第17話:向かうはトウ草原!四人目のリルプレア発見?(4)
川の向こう側は平原が広がっている。橋からは距離がある場所で、リルフレイムとリルアイスが魔物達の大集団と戦っている姿が見える。
その後方にはリルホーリーの姿がある。
魔物達は前衛二人のリルプレアを敵と見定め執拗に襲い掛かろうとしているが、二人の少女との力量差を感じてか、距離を取って様子を見ながらの攻撃が続いている。
だが元の数が桁違いだ。一度に襲い掛かる数が当然一桁では済まない。
リルホーリーの援護を受けながらも、その数と対峙しているのは前衛二人のリルプレア。
その胆力を単純に「凄い」の一言で片づける訳にはいかない。
彼女達はギリギリのところで戦っているのだから。
それを忘れてはならない。
ボクは彼女達の背中を見ながら心に刻む。
――魔物討伐数 117体。
リルフレイムは身体を大きく使い両手剣を力強く振り回し、敵に包囲されないように周囲の敵を吹き飛ばしている。赤く光る閃光は【爆裂剣】の輝き。
敵に囲まれそうになると跳躍で後退し、【ファイアーボール】でまとめて大イノシシや青目サル達を炎の餌食にする。
しかし厄介なのが、空中から攻撃してくる牙コウモリ。
牙で噛み付き攻撃をしてくるだけだが、攻めの流れを分断されるため、そのせいで実力差は大きいのだが少しづつ押されている。
空中にいる牙コウモリを時々【ファイヤーボール】で狙うも、一匹ずつでは埒があかない。
リルアイスは【氷雪刀】を使い、灰色オオカミの中を縦横無尽に駆け回り、敵の数を減らしている。
リルフレイムほど牙コウモリに邪魔されはしていないが、攻撃はリルフレイムと同様に【アイスジャベリン】で地味に狙うしかない。
リルホーリーは戦況から判断したのだろう。橋の向こう側に立ち、空中の牙コウモリを【ウォーターショット】で攻撃している。
しかしやはり決め手に欠けている。
――魔物討伐数 155体。
現在のネックは空中にいる牙コウモリだ。
能力的にはリルプレアたちの方が圧倒的に上なのだから、牙コウモリさえ対処できれば戦況はこちらに大きく傾くはずだ。
「あの牙コウモリを倒してきて欲しいトプ」
「はい! やってきます!」
目の前の少女――リルミュートは身の軽さに特化している。
空中の牙コウモリを直接攻撃できる能力がある。
目の前の戦いと自分の能力を考えて、彼女も同じ結論になったのだろう。
力強く頷いた深緑の髪をした少女リルミュートは戦場に向かっていった。
橋の先にいるリルホーリーを跳び越えて、リルフレイムの側に着地するリルミュート。
一言二言挨拶をかわす同じ孤児院の少女二人。
そして空中に跳ぶリルミュート。その高さは空を飛ぶ牙コウモリを超える。
上空で器用にバランスをとり、牙コウモリを鉤爪で倒し、その反動も使って別の牙コウモリを足場にして、また別の牙コウモリを攻撃する。
まさにアクロバティックな攻撃を空中で繰り広げる。
それを可能とするのは彼女の器用値・敏捷値・移動力・跳躍力の高さ。
そして後ろにも目があるような動き。
それは彼女の持つ【聴力強化】【音波探索】の恩恵。
【聴力強化】はその名の通り五感のひとつの聴覚が鋭敏になる。
そして【音波探索】は他者には聞こえない魔法の音を出して、その反射で敵の位置を探る。
二つの能力は特に索敵に効果的だが、戦闘中に使えば死角のない攻防が可能になる。
一度も着地しないまま十数匹の牙コウモリを倒してから、ようやく地面に降りてくる。
地上にいるリルフレイムとリルアイスが、己の攻撃力を惜しみなく発揮できる条件が整った。
リルミュートの邪魔をしないように、リルホーリーも牙コウモリを狙うのをやめる。
一瞬で形勢がこちらに有利になったのが戦場の様子からはっきり窺える。
余裕ができたので、ボクが指示したとおり戦術的後退を始めるリルプレア達。
詰まってきた包囲網を分断し攻撃の圧力を下げさせる。
そして決戦の場所と選んだ橋の先まで敵を誘導する。
これで勝利への道筋が出来上がった。
――魔物討伐数 239体。
牙コウモリの憎悪を一身に貯めたリルミュート。
橋の先に辿り着くと同時に、空中の大集団から総攻撃を受ける。
その光景を見て、一旦後方に大きくジャンプして距離を取るリルミュート。
光を放つ宣誓はリルミュート究極技の祝詞。闇の存在を光に還す圧倒的なパワーの始動。
