第二章 二人の問題点 1
第二章 二人の問題点
航海二日目。
翌朝、けたたましいブザー音と共にナオトは飛び起きた。
「な、なんだ?」
「あら、こんな所にいたの? おはよう」
一番に目を合わせたのは、システム担当のサオリであった。ブザー音もなんのその。彼女はキーボードを叩き続けていた。
「あっ、おはようございます。このブザー音は? 目覚ましにしては派手だけど……」
ナオトは目をこすりながら言った。寝起きのため頭がボーっとする。かなりしんどかった。彼は朝方までマニュアルと格闘し、ついに気絶してしまったのだ。
「違うわよ。戦闘配置よ。脅威となる敵が急速に接近中。たぶん海賊ね。こんな朝っぱらから迷惑よね」
「そっか。大変だな」
「あっ、この機体も発進するわよ」
「ふむ……。えっ、はあ?」
ナオトは素っ頓狂な声を出した。つまりは敵襲である。そんな案件を彼女は慌てることもなく、日常会話と同じトーンで話していたのだ。寝ぼけていた彼の頭では、それが緊急事態だと理解できるまで時間がかかった。
「よかったわね。あなた一番乗りよ。……よし。完了」
サオリはノートパソコンの画面を閉じると足場から降りた。
それと同時に、格納庫の扉が激しく開いた。入ってきたのは予想通りナナだった。額にうっすらと汗をかいている。なんらかの理由で、船内を走り回っていたのだろう。その背後にはカナコが立っていた。彼女も一緒に行動していたのだろうが、汗一つかいていなかった。
「サオリさん。あのバカ知りませんか!」
「おはよう。この人かな」
サオリが見上げた先にナナは目線を向けた。
「……やあ、おはよう」
ナオトはきわめて冷静に、片手を挙げて挨拶をした。しかし、内心冷や汗ものであった。きっと彼女は、いや確実に彼女は怒りに満ちていた。
「あんた、部屋にいないと思ったら……。もしかして歓迎会のあとからずっといたの?」
「うん。まあ」
「はあ。いいわ……」
怒りの表情から呆れた、いやほっとした表情になった。
「あら。さっきはあれほど、あいつはどこに行った。って血相を変えて、騒いでいたとは思えないほどですわね」
カナコは笑みを浮かべながら言った。相変わらず場に火を注ぐ人である。
「ち、ちち違うわよ。こんなヘンタイ。あたしは一応教育係なのよ。こいつに何かあったら、あたしの責任になるんだから、仕方なくやっているのよ」
ナナはそっぽ向いて言った。
「あらあら、見事なツンデレさんね」
「ツンデレ言うな」
「おい、なに無駄口叩いているんだ。戦闘準備命令は出されているだろ。早く機体の点検を。それから武装はどうする?」
いつの間にか格納庫に入り武器の点検をしていたオリトが叫んだ。
「申し訳ございません。ストライクパックをお願いしますわ」
火器管制担当のカナコは即座に返した。まだ敵船の状況がわかっていないので、どんな状況でも対応できる装備である。
「わ、わかった。整備状態は最高だ」
「ええ。信じておりますわ」
「お、おう」
オリトはカナコの微笑みに頬を赤くさせると、少々ぎこちなく機械を操作する。
今回選択したストライクパックは中距離魚雷〈菊池槍〉。射程一八〇〇〇メートル。速力六〇ノットが二本。短距離魚雷〈隼風〉射程八〇〇〇メートル。速力九〇ノット。これを六本装備している。これらをすべて搭載したウエポンベイを機体下部より装填する。
火器のパック化により短時間で弾薬の補充が可能。さらに戦局にあわせて弾種の変更もできるようになり、もし故障しても、丸ごと交換すればすぐに戦線復帰できる。
換装作業が行われている間に、各担当による点検作業が進められた。
二人の姉妹は、電気・油圧系統。電圧。推進器。航行システム。各種ラダー動作。火器管制システム。ウエポンベイ開閉システム。防御用投射装置……。数十にも及ぶチェック項目を五分以内で済ませる。
