第03話:進撃の魔法戦乙女!リルフレイム誕生!(3)
――【ステータス鑑定】
名前:リルフレイム 種族:進撃の魔法戦乙女 性別:女性 年齢:14歳
職業:剣士
HP 234/ 234 (現在値/最大値)
MP 120/ 120 (現在値/最大値)
物理攻撃力 60
物理防御力 42
魔法行使力 30
魔法防御力 30
器用値 24
敏捷値 30
幸運度 30
移動力 30
跳躍力 24
スキル
【剣術】レベル1
【火魔法】レベル1
固有スキル
【フレイムスラッシュ】
技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)
【ファイヤーボール(火魔法レベル1)】
【爆裂剣(剣術レベル1/火魔法レベル1)】
闇の存在と戦う者――魔法戦乙女リルプレア。
そこに新たな戦士がたった今生まれた。
進撃の魔法戦乙女を冠した赤い髪の少女――それはカエンが変身した姿。
その名はリルフレイム。
火魔法を得意とした高い攻撃力を持つ魔法剣士。
「君はいま闇を消し去り希望の光をもたらす者『リルプレア』に変身したトプ。大丈夫、その力を使って闇の存在を光に還すトプ!」
「んっ……、わかった!」
赤い髪の少女リルフレイムは力強く頷く。
そして広場に戻り、闇の存在をしっかり見据えて両手で持った剣を構える。
赤い髪の少女は敵に向かって走り出す。その速さは遠くからでも目で追えないほど。
一瞬で黒タイツのザコ敵の中に飛び込み大きな剣を一閃。空中に吹き飛ぶ闇の手下達。
「ドンッ」「テシ!」「タ〜?」
両足を広げ剣を振り抜いた姿勢でその場に立つリルフレイム。真っ赤なフレアスカートが静かにたなびいている。
自分の発揮した力に、たった今気づいたかのように彼女は目を丸くする。
「うわっ、なにこの力……?」
「油断しちゃだめトプ!」
戦闘中に素に戻ったリルフレイムを一喝する。
その姿に飛び掛かる数体の黒い影。
闇の手下ドンテシターは己の肉体を武器にして声も出さずに襲い掛かる。
拳、蹴り、手刀、ヒザ、ヒジ、頭突き。集団の攻撃がリルフレイムの身体を覆い隠す。
「あぁ!」
敵の攻撃をまともにくらったリルフレイムの姿を見て、シズクが思わず叫び声をあげる。
しかし次の瞬間、黒タイツたちは爆散するように四方に吹き飛んでいく。
「ドンッ」「テシ!」「タ〜?」
その場に残っているのは、両手剣を打ち振るった姿勢で立つ無傷の少女。
「魔王の手下を、あんなにも簡単に……」
「あれがリルプレアの強さトプ」
目の前の光景に驚きを隠せないシズクにボクが答える。
何度も集団で襲い掛かるドンテシター。武器を持たない黒タイツ達は、その肉体だけで赤い髪の少女を打倒しようと、拳を振り上げ躊躇いなく体当たりをしてくる。
しかしリルフレイムは集団の圧力など歯牙にもかけず大きく両手剣を振り抜く。
はた目から見ると、ドンテシター達が自分から剣の攻撃に当たりに行って、勝手に吹き飛んでいくように見える。彼女の一振り毎に数体の黒タイツがまとめて宙を舞う。
恐れをなしたドンテシターが離れたところで怯えている。
「熱き炎よ!【ファイヤーボール】!」
リルフレイムは己の持つ火魔法【ファイヤーボール】を発動した。
正面に向けた左手の平に拳大の炎の塊が生まれ目標に向かって放たれる。
燃え盛る炎が逃げ惑う闇の手下を吹き飛ばす。
そして全てのザコ敵達が「ドンッ」「テシ!」「タ〜?」と最期の言葉だけを残して、光の粒子となって空に還っていく。
ドンテシターが全滅して怒り狂う巨大なクマのぬいぐるみ――ゲンメツン。
黒タイツを一掃して気を抜いたリルフレイムに猛然とした勢いで接近し右腕を振り上げる。
「ゲ〜ンメツッ!」
「リルフレイム! 危ないですわ!」
「何をしているトプ!」
リルフレイムを襲う巨体の右腕の振り下ろし攻撃。
標的となった少女はその攻撃をギリギリで察知し、前腕の手甲でガードする。
ガシッッッ!!
