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第二章 二人の問題点 4

 夕刻。

 その日のエネルギーを使い果たしたかのように、太陽は弱々しい光を放ちながら西へ傾いていた。その水面には金色の柱がこちらに伸び、船の移動に合わせて動いている。それはまるで現世にすがる執念とも、まだこの世界にとどまりたい想いで腕が伸びているようにも見えた。

 そんな黄昏時の太陽をナオトは見ていた。彼の顔や手足には細かな傷がついていた。すべて今日の作業中にもらったものばかりだ。

「……ナナはしばらく気が立っているだろうな」

 一度は謝りたかったが、なかなか機会がなかった。今夜にでももう一度。と考えていると、戦闘配置の警報が鳴り響く。

 ナオトはすぐに駆け出した。船内に入り階段を降り格納庫への扉を開けた。すでに整備三姉弟が機体のチェックをしていた。

「ちょっと、どきなさいよ」

 背後からドスのきいた口調でナナが言った。

「あっ、う、うん」

 ナオトは少し横に避けると、彼女は猛スピードで機体の操舵席に着いた。

「もし、あとがつかえていますよ」

「うん」

 今度はカナコからも言われた。

「何があったかは想像できますけど、今は戦闘に集中するべきですよ」

「そ、そうだね」

 ナオトは余計なことを追い出すかのように、頭を振ると考え方を戦闘モードへ切り替える。

 二人が乗り込むとすぐにハッチが閉まる。各種チェックをおこない、発進タイミングを待つ。その間、ナオトは戦況をチェックする。

 敵はまた海賊船団であった。数は一〇隻。肉眼やIRセンサーでは捉え辛い西側。沈みゆく太陽を背に半包囲せんと突進してくる。

 どうやら潜水艦はいないようだ。今回からはナオトが母船からの戦況情報を伝えることになった。その情報をナナとカナコに渡す。

「ありがとうございます。ナオトくん」

「もう少し早くデータを渡しなさい。ソナーマン」

 カナコはいつも通りの口調で、ナナはむっとした口調でそれぞれ言った。当然ながら尾を引いている。

「了解。母船とリンクを接続。リアルタイムで情報を流す」

 ほどなくして戦闘が開始された。外は見なくても音と振動でこの船も激しい戦闘をしているのが伝わってくる。

 この母船のソナーからのデータをモニターしていたナオトだったが、聞き覚えのある音をとらえた。すぐに大鯨と頬那美の解析装置で、瞬時に過去の音紋と照らし合わせ結果が両方に送られた。

「……きた。あの時の音だ」

 ナオトが前回の戦闘で捉えた音の解析は午前で終了。すでにライブラリーに登録していた。

 すると、ナナの元に発進許可が下る。

「二人とも準備はいいわね。目的はアンノンに対する牽制。あとは臨機応変という名の出たとこ勝負。ソナーマン、すべてはあんたしだい。絶対に聞き漏らさないでよ。あんたは耳以外に取り得なんてないんだから。ここで失敗したら何にも残らないわよ」

「ちょっとナナ」

 これにはさすがにカナコが止めに入った。

「わかっているよ。これでも元皇国軍潜水艦のソナーマンだよ」

 ナオトも負けじと言い返す。彼女の言葉は彼の中にあるプライドを刺激させるには十分であった。

 聞くべき音がわかっていれば、迷うことはない。問題はその物体が、ずっと音を発しているかどうかだ。

「ふん。それじゃあ状況開始」


 しかし、発進して三〇分。すでにこの船団の周りを一周しているが、最初に音を捉えて以来、発見できていない。離脱したか様子見か。しかし、十中八九後者だろう。

「ちょっとまだなの?」

 少し焦った口調でナナは言った。海上の戦闘はすでに終盤に向かっているようだ。

「まだ。でも相手の姿が見えない以上、確実に撤退した確証がないと、こちらも引くに引けないでしょ」

「そんなことわかっているわよ」

 ナナは口を尖らせて言った。

 ナオトは目を閉じ、自分の聴覚に全神経を集中させる。気になる音があれば、解析して音を取り出し音紋にかける。これを何度も繰り返す。時には針路や深度、さらに速度の強弱を行うように進言もする。これは相手に揺さぶりをかける行動だが、彼女は彼に指示されるのが嫌なのが顔に出て、操艦にも現れているのが目に見えてわかった。