一方のナオトは発進時におけるマニュアルを片手に、必要な点検を行い彼女らよりもだいぶ遅れて作業が終わった。
「遅い、次はもっと早くしなさい」
「初めてだから仕方ないだろ……」
「何か言った?」
「何でも。了解。努力するよ」
「こちら頬那美。出撃完了。いつでも行けます」
『了解。本船も戦闘準備完了。別命あるまで待機せよ』
管制も担当しているカツラは言った。戦闘前だというのにやけに落ち着いている。
「了解。待機します」
ナナは返事をすると背もたれに深く座る。彼女も非常にリラックスしているように見えた。しかし、しきりにキーボードを叩いている。どうやら戦況を確認しているようだ。
一方のカナコは恍惚の表情を浮かべながら、魚雷をタッチペンでセレクトして、発射準備をして発射ボタンを押す。これを何度も繰り返していた。
そして、ナオトはこの静かな時間を利用して、マニュアルに目を通していた。少しでも早く自分のものにしなくてはいけない。
三者三様の待機姿勢もつかの間、船体を震わせる連続音が響いてきた。これはVLSのミサイル射撃音だろう。いよいよ海賊船団との殴り合いである。
今は母船との戦術リンクにより外の状況が手に取るようにわかる。しかし、ひとたび海中に潜れば、電波はほとんど届かないので、リンクシステムは使用不能になり、頼りになるのはソナーのみである。
「……敵は五〇〇t級が七隻。二〇〇〇t級が三隻。結構大規模ね。装備の上ではこちらが有利だろけど」
ナナは刻一刻と変わる戦況を、多目的ディスプレイに映し出していた。
「なんにしても、早く撃ちたいですわ」
「今回は勘弁して欲しいな……」
カナコとナオトの相反する言葉に、ナナはタメ息をついた。両極端の性格を相手にするのも疲れるようだ。
『管制より頬那美へ。敵潜水艦らしき物体を探知。方位二―四―〇。距離一二〇〇〇。数不明。至急発進せよ』
「頬那美了解。二人とも聞いたわね。発進よ。ハッチ閉鎖」
ナナはすぐに頬那美の水密ハッチを閉じる。高圧空気が抜ける音と共にがっちりと機体に接続される音が聞こえた。
「ナオト、あんたはこの機体もシステムも初めてだから無理しないように。機器のAIと参考に、まずは慣れることを第一にしなさい。あと、あたしたちの戦いをしっかり見てなさい」
「了解。努力するよ」
「いいわ。頬那美行くわよ」
『了解。発進シークエンスへ』
カオリは離れ頬那美の周囲の足場も自動で外されていく。まだ固定アームと電源ケーブルが接続されているが、これは発進時に自動的に切断する仕組みである。
「了解。母船ハッチ解放」
『了解。ハッチ解放』
頬那美の真下のハッチが少しせりあがると、左右にスライドする。固定アームが機体を音だけが頼りの世界へいざなう。
「推進器起動」
ナナはスイッチを押すと、スクリューと電磁推進器が作動を始めた。ますは母船とほぼ同じ速度まで出力をあげる。
「相対速度二八ノット。頬那美テイクオフ」
ナナの言葉と同時に固定アームと電源ケーブルが外れ、窮屈な束縛から解放された。
「さあ、状況開始よ」
ナナは出力レバーを上げると、報告にあった方位へ機体を走らせた。速度もぐんぐんと上がり、すでに五〇ノットを超えていた。そのくせ機体は静かだ。不要な振動もなく、文字通り海と一体化し移動しているようである。
「こ、これは、なんて機体だ」
思わずナオトはつぶやいた。通常の水中戦闘機では、二〇ノット超えると音が発生して、すぐに探知されてしまう。
「ふふん、でしょ。それよりもあんたの実力、試させてもらうわよ。AIで捕らえた目標とあんたの耳で捕らえた目標を比べるわ。どっちが正しいかをね」
「望むところ」
ナオトはAIを起動。外からの音を拾い始めた。
