第16話:向かうはトウ草原!四人目のリルプレア発見?(3)
「まだ遠いけれど、この先に物凄い数の闇の気配がするトプ! 今の大ネズミとは比較にならない数と強さトプ!!」
「ハル! すぐに偵察に出なさい! ムトップ様、方角を教えてください!」
ボクの警告を御者台で聞いていたビスクが、即座に自分の使役人形に命令を出す。
前足で方向を差し示すと、その上に飛び乗り方向を確認する小さな人形。
それは進む道と同じ方角。ハルはそちらに向かって一直線に飛び出していく。
その後を追おうとするカエン。
「カエン! 先行はだめトプ! ハルの報告を待つトプ!」
「くっ! ……そうよね……。うん、そうする」
緊張した面持ちでボク達はゆっくりと道を進んでいく。
――しばらくしてビスクが真剣な顔になる。ハルから連絡が入ったようだ。
「ハルから報告です。敵に近い木に登って確認。その数――数百の単位。千に届くか超えるか」
ビスクが報告を続ける。
「魔物の種類は、大イノシシ、灰色オオカミ、青目サル、牙コウモリが大部分を占めているようです、そして集団後方にサラマンダーが数十体」
一旦言葉を切って、サイの姿のボクを見つめる。
「私達を迎え撃つように『トウ草原のダンジョン』への街道とその周辺に集合しています」
「わかったトプ。ハルは危険がなければそのまま待機。発見されたり危なくなったら、すぐに戻ってくるように伝えるトプ」
「かしこまりました」
ハルは優秀だが、やはり危険な場面で身を守る方法がないのは不安だ。
リルプレアの誰かとペアが組めればいいのだけれど、彼女達は斥候には向かない。
「ビスク、敵はダンジョンで言うとどのレベルの敵トプ?」
「はい、以前のダンジョンで地下3階から最下層地下5階の敵です。サラマンダー3体が最下層の大ボスでした」
ビスクは緊迫の事態にも関わらず正確に情報を伝えてくる。
「サラマンダーは火の玉を吐き出す特殊攻撃を持っていますが、トウモトの町で優秀な冒険者が一対一で戦える強さです。今の私以上、ゲンメツン以下ですのでリルプレアの皆様であればお一人で多数相手をしても負けないと思いますが、総数が多いので……」
トウモトリの町の冒険者は中級レベルと聞いている。
一番強かった冒険者のステータスを考えれば、確かにリルプレアならば圧勝できるだろう。
サラマンダーより弱い敵は言うまでもないが、それでも魔物の数が多すぎる。
敵の数は多いが能力はリルプレア達の方が圧倒的に上。
しかし3対1000。囲まれてしまえば非常に危ない。
戦い方は敵に囲まれないように少しずつザコ敵の数を減らしていく。
ある程度削るまでは我慢の戦いをして……、その後に殲滅戦か。
そう考えると今の場所では非常に不利だ。
道の両側は高木の間に背の高い雑草が密生している。
ライノセ号は道以外には進めないが魔物達は森の中も進んでくる。
戦闘に有利になるような確実な対処法を見つけないと……。
ボクは焦りながらも正しい回答を求めて、素早く頭脳を働かせる。
その時ビスクが衝撃を受けた表情を浮かべる。ハルからの念話を受けたらしい。
彼女を動揺させたハルからの報告は一刻を争う内容だった。
「魔物がこちらに前進を始めました。それで発見したようですが、人間が――子供がひとり魔物に追われるように逃げているそうです!」
「カエン! コユキ! 先行してハルと合流、その後すぐに追われている子供の救助、可能ならいったん戻るトプ。敵に囲まれるのだけは避けるトプ。こちらも後を追うトプ」
悠長に対応を考えてなんかいられない。
ボクは瞬時に事態を把握して、反射的に全員に指示を出す。
「――ビスク。ハルにカエンとコユキの姿が見えたら合流するように伝えるトプ。シズクは変身して待機トプ」
隣を歩いていたカエンとシズクは力強く頷き、コユキが車から飛び出してくる。
そして各自がそれぞれに動き出す。
巨体サイの身体でライノセ号を牽引して街道を進む。