空を見上げ「静寂の嵐……」
鉤爪を付けた両手を上に高く掲げて「闇を断ち切る!」
正面を向いて両手を左右に広げてから、手の甲を外側に胸の前でクロスする。
三本爪の軌跡をなぞる深緑の光が美しい曲線を描く。
「リルプレアーッ!!」
深緑の光の曲線がクロスした腕を中心にして開くように螺旋を描き回転を始める。
「ミュート! ストーーッムッッ!!」
身体ごと両手の鉤爪を突き出す。深緑の螺旋が音もなく嵐を起こし解き放たれる。
牙コウモリの大集団は音のない深緑の嵐に巻き込まれ、その姿を光に変えていく。
――魔物討伐数 374体。
リルフレイムは橋の中央を防衛している。
背後をリルホーリーが守る。
リルアイスは左翼を、リルミュートが右翼を守る。
いまだに魔物の攻撃の手は止まらない。
しかし位置的な優位、空中を制していた牙コウモリの壊滅と、戦況はリルプレアに有利になった。
残りの不安材料は彼女たちの気力体力のみ。
数値的なHPや毒状態はリルホーリーの【リカバリー】で回復できるが、蓄積する疲労を癒す方法はない。強化されているとはいえ、十代前半の少女達の気力体力が持つだろうか。
魔物達は橋を使わずに川を渡り背後を取るなど考えもせずに、目の前の魔法戦乙女に襲い掛かっていく。
この状態ではリルプレアと能力差のあるボクとビスクは、戦いに参加しても足手まといにしかならないのは自明。彼女達の勝利を願うのみである。
――魔物討伐数 568体。
敵の動きに変化が現れた。
何かを恐れた中央の敵が、突然左右に分かれるように動き始める、その途中……。
ドガァァァアアァァッッッ!!
後方から十数発の炎の玉が飛び込んできて、魔獣達を巻き込みながらリルプレア達を襲う。
飛んできた炎の玉は、後方にいたサラマンダーが十数体が同時に発した攻撃。
巻き込まれた魔物と共に飛来する二桁の数の炎の玉。
「――炎をまとえ!【爆裂剣】!!」
リルフレイムの怒声が戦場に轟く。
「がぁぁあああぁぁぁぁぁぁあああっっっ!!!」
ッガゴガッッ! ゴゴガッッ! ドガッッ! ズガッッ! ドガッッゴッ! ガッ!……
目の前の状況を瞬時に判断したリルフレイム。
即座に前に出て、両手に握りしめた剣に爆裂の力をまとわせて――その全てを斬り払った。
己の足で炎の玉の正面に立って。
魔物と共に分散して飛んでくる炎の玉を全て見切って。
リルプレアの能力がなければ決して成し得ない。
しかしリルプレアの能力だけでは決して成し遂げられない。
その姿は彼女の培ってきた精神の強さを物語っていた。
リルフレイムは覚悟を叫ぶ。
「あたしは引かない!! あたしは負けない!! あたしは絶対倒れない!!」
赤い髪の少女は確かに成長していた。
そして――、
光を放つ宣誓はリルフレイム究極技の祝詞。闇の存在を光に還す圧倒的なパワーの始動。
空を見上げ「熱い炎が」
両手で剣を上に高く掲げて「闇を切り裂く!」
正面を向いて左足で地面を蹴って、右足を前に送り剣をゆっくり正面に振り下ろす。
力を帯びた赤い光が、振り下ろした剣先の軌跡をなぞる形で三日月に残る。
「リルプレアーッ!!」
剣の軌跡を示す三日月の赤い光が、剣を中心に八枚の開いた花びらのように増殖する。
「フレイム! スッラーーッシュッッ!!」
身体ごと剣を突き出す。八枚の炎の刃が煌めきながら解き放たれる。
正面にいる魔物を巻き込んで後方にいたサラマンダーを炎の光に包む。
火の精サラマンダーさえも闇に落ちれば炎の光に消えていく。
――魔物討伐数 640体。
リルフレイムの覚悟は青い髪の少女を心を動かす。
光を放つ宣誓はリルアイス究極技の祝詞。闇の存在を光に還す圧倒的なパワーの始動。
空を見上げ「……凍える吹雪が」
両手で剣を上に高く掲げて「闇を消し去る……」
両足を広げ腰を落として刀を右から左下へそこから真上へ切り上げ……素早く刀を振り五芒星を描く。最後に刀を右に振り抜いて右手一本で刀を持つ体勢になる。
五芒星の頂点5ヵ所に大きな氷の結晶が現れる。
「リルプレア!」
刀を両手で持ち真上に上げて振りかぶる
大きな五個の氷の結晶が回転を始める。
「アイス! ストリームッ!!」
刀を振り下ろす。氷の結晶から物凄い勢いで吹雪が巻き起こり、前方に押し出されていく。
正面にいた魔物達を光に変えていく。
――魔物討伐数 739体。
青い髪の少女が動けば、その姉も負けていられない。
