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第01話:進撃の魔法戦乙女!リルフレイム誕生!(1)

 そこは……日本じゃ無かった!


 ショックで自慢の一本角が萎れている。

 唖然としながらも状況を確認する。周囲の状況に不可解な点が多すぎる。

 どうしてこうなった。

 ……いや、あの女王様の意味深な態度から考えれば、今の現状は予定通りの結果で、ボクだけが何も知らされていなかったのかもしれない……。


 不可解な点一つ目。

 今いる場所。転送する地点は人気のない場所と決まっている。

 それは地上に突然妖精が現れればいらぬ騒ぎが起こってしまうから。

 けれども、ここはどこかの部屋の中。

 木目の見える壁と床、広めの部屋で窓もドアもない。

 片隅に上への階段があるから地下室だろうか。荷物が山と積まれている一角がある。

 そして――目の前に少女がいてボクを凝視している。

 少なくとも目的の転送場所でないのは明らかだ。


 不可解な点二つ目。

 いま目の前にいる少女。外見に明らかに日本人ではない特徴を持っている。

 髪の毛の色が綺麗な――水色――。

 そしてさっき聞こえた言葉。「……し、失敗した……?」と聞こえてきた。

 ボクの【言語認識】レベル5が瞬時に仕事をして、少女の言葉の意味は解析ができたが……日本語ではなかった。それどころかボクの知識にある地球上の言葉のどれでもなかった。

 少女の髪の色と併せて考えると……、ここは地球上でさえ無い可能性がある。


 不可解な点三つ目。

 足元にある模様。

 転送の間にあった転送陣と似た模様が、木目の床に赤でしっかりと描かれている。直径2m程の円の中に複雑な図形と文字が組み合わさって描かれているが……何のパワーも感じない。ボクの【危険察知】レベル3で力を感じないのだから、これはただの模様だ。

 転送に影響を及ぼすようなモノではない。

 しかし、そんな意味深な模様が描かれている場所に、あえて転送されている。


 そして、不可解な点四つ目。これは特に重大な点。

 この場所の近くに闇の存在を感じる。一箇所に固まっているが複数いるようだ。

 今年はまだ闇の存在の出現報告は無かったというのに、この場でこんなにはっきりと気配を感じる。通常であれば第一報が入って騒ぎになっていた筈なのに。


 ボクの伊達メガネがキラッと光る。

 恐らく計画的にここに転送されてきたのだろう――女王様の指示で。

 既に闇の存在が出現したこの場所に。地球上ではないこの場所に。


 ――それがこの状況での考察結果。

 あれほど望んでいた日本行きが中断されて、三頭身のサイの身体は本来の淡い黄色から絶望の紫色に変わってしまっている……、それでも、こんな風に冷静に状況を分析している。

 でも、ボクにとってそれは当り前。さっきの転送の間のような醜態は見せられない。


 なぜなら目の前の少女が――涙を浮かべて絶望の表情を浮かべているから。


 近くに泣いている少女がいるのなら――、

 その絶望を希望に変えるためなら全ての能力を使って何でもする。最優先で。

 それがボクのやり方。

 妖精としての使命だけでなく、ボクのプライドにかけて。

 自分の状況なんか気にするな――そう自分に言い聞かせながら。


 膝立ちでボクを見つめる水色の髪の少女に優しく問い掛ける。


「……君に聞きたいことがあるトプ。まずここは何処トプ?」

「こ、言葉がわかるのですか? な、なら教えてください! あなた! あなたは強いのですか?! ドラゴンとか倒せますか!?」


 ボクの問い掛けを聞いて驚きの表情を見せる少女。

 焦りながらの彼女の返事は、ボクの問いへの答えではなかったけれど気にしない。

 三頭身の小さなサイが言葉を話せるとは思ってもいなかったのだろう。

 しかし……、ドラゴンを倒せるか、か……。ドラゴンが認知されている世界なのか?


「いや、ボク自身は強くないトプ」

「やっぱり失敗……。当たり前ですわ。私は召喚士じゃないもの……。無理やり文献の召喚陣を描いて……かき集めた魔法石を使ったところで、見様見真似だけでは……とても勇者召喚なんて……」


 力なくうなだれた少女は独り言のように呟く。

 うつむいて零れ落ちた涙が木の床を濡らす。


「もう駄目ですわ……、この町はおしまい……」


 ボクは伊達メガネ越しに彼女を観察する。

 セミロングの水色の髪の少女。濃い青のワンピースを着ている。

 黒に近い濃い青の瞳を持つ大きな眼は少し垂れさがり顔に愛嬌を加え、小さな可愛い口が年相応の幼さを表している。髪の色が無ければ日本人と言ってもおかしくないすっきりした面差しの可愛らしい和風少女。


 ――【ステータス鑑定】

 名前:シズク・ミストリブ 種族:人間 性別:女性 年齢:14歳

 職業:回復魔法師

 HP    8/   8(現在値/最大値)

 MP    6/  16(現在値/最大値)

 物理攻撃力   1

 物理防御力   1

 魔法行使力   9

 魔法防御力   1

 器用値     1

 敏捷値     1

 幸運度    28

 移動力     2

 跳躍力     1

 スキル

 【回復魔法】レベル1

 技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)