探知した音をコンピューターにかけ音の指紋、「音紋」をライブラリーにて検索。さらにくわしい船の情報が得られる。それをわかりやすいように視覚データとして、味方は緑色の点で敵は赤で表示させた。
方位一―九―〇。距離二五〇〇〇に複雑な動きをする水上船が多数。さらに方位二―四―〇。距離一一〇〇〇。深度一〇〇。数三。V字に隊列を組んでいる。これは水中戦闘機SF16シーファルコンだろう。それぞれにC1からC3まで仮称をつけた。
ナオトは判明した船に次々仮称をつけていく。慣れない機器に悪戦苦闘しながらも形にはなった。
「よし。これで敵味方の動きをデータ化した。リンクを切断する前と比べて同じ数だから間違いないよ」
彼はナナにデータを提出。さらにAIとのデータを比較する。
「……ふ、ふん。なかなかやるじゃない」
彼とAIとのデータは位置、速度、数と同じであった。ただライブラリーにない不明艦に対しては決定的な差があった。AIはアンノンで済ませてはいるが。ナオトはスクリューの羽の数、さらに予想船種すらも記入されていた。
「じゃあ、これに基づき針路を二―七―八に変更するわよ。そこでも、あんたの実力を試させてもらうわ」
「それはいいけど、なんで針路を変えるの」
「海賊船団が左から圧力をかけて、味方の船団を潜水艦がいる海域に強制的に変更しようとしているわ。あたしたちはその前に、この水中戦闘機をやっつけるのよ」
「なるほど」
やがて機体はゆっくりと針路を変更した。さらに速度も落とした。ただでさえ静かな機体である。余計探知が難しくなるだろう。
ナオトの耳には次々と水中からの情報が入ってくる。一度収集した音の変化はコンピューターにまかせ、彼は他に潜んでいるかもしれない敵に聞き耳をたてる。
「方位二―七―八。距離八〇〇〇。数三。速力四五ノット。依然進行中」
「よしよし。このままいけば最適攻撃地点にいけるわね。さらに速度を落とすわ。カナ姉、距離二〇〇〇でC1、C3をロックした魚雷を放出。四〇秒後にスクリューを起動させて。C2はこのまま最大戦速で接近。ニードルガンで攻撃を行うわ」
「ええ。よろしいですわ。うふふ」
カナコは恍惚の表情になった。その顔がとてもエロく、ナオトは前かがみになりそうだった。
「ソナーマン。カナ姉にデータを送りなさい。これはあんたの耳にかかってるんだから、失敗すればこっちまで自分の魚雷の爆発に巻き込まれるんだからね」
「……了解」
まだ名前を呼んでもらえず、少し寂しさを感じつつもナオトは、魚雷発射のために必要なデータを送る。
「ありがとうございます。ナオトくん。必ず一発で当てて見せますわ」
カナコはこのデータを元に命中率を上げるため、TMA(目標動作解析)を行い魚雷のコンピューターに諸元を入力していく。
「……突発音! C1、2、3から魚雷発射。方位二―八―五。距離四〇〇〇。数六本。速度四五ノット。なお増速中」
「こちらに気づいた?」
「いや、味方船団に向けて進行中」
「くっ」
ナナは眉間にシワをよせたていた。ナオトからは見えないが、きっとなんらかの対応策を考えているのだろう。敵が強力無比な魚雷を発射。味方は水上戦闘で手一杯。海中まで気が回らない様子である。この状況をどうするつもりだろうか。
「……カナ姉。これから敵と味方の間に入り込むわ。そこで中魚雷を一本投下。すり抜ける瞬間に自爆して、敵魚雷を巻き込んで誘爆させるわ」
「了解ですわ。うふふ」
ここでカウンターメジャーを使わないのは、魚雷の方が爆発力が高く、より確実に誘縛させるための措置なのだろう。
カナコはすばやくディスプレイにペンを走らせ、発射させる魚雷を選択する。ナナは気づかれないようにゆっくり針路を変え、敵味方の中間地点へ向かう。
「魚雷群、方位二―二―三。距離二〇〇〇。速力六〇ノット」
