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第05話:あの子がリルプレアに?二人目はリルアイス!(2)

 新キャラの挿絵(アニメーションGIF)を挿入しました。

 動いて見えるでしょうか?

 シズクの家を後にして彼女の先導で避難所に向かう。


 その道の途中も時間を惜しんで、この世界の事情についてシズクに尋ねた。

 地球とは異なる点。それは「魔物」と「魔法」の存在。


 この世界には魔物と呼ばれる生物がいて、魔族と魔獣に分けられている。人型で知性があるのが魔族で、それ以外の動物や植物に似た姿をしているのが魔獣と呼ばれているが、その境界は曖昧な部分がある。


 魔物は人にだけ敵愾心を持って襲いかかってくる存在で、人以外の生物には基本的には関心を持たない。そして魔物を倒すと魔石という魔法物質を残して消滅する。この魔石という物質の在りようは闇の存在のエレメントと酷似している。


 魔石は重要な魔法資源として利用されていて、魔物退治をして魔石の収集を生業にしている者達があの「冒険者」と言う職業だそうだ。魔物を退治すると少しずつ人としての能力が強化されるので、冒険者は普通の人と比べて優れた能力を持つらしい。


 説明を聞いた限りでは、この世界にいる魔族は、地球の闇の存在とほぼ同類と見て間違いではないと思う。現に彼女達は、魔王やあのゲンメツンとドンテシターを魔族と思っている。


 そして魔法。

 魔法は一般的に認知されていて、才能のある一部の人間と一部の魔物だけが使える。この世界の魔法は妖精のボクが知っている魔法と大きな違いはなかった。ボクが唯一持つ雷魔法の【サンダーショット】をシズクに見せたら知識としては持っていたようだ。カエンは目を丸くしていた。ボクはシズクの回復魔法を知っていたし、シズクも雷魔法を知っていた。


 この世界の魔物と闇の存在との類似点、

 この世界で一般的に認知されている魔法と、元の世界の「魔法の国」の魔法との類似点。

 何かの繋がりがあるのだろう。けれども今は世界の成り立ちに思いを巡らすよりも、目先の心配事を片付けないと……そう考えている内に、避難所の前に到着した。


 避難所の入口の前で二人の少女に釘を刺す。


「リルプレアの正体は秘密にしましょう」

「なぜですか?」

「正体を知られると必ず面倒な話に巻き込まれます。過度の期待をされたり、妬まれたり。これはいままで地球でリルプレアの活躍を見てきた経験です。……あっ、念のためですがボクの正体も秘密です。いいですか?」

「うん!」

「わかりましたわ」

「そうですね。今日はもう闇の存在がいなくなったと説明して安心してもらいましょう。追い払ったのはナゾの美少女。ボク達は偶然それを見かけた。ボクはシズクの友達という設定で」


 避難所はトウモトの町で唯一の学校だった建物。


 日本の学校のように校庭などなく、4階建てのレンガ造りの建物で普段であれば数百人の子供が楽しく勉強に励んでいる筈の校舎は、諦めの表情を浮かべた大人と、口をへの字に結んで大人しくしている子供の姿を見かけるだけだった。


 ボク達三人は玄関に近い教室に入って、話をするのに良さそうな大人を探す。

 そしてその部屋で、子供の世話をしていた男性に広場にいた闇の存在がいなくなったと伝える。男性は大声でその報告の真偽を訪ねてきたので「本当です。この目で見ましたから」と自信を持って返事をした。