どうする? このまま進んで地形に変化がなければ囲まれる危険が増すだけだ。
ボクはコウセクさんからもらった地図を思い出す。
そうだ、もうすぐ行けば川があったハズだ。そこならば少なくとも今の全包囲される場所よりもマシだろう。ライノセ号の速度を上げる。
進む方向に無数の闇の気配が近づいてくるのを感じている。
「ハルが二人と合流しました」
ビスクが伝えてくる。
木々に囲まれた緩やかな上り坂の頂上に着くと、前方の地形に変化が見える。
そのまま速度を落とさずに進む。すると途端に視界が広がる。
目の前にあるのはしっかりとした石造りの橋。下を流れるのは幅広く水量のある川。
この地形をうまく使えば全方位を囲まれないで済む。
ここを戦場にしよう。
リルフレイムが向かった方角で魔物が一体滅したと【危険察知】が知らせる。
それが判断できるほど魔物の近くに来ている。
――魔物討伐数 1体。
「子供を発見、保護しました。女の子です。魔物に一撃を受けて気絶しているようです。すぐにこちらに戻ってきます」
「リルホーリー! 戻ってきたらすぐに回復魔法を!」
「わかりましたわ!」
川向うにリルフレイムの姿が現れる。抱えているのは助けた少女だろう。
抱いた少女に衝撃を与えないように、ギリギリの速度でこちらに向かっている。
そして橋を越えたと同時に、こちらに聞こえるように大声で叫ぶ、
「この子に! トオネに回復魔法を!」
リルフレイムが助けてきた深緑色の髪をした少女。
ボクは彼女に【ステータス鑑定】を行う。
――【ステータス鑑定】
名前:トオネ 種族:人間 性別:女性 年齢:13歳
職業:なし
HP 1/ 7 (現在値/最大値)
MP 0/ 0 (現在値/最大値)
物理攻撃力 1
物理防御力 1
魔法行使力 1
魔法防御力 1
器用値 1
敏捷値 2
幸運度 32
移動力 4
跳躍力 1
スキル なし
少女の名前はトオネ――覚えている。
カエンが話していた孤児院の仲間。見つけられなかった少女。
このステータスでよくぞここまで……。HP最大が7しかない。
魔獣に襲われたら一撃でも耐えられない筈が、残値1でギリギリ生きている。
ほとんどの能力値が1の少女。
とてもじゃないけど、こんな場所に一人でいる筈がないのだけれど……。
幸運度が32。
人間では初めて見る。シズクよりも、妖精のボクより高い。
運だけでここまで辿り着いたのか。
そして――
綺麗な音色が聞こえている。
トオネを見た時からボクの胸元でエレメントオルゴールが訴えている。
目の前の深緑の髪の少女にプレアリングを渡せと。
やっと確信が持てた。
エレメントオルゴールが【プレアリング作成】を受け継いでいたのだと。
それなら良い、むしろボクにとって望ましい状況だ。これからもこの調子で頼む。
カエンもシズクも音色に気付いているが、それよりもまず先に必要な行動を取る。
「聖なる癒しの水よ! 【リカバリー】!」
準備していたリルホーリーがすぐさま回復魔法を唱える。
ボクは三頭身のサイ妖精の姿に戻る。
「リルフレイム、この子は前に言っていた孤児院の仲間トプ?」
「うん、名前はトオネ。同じ孤児院の一年下の子」
「この子が次のリルプレアになるトプ」
「そうなの!? やっぱりこの音楽、エレメントオルゴールなんだね!」
ボクの言葉を聞いてリルフレイムは満面の笑みを浮かべて喜びを表現する。
しかしそれも束の間、すぐに真剣な表情に戻る。
「でも今はリルアイスを助けに行かないと。もう魔物と戦っているんだ。ムトップ、リルホーリー、後をお願いね!」
「待つトプ! リルアイスを助けて敵の総数を減らしながら、囲まれないように後退。この橋の先で敵を迎え撃つトプ。リルホーリーは後方から魔法で援護トプ。トオネがリルプレアになったら援軍に向かわせるトプ」
「わかった!」
ボクは考えていた次の指示を伝えて送り出す。
風のように走り去るリルフレイム。
――魔物討伐数 41体。
