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第02話:進撃の魔法戦乙女!リルフレイム誕生!(2)

 ――シズクの家を出る。

 彼女の家は三階建てのレンガ造りの建物で、広くはないがしっかりとした庭のある屋敷だった。周囲も同じような建物が密に立ち並ぶ住宅街で、目の前の道路は幅が広く石畳が敷き詰められている。

 空は薄曇り。太陽の弱い光がボク達を照らしている。

 今は往来がなく人も乗り物も全く見当たらない。移動手段は馬車なのか鉄道があるのか自動車があるのか不明で文明レベルは判らないが、そういった検証は後回しだ。


 一番目立つのは――あちこちにある人型の白い看板。

 只の看板ではないとボクの【危険察知】が囁く。


「あの白い人型の看板は何トプ」

「……あれは……、魔王ドノタウガの手下に封印された人の姿ですわ……」


 ――【ステータス鑑定】

 名前:ドウスン・ガンナ 種族:人間 性別:男性 年齢:22歳

 職業:パン職人

 HP    1/   12 (現在値/最大値)

 MP    0/    0 (現在値/最大値)

 物理攻撃力   2

 物理防御力   2

 魔法行使力   2

 魔法防御力   2

 器用値     3

 敏捷値     2

 幸運度     2

 移動力     4

 跳躍力     1

 スキル    なし


 確かに白い人型看板は生きているが、HPが1しか残っていない。

 白い看板は周囲に無数に立っている。既にこんなに封印された人達がいるのか。

 シズクが沈んだ顔で説明する。


「……魔王の手下の話を信じればまだ生きているそうですわ。生かし続けて人々の幸福の力を奪い続けると……」


 それが闇の存在の常套手段。彼らは人間の幸福を奪って自分の力にする。

 地球での経験で言えば、奪った闇の存在を光に還せば元に戻るのだけれど、この地でも同じかどうかは確証がない。


「元に戻す方法は知っているトプ?」

「……いえ……知りません、できるのかどうかさえ……」


 それにしても静かだ。白い看板――封印された人――しかない。

 情報収集のために、目に付く封印された人を全て【ステータス鑑定】する。

 九割以上の人間はさっきのパン職人程度の能力値。それは地球人とほぼ同じ値だ。


 残り少数の例外の者達。

「冒険者」を代表とする特殊な職業。シズクの職業「回復魔法師」も同様だが、能力値が一般人より高く、そしてスキルを持っている者がいる。

 地球ではリルプレアを含む特殊な人間以外は持っていない魔法やスキルを、この世界では一部とはいえ普通に持っている人がいる。

 そして一般の人の数倍の能力値。その値を上昇させる何かの方法があるのだろうか。


 ――百人近く見た中で一番高い能力値を持っていた人のステータス。


 名前:ケンコス 種族:人間 性別:男性 年齢:31歳

 職業:冒険者

 HP    1/  50 (現在値/最大値)

 MP    0/   5 (現在値/最大値)

 物理攻撃力  22

 物理防御力  15

 魔法行使力   2

 魔法防御力  12

 器用値    12

 敏捷値    11

 幸運度    10

 移動力    12

 跳躍力     6

 スキル

 【剣術】レベル3

 技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)

 【斬鉄剣(剣術レベル2)】


 調査の結果、シズク以外では、幸運度が二桁の人はこの人の値10だけだった。やはりシズクの幸運度28は人としては突出した値だという結論に至った。


「歩いている人の姿がないけれど、どうしてトプ?」

「……もうほとんどの住民は封印されてしまいました。この周辺には今は誰もいません。逃げる場所の無い人は諦めて別の場所に集まっていますわ……」


「シズクはなんで逃げなかったトプ?」

「……母が封印されてしまって残していくわけにもいきませんから。どの看板が母なのかわかりませんし。それに妹もいますから、とても逃げるなんて手段は選べませんわ」


「妹さんはどこトプ?」

「避難場所で待っていますわ」


 名前がわかれば【ステータス鑑定】を使って彼女の母親は見つけられる。

 そして闇の存在を光に還せば母親を元に戻せるかもしれない。

 しかし不確かな話をして良いのかまだ判断できない。

 返す言葉がなく無言になってしまう。

 そうしている内に更に広い通りに出る。


「この通りの先に広場があって、そこに魔王の手下が集まっています」


 確かにそちらから闇の気配がする。

 シズクをそこに待たせて、ボクは小さな身体を隠しながら気配のする方に近づく。

 広場にいる闇の存在が見えた。

 全身黒タイツ五頭身男性型の闇の存在。顔には目も鼻も耳もなく裂けた口だけがある。

 それが数十体。ザコ敵か。

 そして二階建て建物ほどもある巨大なクマのぬいぐるみ型の闇の存在が一体。

 ボスか。

 だらけた格好で広場一面を陣取って座り込んでいる。


 ザコ敵――【ステータス鑑定】

 名前:ドンテシター 種族:闇の存在 性別:? 年齢:?