 やがて水上戦闘が終わった。またしても海賊たちを追い返したようだ。水面に着水する砲弾の音も消え、スクリュー音だけとなる。

 やがて、母船から帰投命令が出た。

 その直後、

「目標発見! 音紋照合……奴だ。目標をC4に認定。方位〇―五―二。距離三五〇〇。深度一三〇。速度三〇ノット。すごい静かだ」

「……針路は?」

「船団と平行している。攻撃の予兆はない。様子見かな」

「でも、ずっと覗き見はいただきませんわね。気になってお風呂にも入れません。ここは、そんなストーカー野朗を宇宙まで吹き飛ばしましょう。うふふふ」

 カナコは笑った。向かい合わせで座っているナオトは見ないようにしているが、頭の中に彼女の笑みが強制的に入りこんでくる。

「し、しかし、ヘタにつついて猛反撃をくらう可能性もある。この速度であの静粛性。僕たちの機体と同等の技術力を持っているだろう。周囲にまだ隠れている可能性だって捨てきれない。ここはもう少し様子を見るほうがいいんじゃないかな」

 ナオトは慎重論を唱えた。水中戦闘機を一機見たら三機いると思え。有名な言葉である。それに今のチームの雰囲気は悪く、信頼関係も浅い。戦えば勝率はかなり怪しくなる。もっともその原因をつくった本人の一人であるため、あまり言えた義理ではない。

「うるさい。ソナーマンは黙れ」

 ナナの冷たく鋭い口調に、彼も口を閉じるしかなかった。

「……っ」

 ナオトは舌打ちをぐっと我慢して、引き続き目標の音に意識を集中させる。

「カナ姉の意見に大賛成よ。その位置ならいつでも船団を攻撃可能じゃない。ここは先手必勝。行くわよ」

「ええ。早く太くてたくましいナニを発射したいですわ。うふふふ」

 早くも恍惚の表情になるカナコに、ナオトの煩悩は悩まざるをえない。

「ちょっと、カナ姉。変な言い方しないでよ」

 ナナも顔を真っ赤にして抗議する。

「ソナーマン。目標に変化は?」

「方位、速度、深度変わらず。距離三〇〇〇。データを送る」

 ナオトは再びデータを二人に送る。さらに各種センサーがとらえた海流、水温、塩分濃度の情報はカナコに送った。

「よし、あいつの頭を押さえ魚雷を撃つ。距離二〇〇〇で発射。着弾五秒前に全速前進して近接格闘を行うわ」

「最高の攻撃パターンですわね」

「……」

「ソナーマン、いいわね」

「わかったよ」

 ナオトは嫌々ながらも返事をした。

「ふん。じゃあ行くわよ。速度一五ノットまで落として、旋回するわ」

 ナナはスロットルを下げ、機体の速度を減速させる。ただでさえ静かな機体である。これで探知されるのはほぼ不可能だろう。

「二〇……一七……一五ノット。取り舵ゆっくり」

 機体はゆっくりと左へ旋回する。赤子を触れるような優しい操作で、不要な音は出ていない。しかし、安定的に流れていた海流に突然乱れが生じ、若干だが音が出てしまった。当然、ナオトの耳にも入ったが、今さらどうすることもできなかった。

「……回頭終了。ピンガー用意」

 しかし、こちらが打つ前に目標からピンガーが発射された。

 機体に響き渡る死の前奏曲。これで相手からは、こちらの正確な位置が知られてしまった。だが、こちらも発信位置がわかる。

 三人の背筋に言いしれぬ恐怖が駆け抜ける。それはやがて、死のダンスを踊り続けることであろう。特にナナは先手をとれる絶対の自信があっただけに、その衝撃は他の二人より数段高かった。

