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第04話:あの子がリルプレアに?二人目はリルアイス!(1)

 魔王の側仕え――黒髪の少女ビスクは撤退してくれたようだ。

 色々と尋ねたかったとも思うが、ボクとしては時間が稼げる結果となって非常に有り難い。


「ねぇ、あなたって何? 妖精? 初めて見るんだけど? それでリルプレアって何? あたしはこれからもリルプレアになっていいのかな? この力があれば皆を元に戻せるかな?」


 変身を解いたリルフレイム――カエンはボクに改めて質問してくる。

 しかし今は少し待ってほしい。と言うよりちょっと……うざい……かな?


 ボクがこの世界に来てから、まだそれほど時間が経っていない。

 だというのに展開が速すぎて状況を整理してからでなければ身動きが取れない。

 落ち着いて話をしようとシズクに持ちかける。


「シズク、恐らくだけど、今日のこの町の襲撃は無くなったと見ていいかと思うトプ」

「はい……、あのビスクと言う少女の話を信じれば今日は引き上げると……」


「それで、少なくとも今日一日の猶予ができたから、今まで急いでいた分、無視したり後回しにした話をゆっくりと……とは言えないまでも詳しく話したいトプ。一旦シズクの家に戻るということでいいトプ?」


「はい、そうしましょう……。私も聞かせていただきたいお話がたくさんありますから……。その上で改めて私の罪を償う方法を考えさせていただきますわ……」


 その件も決着がついてなかったか。それも落ち着いて話をするとして……。

 取りあえず一言だけ伝えておこう。


「……シズクには今のところは何の罪もないと思うトプ」

「そのお話は、また後ほど……」


「まぁ、いいトプ。……カエン、君にもいろいろと説明をしたいトプ。これからシズクの家で説明するトプ。ついてくるトプ」

「なんか、あたしの扱いが良くない気がするんだけど?」

「気のせいトプ」


 ――ふと思い立ち、気がかりな点を尋ねてみる。


「先にひとつ話があるトプ……ボクのような妖精の姿は珍しいトプ?」

「はい……、妖精というモノはいますし、場所によっては見かけるようですが……、ムトップさんのような姿の妖精はあまりいないかと……。そうでなくても町中では妖精は姿を現さないですわ」

「わかったトプ……、町中では妖精とわからないようにするトプ」

「と言うと?」


 スキル【肉体変化】レベル1を発動する。

 ブワッ……と、ボクの身体が白い煙に包まれる。

 煙が晴れる頃には肉体の変化は終了。二人の少女にボクの人間体を披露する。


「こういうことです」


 人間体の時はセリフに「トプ」を付けないのは妖精としての矜持。

 小さな伊達メガネをかけて三角帽子とローブ姿の少年。シズクより少し身長が低い。

 ボクを見たカエンの顔に笑みが浮かぶ。シズクも口の端が緩んでいる。

 いきなり人型に変身した三頭身のサイの妖精に驚きもしない。


「か、可愛い……」

「そ、そうですわね……」

「一日中この姿は大変ですので周りの目がない時は元の姿に戻ります。……なお蛇足ですが、あとひとつ変身を残しています」


 スキル【肉体変化】レベル2――体長4m弱のサイの姿が残っている。


「では、行きましょう」


 ◇ ◆ ◇


 シズクの家に戻る最中に今日までの経緯を聞いた。

 7日前に突然、魔王ドノタウガの部下を名乗る3人がこのトウモトの町の広場に現れて、近くにある難易度の低いダンジョン「トウ草原のダンジョン」を支配したと宣告した。

 そして「この町の住民から希望を奪って我々の糧にするから素直に受け入れるように」と命令をしてきた。その中の一人が先程のビスクだったそうだ。


 そんな要求に従えないと戦いを挑んだ冒険者達を次々に封印して、あの白い人型看板にしてしまった。一旦いなくなったドノタウガの部下たちは、その後毎日攻めてきて地区ごとに住民を封印していった。


 そしてついに昨日の夕方、少なくなった住民に対して「明日の日没後に最後に残った奴らをひとり残らずまとめて封印するから、それまで絶望を味わえ」と宣言。

 今朝になって再び現れた闇の存在が大きな顔をして広場を陣取り、日没後にこの街は全滅するはずだった。


 話の中に出てきた単語「ダンジョン」と「冒険者」

 ダンジョンはなんとなくわかるが詳しく聞いておきたい。冒険者は【ステータス鑑定】した封印された人が持っていた職業だ。能力値が高く技能とスキルを持っていた。

 説明してもらおうと思ったけれど、その時にシズクの家に到着した。急ぎの話でもないので後回しにする。


 ◇ ◆ ◇


 シズクの屋敷では、先程の召喚陣模様のある地下室ではなく、玄関の横にある応接室に通される。カエンが物珍しそうに屋敷の中を見ている。


 部屋の中の調度品は派手な装飾がなく、落ち着いた雰囲気のある趣味の良い家具が選ばれていて居心地が良い。屋敷に応接室があることからも、そしてこの部屋の様子からも、シズクはそれなりの家柄のお嬢様なのだろう。


