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1.こうじさん

短編の続きとなります。

「いぃぃーやぁぁぁぁーーー!!」


 今日も、私の叫びが森に響く。




「…アキ。俺がやるから」

「で、ですが、私も定食屋(予定)の一員!食材は、我が手で収穫したいのです」

「でも、毛虫出る度…」

「アスクさん!その単語は口にしないで下さい!」

「あ、あぁ」


 

 

 ここイーストゥーリャに落っこちて、早3ヶ月。

 私樋口明希は、虫と戦っております。主に一人相撲ですが。

 なんやかんやありまして、あーなってこーなって、エルフ住まう森で、定食屋を営む予定となりました。ただ今、その準備期間中です。畑を作り(主にアスクさん)、店を建て(全てアスクさん)、調味料調達(主にアスクさん)等々。


 …私、なんっにも、し・て・な・い!


 せめて、野菜の収穫をしたいのですが…元々、田舎に住んでた私は、ある虫だけは苦手でして。

 あの金糸銀糸の見事な毛並み、その身を極彩色に彩られ、もれんもれんと波打つように前進し、更には、葉裏に軍隊のようにみっちり整列し、葉を食むそのお姿は…全身鳥肌ものです。駆けずり回りたい。

 しかも、田舎で見たより大変ふくよかなのです。こちらの毛の生えた幼い虫達!男性の親指くらいのが、通常装備ですよ?!

 大根モドキ引っこ抜くのに、御対面した時、こちらの魂引っこ抜かれるとこでした。


 定食屋をするにあたって、食材探しの探検したのですが、森に何でも生えてました!

 是非ともカレーを作りたく、森のアチコチ生えてる草かじったら、アスクさんに凄く怒られましたけど。泡吹いて倒れたのは、ご愛敬です。だって、この森に毒はないって言うから…エルフにとって、と付きましたが。


「それにしても、これだけ身近に食材が生えているのに、何故皆さんの食事は、シンプル イズ ソルトなんですか?」

「しんぷ…?あー、エルフは、魔力が高いだろう?魔法への研究は強い興味があるんだが、他は無頓着でな。生きていければ良いって程度だ」

「勿体ないです。長寿なんですから、食を極めてみようとしないなんて」

「アキが、極めてくれるから良い」

「が、頑張ります。後は、是非ともウコンが欲しいんですよねぇ。カレーに不可欠でして」 

「また、森に行こう」

「はい、宜しくお願いします」

「何でもかじるな」

「鋭意努力致す所存であります!」

「かじる気だな?」


 日本人お得意の攻撃うやむや~は、効かない事が判明しました。

 取ってきた調味料達を乾燥させ、せっせと調合・味見を繰り返し、私の舌は壊れそうなのも事実!


「エルフは、そんなに時間に執着しない。ゆっくり開店準備すればいい」


 ありがたい言葉ですが、皆さんのゆっくりに合わせたら開店する頃には…骨です。


「あはは。自分でも出来る事があるのは、ありがたい事なので…張り切り過ぎてますかね?」

「ああ、アキの身体が心配だ。今も、顔色が悪い」


 顔色は、かの幼き虫達とご対面したからで…?

 そう言ったアスクさんは、作物を長い足で避けながら、こちらに歩いてきて、いきなり私を抱えました。

 お姫様だっこ?!高さ半端ない!怖い!思わず、アスクさんの首にしがみつき、髪の毛もぎゅーブチブチと、恐ろしい音がしました。


「ぐっ」

「す、すみません!アスクさん!降ろして下さい。禿げましたから!」

「まだだ。」


 そのまま、私が引きちぎった髪をパラパラさせ、颯爽と家に連れ帰り、お茶の時間となりました。


「アスクさん、宜しいですか?突然女性を抱えあげるなど、危険ですよ?現に、禿げに近付いたではありませんか」

「近付いてない。早く休ませたかった」

「体調は大丈夫です。すこぶる元気ですから。アスクさんは、過保護過ぎます。以外と頑丈なんですから私は。」

「むぅ」


 あら可愛い。


「アスクさんこそ、最近、夜遅くまで自宅に帰っているじゃありませんか。寝不足大丈夫ですか?無理に、開店準備を手伝わなくても良いんですよ?料理の試作品は、必ずアスクさんに、一番に持って行きますから」

