第07話:満を持して!リルホーリー登場!(1)
リルアイスの変身を解除したコユキ。ボクは彼女の疑問に答え、人間型に変身して説明する。
隣でボクを半目で見ているシズクを後回しにして。
「ボクはムトップです。さっきの三頭身のサイの姿が本当の姿で、今の姿のほうが変身能力を使って人間型に化けているのです」
「んっ……わかった」
「……私も……リルプレアに……」
コユキはあっさりと納得した。
シズクが小さな声で何かを呟いている。聞こえているけれど後回し。
「さて、今日もなんとか闇の存在を追い返してやれましたね」
「リルプレアも二人になったんだから、これからはなんとかなるかなぁ」
「そうですね」
安堵の気持ちを言葉にするボク。
変身を解いたカエンは疲れた顔で独り言のように想いを口にする。
その言葉に返事をしてから、意を決してシズクに声をかける。
「それではシズクの家に戻りましょうか。ねっ、シズク」
シズクの表情は半目のまま変わらない。
姉の不穏な雰囲気に気を遣って声をかけるコユキ。
「……お姉ちゃん……?」
「コユキ。おめでとう。カッコよかったわ。姉として鼻が高いわ」
妹の気配りに表情を一変させるシズク。
さすが姉。妹に八つ当たりするなんて恥ずかしい真似ができるかと、一寸の曇りもない笑顔でコユキの健闘を讃える。
そしてボクの方を向いてまた半目になって願いを口にする。
「私も、リルプレアに、なりたい、です、わ!」
「はい、シズクはリルプレアになれると思います」
「えっ!」
仕方がないのでシズクの希望通りの返事をする。
思っていなかった返事を聞いて驚いたシズクは次の言葉が出てこない。
ボクの予想でしかないのだけれど、ここにいる三人の少女とボクの幸運度の異常なほどの高さ。この状況でカエンとコユキがリルプレアになれたのだ。
ボクが持ってきたプレアリングが先の二人に適合したから、シズクが後回しになっているだけだろうと考えている。あながち間違っているとも思わない。
シズクに運命は優しいハズだから。
「先程の闇の存在から得たエレメントで、変身アイテム――プレアリングを作れる量になりましたから、帰ったら早速作ってみましょう」
「おっ……お願いしますわ!」
シズクは握った手を胸の前で合わせて期待に溢れた目でボクを見る。
偉そうに頷いたボクは、この後すぐに自分の間違いに気付かされるのであった。
それはさておき、姉妹の家までの帰り道。これまでの経緯をコユキにも説明をする。
もしかしたら魔王倒せばを封印された人が元の姿に戻るかもしれないと聞いた時、コユキは期待に満ちた表情を浮かべてから、しっかりとした意思を瞳に浮かべて決意を表明した。
「やる! 魔王を倒す!」
「今のままではまだ難しいですが、シズクにもリルプレアになってもらって、もっと仲間を増やしていけば夢ではないと思います。ボクはその為にここにいるのです」
「……がんばろ、ムトップ……カエンさんもがんばろ」
「はい、頑張りましょう」
「カエンって呼び捨てでいいよ、仲間なんだから。頑張って魔王を倒そう!」
「……んっ、がんばろ、カエン……」
コユキの気概が頼もしい。
シズクは微笑ましげに妹の姿を見ていた。
――シズクの家に戻って昼食のあと。応接室で。
「よし、プレアリングを作るトプ」
スキルを使うには、やはりサイ妖精の姿でないとすっきりしない。
人間型でもできない訳じゃないけど。
三人の少女、特にシズクの期待に満ちた視線を受けて、ボクは伊達メガネをクイッと上にあげて気合を入れる。
エレメントオルゴールを開けて、スキル【プレアリング作成】を行う。
シズクが適合者になるように念じて。
「……んっ? ……おかしいトプ?」
「どうしましたか」
エレメントオルゴールが全く反応しない。まずい。
もう一度気合を入れ直して伊達メガネを上げて念じる。
心の中で「ぷれあっ! りーんぐっ! さーっくせぇーいっ!!」と叫ぶ。
が反応なし。背中から嫌な汗が流れる。
「……できないトプ」
ぽつんと呟くボク。
「え~っ! どうしてですか! 酷いですわ! どうしてそんな意地悪をするんですか!」
「……いや、こんな事態は初めてで理由がわからないトプ」
原因として考えられるのは……、シズクには適合者になる資格がないのに、それを希望して念じたために作成できなかったと……、それはシズクが可哀そうすぎる。
それでは、シズク用になんて邪念(?)を捨てて改めて【プレアリング作成】をしてみるが――やっぱりできない。エレメントオルゴールは沈黙している。
何故だ――わからない。ならば……。
……この件は少し棚に上げて、別の用事を済ませよう。
「さて、この件は少し棚に上げて、別の用事を済ませるトプ」
「わ、私のプレアリングは……」
泣きそうな顔のシズク。
可哀そうだが返事は決まっている。
「後回しトプ」
ボクはすかさず話題を変える。