 だが二秒たっても、三秒たっても目標からの魚雷発射音が聞こえてこない。それが逆に緊張感を増大させるには十分であった。

「どうして発射してこないのよ。いいわ、目標の位置わかるわよね」

「もちろん。方位〇―二―七。距離二五〇〇。速度三〇。深度一三〇」

「いいわ。カナ姉、TMAは?」

「解析終了。魚雷への諸元入力完了しております。いつでも発射可能ですわ」

「待って、撃ってこないってことは、向こうはこちらをいつでも撃沈できるぞっていう自信の表れと、警告じゃないかな。それともこちらには交戦の意思はない。ともとれるけど?」

「……ピンガー打ってくる奴に、そんな考えがあるとは思えないわ。それにそんな自信、へし折ってやる。撃たれる前に撃つわよ。魚雷、発射!」

「隼風、発射! うふふ」

 カナコの復唱と同時に、下部のウエポンベイから短魚雷が待ってましたとばかりに、勢いよく飛び出した。どんどん加速しあっという間に、トップスピードになる。目標に向けてその牙を見せびらかす。

 猟犬は脇目も振らず一心不乱に海中を疾走する。獰猛なドーベルマンを彷彿させる。

「目標との距離二〇〇〇。……ん? C4が回避行動せず。速度五〇に増速。まっすぐ突っ込んでくる」

「なんですって? そんな非常識なことがあるわけないでしょ。魚雷とヘッドバットでもかます気かしら」

「間違いじゃない。あっ、魚雷と目標との距離一五〇〇を切った。C4に突発音。魚雷だ。こちらに向かってくる針路だ」

「回避運動とるわよ。針路一―四―五へ変更!」

 機体は大きく傾き、針路が急激に変わる。

 三分もかからず、お互いの魚雷が交差。C4が撃った魚雷が爆発。猛烈な爆圧と水圧が無秩序に暴れだし、こちらの魚雷は誘爆してしまった。

「爆発によりC4をロスト。即時停止を提案するけど」

「んなこと知ってるわよ」

 ナナはスロットルをニュートラルにする。一気に速度が低下。しばらく惰性で情報収集を行う。

 数分後にはだいぶ水中の騒音も静かになった。

「状況はどう?」

「……ソナー効力六〇パーセント。セオリー通りなら、向こうも位置はそんなに変わってないと思うけど」

「発見するまで、少し待機か……」

「……いや、スクリュー音探知! 方位〇―〇―五。距離八〇〇。速力六〇」

「近っ! 魚雷? 急速発進! ノイズメーカー射出用意!」

「音紋はC4だ。近接戦を仕掛けてくる模様!」

「いい度胸ね。受けて立つわ」

 ナナはスロットルを全開にする。頬那美が急速発進した直後、C4が近接アームで襲い掛かってきた。しかし、アームは水中を斬っただけだった。発進があと三秒遅ければ機体は海の藻屑となっていたことだろう。

 頬那美は左回りでC4の背後に回りこもうとした。この近距離では魚雷は使えない。二五ミリニードルガンか、近接格闘アームによるドックファイトになるが、敵機はすぐに反転、アーム戦を所望しているようだ。

「うふふ。そうこなくっちゃ」

「待った。なにも相手の土俵に立つ必要はないよ。船団の方へ連絡。共同で潰すほうが現実的だよ」

 ナオトは暴走するナナに冷や水をかける一言を放つも、すでに彼女は頭に血がのぼっており完全にスルーされてしまった。

「外部映像を表示。赤外線センサーも総動員。さあ、ガチンコ勝負よ」

「ナオトくん、ああなったナナに、もうなにを言っても無駄ですわ。素直に指示に従ったほうがよろしいですよ」

 カナコは小声で言った。彼女も妹の意見に賛成のようで、格闘戦をしたくてうずうずしているように見えた。

「で、でも……」

「大丈夫ですよ。ナナは不思議と危険を察知するのが敏感なのです。あきらめてください」

 カナコは満面の笑みを浮かべた。なにかを悟ったような表情にも見える。

「もう、どうにでもなれ!」

 こうなってはナオトも覚悟を決めるしかなかった。上部モニターを外部の映像に切り替え、さらにセンサーで捉えた情報を表示させる。それにより目標の位置、速度、そしてぼんやりとだが形状まで判明した。耳で捉える魚雷と違い、目で見て判断するアーム戦にはもってこいである。