 その報告に涙を流して喜びを見せる住民たち。


 それはそうだろう。今日の絶滅宣言が無くなったのだから。


 何人かの大人たちが大慌てで避難所から外に出て行った。広場を確認しに行ったか他の大人たちに連絡しに行ったのだと思う。

 近くにいた責任者っぽい二十歳くらいの男性。髪の毛が乱れている。見るからに疲れた顔にようやく笑みを浮かべてボクに話しかけてきた。


「なぜ奴等はいなくなったんだい?」

「突然現れた見眼麗しい美少女が物凄く強くて、奴らをあっという間に倒してしまいました。その美少女はボク達に優しく微笑んで黙って去っていきました」


 後ろで「いやいやそれほどでも……」と小さな声がするので振り返ると、両目を「~」の形にしてニヤニヤしているカエンがいた。見なかったことにする。


「そうなのか……、でも奴らまた来るんじゃないか」

「すみません、ボク達にはわかりません」


 やはりその点は気になるのだろうが、まだ明日がどうなるかなんてわからないから、そのまま正直に答えるしかない。


「あぁ、そうだよな。悪い」


 その男性は話はこれで終わりと軽く手を上げた。

 ボク達はその男性に挨拶をしてその場を離れ、目的のプレアリングに反応する少女を探すため子供たちの間を歩いて回る。

 幾つかの教室を回って見つけた少女は数十人に上るが、青いプレアリングは誰にも反応しなかった。


 ついでに、視界に入った全ての人に【ステータス鑑定】をする。結果として特に目立った能力のある人はいなかった。能力値は大人は2、子供は1の羅列ばかりだ。

 カエンとシズクの幸運度が飛び抜けて高いのが良くわかる。


「シズクお姉ちゃん……」


 シズクに声がかかる。声を掛けたのはシズクに似た顔の少女。ふわりとしたセミショートの青い髪。薄い水色のワンピースを着ている。


「コユキ。ひとりで大丈夫だった?」


 小さく頷いたコユキと呼ばれた少女。背の高さはシズクより低く、人間体のボクよりは大きい。その身に似つかわしくない立派なサーベルを胸に抱きかかえている。

 シズクが青い髪の少女を紹介する。


「妹のコユキです。抱えている剣は亡くなった父の形見で……」

「あたしはカエン! 今日シズクの友達になりました。 コユキちゃんも友達になってね!」

「ボクはムトップといいます」


 シズクの妹――コユキは人見知りをするのか、声を出さずに小さく目礼をする。

 この少女がシズクが避難所にいると言っていた妹か。


 カエンは顔を左右に振りながら笑顔でその少女を見ている。


 姉のシズクを少し幼くした感じのすっきりした面差しの可愛らしい和風少女。瞳の色も同じ黒に近い濃い青で、口元は本当にそっくり。ただ姉の眼は少し垂れているが、コユキは目じりが上がっていて少しだけ気が強そうな印象を受ける。


 ――【ステータス鑑定】

 名前:コユキ・ミストリブ 種族:人間 性別:女性 年齢:12歳

 職業:なし

 HP    7/   7 (現在値/最大値)

 MP    0/   0 (現在値/最大値)

 物理攻撃力   2

 物理防御力   1

 魔法行使力   1

 魔法防御力   1

 器用値     1

 敏捷値     2

 幸運度    14

 移動力     3

 跳躍力     1

 スキル    なし


 幸運度が14.そんなに高くないな……。いやいや十分に高い。普通の人は2だからね。

 シズク姉妹には家系的な何かがあるのか? 


 その後はコユキも後ろについてきて、他の教室の子供もみんなで見て回ったが、結局青いプレアリングに適合者はいなかった。


 こういう時こそボクの幸運度の高さが役立って欲しいのだが、そうもいかないようだ。いやシズク、カエン、コユキと驚異的に幸運度の高い集団が一緒じゃないか。それでもダメなのか。


 仕方がない。既に今日はカエンというリルプレアを見つけて、更に彼女に戦う意思まで見せてもらっている。これ以上望むのは運命に対して厚かましい願いなんだと納得しておこう。


 考え込んでいるボクの姿を見て、シズクとカエンが心配そうにボクの顔を見る。

 気を遣わせてしまったか。二人に笑顔を見せて仕事の終わりを告げる。


「今日はこれで終わりにしましょう。どうしますか。ボクはできればシズクの家にお世話になりたいのですが。そしてカエンも一緒がいいのですが……?」

「はい、そうしましょう。コユキも一緒でいいですか?」


 リルプレアの秘密について気を回したのか、念のためにとシズクが妹のコユキの同行を確認する。コユキが姉の腰にしがみつく。

 それに対する答えは決まっている。


「もちろんです。コユキの家ですから。ボクがお邪魔する方です」

「あたしもそれがいい! みんな一緒にシズクの家に泊まろう!」


 ◇ ◆ ◇


 ボク達が避難所を出ると空には夕焼けが広がっていた。

 大人たちが笑顔で通りを歩いている。聞こえてくる喜びの声。


「おい、広場の魔王の手下どもがいなくなっていたぞ。今日の襲撃は無くなったそうだ」


 とりあえず今日の悲劇は回避できた。それでも明日また闇の存在が現れるだろう。

 ボクは隣にいるカエンの顔を見る。

 カエンはボクの顔を見てニカッと笑って親指を上にして拳を出してきた。

 ボクもそれに答えて同じ所作を返す。


 ◇ ◆ ◇


 シズクの家に戻って、今度は食堂に通された。

 明るい配色の家具が選ばれていて団欒の場所として使われていたのがわかる。


 避難所から出るときに全員分のパンを渡されたので、「スープを作りますわ」とシズクがキッチンに入って、「あたしも手伝う」とカエンも付いて行き、食堂にはボクとコユキが残された。

 コユキは避難所から今まで片時も離さず形見のサーベルを抱えている。


「そのサーベル、いつも持っているのですね」

「……んっ」

「鞘が外れたりしたら危なくないですか?」

「……大丈夫」

「そうですか」

「……剣の練習もしてる」


挿絵(By みてみん)