 ボクとシズクとカエンの三人は、ゆったりしたソファに座ってそれぞれの事情を話し始める。


「まずはボクが話すトプ」


 既に三頭身のサイの姿に戻ったボクが話の口火を切る。ソファに座ると足が床に届かない。

 カエンとシズクが残念そうな顔をしているのは何故だろう。


「ボクはここではない別の世界の妖精トプ……」


 ――ボクは伊達メガネをクイッと上げて二人の少女に説明する

 人間が住む地上と妖精が住む魔法の国。

 地上を征服しようとする闇の存在。

 闇の存在を光に還す力を持つ少女達――リルプレア。

 リルプレアになれる少女を探して支援する妖精達。


「――そしてボクは今日任地に転送されるはずだったトプ」


 シズクの顔に影が落ちる。カエンは真剣な顔で話を聞いている。


「転送される直前、立ち会った魔法の国の女王様が何かを伝えるような視線をボクに送ったトプ」


 ――シズクに説明する。

 ボクの能力――スキル【言語認識】と【ステータス鑑定】と【危険察知】

 【言語認識】でシズクの言葉はすぐに理解できた。

 【ステータス鑑定】でシズクに召喚術がないと知っている。

 【危険察知】で地下室の召喚陣にはパワーを感じない。

 そして【危険察知】で近くの闇の存在に気づいていた。


「――だからシズクがボクを召喚できた筈がないトプ。この世界への転送にシズクは全く関係ないトプ。ボクの知らない計画でこの地下室に転送されただけだから、シズクには何の罪もないと言っているトプ」


 ボクはシズクに向けて断言する。

 水色の髪の少女は驚いた顔でボクの顔を見つめる。


「謝るトプ。もっと早く説明したかったけれどボクも事態を把握するのに時間がかかったトプ。少なくとも外の様子を確認するまでは全てが半信半疑だったトプ。そして察知していた闇の存在をどうにかするのが最優先だったトプ。ごめんトプ」


「……そうだったのですね。わかりました。安心しましたわ。――いえ、ムトップさんも謝る必要はありません。お互い誰かの計画に巻き込まれたという話なのですね」


「そうトプ。けれども、その計画は決して悪意からではないのも確かトプ。この世界を闇の存在から救うためだけを望んだ選択だと思うトプ。――だから、ボクはボクの意志でこの計画に乗ってこの世界で闇の存在と戦うと、この世界のリルプレアを支えていくと決めたトプ」


 リルプレアに選ばれた少女――隣に座っているカエンを見て、ボクは二人に決意を語る。

 ソファから身を乗り出したカエンは、ボクの眼を見て力強く頷く。

 シズクはやっと瞳に希望を浮かべて少女らしい笑顔を見せる。


「じゃあ、次はシズクの話を聞きたいトプ」

「はい、とはいえ何から話せば……」

「シズクの家族はどうしているトプ?」

「はい、……私の父は既に三年前に他界しています。母は三日前に魔法の手下に封印されてしまいました。その後は二歳下の妹と一緒に避難所に行きました。今朝召喚の義のために私ひとりでこの家に戻って、妹は避難所で他の人と一緒にいますわ」


 封印された母親と避難所にいる妹の話は既に一度聞いていたのを思い出した。町を歩いて封印された人の話を聞いていた時に。


「避難所には皆が集まっているトプ?」

「いえ、そこは親のいなくなった子供達が集まっていて、大人の人は子供の世話をする人だけがいますわ」

「それならリルプレアになれる少女を探すには好都合トプ」

「はい……。ムトップさん、――私はリルプレアになれないのでしょうか?」


 シズクが真剣な目で体を前に乗り出して尋ねてくる。

 ボクは残っているもうひとつのプレアリングを、背負ったリュックから取り出す。

 青色をしたプレアリングは静かに手の中にあり何の反応も示していない。


「カエンに渡したのとは別のプレアリングトプ。今持っているのはこれが最後トプ。残念だけれどシズクには反応していないトプ」

「……そうですか」

「闇の存在を光に還した時に現れた光る玉――エレメントが集まれば新しくプレアリングを作れるトプ。だから可能性がないわけじゃないけれど……、あまり期待しすぎるのもよくないトプ」

「……わかりましたわ」


「それでシズクはなぜ勇者召喚をしようとしたトプ?」

「それは昨晩、夢の中に神々しさを感じさせる女性が現れて、このトウモトの町を救うにはこの方法しかないと真剣な表情でお願いされて……。もしかしたら夢ではなく、どこか別の場所に連れていかれたのではないかと、そんな気もしています」