傷が癒え目を覚ますトオネ。
ショートヘアの深緑の髪の毛。
そして髪の色に近い緑の瞳。顔の輪郭はカエンよりもほっそりとしている。
しっかりした眉毛の下にある眼は大きく開き、好奇心溢れる少女という印象がある。
着ている服は、腰で縛った淡い緑の貫頭衣と藍色の七分丈パンツ。
「あれ、 生きてる? 助けてくれたの? ありがとう」
「いえ、礼には及びませんわ」
「うわっ! えっ! なにこのサイみたいなの!」
「この方はサイの姿をした妖精……ムトップですわ。私たちリルプレアを守護しているのです――ムトップ、私も戦ってきますわ。新しいリルプレアをよろしくお願いします」
戦場に向かうリルホーリー。
エレメントオルゴールが優しく音を鳴らす中、トオネに話しかける。
「ムトップっていうトプ。早速だけれど君はなんでこんな所にいたトプ?」
「それは孤児院の皆を助けるために、魔王をやっつけに行こうとしていたんです」
「カエンと同じような行動トプ……」
「カエンさんを知っているんですか?」
「いまあそこで戦っている赤い少女がカエン――今の姿はリルフレイムというトプ」
「えっ! いくらカエンさんだってあんなに凄くないですよぉ。物凄く高く跳んでいるし、なんか手から火を出しているし」
「彼女は自分から進んであの能力――魔法戦乙女リルプレアの能力――を手に入れたトプ……、そして君にもその能力を受ける権利があるトプ……、どうするトプ?」
「あたしにも能力が……、本当ですか……?」
「本当トプ」
「欲しいです。あたしに能力をください……。仲間を助けたいです。カエンさんと一緒に戦いたいです!」
「わかったトプ……」
エレメントオルゴールを取り出して蓋を開ける。
中から光が溢れ出す。
その光の中から深緑に輝くプレアリングが飛び出して、ボクとトオネの間に浮かぶ。
「この腕輪をして『ネクストステージ・リルプレア』と叫ぶトプ」
「やってみます!」
トオネはプレアリングを左腕にはめ、その腕を水平に前に出す。
そして力強く変身のキーワードを叫ぶ。
「ネクストステージ! ――リルプレア!!」
その瞬間プレアリングが深緑の光を放つ。
目を閉じる深緑の髪の少女。
髪の毛が輝きショートの髪型がうなじから一束だけ長く伸びてうなじの位置で束ねられる。
服装も光を帯びて順番にリルプレアの装備に変わっていく。
ノースリーブの白シャツに胸元に大きな深緑のリボン。
ひざ上丈の深緑のフレアスカート。
頭上に現れたのは深緑のベレー帽。
手の甲から肘までをカバーする革製の手甲とひざ丈のブーツ。
そして手甲に装着された鉤爪。静かに輝き凛と鳴る。
「――隠密の魔法戦乙女! リルミュート!!」
笑顔を浮かべ舞い散る羽毛の静けさの中でポーズを決めるトオネ――リルミュート。
――【ステータス鑑定】
名前:リルミュート 種族:隠密の魔法戦乙女 性別:女性 年齢:13歳
職業:忍者
HP 174/ 174 (現在値/最大値)
MP 48/ 48 (現在値/最大値)
物理攻撃力 30
物理防御力 12
魔法行使力 12
魔法防御力 12
器用値 48
敏捷値 48
幸運度 42
移動力 48
跳躍力 48
スキル
【忍術】レベル1
【音魔法】レベル1
固有スキル
【ミュートストーム】
技(カッコ内は必要スキル・レベル)
【聴力強化(忍術レベル1)】
【音波探索(忍術レベル1/音魔法レベル1)】
闇の存在と戦う者――魔法戦乙女リルプレア。
そこに新たな戦士が再び生まれた。
隠密の魔法戦乙女を冠した深緑の髪の少女――それはトオネが変身した姿。
その名はリルミュート。
抜きん出た身の軽さと器用さを兼ね備えた音を操る忍者。
「……なんか変身しちゃいましたぁ!?」
肩から力を抜いて、自分の姿に唖然とするリルミュート。
「君はいま闇を消し去り希望の光をもたらす者『リルプレア』に変身したトプ。大丈夫。その力を使って闇の存在を光に還すトプ!」
――魔物討伐数 83体。