

 ふさふさの草色のカビ…ではなく、こうじさんへ語ります。


「こうじさん?大変申し訳ないのですが、一度鰹節から降りて頂きますね?本当に申し訳ないです。

 その、そんな悲しい雰囲気を醸すのは、どうかやめてください。必要な事なのです。この仕事を4度繰り返し、素晴らしい鰹節が出来るのです。

 それに、私とこうじさんの、初の共同作業じゃありませんか。私は、こうじさんの仕事を手伝えて、とても嬉しいんです…よ?あら?」


 めでたい式のケーキ入刀みたいな言葉が思わず出ました。


「…ケーキ入刀か。ここでは出来ませんねぇ。

 ん?夫婦となる式で、二人でナイフを持ってケーキ を夫婦初の共同作業として切り分けるのです。来てくださった方々に、幸せのお裾分けとしてケーキを配るんですよ。…………………あらら?」


 私は、一体誰に話して………?

 深く考えないようにしましょう。

 何だか意志疎通出来た気がするのも、こうじさんだから!


 鰹節から払った草色のふさふさが、ぽやぽやと光りながら舞っています。

 ……こ、こここうじさん?!いつから自己発光出来るように?!

 進化が、進化が止まらない!あなたの、進む方向には何が待っているのでしょう?

 ちょっと私に、コソッと教えて頂けませんか?


 何だか慰められているような気がして、思わず弱音を吐きます。


「アスクさんが…本当か分かりませんが、カタリナさんとキスしたそうです。

 それはどうでも良いんですが、カタリナさんが、アスクさんと結婚して長にして、森を焼き払うと言ったんです。私、頭にきちゃって……私、あんなに森が大好きになってたんですねぇ」


 元より、スキンシップ過多のアスクさんです。息を吸うように、ハグやチューなどするかもしれません。

 面白くはありませんが。


「例えば、アスクさんを受け入れるには、8000年生きるのに耐えるんです。

 ですが、もし途中で嫌になったら?

 今回みたいに、人に好き好き言っておきながら、呼吸するように他の人にキスするかも。本当かどうか分かりませんが。

 私は味方がいない世界で、残り何千年も一人になるのは、とても怖い。

 私が好意を持っているのは本当なんですが、それがそんなに続くのかと思うと、足踏みしてしまいます。

 元々、100年弱の寿命なのに、8000年……」


 草色のふさふさ発光こうじさんが、私の回りに集まります。


「ふふ。ありがとうございます、こうじさん。

 もしカタリナさんの言う事を皆が信じて、私がここから追い出されるようになったら、一緒に行きませんか?」


 頷く仕草が……意志疎通出来てますね…。


「二人で、日本食普及の旅に出ましょうか…。願わくば、森には何もありませんように」


 私の中の優先順位が、知らぬ間に森が第一位になってるようです。


「さて、呼び鈴を置いてきたんですが、今日は長様もいらっしゃらないようですねぇ」


 こうじさんと、たくさんお話(?)をして払い落とし、自分のお昼ご飯を食べに、お店の方に回りました。

 こうじさんの行く末は、頑なに教えて頂けませんでした。


 草色のふさふさに向かって話す私は、日本だったらさぞかし……いえ、考えません。


「アキ」

「うわっひょい!あ、長様。失礼しました。いついらしたんですか?気付かずに、申し訳ありません」

「今来たんじゃ」

「食べて行かれます?」

「そうじゃな」

「はい。いらっしゃいませ」


 長様は、魚の煮付け定食を注文。

 最近、揚げ物ばかり食べてましたからね。流石にもたれたのでしょうか?

 尾が2本になってる、何とも不思議な魚を砂糖、醤油、酒、みりん、生姜で味付け。鰹節が無いので、魚のアラでだしをとった汁物。塩だけで浸けた漬け物。米もどき。ほうれん草のような草のおひたし。完成!