「いいわ。これで見やすくなった。さあ、行くわよ。カナ姉、アーム操作頼むわ。対処03。」

「うふふ。おまかせあれ」

 ナナは口元をゆるめ、カナコは頬を染めた。二人ともこの戦闘を楽しんでいる。両者とも戦闘狂であった。

「C4。急速接近。敵機、近接格闘アームの起動を確認。同型機と思われる。接触まであと二〇秒」

「きたきた。そりゃ! いざ勝負!」

 ナナは機体を傾かせほぼ真横になった。下部に設置しているアームを展開。先端に装着している高振動する刃が咆哮する。そこに静粛性という言葉はない。魂と魂のガチンコ勝負になっていた。

 近付くにつれて、暗い海の中でも黒いシルエットが浮かび上がる。まるで古代の騎士同士の決闘ジョストのようだ。

 二機は交差。お互いのブレードが接触。甲高い破滅的な音が周囲に、ナオトの頭に響き渡り思わず眉をひそめる。

 もちろん、音だけではない。衝撃もかなりのものだ。

「下部アーム接続に損傷しましたわ」

「浸水している?」

「大丈夫ですわ」

「でもさっきの衝撃で異音発生。相手が腕のいいソナーマンなら気付くかも」

「ふん。そんな心配はいらないわね。もう一度勝負よ!」

 ナナの気合は十分。反転してもう一度突撃をかける。


 接触。機体に衝撃が襲い、アームに絶望的な負荷がかかる。


 この攻撃でアームは完全に破壊されてしまった。対して敵機はまだアームは健在のようだ。

「このっ! カナ姉。このまま、距離を開けるから今度は魚雷で牽制して」

「ええ、待ってましたわ」

「あれ、これは正々堂々の一騎打ちじゃあ……」

 思わずナオトはツッコミをいれてみたが、

「ああ!? もうそんなことどうでもいいわよ。勝てばいいのよ勝てば!」

 ナナは鼻息を荒くして切り捨てた。

「いつでも発射可能ですわ」

 カナコはナオトからもらった諸元を入力して言った。

「いいわ。直撃させるわよ」

「あれ、牽制じゃないの」

 しかし、ナオトの声は虚空へと消えていった。

 結果として魚雷を使っての攻撃は完全に失敗に終わった。敵機のノイズメーカーの発射タイミング、回避運動のテクニック。その後、攻勢に出る針路。その流れるような動きは芸術レベルであった。しかも無用な雑音を出すようなヘマもしない。

「この、このっ!」

 ナナはよりムキになり、手を変え品を変え、攻撃の手を緩めず次々と繰り出すが、再度の近接戦で二本ある近接格闘アームは全損。魚雷も短魚雷二本を残すのみとなってしまった。