「いいわ。ぎりぎりまで引き寄せる。距離八〇〇で投下。同時にノイズメーカーを射出。盛大に音を出して誘導して。しかるのちにあいつらの側面をつくわよ」
コクピット内に緊張の糸が張り巡らされる。一歩間違えれば。機体は爆発の圧力で破壊され、二度とお天道様を拝むことができなくなる。
ナオトは不慣れなシステムを睨みつけながら、距離を測る。
「距離九五〇……九〇〇……」
ここまで近いと魚雷の推進音が、ソナーなしでもパイロット席に届いた。甲高い金属音。細かな気泡が連続で割れる音。姿形が見えない状況で、音だけが不気味に大きくなっていく。死神がファンファーレと共に近付いてくるように思える。
「八五〇……八〇〇!」
「魚雷投下! ノイズメーカー射出。いくわよ!」
機体の後部から、円筒形の物体を射出。大鯨や他の護衛船の音をインプットした音が周辺に響き渡った。同時に機体下部のウエポンベイの扉が開き、中魚雷菊池槍が投下された。
突然現れた音源たちに、六匹の猟犬はさぞびっくりしただろう。しかし、優秀な猟犬は素早く、偽の音源に目標を変える。彼らにすればインプットされた音なら近かろうが遠かろうがどちらでもよかった。
一方の放った側の狩人たちも、驚きに包まれているだろう。何もないはずの地点に突然音が現れ、猟犬たちが本能の赴くまま、その音に走っているのだ。
さらに頬那美は急加速する。その際に水流を乱す音が派手に響くがすぐに消えた。これがさらに混乱を招いた。その証拠に敵機は慌てて操艦。水中に水を殴るような音を出した。
その間も、新たな目標を与えられた猟犬たちは、互いの距離が五メートルも満たないほど寄り添い通過する瞬間、十分に離れた頬那美から、菊池槍に自爆命令が発せられた。タイムラグなしで囮となった魚雷は爆発。その周辺にいた六匹の猟犬は爆圧に巻き込まれ自身たちの爆薬に次々と誘爆。衝撃波が広がった。
「……いいわ。所定の位置に到着。敵の状況は?」
「あの大爆発だ。ノイズがひどくて聞きづらい。でも直前までのデータと、この激しい流れによる影響で、たぶんここら辺じゃないかな」
ナオトはナナの方へデータを送った。最初の地点より左舷方向、こちらから離れている位置にいた。
「もしかして逃げた可能性はありませんの?」
カナコは心配そうな表情になった。もっとも彼女の心配は攻撃ができないことにあるだろう。
「大丈夫でしょ。上はまだ仕事中だし、こういう時は動かずに静かになるまで待つものよ。ソナーマンどう?」
「まだだめだ。あっちこっちで海流が暴れている。もう少し待ってくれ」
ナオトはヘッドフォンから聞こえてくる耳障りな音に、しかめっ面な表情で迎え入れた。
しかし、そんな暴れる海流も、所詮人工的に生み出されたもの。大自然のもつ復元力に勝てず、徐々に静かになりつつあった。
「どう? もう大丈夫でしょ」
「……うん。ソナーに感あり。音源極めて微弱なれど音紋確認。C1、2、3に間違いなし。方位二―四―八。距離二〇〇〇。速力七。位置データを二人に送る」
「どれどれ」
さすがに先ほどより位置は左舷方向へずれていた。が予測値を超えてはいなかった。
「間違いないわね」
「うん。AIも同じことを言ってる」
「いいわ。作戦に変更なし。カナ姉、準備は?」
「いつでもいけますわ。うふふ」
「よし。レディ……ファイヤ!」
ナナの合図に、まずカナコは魚雷を発射させた。二本の短魚雷隼風がウエポンベイから解放された。
「さあ、しっかり追いかけてください。うふふ」
悦にひたった表情は、向かいの席に座っているナオトにとって、エロティックでもあり少し怖かった。慣れるまで時間はかかるだろう。
一方のナナは魚雷を解放させた瞬間、出力レバーを全開にする。
機体は一気に最高速度まで上がった。さすがにここまで行くと、静粛性は大きく損なわれ秘密のベールがたくし上がる。しかし、中から浮かび上がるのは、乙女の純白ではなく、黒き死神の鎌であるが。