光を放つ宣誓はリルホーリー究極技の祝詞。闇の存在を光に還す圧倒的なパワーの始動。
目を閉じて静かに立ち「聖なる水よ!」
杖を右手で持ち両手をゆっくりと広げる。「闇の浄化を!」
広げた両手を上に掲げる。
後方で両手で抱えるほどの太さの水流が上昇し、頭上に巨大な水球が生まれる。
「リルプレア!」
巨大な水球がタユンタユンと音を立てるように波打つ。
「ホーリーシャワー!!」
杖を振り下ろす。
水球から無数の水滴が豪雨の様に魔物達に降り注ぐ。
正面にいた魔物達を光に変えていく。
――魔物討伐数 801体。
戦いの終わりは目前にまで近づいている。
距離の離れた場所にいた魔物達は逃亡を始める。
最後の力を振り絞り残敵を掃討するリルプレア達。
――魔物討伐数1053体。
戦いが終わった。
「みんな、お疲れトプ」
「皆様、本当にお疲れ様でした」
ボクは三頭身のサイ妖精の姿。
言葉もなくその場に座り込んでいるリルプレア達の労をねぎらう。
ビスクは飲み物をみんなに配っている。
「ビスク、一緒に魔石を集めるトプ」
「かしこまりました」
ビスクは真面目だから戦闘に貢献できなかった自分を責めるだろう。
何か仕事をさせておかないと。
と言いつつボクも同じ思いだ。
ボク達はリルプレアを休ませて、魔物の残した魔石を集め始める。
全てを見つけられなかったが、それでも総数682個。
サラマンダーの魔石だけは他のと比べ少し大きめだった。
エレメントオルゴールに半分ほど入れる。
残りは魔法石にしたり換金したり他の使い道もあるので残しておこうと、オルゴールから鳴り続ける音を聞きながら考えた。
プレアリングを5個は作れる量が貯まったので、これが最後とライノセ号に戻り【プレアリング作成】を試すが――当然のように作成できない。
これからはお前に【プレアリング作成】を任せたと、ボクは小さく呟いた。
これでもう、この三頭身サイ妖精がいなくなっても、リルプレアの仲間を増やせるのだと肩の荷を下ろした気分だ。
そんな風に考えていると、変身を解いたカエンの声が聞こえる。
「コユキ、……ハルを持っているよね。あたしに貸して」
コユキは素直に膝に乗せていたハルをカエンに渡す。
慈しむように小さな三頭身少女の頭を撫でるカエン。
「ありがとう、トオネを見つけてくれて……。あたしの仲間を助けてくれて……ハルが見つけていなければ、トオネは魔物の群れに飲み込まれるところだったよ……」
嬉しそうに頭を撫でられていたハルは、薄く涙を浮かべたカエンの顔をみて少しだけキョトンとした表情を浮かべるが、少女の言葉を理解して直ぐにいつものニパッとした笑顔を見せる。
「ビスクもありがとう。トオネが生きているのはビスクとハルのおかげ。本当にありがとう」
「お力になれて嬉しいです。トオネさんが無事で何よりです」
トオネにはそのやり取りが聞こえていないようだ。
目の前に配られた昼食に気を取られているから。
「トオネ、いきなりで大変だったけれど、これからもよろしくトプ」
「……はひ! あたひ、頑張ひまふ!」
新しいリルプレア。四人目のリルプレア。
ビスクが用意した昼食を頬張りながら元気よく返事をする深緑の髪の少女。
トオネ、ひとりで魔物のいる森を通ってダンジョンに向かっていた少女。
君もとてもカッコいい。――無謀ともいうけれど。
そしてボクは巨体のサイに姿を変える。
いきなり訪れた難局をなんとか乗り切ったボク達は、その場を後にして目的地へ向かう。
御者台にはビスク。車内からは四人の少女の寝息が聞こえ始める。
朝から変わらずに雲ひとつない青空。
<次回予告>
トオネ
「あたし! トオネです! 魔法戦乙女リルプレアになりました。
いよいよダンジョン攻略です。あたしの能力が早速役に立ちますよぉ!
罠発見して解除して、それに敵発見と大活躍です!
ムトップさんの……えっ、「さん」付けで呼んじゃいけない?
じゃあ……、ムトップの的確な指示のお陰であたしたちの攻略は順調そのものです。
そして地下一階ボス部屋で待ち受けていたのは……!?」
ムトップ
「次回『初めてのダンジョン!地下一階攻略中!』 三話に分けてお送りするトプ」
~・~・~・~・~・~・~・~・~
明日は本編の更新の後に、特別篇「動く図解『ライノセ号』!その2」の掲載を予定しています。よろしくお願いします。