「無理はしていない。手伝いたいんだ。…俺は、邪魔か?」


 あらら、怖い顔。


「いいえ、滅相もない。ただ…」

「俺は、手伝いたいから。この話は終わりだ」


 ふむ、話を聞かぬ御仁よの(時代劇風味に)


 そもそもアスクさんは、私を矢で貫通させたり、故郷の味を目の前で捨てたり、問答無用で二度と会えぬ母との思い出の品を燃やし…そこまでやってしまって、大後悔の嵐に苛まれ中なのです。

 改めて言葉にすると…なんとも鬼の所業。

 その後は、御世話になりっぱなしなので、早いとこ解放して差し上げたいのですが、これはアスクさんが気が済むまで付き合って頂いた方が、良いですかね。私も、教えて貰うこと沢山ありますし。


 私だって、あの時ああしてくれていたらと、非難したい気持ちも、実はまだあります。

 でも、きっと10年も経てば、肩を組みつつ、マジお前ホント鬼畜だったぜ!アッハッハッと、酒を酌み交わしながら笑い話になるでしょう。時は薬ですから。

 しわしわのお婆ちゃんになっても、アスクさんは、若いまま…もの悲しいやら、腹立つやら。


 私の悪感情を感じ取ったのか、ビクッとなるアスクさん。


「アキ?アキを本当に放っておけない。この前、泡吹いて倒れていた」

「ぐっ」

「それに、一人で森に行って3回迷子になっている」

「数えてる!」

「アキ、何かあったら俺を呼べ。必ず助けに行くから」

「ありがとうございます。迷子の時、呼んだら直ぐ後ろにいましたね」

「あの時は、俺のほぼ目の前で迷子になってた」

「…」


 そうなのです。全てが初めての世界。私のテンションは暴走しまくってます。主に迷惑かけているのは、アスクさんなのです。これは、反省。


「初めて見るものが楽しくて、興奮してしまいました。すみません」

「いい。楽しそうなのは、見ていてこちらも楽しいが、まだ何が危険か分からない事が多いから、必ず俺と行動すること」

「はい。また暫く御世話になります」

「ん」

「明日、こうじさんにお会いできるんですよね?」

「こうじ?」

「醤油を作り上げた、偉大なこうじさんです」

「ああ。連れていく」

「楽しみです。味噌も快く受けて頂けると良いんですが」

「大丈夫だ」

「心強い。本当に、楽しみです」


 一月未満で、醤油を作り上げたこうじ菌様。どんな方なんでしょう。ドキドキします。








 こ…これは…。かの有名な台詞を言いたい。


「…5分で肺が腐る菌の森です。」

「?どうした?」


 私の呼吸器器官は、正常のまま帰れるでしょうか?

 アスクさんが腰に手を回し、ちょっとドキっとします。が、次の台詞でドキッは、ゾワッに変わります。


「足元気を付けろ。粘ってるから」

「ヌルッてるなら分かりますが…そうですか、粘ってるんですか…」


 只今腐海改め、菌海?に来ています。

 ホコリタケのように、バフッとしているものや、粘菌に似たネト~っとしているもの、何よりカラフルなのです。一切陽が射さぬ場所ですが、光が浮いていたり、あちこち光ったり…綺麗?とんでもない。エグい!全体的に溶けた何かにしか見えず、色は極彩色!来たことを後悔しつつあります!

 誰か!マスクを!