 職業:闇の手下

 HP   52/  52 (現在値/最大値)

 MP    0/   0 (現在値/最大値)

 物理攻撃力  19

 物理防御力  11

 魔法行使力   0

 魔法防御力  12

 器用値     9

 敏捷値     8

 幸運度     4

 移動力     9

 跳躍力     8

 スキル    なし


 さっきの冒険者より少し劣る程度のステータスだ。

 おそらく1対1なら、スキルも持っている冒険者が勝つだろう。

 まぁ、あの冒険者はすでに封印されてしまっていたが。


 あの冒険者並みの実力のある人間が何人いたか知らないが、ザコ敵でさえこの能力値だ。こんなのが数十体もいれば、この町の今の状況も止むを得ない結果と言えるのか。


 そして巨大なクマのぬいぐるみの方のステータス。


 ボス――【ステータス鑑定】

 名前:ゲンメツン 種族:闇の存在 性別:? 年齢:?

 職業:闇のクマのぬいぐるみ

 HP  926/ 926 (現在値/最大値)

 MP    0/   0 (現在値/最大値)

 物理攻撃力  52

 物理防御力  32

 魔法行使力   0

 魔法防御力  28

 器用値    19

 敏捷値    22

 幸運度    11

 移動力    14

 跳躍力     8

 スキル

 【闇の加護】レベル1


 この物理攻撃力からの一撃にあの冒険者は耐えられない、

 全く相手にならないほど実力に違いがある。これほどの力の差があるのか。

 冒険者10人がかりでも相手にならないんじゃないか。


 しかし、これで敵の強さはわかった。

 次は急いでリルプレアの適合者を探さないと。でも何とかなる、ボクの幸運度は30だ。

 そう考えて踵を返すと、そこにはコソコソしているシズクがいた。


「シズク……。何をしているトプ?」

「あっ、えっ、ムトップさんが心配で……ぇ」


 シズクが消え入りそうな声で答える。


「まぁ、いいトプ。これからみんなのいる避難場所に連れて行ってほしいトプ」

「わ、わかりましたわ……」

「見つからないように、静かにいくトプ」


 コソコソとその場を立ち去ろうとする。


 ――そこに、突然大きな声が響く。

「あなた達! みんなを元に戻して!」


 ビクッとして硬直するボクとシズク。


 その声の主は赤い髪の少女。髪の長さはセミショート。

 クリーム色の厚手のシャツと、裾の広がったピンクのショートパンツ。

 広場にいる闇の存在を前にして怯むことなく立っている。

 手に持っているのは少女の身体には大きすぎる――ただの木刀。


 闇の手下ドンテシターがひとり出てきて少女の前に立つ。

 少女は果敢にも木刀を持って打ち掛かるが、ドンテシターに簡単に受け止められ額にデコピン、数メートル弾き飛ばされる。


 真っ赤な口の中を見せて声を出さずに大笑いするドンテシター。

 巨大なクマのぬいぐるみ――ゲンメツンも腹を抱えて笑っている。


 急いでボクは赤い髪の少女に駆け寄る。

 額を押さえ体を丸めて苦しむ少女の姿に予感を感じる。


 すると――、

 プレアリングが反応を始める。

 背負ったリュックの中でリルプレア変身アイテムが自己主張をしている。

 赤い髪の少女がリルプレアだと知らせてくる。


 ――【ステータス鑑定】

 名前:カエン 種族:人間 性別:女性 年齢:14歳

 職業:なし

 HP    2/  10 (現在値/最大値)

 MP    0/   0 (現在値/最大値)

 物理攻撃力   3

 物理防御力   1

 魔法行使力   1

 魔法防御力   1

 器用値     1

 敏捷値     1

 幸運度    26

 移動力     3

 跳躍力     1

 スキル    なし


「シズク! 回復魔法をお願いするトプ」

「はい、――癒しを!【ヒール】!」


 赤い髪の少女――カエンに回復魔法をかけるシズク。

 カエンの身体が白い光に包まれる。


「これで大丈夫ですわ……あれ? 私はムトップさんに回復魔法のことを話しましたか?」


 シズクの質問を無視して、痛みから解放された赤い髪の少女に指示する。

「とりあえずこの場から離れるトプ!」


 シズクと二人でカエンを抱え闇の存在の前から離れる。

 幸いにも黒タイツ達は大笑いするだけで、ボク達にそれ以上何かをしては来なかった。


 建物の陰に入ったボク達三人は一息ついて座り込み互いの顔を見合わせる。

 カエンの顔は年齢からすると少し大人びて見える。隣にいるシズクと比べて顔の丸みが少ないからだろう。色白のシズクと血色のいいカエン。清楚な少女と快活な少女。両極の特徴を持つ二人の可愛い少女が並んでいる。