「魚も旨いの。アキよ、何か悩んでおるじゃろ?」

「わぁ、長様。何を藪から棒に」

「ワシが、子供の事分からん訳ないじゃろ?」

「お、長様…。私、長様に惚れてしまいそうです」

「それはやめてくれ」

「超速攻っ!?」

「ワシ、命惜しい」

「ふふ。悩みですか…例えば、森をどうにかしたいって方がいらしたら、それは可能ですか?」

「森に?」

「例えば、焼き払う事を企むとか」

「そうじゃのう…森はそれはそれは広大じゃ。ちょっとやそっとじゃ焼ける事はないの」

「森の自己防衛は、無いのですか?ちょっとでも傷付けられたら、反撃するとかは?」

「ちょっとでもだったら、アキが植物を採る度、反撃されとるのぅ」

「あ、確かに」

「森は、世界の為に在り続ける。守るのは、我々の仕事じゃ」

「そうでした!」


 カタリナさんが何を企もうと、エルフがいる限り大丈夫でしょう。良かった。

 少しホッとした時、


「お聞きになりました?!アスク様!」

「…うわぁ」


 思わず、嫌そうな声が出てしまいました。

 長様が、ビックゥと体が跳ね盛大むせました。

 私は、慌てて長様の背を叩きながら、注意します!食事中に大声を出すとは!


「カタリナさん。食事をしている方がいるのに、大声出すなんて。長様が、むせたでしょう?騒ぐだけなら、出ていって下さい!」

「まあ!なんて態度!育ちが知れますわね!」

「…どちらがですか…」

「何ですって?!」

「アスクさん。近寄るなと仰るなら、ここに来るのを止めて下さい」

「アキ、アキは…長が…」

「何ですか?」


 あら?鬼の形相?悲しんでいるのでしょうか?

 カタリナさんを置いて、アスクさんはくるりと方向を変え、走り去って行きます。

 追いかける、カタリナさん。


「あ、アスク様!お待ち下さいませ!」


 何だったのでしょうか?


「…ワシ、寿命縮んだ。いや、終わった気がする」

「長様?むせたくらいでは、死にませんよ?」

「いや…………はぁ」

「そういえば、カタリナさんは何しに来たのでしょうか?」

「はぁ」

「?」


 長様が、暗くなってますね?

 

「大丈夫ですか?長様?」

「のぅ、アキ。」

「はい?」

「まだ、悩んでおる事あるじゃろ?」

「…」

「それは、アスクに直接話し合った方が良いぞ?」

「…」

「長寿である故、本質もあるがの、アレは機微の感情に疎いのだ。話さなければ、届かん」

「…長様は、10000年越えでも、私を分かって下さるのに」

「アキ。それは怠けていかんところじゃ。ワシは、長ゆえに分かる事もある。アキは、アレの好意に胡座をかいてはおらんか?」

「…う」


 痛いところを突かれました。確かに、私の事を好きでいるだろうとどこかで思ってました。自分の気持ちをきちんと伝える事無く、気付いてもらおうとしてました。


「先の事は、一緒に考えれば良いじゃろ。一人悩むより、一緒に悩んだ方が良い案が浮かぶかもしれん」

「ですが、今のアスクさんには近寄れません」

「近い内に、どうにかなるから大丈夫じゃ」

「…………長様、聞いても?」

「なんじゃ?」

「永い生は、その…あの、」

「辛いか、か?」

「…」

「ふむ、そうでもないの。あっという間じゃ。片割れが2000年前に先に逝った時は、少し辛かったが。

 いつかまた必ず逢えるから、平気じゃ。

 それに、10000年以上経っても、アキのような面白い生き物にも会えたしの」

「面白生物。…いつか必ず逢える?」

「我々は、森に還るからの。ワシも森に還る時、また逢える」

「私は、自分の気持ちに自信が持てず、アスクさんを全力で信じる事も出来ないのです」

「当たり前じゃ」

「?!」

「お主らは、何も始まっておらん。

 自信や信ずる事は、互いを知り、理解を深め、時間をかけて育むものじゃ。きちんと話をするのじゃぞ?…ワシの命の為に…」

「え?」

「いや。アキは、良い子じゃ。アキにとっては不幸以外の何物でもないが、ワシらのところに来てくれて、嬉しいぞ」

「そう、言って頂けると、私も嬉しいです」


 少し、アスクさんと話す気合いが入りました。

 長様に感謝です。


 長様は、私の頭を撫でて、残りの魚定食を包み、持ち帰りました。





 …スルーしてしまいましたが、カタリナさんが近くどうにかなるとは…どうなるのでしょう?


 あと私、面白生物認定……。

 これは嬉しくありませんよ?長様。



 


会話ばっかり。すみません




お読み頂きありがとうございます。

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