「ここは、森の深部だ。エルフも滅多に来ない。ここ数十年は特に。澱んでおかしくなってる所もあるから」

「私が尋ねても良かったんですか?というかここに来て、私は無事に戻れるんでしょうか?」

「あぁ、何故かアキは森に好かれているから。ここは安全だ。澱みは、もっとずっと奥になる。大きくなりつつあるけど」

「森に好かれる…?好かれる覚えが全くないのですが?」

「俺にも分からない」

「謎ですね。ここの森は、ちゃんと意志があるように感じます。私の世界での、ただそこに在るだけの自然とは、少し違うようです」

「意志か…代々、エルフの長は森と繋がれる。森の意思を汲み、生物との橋渡しのような事をしているんだ」

「…何だか、母なる森と言いたくなる程、温かい印象を受けますね」

「さあ、ここだ。ほぼ無限にいるもの達の中から、ここにいるものだけが、酒や醤油を作り上げる」

「こちらが、こうじさ…え゛?」


 えらくエグい色をなさっておいでで…黒と真っ赤が、混ざりあわずにぐねぐね…ピンクも参加してぐねぐね…。

 私、この方が醸したものを口に?!

 ちょっとアスクさん?!本気で大丈夫なんですか?!軽く吐きそうになりましたが?

 故郷のこうじ菌は、それはそれは控え目な方だったのに…。


「そいつは違う。今の所、毒しか生成しない」

「ぐはっ。もっと早く教えて下さい」

「こいつだ」


 言われた先におわすは、こうじさん。

 あぁ、安心する地味さ。全体的に薄い色。薄い黒に薄い灰色が混じった色。シロツメクサのように茎がヒョロっとして頭にポンと花が咲いてる形。


「この方ですか!初めてまして、明希と申します。先日は大変結構なものを作って頂き、誠にありがとうございます」

「…この前、交渉したから分けてもらうぞ」

「なんと言ってますか?」


 醸すぜ!とか?


「いや、なんと言うか…意思、雰囲気だな。協力の意思を伝えて、攻撃されなければ交渉成立だ」

「残念」

「?」


 持ってきた容器に少し移動して頂き、お礼を言って出てきました。何とも不思議なほっこり…ねっとりする体験でした。アスクさんにも驚きです。本当に、お知り合いの上交渉していたとは。


「私は、結構好奇心が強い方なんですが、この森の事を沢山知りたい気持ちになりました。それから、大好きですね、この森。」

「ふっ。嬉しい」

「嬉しい?」

「森の管理者の一人としては、その言葉は嬉しい」

「ふふ」




 さて本日は、アスクさんが、こうじさんへ味噌企画をプレゼンするそうで、光射さぬ自宅の研究室へ戻られました。

 私も、こうじさんと会話をしてみたい…。熱い味噌への情熱をプレゼンしたい。人の身では危険なものあるからと、入れてもらえませんでしたが。


「う~ん。何をしましょうかね?」


 思い出の中の故郷の食事を再現しつつ、毎日味見三昧で、ちょっと肥えた気がするので、運動でもしましょうかね。肥えたせいか、身体が重い…泣く。

 そういえば、月のものも来ませんね。やはり、環境に身体が馴染むのは、時間がかかるのでしょうか。もしくは、心が。


 そう思いながら、本で読んだうっすら覚えているヨガのイーグルのポーズでぷるぷるしてました。


 そして、目眩。

 あ…イーグルのポーズは、やり過ぎたかな…?

 慌てて、手と足を解き、床に手を突く。


「はぁ、はぁ。貧血か…な?」

「やっと、成功したぞ!手間をかけさせおって!」

「え゛」


 顔を上げると、石造りの狭い円柱の部屋。

 床に見慣れぬ言葉の円の模様。

 ナナフシみたいにヒョロっとしたつり目のおじさん。


 神様?…私、あなたに嫌われてるんですか?

 100%嫌な予感しかしませんよ?






お読み頂きありがとうございました。

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