1 メロメロでポンコツな私
拗らせた理由は、今年大学院を卒業して、入社した会社「二階堂商事」(勿論、名前で会社を選びました)にいらっしゃいました!
私の配属された“商品開発研究室”の4つ年上の上司、主任様であるー一ツ橋 祐さんです。
彼の声が、二階堂 祐にそっくりなのです!生の祐ボイスが「おはよう」や「おつかれ」と言ってくれるのですよ!?
しかもなんだか、仕草まで似てる……。もう、毎日腰砕けです。メロメロです。
その上、一ツ橋さんは、とってもイケメンさんです。“二階堂 祐が現実にいたらこんな感じ”という正にソレな感じで、背も高く動作はスマート。選ぶ言葉のチョイスも彼らしい。仕事中はオールバックに纏めている髪型も、とってもセクシー。
私は、五年前にあんなに辛いお別れをしたと言うのに、また彼に恋をしてしまったのです!しかも、一ツ橋さんと二階堂 祐がゴチャゴチャになって区別がつかない…。
あの頃の幸せが蘇ってしまい、またたく間に私は「厨二病」を拗らせてしまったのです。
近くに彼がいると仕事にならない。話しかけられれば、フリーズしてしまう。
そして、脳内彼氏「二階堂 祐」との幸せな日々に浸ってしまうのです。
オフィスラブ編です!
「おい、時谷。この報告書、数値が間違ってる場所があるぞ。今日中に訂正しておいてくれ。」
「……………」
「おい!時谷!!」
「………ぁ、はい!パソコンですね!!」
「「…………」」
こんな会話は日常茶飯事です。
自分で言うのも何なのですが、私って結構優秀なんです。
なのに一ツ橋さんが係ると途端にポンコツになってしまうんです。見た目だけなら、眼鏡を外して対応(私の視力は両方0.06です)するのですが、声はどうにも出来ません。
部署の方たちは、そんな私に気付いて時々からかわれたりもするので、きっと一ツ橋さんにも気付かれているでしょう。
あうぅぅぅぅ。恥ずかしいですぅ……。
一ツ橋さんは、イケメンな上優秀で、注目の出世頭です。なので、会社でも彼を狙っているお姉さま方は多いのですが、彼には浮いた噂が全くありません。
なので、お姉さま方は、とても熾烈な争いを繰り広げております。私がそれに巻き込まれないのは、このセックスアピール皆無な身体と、眼鏡と長い前髪で顔を隠れている上、服装も地味と、残念な見た目、そして残念すぎる行動の為でしょう。
「敵にもならない」「論外」と思われている様です。
その点では、とても助かっているので、「この見た目で本当に良かった」と思っております。
しかし、伏兵は思わぬところに居たのです!!
その兵士は、何故か私を応援してくれるのですが、その応援は私には全く!必要ありません。
兵士の名は二階堂 匠部長。この会社の社長の親戚だそうです。
40代のナイスミドルな彼もまた、少し二階堂 祐に似たイケボの持ち主です。
「時谷ぁ、お茶淹れてよ。」
「解りましたぁ。」
その祐が年齢を重ねて風邪をひいた様な声で、良くお茶を強請られるのですが。
「ついでに一ツ橋主任にも淹れて持って行ってあげて?」
と、毎回ニヤニヤしやがるのです!!
フリーズする私を見て、楽しんでやがるのですよ!あのナイスミドルは!!
「せ、セクハラですよ!部長!!」
うがぁ!と怒る私をニヤニヤ眺めながら、「応援してやってるだけだろ?お父さんは娘が心配なんだよ。」なんて、勝手に親子設定まで持ち出してきます!
私はあんなナイスミドルな父親を持った覚えはないのです!
「今の状況は宜しくない!」と思った私は、最近、少しでもあの声に耐性を付けようと思い、毎日特性CDを聴くようにしています。
家でも、通勤電車の中でも、会社の昼休み中でも、いつでも二階堂 祐の声を聞いている私は、声への耐性が付いて来たような気はします。
一ツ橋さんの声に、前ほど動揺しなくなってきたと思うのです!
「時谷、この間の会議の報告書、今日中に頼めるか?」
「ああ、あれですか。もう出来てます。どうぞ。」
「お!仕事が早いな!」
なんて会話が出来るようになって来たのです。ただ、この間目を合わせる事は勿論、顔を見ることも出来ませんし、手はみっともないほどに震えているのですが……。
私にしては、素晴らしい進歩なのです!
ただ、恋心は加速してしまったような気がするのです……
もう、どうしたら良いのでしょう…?
少しは改善したものの、相変わらずメロメロでポンコツな毎日を送っている私に、試練の時がやってきました。
大きなプロジェクトが一段落した我が部署は、今夜飲み会を行う事になったのです。
私が入社した時、正にプロジェクト進行まっただ中だったため、入社時に歓迎会はありませんでした。
なので、今回は私の歓迎会も兼ねてくれるそうです。
でも、今8月ですよ?入社4カ月も経ってから、歓迎会とか…。
正直、要らないんですが……。
「私の歓迎会も込み」とか言われたら、断れないじゃないですか!