標的まで一五〇〇。
「目標に変化あり。全艦回頭中。こちらに気づいた模様!」
「でももう遅いわ。カナ姉、ニードルガン準備」
「ええ。発射口解放。蜂の巣にしてあげますわ。うふふ」
カナコはタッチパネルで二五ミリニードルガンを起動させた。手元にあるスティックを握る。
機体前部の下側にある発射口の蓋が開き銃身が見える。
「背後より突発音。数二つ。魚雷が予定通り作動した」
標的まで三〇〇。
「エンゲージ!」
ナナは機体を敵機との射線軸上に乗る。
距離一〇〇でカナコは引き金を引く。計五発の直径二五ミリの金属の針が、火薬の力を借りて発射。次々と敵機に突き刺さり炸裂する。機体が穴だらけになったC2は、大量の海水が流れ込み浮上もままらないまま、海中の暗い闇の中に消えていく。
頬那美は他の二機には目もくれず、そのまま離脱する。
「頬那美魚雷。距離五〇〇! C1、C3に向けて進行中」
二匹の獰猛な犬は迷うことなく、残りの戦闘機に狙いを定めた。獲物は慌てて逃げようとノイズメーカーを射出すが、優秀な嗅覚には通用せず、その鋭く強力な牙が襲いかかる。
「……着弾まであと三、二、一、弾着、今!」
カナコのカウント通り、爆発音と衝撃波の二重奏が機体に伝わる。しかし、十分に安全距離をとっていたのでたいしたことはない。
「ソナーマン状況は?」
「爆発二つを確認。……爆発地点にスクリュー音なし。沈降する物体あり数三つ。すべて敵機と認む」
「……了解。状況終了。警戒態勢を維持。周囲の索敵に入る」
「了解」
ナオトとカナコは異口同音する。
それから数十分後には、海上の戦闘も終わったようだ。生き残った海賊たちは一目散に逃げ去っていく。
「……大鯨より、撤退の音波周波数を確認」
ナオトは事前に教えられた、音波の周波数表を照らし合わせながら言った。水中では電波がほとんど届かないため、音波による交信手段を使用している。しかし、それすらも敵に容易に感知されてしまう。水中はまこと連絡がとりづらい空間である。
「了解。帰投する」
ナナは機体を回頭。母船への帰路につく。こちらからは返事はしない。返信すればこちらの存在が露呈してしまう。海中に潜る者として、一番やってはいけないタブーでもあった。
「……ん? ちょっと待って」
その時、ナオトの耳に一瞬違和感を覚えた。決して自然には発生しない人工音であったが。
「敵?」
コクピット内に緊張が走る。
「……いや、もういない。気のせいだったのかな」
「なんだ、しっかりしなさい」
「うん。ごめん……」
それでも、しばらく旋回を行い警戒をしたが、不審な音は聞こえてこなかった。
無事、大鯨へと戻った頬那美は再び足場に囲まれ、次の戦いに備え点検・整備が行われた。真っ先に武装は外され各点検窓が開かれる。名パイロットは整備員より渡されたタブレット端末に必要項目をチェック。三姉弟と意見交換を行い整備の参考にしてもらう。
ナナは戦闘の経緯をデータにまとめるため、パソコンに張り付いた。
カナコはオリトと共に武器の点検をしていた。
そして、ナオトは先ほど違和感を覚えた音の分析に入る。適当な機器がないので頬那美で行う。
『船内放送。三〇分後にブリーフィングを行う。関係者は食堂へ集合せよ』
「それじゃあカナ姉、あたし行ってくるけど何か進言したいことある?」
「わたくしは問題ありませんわ」
「あ、あのいいかな?」
ナオトはおそるおそる手を上げた。
「なに?」
ナナは少しめんどうくさそうな表情でこちらを見た。
「うん。まだ分析中なんだけど、気になる音があったんだけど……」
「ああ、最後の方で聞こえたって奴ね。わかったわ、一応言ってみるわ」
ナナは報告書をまとめると格納庫を出た。