 <挿絵「コユキのサーベル練習中」>


「コユキはそのサーベルをちゃんと使えますわ。ずっと持っているのは形見だからじゃなくてみんなを守るために、何時でも戦えるようにと持っているんですわ」


 キッチンで話を聞いていた姉のシズクが言葉をはさんできた。

 そう言えば、スキルには何もなかったけれど、12歳の女の子が小さな身体で物理攻撃力2と大人並みだったのは、それが原因か。


「そうなんですか。コユキは戦う少女なんですね」

「……そう」


 微笑ましくなって、コユキに笑顔を見せる。

 褒められて恥ずかしいのだろう。青い髪の少女の頬が少しだけ赤くなる。


 その後もコユキと他愛のない話をしている間に、シズク、カエン合作のスープができあがったので皆で夕食にする。スープはジャガイモと野菜たっぷりのコンソメスープ。正直に言って美味しいと思った。


 この場ではコユキがいるので、リルプレアに関する話はできない。

 それで気になっていたこの世界の常識を尋ねる。

 コユキには念のためにボクは世間知らずの子供という説明をしておいた。


 まずは文化レベル。

 乗り物は馬車か魔獣車。動力が発達していないらしい。

 火薬はないようだ。火魔法で代用が可能だから研究されていないのだと推察する。

 しかし銃は風魔法を使った似たような武器があるらしい。

 活版印刷は利用されていて、この家にも印刷された本がある。

 船は帆船。魔法石を使って推進できる船もある。


 この魔法石とは魔石を加工して作る魔法アイテムで、用途に合わせた魔法を使用者の意志に従って発動するように加工されている。使い捨ての物と充填式の物があり、後者は魔力がある人間なら誰でも補給できるようだ。


 それにしてもシズクは知識がある。

 しかしボクの隣でカエンまで「フムフム」と感心して聞いているのは何故だ。


「ムトップのいた世界にはダンジョンはなかったのですね」


 ダンジョンとは魔物が徘徊する構造物で一般的に階層構造をしている。


 これだけ聞いてボクは元の世界のテレビゲームを思い出した。

 ボクの【ステータス鑑定】の参考にしたゲーム。その中にダンジョンという区域があった。

 ゲームのキャラクターが、その中にいる敵を倒して経験値とかお金とかアイテムとかを手に入れる。キャラクターに経験値が貯まるとレベルアップして能力が上がる。


 それをイメージしてシズクの話を聞いていたら、ほとんど同じものだった。


 確かに魔物の話の時に、魔物を倒すと少しずつだが能力が上がると聞いた。そして魔石を集めるのが冒険者で、彼らは普通の人と比べて優れた能力を持っていると説明を受けた。

 しかし何故そんなうまい具合にダンジョンなんて人為的に作ったとしか思えない構造物があるのだろうか。その理由は知らないとシズクは答えた。


 この世界にある普遍的な謎のひとつだと考え、これ以上は追及するのを止めた。


 この世界には幾つものダンジョンがある。

 魔王ドノタウガに支配されてしまった「トウ草原のダンジョン」は、以前はあまり強い魔物は出現しないので初級から中級の冒険者用として使われていた。このトウモトの町は、トウ草原のダンジョンを利用する冒険者の拠点として人を集めた町だから、当然この町の冒険者は初級から中級レベル。


 したがって魔王の手下に戦いを挑んだのも中級より下のレベルの冒険者だったようだ。あのドンテシターと同レベルの冒険者が中級レベルなのだろう。


 聞きたかった話が終わった頃には全員の食事も終わっていて、コユキは眠そうな目をしている。


「コユキ、シャワーを浴びてから寝なさい。――ムトップとカエンもその後にどうぞ」

「えっ! いいの!?」

「はい。この家の普段の魔法石充填は私の仕事ですから」


 お湯が出るシャワーには水の魔法石と火の魔法石を使っている。その魔法石に魔力を充填する仕事をシズクがやるので、特に費用はかからないという説明だった。

 カエンが目を輝かせている。温かいシャワーは上流家庭でなければないらしい。


 そして順番にシャワーを浴びてから、コユキを先に寝かせる。

 ボクは三頭身のサイ妖精に戻って、明日からの方針を三人で話をする。


 闇の存在が現れたらカエンが変身して戦う。

 シズクも回復魔法があるので手伝って欲しい。


 カエンもシズクも当然のように了承するので、ボクは無理だけはしないで欲しいと念を押して話を終わらせる。


 姉妹二人は一緒の部屋で就寝した。

 ボクはソファで寝ようとしたら、カエンが「コユキに姿を見られたらどうするの」と言ってシズクの用意してくれた部屋に連れて行かれて、一緒のベッドで寝なければならなくなった。


「カエン……、ありがとうトプ」

「ん? ……どういたしまして、ムトップ……あたしの方こそ……ありがとう」

「おやすみトプ」

「おやすみ……」


 今日の午前中が、妖精学校の卒業式。

 そして今夜は、異世界でリルプレアに選ばれた少女と一緒に眠りにつく。


 これが今日一日の出来事なんだと思うと先が思いやられるけど……。

 ――それでもやっぱり明日も頑張ろう。


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