 【ヒール(回復魔法レベル1)】


 名前はシズク。日本人としても通る名前だけど、ミストリブは日本人の苗字ではない。

 そして決定的なのは職業。回復魔法師なんて妖精ならともかく地上ではお目にかかれない。


 さっきの独り言を信じれば、彼女は勇者召喚に失敗して、その代わりにボクが現れたと思っている。けれどそんな筈はない。足元の模様は召喚陣なんてモノではなく、力のないただの模様だし、シズクには召喚術のスキルもない。


 ただし幸運度の値は気になる。人としては異常な数値に思える。ボクは妖精だから運が高いけれど、いや妖精としても高いのが自慢だったけれど……ボクは幸運度30だから。でも幸運度が28……普通の人は多分一桁だったような……? もしかしてそれが影響して召喚? なんだかMPも減っているし……。


 ……なんて流石にそれはない。


 やはりボクは女王様の意図した通りにここに送られて来たのだろう。

 あのお方に悪意など欠片も有る筈がない。その計画に乗ってやる。


 床に零れ落ちた彼女の涙を見て、自分の絶望を忘れると決める。

 そして体の色を元の淡い黄色に戻してから、うなだれた水色の髪の少女に話しかける。


「ボクの名前はムトップ。妖精……という種族トプ。確かにボクは強くないけれども、ここに現れたのは君にとって、そしてボクにとって必ず意味があるトプ。だから落ち着いて事情を話して欲しいトプ」


「ごめんなさい、ムトップさん……。私の名前はシズクと申します。そしてここはラクサン王国のトウモトの町にある私の家の地下室ですわ。……あなたは私の召喚魔法に答えてこの場に来ています……」


 シズクはその場に座り込み、静かに話し始めた。

 彼女の口から出た場所は全く知らない地名だった。

 そして、やはり召喚魔法でボクを呼んだと思っている。

 回復魔法に召喚魔法。

 ここは魔法が当たり前に人間に知られていて、使われている世界……。


「シズク、ボクは君に召喚されたトプ?」

「はい……、冷静にお話を聞いていただいてありがとうございます。でも……私はムトップさんに決して許されないことをしてしまったのです……」


 少女は居住まいを正してから頭を下げ、か細い声で答える。


「おっしゃる通り、私は力のないまま無謀にも勇者召喚の儀式を行って、その結果あなたをこの世界に召喚してしまいました。けれどもその責任が取れません……正直に言います――あなたを戻す方法はありません。申し訳ございません」


 断罪される覚悟を持ってシズクが打ち明けてくる。

 召喚魔法――無理やり異世界から人やモノを呼び出す。

 人を呼び出して戻す方法がなければ拉致と同じだ。

 呼び出された相手から向けられるであろう怒り――それを受け入れる覚悟を持っている。

 それでもやらなければならなかった事情があるから。

 その事情をひとりで抱えて、少女はボクに懺悔している。


 彼女のせいではない。

 けれど状況が把握できていない今の時点では、まだその話をするべきではない。

 ボクは無言のままその姿を見つめる。


「……そしてこの町はもうすぐ魔王ドノタウガの手下に襲撃されて滅亡しますわ……。あなたを助ける手段もありません。本当にごめんなさい……」


 確実な証拠はないけれど推測はできる。ボクは伊達メガネを光らせる。

 魔王ドノタウガという力ある存在に、この町もしくはこの世界が襲われている。

 近くに感じる闇の気配がその手下だろう。

 それに対抗するためシズクは強い勇者のような存在を召喚しようとした。

 ボクの世界の女王様はなぜかこの世界の状況を知って、この世界を救うためシズクの召喚に偽装してボクをこの世界に送り込んだ。闇の存在である魔王を光に還すため。


「謝る必要はないトプ。ボクは必要があってここに呼ばれたトプ」

「……あ、ありがとうございます……」


 顔を上げた少女の涙のあふれる眼が驚きに見開かれる。それもそうだ。

 いきなり呼び出して、失敗でした、戻せません、魔王に襲われて町が滅びます、あなたも一緒に。

 あぁ、こう考えると確かに酷い話だ。極悪非道という言葉がぴったりの所業だ。

 そんな相手から謝らなくていいなんて言われれば驚くのも無理はない。


「今の話だと、何とかの手下を追い出すなりすればいいトプ? ボクは弱いけれど、幾つか能力を持っているトプ。勇者ではないけれど、君の力になれない訳じゃないトプ」


 14歳の少女は救いを求めるように、力強く答えるサイ妖精のボクを見つめる。

 近くにいる闇の存在を放置できない。すぐに動き出す必要がある。


「まずは相手の強さを見極めたいトプ。最初にその何とかの手下を観察したいトプ」

「……今、彼らは町の中央広場に集まっていますわ。日没後に全員を封印するからそれまで絶望を味わえと……」

「今は何時トプ?」

「今は午後1時です。あと5時間で日没ですわ」


 スキル【言語認識】が時間も正しく通訳する。

 転送の義が始まったのも魔法の国時間で午後1時頃だった。それからあまり時間がたっていないから時差は意識する必要がない程度か。ここが日本なら今は午前中の筈なのだけれど……。


 しかし――タイムリミットがある。あと5時間。


「わかったトプ、今すぐ見に行くトプ」


 シズクはボクの態度に戸惑いながらも、涙を拭って行動を起こす。

 まずは闇の存在を確認する。強さを見極める。そして、この世界でリルプレア変身用アイテム「プレアリング」の適合者――魔法戦乙女マジカルヴァルキリィリルプレアになれる少女を探す。


 急がねば。目の前の絶望を抱えた少女を救うために。


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