ゲンメツンの攻撃はザコ敵とは比較ならないほど強烈だった。
苦悶の表情を浮かべるリルフレイム。
己の攻撃の威力に満足した笑みを浮かべて、右腕を引き戻すクマのぬいぐるみ。
続けて左腕が風切り音を鳴らしながら少女の正面を打つ。
迫りくる巨大なぬいぐるみの拳をガードするリルフレイム。
「ぐっ……!」
ズザザザザッッッ!!
金属ブーツが地面を削り、そのままの態勢で数メートル後方に弾き飛ばされる。
赤いリボンとフレアスカートが衝撃で激しく揺れている。
追撃をするゲンメツン。左右の腕で何度も繰り返し攻撃する。
「ゲ〜ンメツッ! ゲ〜ンメツッ! ゲ〜ンメツッ! ゲ〜ンメツッ! ……」
「ぐっ! ぐっ! うっ! ぐっ! ……」
止まらない左右の拳の連打を受け続け、少しずつ後退するリルフレイム。
そこへトドメとばかりに大振りになったクマのぬいぐるみの攻撃。
「ゲ〜ンメッツッ!」
「やらせないっ!!」
その隙を突き、少女は素早く身体を横に逸らして巨大な拳を回避する。
そしてその場から跳躍。クマの頭を跳び越え、巨体の後方に着地する。
「ゲ〜ンメツッ!」
目の前から消えた少女を探して左右に首を振るゲンメツン。
後方にいる標的の少女を見つけ再び拳を振り上げる。
リルフレイムは身体に残る連続攻撃の衝撃のため動きが鈍っている。
そこに再び襲い掛かる巨大な拳の連打。
「ゲ〜ンメツッ! ゲ〜ンメツッ! ゲ〜ンメツッ! ゲ〜ンメツッ! ……」
「ぐっ! ぐっ! うっ! ぐっ! ……」
「リルフレイムッ!」
再び追い込まれるリルフレイム。
心配そうに見つめるシズクの声は届いているのだろうか。
「負けられない! せっかく貰ったこの力! みんなを取り戻すために! あたしは負けてなんていられない!」
「リルフレイム! 君の力なら必ず勝てるトプ! 落ち着いて相手の攻撃を見極めるトプ!」
リルフレイムはぬいぐるみから放たれる巨大な拳を防御しながら睨み付ける。
やがて攻防に変化が現れる。
巨体の繰り出す拳の威力を少しずつ左右に受け流し始める赤い髪の少女。
「わかった!」
攻撃の手を休めないゲンメツン。
しかしガードをするごとにリルフレイムの顔に少しずつ余裕が現れる。
やがて巨体の連打を払うように避け始める。
「大丈夫! これならっ!」
ぬいぐるみの拳打をようやく見切った少女は、その後の攻撃を全て回避する。
そして隙を見て後方に跳躍して、大きく距離を取る。
真剣な眼差しでぬいぐるみの巨体を見据えるリルフレイム。
「炎をまとえ!【爆裂剣】!!」
彼女は魔法剣【爆裂剣】を発動する。少女の持っている両手剣が炎をまとう。
一瞬でゲンメツンの正面に戻り、足を広げ地面を掴むように立ち、上半身全ての力を込めてゲンメツンに強烈な一撃を加える。
ガッガッーンッッッ!!
爆音が鳴り、攻撃した個所から強烈な赤い光が発生して吹き飛ぶ巨体。
後方の建物に衝突して破壊する。その場でへたり込み苦しい顔をする巨大なクマの姿。
「ゲ……ゲ〜ンメツゥ……」
瞬時にゲンメツンの前に現れたリルフレイムは両足を広げ腰を落として全力で剣を振るう。
何度も打ち込まれる炎を帯びた剣。その度に爆音と真っ赤な閃光。
この技【爆裂剣】は攻撃に爆発の衝撃を加えて攻撃力を大幅に上げる魔法剣。効果は緩やかに減衰しながらも一定の時間継続する。
ガゴガッッ! ゴゴガッッ! ドガッッ! ズガッッ! ……
「ゲ……ゲ〜ンメ……ツ……」
弱り切っているゲンメツン。目に力が無くなっている。
その姿を見て一旦後方に大きくジャンプして距離を取るリルフレイム。
光を放つ宣誓はリルフレイム究極技の祝詞。闇の存在を光に還す圧倒的なパワーの始動。
空を見上げ「熱い炎が!」
両手で剣を上に高く掲げて「闇を切り裂く!」
正面を向いて右足を前に送り剣をゆっくり正面に振り下ろす。
力を帯びた赤い光が振り下ろした剣先の軌跡をなぞり三日月に残る。
「リルプレアーッ!!」
剣の軌跡を示す三日月の赤い光が、剣を中心に八枚の開いた花びらのように増殖する。
「フレイム! スッラーーッシュッッ!!」