「――明日も闇の存在は懲りずに来ると考えた方がいいトプ。それでも昨日の滅亡宣告の状態からはかなり改善できていると思うトプ。リルプレアが二人になったからトプ」
カエンとコユキに顔を向ける。
決してシズクの表情を見たくないからではない、と自分に言い訳する。
二人も力強く頷いてくれる。シズクを気遣いながら。
「それで、トウモトの町の人に情報を少し伝えようと思うトプ」
三人の少女にボクの考えを話す。
リルプレアの存在を認めてもらおう。
町のみんなに希望を持ってもらおう。
昨日は滅亡宣言が回避できたというだけで町のみんなは安心しただろう。
そして今日も無事に闇の存在を光に還した。
けれども恐らく町の人達はこれからどうなるのだろうと再び不安になってくると思う。
その状況は闇の存在の利になってしまう。
闇の存在は封印した人から幸福を奪うだけではない。
それ以外の人の持つ絶望や不安も糧とするから。
その状況を避けたい。みんなに希望を持ってもらいたい。
ボクは町の人に話す内容を説明する。
リルプレアという魔法戦乙女が闇の存在に一生懸命に対抗している。
彼女達もギリギリで戦っているので決して邪魔をしないで欲しい。
そして可能性は高くないけれども、封印された人が元に戻る手段がある。
みんなに希望を持ってもらって少しずつでも前向きに町を復興させていってほしい。
「――もちろん、リルプレアが誰なのかは秘密にするトプ」
闇の存在を倒したナゾの美少女がボク達の前に現れて話しかけてきた。
大人達に状況を説明して欲しいと頼んできたという設定で話をしようと伝える。
カエンとコユキはボクの提案に同意してくれた。
その頃にはシズクも真面目な顔で聞いていて提案に賛成してくれた。
「それでは、避難所に行くトプ」
そこへ、カエンが少しだけ固い笑顔で話しかけてきた。
「ムトップ、あたしはちょっとやることがあるから……ひとりで出かけていいかな?」
「ボクはいいトプ……、シズクもコユキもいいトプ?」
「ん……」
「カエンはこの家に戻ってくるのですよね」
「もちろん。ここがあたしの帰る家なんだから……って、それは図々しかったかな?」
「いいえ、ここはもうカエンの帰る家ですわ。ちゃんと夕飯までは帰ってきてください」
「わかった! じゃあ行ってきます!」
シズクは優しい。自分の傷心を忘れてカエンに気遣いの言葉を掛けている。
うぅ、心が痛い。
カエンが出ていくのを見送った後、ボク達も家を出て避難所に向かう。
◇ ◆ ◇
午後の時間帯。人のいない通りを避難所になっている学校に向かって三人で歩いている。
ボクの姿は人間型。
プレアリングの件について少しは落ち着いたかとシズクに謝る。
「さっきはすみませんでした。ボクは確実にシズクが次のリルプレアになるのだと思ってたのですが……。期待させるような話をしてしまってすみません」
「いえ……、いいんですわ……、それでも私には回復魔法があって、みんなの力になれるのですから。だから、これからも協力させてもらえれば十分ですわ」
「はい、ボクの方こそよろしくお願いします」
落ち込んだシズクの表情が胸に刺さる。
しかし、なぜプレアリングが出来なかったのか、それがわからない。
エレメントオルゴールは魔法アイテムで、ボクの関与できない機能もある。
リルプレアに恩恵を与える能力。それは神の采配が関与してボクには制御できない。
そのあたりが影響しているのだろうけれど……、いや後で落ち着いて考えよう。
シズクには申し訳ないけど、これ以上期待させて裏切るなんてできないから。
この件は慎重に考えた方が良い。
話を変えよう。ボクは以前考えていた話を持ち出す。
「別の話なのですが……、少し尋ねるのに躊躇う話なんですが、封印されたシズクとコユキのお母さんは……今どうしているのでしょうか」
「いま、母は家の近くのどこかにあの封印された姿でいる筈ですわ。家に連れて帰りたいのですが、どの姿が母なのかわからないので……」
ボクの言葉にシズクとコユキの二人姉妹は心が揺れたのか目を見開いてから悲しい表情に変わる。その話は以前聞いていたから、改めて慎重に言葉を選んで尋ねたのだ。だからボクは姉妹の悲しみに返答を用意していた。
「そうですか。――ではボクの能力で二人のお母さんがわかりますので、避難所で話し終わったら探して連れて帰りましょう」
「本当ですか!?」
それでも微妙な話なので、もしかしたら更なる悲しみを与えてしまうかも、怒りを受けてしまうかもと恐れはあったが杞憂に終わった。
シズクの顔に希望が浮かぶ。妹のコユキの表情にも期待の色が見える。
喜んでもらえたようだ。話をして良かった。
「はい、前に説明したボクの能力【ステータス鑑定】で見ると、あの姿でも名前がわかります。お母さんの名前を教えてくれれば探せる筈です」
「ぜひ、お願いしますわ!」
シズクに笑顔が戻った。いまのボクにはこれくらいしかできない。
コユキも小さく笑っている。