 彼女の操艦は悪くはない。むしろ一流といってもいいのだが、相手はそれを上回っていた。

「そんな……」

 考えうる限りの戦術と攻撃手段を失い、悲壮感がコクピット席を無言で襲う。

 戦場ではよくあることだ。強い者が勝つ。しかし、あきらめない者は負けない。後者はなかなかいるものではないが、その一人がこの場にいた。

「まだ大丈夫。僕にまかせて」

「はあ? 何言ってるの。残り短魚雷二本でなにをするつもりなの」

「あきらめるな! 死ぬまであきらめるな!」

 普段のナオトからは想像できない怒声が、悲壮感漂うカーテンを吹き飛ばした。

 その直後、敵機が魚雷を発射させた音が彼の耳に届いた。

「魚雷! 方位〇―四―八。距離二〇〇〇。数一。速度六五。どうする?」

「……ええい、わかったわよ。どうすればいいの?」

 ついにナナは操艦をナオトに渡した。

「カナコさん。魚雷一。方位〇―五―二。直線でいいから発射して。それから手動で自爆準備」

「でも……」

「早く!」

 カナコははじかれたように、方位を設定して隼風を発射させた。

「僕の合図でノイズメーカーを発射。次の合図で取り舵して」

 ナオトは画面と自分の耳をたよりに、タイミングをはかる。

 緊迫した空気に三人は押し潰されそうだった。特に姉妹は気が気でなかっただろう。この機体に乗ってまだ二回目の彼が操作しているのだから。

「……今、ノイズメーカー射出!」

 距離五〇〇でナオトは叫んだ。小さな音源が暗い海の中へ発射。派手に音を鳴り響かせる。偽者の音に猟犬は翻弄される。

「取り舵! 針路三―四―一。全速前進。敵機の左側に回りこんで!」

「もう。今回だけだからね!」

 ナナはやけくそ気味に答えながら、機体を大きく左へ傾けた。

「カナコさん。方位〇―六―三に向けて発射。手動で自爆準備。」

「わかりましたわ。……諸元よし。発射!」

 最後の魚雷が設定された針路に向け、水の抵抗をかきわけ疾走していく。

 頬那美が敵機の左側に回り込もうとする針路に向くと、相手の魚雷は間抜けにもこちらのノイズメーカーとダンスをしていた。

 一方こちらの猟犬はC4より少し右側にズレていた。向こうもノイズメーカーを発射させるが無誘導なので効果はまったくない。しかし、機体と魚雷がすれ違う瞬間、

「自爆して!」

 ナオトの合図にカナコは自爆スイッチを押した。囮に食いつくだろうとタカをくくっていたのだろう。かなり慌てて距離をとろうと、爆発と反対側へ針路を変更する予兆があってロストした。爆発音でソナー効力が下がったためだ。

 そんな光景を音だけで、手に取るようにナオトは感じていた。さぞ姉妹も驚いているだろう。

「いいぞ。その方向へ逃げろ。もう一本来ているからな。カナコさん、自爆準備を」

「え、ええ」

 カナコは慌てて二本目の魚雷の自爆スイッチに指をかけた。ナオトは目標が移動するであろう地点を想像し、その鼻っ面で自爆させ撤退するつもりだった。が……。

「突発音! C4から魚雷。方位〇―六―三。距離一五〇〇。数一。これは!」

 お互いの魚雷が同じ方位、同じ深度で向かい合い進んでいるとどうなるだろう。答えは両者ともヘッドバット。もちろんそこまで石頭ではないので、弾道は潰れ誘爆を起こした。

これに三人は驚愕した。魚雷同士がぶつかることなど普通は起こらない現象である。

 ついにこちらの攻撃手段はすべてなくなってしまった。一方の相手はまだ攻撃できるだろう。逃げてもジリ貧になり撃沈されてしまう。

「ごめん」

 ナオト素直に謝った。偉そうにあきらめるなと言った手前情けなかった。

「いいわよ。あたしたちは全力を出しきったわ。こうなれば逃げて逃げて、最後まで逃げきるわよ」

「そうですわ。まだノイズメーカーもあります」

「うん。僕の耳もある」

 一度覚悟を決めた面々の表情は、余計な力が抜けてリラックスしているように見えた。

「さあ、足掻くわよ」

 と、ナナは気合をいれようとすると、

「ちょっと待って。……音が消えていく」

「どういうこと?」

「静かに」

 ナオトは再び暗黒の深海に、音のスポットライトをあてて目標を探す。方位はわかっているので、そう難しくはないはずである。

 案の定、すぐに目的の敵機を発見したが、だんだん音源が小さくなっていく。

「……これは撤退した可能性がある。ピンガーを使うよ?」

「ええ。やってみて」

 ナオトはピンガーの発振スイッチを押した。独特の音が周囲に解き放たれ、敵機の反応はもう五キロ先にいた。

「これって……」

「どうやら僕たちは、見逃せてもらったみたいだ」

 この報告に三人は大きなため息をつくと、今は助かったことに感謝をするのであった。

「一応、状況終了かしら……」


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