身体ごと剣を突き出す。八枚の炎の刃が煌めきながら解き放たれる。
そして虚脱しているゲンメツンに直撃する。炎の光に包まれる巨体。
クマのぬいぐるみは、口を開け、顔を上に向けて両手を宙に浮かせる。
「キ、キボウガー……」
ゲンメツンの最後の一声。
その姿はやがて薄れていき、砂粒のような光で描かれた姿になる。
その光の姿が拡散して空に舞い上がり消えていく。
ゆっくりと、音も立てずに。
それは闇の存在が光に還っていく光景。
その姿を静かに見守る赤い髪の少女――進撃の魔法戦乙女リルフレイム。
その後に残るこぶし大の輝く球体――エレメント。
それは闇の存在が体内に持つ魔法物質。彼らの全ての力の源。
彼らが光に還った後に、このエレメントだけが静かに残る。
戦いが終わり、リルフレイムに駆け寄るボクとシズク。
「お疲れトプ」
「やりましたわ!」
「えへへへへ〜、凄い力だよね〜」
自分の両腕を交互に見ながら自画自賛する赤い髪の少女。
「――進撃のマジカルヴァルキリィ! リルフレイム!! ……うふふふふ……」
決め台詞と共に決めポーズを取って満足げな笑顔を見せる。
シズクは、賞賛と羨望を織り交ぜたような、そんな微妙な顔をしている。
ボクは背負ったリュックから「エレメントオルゴール」を取り出して、地面に落ちている闇の存在が残した球体――エレメント――を手に取る。
リルプレア変身アイテムを作成するには、このエレメントを集める必要がある。
エレメント――それは魔法の力が凝縮された玉。魔法アイテムの素材になる貴重な物質。
エレメントを保管する専用の入れ物が、オルゴール型エレメント収納ボックス「エレメントオルゴール」である。
しかし、このエレメントオルゴールはエレメント保管機能だけの箱ではない。
リルプレアに素晴らしい恩恵を与える魔法アイテムなのだ。
しかし、残念ながらどの様な恩恵がいつ発動するかは全くのナゾであり、意図してその恩恵を得る方法は見つかっていない。神のみぞ知る恵みの力なのである。
ボクはエレメントオルゴールの蓋を開け、手にしたエレメントを収納する。
可愛らしい音色が響き渡る。
そこに突然の声。
「――私のいない間によくもやってくれましたね。大事なゲンメツンを……」
戦闘が終わった広場に現れたのは――メイド服を着た少女。
ボブカットの黒髪が風に揺れている。
その少女は道の真ん中に堂々とした姿で立ち、ボク達を鋭い視線で威圧する。
彼女の視線とセリフは怒りを表しているが、その話し方は平坦だ。
ボクのスキル【危険察知】が警鐘を鳴らしている。
いち早く反応したリルフレイムが振り向いて、不審な少女に詰問する。
「だれ!? あなたは!?」
「私はビスク。魔王ドノタウガ様の側仕えです」
黒髪の少女――ビスクは迷うことなく自分の正体を明かす。
その返答を聞いて身構えるリルフレイム。
すかさずボクは【ステータス鑑定】をする。
――【ステータス鑑定】
名前:ビスク 種族:? 性別:? 年齢:?
職業:闇のメイド
これ以外は鑑定できなかった。
ビスクという名の少女、見た目の年齢はカエンやシズクと変わらない。
職業が闇のメイド。彼女自身の言葉通り魔王の部下――闇の存在で間違いない。
黒髪の少女の出方を窺っていると、なぜか彼女は顔に苦痛の表情を浮かべ始めた。
「今日は気分が優れないので引き上げます。また次の機会にお会いしましょう」
「待って!」
リルフレイムの制止に耳を貸さず、その場から陽炎のように消えるビスク。
空に浮かぶ雲の切れ間から太陽の光が差し込み、薄暗かった町が明るさを取り戻す。
――ボク達にとって最初の戦いが終わった。
<次回予告>
カエン
「あたしが魔法戦乙女リルプレアになっちゃった。
え~、ムトップって別の世界から来たの?
それでリルプレアになれる女の子を探していて、あたしと出会ったんだ。
次は、もう一人リルプレアになれる娘を探しに行くのね。
……えっ、この娘が新しいリルプレア?
名前はリルアイスだって。うん! これから一緒に頑張ろう!」
ムトップ
「次回『あの子がリルプレアに?二人目はリルアイス!』
三話に分けてお送りするトプ」