 神々しさを感じさせる女性――その人物がこの世界側の鍵となる人物なのだろう。

 シズクは話を続ける。


「――既にその時には魔王の手下から、今日の日没後に全員の封印が宣告されていましたから、藁にもすがる思いで、今朝から準備してずっと祈りを捧げていました……」


 話の途中でシズクが何かを思いついて顔を明るくする。


「――でも結局ムトップさんが現れたということは、勇者召喚は成功したと言えますよね。そうですわ!」

「ボクは勇者じゃないトプ。そんな力はないトプ」


「でもこうして今日は町の全滅が免れましたし、これからだってカエンさんがいて、それに新しいリルプレアさんが現れればと希望が持てますわ。それができるムトップさんはやっぱり勇者ですわ!」

「そうだよね! あたしに力をくれたムトップは勇者だよね。力はなくたって色々な能力を持っているし!」

「ボクは妖精トプ! 勇者にはなれないトプ!」

「……ご、ごめんなさい」

「……ごめん」


 ボクは勇者にはなれない。そんな力はない。カエンとシズクのボクを褒める言葉は単なる思い違いでしかない。少し余計な感情が溢れてしまって言葉がきつくなってしまった。

 そうじゃない。本当の勇者はカエンとシズクなのに。


「いや、怒った訳じゃないトプ。でも断罪される覚悟で勇者召喚をしたシズクの姿や、敵う筈も無いのに魔王の手下に向かっていったカエンの姿を思えば、ボクが勇者と言われるのは決まりが悪いトプ」

「……わかりました」

「……はい!」


 良かった。わかって貰えたようだ。

 そのついでに少し気になっていた点を注意しておこう。シズクはもうボクに気兼ねする必要はないのだから、敬称を付けて呼ぶのを止めてもらわねば。これから一緒にやっていく仲間なんだから。


「それと、シズクはボクを『さん』づけで呼ぶのは止めて欲しいトプ」

「えっ、それは……」

「カエンはいきなり呼び捨てトプ。それでいいトプ」


「そうだよ! ムトップはムトップ。ムトップさんなんて呼んだら逆に悪いよ! それにあたしのこともカエンって呼んでね! よろしく!」

「はい……ムトップ……カエン……」

「それでいいトプ」

「はい! シズク!」


「それじゃあ、次はカエンの話を聞くトプ」

「あたしは、この町の『ユニコーンの子供達』っていう孤児院の子供なの。二日前にあたし以外の全員があの闇の何とかにやられちゃって……、一応わかる分の先生や仲間の白い看板を家の中に入れてから、今日何とかしてやろうと広場に行って、そしてムトップたちに会ったっていう訳なのよ」


 カエンが自分の素性をあっけらかんと話し出す。明るい声で悲しい話をする。

 白い看板をひとりで泣きながら孤児院に運んだカエンの姿が目に浮かぶ。


 シズクも母親を封印されている。


 そんな彼女達に一縷の望みを話しておこうと考えた。冷静に話ができるこの時に、期待させすぎないように慎重に、絶望しないように言葉を選んで。


「これはボクの元いた世界での話だと最初に断わっておくトプ。……ボクの元いた世界では封印された人々は封印した闇の存在を光に還せば元に戻るトプ……」

「本当に!?」

「……本当ですか?」


「そうトプ。ただ封印されてすぐにその闇の存在を倒したのならその場で封印は解除するけれども、しばらくするとその上の存在を倒さなければならなくなるトプ。多分幸福を奪う権利みたいなのが上の存在に移ってしまうからだと思うトプ」

「だとすれば……」


「もう一度言うけれども、これはボクのいた世界での話トプ。それがこの世界でも同じだとすれば、……魔王ドノタウガを光に還せば皆の封印が解けるトプ」

「あたしはやる! 魔王を倒す!」

「私もお手伝いしますわ!」


 小さな罪悪感が胸を刺す。

 話した内容は嘘ではない。そして魔王を、闇の存在を光に還す役目は誰かが負わなければならない。だから彼女達のやる気に満ちた決意は望ましいのだけれど、そんなつもりで話をしていなかったボクは少しだけ心を痛める。

 それでもボクは言う。


「みんなで頑張るトプ!」


 ボクの心の痛みなどは放っておいて、次にやるべきなのは……。


「まだまだ知りたい事は多いけれど、そんなにゆっくりしていられないトプ。とりあえずお互いの事情がわかったから、次の行動に移るトプ」


 ボクは足のつかないソファから飛び降り、スキル【肉体変化】レベル1を発動する。

 人間体になって、二人の少女に告げる。


「もう一人のリルプレアを探しに、子供達の集まっている避難所に行きましょう」


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