 カエンのステータスを思い出す。この少女も人としては異常に幸運度が高い。

 そしてリルプレアの適合者。関連性があるのだろうか。

 それならばもしかしたらシズクも……。


「まずは自己紹介するトプ。ボクはムトップ――妖精トプ」

「よ、妖精……?」


 カエンが驚いている。

 がしかし、地球ならば三頭身のサイが話すところを見たらもっと大騒ぎになる筈だ。

 この地では結構あっさり受け入れられる。シズクの時も驚きは少なかったし。

 今はそれが有り難い。余計な説明をするには時間が惜しい。


「私はシズクと言います。この町の回復魔法師をやっていますわ」


「……あたしの名前はカエン。助けてくれてありがとう。でもまだ終わってないの。仲間と院長先生を助けたいから、黒いのと大きいクマのぬいぐるみを倒さないと!」


 熱くなっているカエン。意志の強さが赤みを帯びた黒い瞳に現れている。

 大きな眼をさらに大きくして自分の決断を訴えている。

 ボクは望む。君にはこの地で最初のリルプレアになって欲しい。


 同時にシズクも巻き込むことに決める。彼女の回復魔法と異常に高い幸運度は有用だ。

 そして彼女もリルプレアになる可能性があるから。


「ちょっと待つトプ。今の君ではあの闇の存在の相手にならないトプ。全くの無駄トプ」

「それでも何かしないと! できるだけのことをしたいの! 諦めるなんてできない!」


「ひとつ手があるトプ。落ち着いて聞いてほしいトプ」


 真剣な眼差しでゆっくりと話しかける。

 その態度に気圧されたカエンは大人しくなって口を閉じる。

 シズクはボクの様子を窺っている。


「さっきも言ったけれどボクは妖精トプ。ボクには使命があるトプ。闇を消し去り希望の光をもたらす魔法戦乙女マジカルヴァルキリィ――リルプレア――を探しているトプ」


 背負ったリュックから反応している赤いプレアリングを取り出す。それは柔らかな赤い光を発している腕輪。それをカエンの目の前に掲げる。

 プレアリングに選ばれた少女はボクの言葉が理解できずに不審な顔をしている。


「リルプレアになれる少女には、この腕輪――プレアリングが反応するトプ。そしてリルプレアになれば闇の存在と戦える超越的なパワーが身に付くトプ」


 超越的なパワーが身に付くと聞いて、カエンの視線はプレアリングから離れられない。

 シズクも赤い輝きに魅入られている。


「カエン……、見ての通りプレアリングは君に反応しているトプ。君にリルプレアになって欲しいトプ」

「ど、どうすればいいの?」

「このプレアリングを腕にして『ネクストステージ・リルプレア』と叫ぶトプ」

「よくわからないけど……やってみる!」


 変身のキーワードを伝えると、カエンは赤いプレアリングを手に取り立ち上がる。

 少しだけ震える右手で左腕にはめ、その腕を水平に前に出す。

 そして力強く変身のキーワードを叫ぶ。


「ネクストステージ! ――リルプレア!!」


 その瞬間プレアリングが赤い光を放つ。


 目を閉じる赤い髪の少女。

 髪の毛が輝きセミショートの髪型がロングヘアのツインテールになる。

 服装も光を帯びてリルプレアの装備に変わっていく。

 ノースリーブの白シャツに胸元に大きな赤いリボン。

 ひざ上丈の真っ赤なフレアスカート。

 頭上に現れたのは真っ赤なベレー帽。

 すっきりしたデザインの金属手甲に金属ブーツ。

 そして最後に手元に現れた大きな両手剣。構えた剣が炎を纏う。


「――進撃の魔法戦乙女マジカルヴァルキリィ! リルフレイム!!」


 意志のある強い瞳で微笑んでポーズを決めるカエン――リルフレイム。


「……って、え〜! なんか変身しちゃったぁ!?」


 自分の姿に唖然とするリルフレイム。

 座り込んだまま驚きのあまり声も出ないシズク。


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