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第14話:向かうはトウ草原!四人目のリルプレア発見?(1)

 シズクの家の前に全員で並んでいる。静かな朝。


 今日の空も雲が少なく、女王様からの贈り物が届くのを待っている皆の顔を、柔らかな陽射しが優しく照らす。


 何の前触れもなく、突然ボク達の正面に大きな魔方陣が現れる。


 石畳の道に描かれるように現れたそれは、輝く赤い円と図形と魔法文字の芸術。

 地面に描かれた魔方陣から、浮かび上がるように姿を見せたのは立派な客車。

 全長4m、高さ3m、幅2m――寸法はおおよその数字――の贈り物が姿を見せる。


「おおぉ!」


 カエンが歓声を上げる。

 車体全貌が地上に現れ、大きな魔方陣は用済みとばかりに輝きを無くし消失する。

 四人の少女達は物珍しそうに客車の外観を見て回る。


「ここが御者台ですね、座りやすそうな椅子です。気に入りました」


 んっ? ビスクの御者台を見る眼に力を感じる。


「結構大きいね」


「みんなが乗って旅をするにはこれぐらいがいいですわ」


 ボクは、女王様の手紙を確認するため、客車の中に入ろうとドアに手をかけ……ようとしても届かなかった。人間体になろう。


 入口のドアを開けて車内に入る。


 すぐ目の前の床に置かれた手紙が目に入る。

 そして印刷されて製本された客車の説明書。

 この贈り物は大量生産品なのか。それとも一品物なのに説明書まで作り込んだのか、どっちなんだ?


「小さいながらもキッチンがありますわ」


「こっちの扉は……トイレがあるのね!」


「……こっちはシャワー」


「この床にある蓋を開けるとアイテムボックスの魔方陣がありました。……私にも使えますね。――食料がたくさん入っています。これは嬉しいです」


 みんなが思い思いに車内を調べている。

 ビスクも余計な遠慮が消えて、仲間意識が芽生えてきたようで一安心だ。


 女王様からの手紙には、大体ボクが想像していた通りの経緯が書いてあったのだが、思ったより話が大きいようだ。


 地球の神様とこちらの神様が話の中に出てくる。

 ボクがこの世界に来た理由が、地球の神様とこちらの神様の話し合いで決まったからだと書いてあった。

 この世界にいる闇の存在とは、理由は不明だが地球から転移して現れたらしい。

 それで、こちらの世界の神様が地球の神様に助けを求めた結果こうなったと。


 であればシズクに勇者召喚を指示した人物――夢の中に現れた女性――が、神の使いかもしくは神様本人だったのか。


 ボクを転送するために、こちらの世界でマーカーとなるモノが必要だった。

 こちらの神様がその役目にシズクを選んだ。

 そしてシズクに魔方陣の前で祈らせて、その祈りをマーカーにして転送が行われた。

 ボクが現れた時にすぐに動けるように形だけの召喚の義をやらせて、シズクが自分で呼び出したと思わせたかった。


 ……そういう理由だと書かれていた。


 他にやりようがなかったのかと言いたい。

 もっとシズクに説明できなかったのかと言いたい。

 そうすればシズクは絶望の涙など流す必要はなかったのだから。

 泣きながら謝罪するシズクの姿を思いだし胸が痛む。


 まあいい。今はその件は解決して誰も不幸になっていない。ボクは仕方なく納得する。


「この梯子の上は屋根裏部屋みたいですわ」


「なにがあるの?」


「三人ぐらい寝られそうな広さがありますわ。寝所でしょう。――屋根代わりの幌を上げると外がみえますわ! これはいいですわ!」


「あたしも見たいよ!」


「……見たい……」


 シズクとカエンの声が聞こえる。コユキも話に加わったようだ。


「この壁にあるのは何でしょうか……。あらっ、ここの留金を外すと……2段ベッドになりました。凄いです。――元に戻すのも簡単です。驚きです」


 ビスクも車内を堪能している。


 手紙の最後は女王様からの謝罪とよろしく頼むの言葉。


 この世界に来てまだ10日も経っていないけれど、ボクは目の前にいる少女たちに会えて本当に良かったと思っている。


 確かに日本にも行きたかったけれど、ボクが望んでいた日本での生活と今の現状とを比べるなんてできない。正直な気持ちでは日本に行っていたら、こんな幸せになれていなかったと考えている。


 カエン、シズク、コユキ、そしてビスク。

 この異世界の少女達は厳しい世界で生きてきただけあってバイタリティがある。

 命の輝きがある。


 やっぱりボクは女王様に謝罪される必要はない。

 もうボクは地球に戻る気など微塵もない。

 全てが終わって、もし地球に帰るかと問われたら即座に否と答えよう。

 そうボクは心に決めた。


「この車体の後ろのでっぱりは何でしょうか」


「ムトップ、これ何?」


 外に出て再び外観を見ている四人の少女。

 ビスクの疑問にカエンが尋ねる。


「それは、説明書を見ると風呂のようです」


 シズクとコユキの顔が輝く。


「お風呂もあるのですか。凄いですわ」


「……お風呂」


 さて、女王様から授かった客車だが、名前を付けた。――ライノセ号。

 少女たちが簡単に紹介しているが、説明書を見ながら解説しよう。


 このライノセ号は、こちらの世界の神様からの贈り物らしい。

 こちらの神様の監修で、こちらの技術に沿って作られている。

 エンジン等の科学技術はない代わりに、魔法の技術が使われていて存外に快適だ。

 地球にあるキャンピングカーに似た設備が魔法技術ですっきりと納まっている。


 小さなキッチンとシャワーとトイレが完備。

 停車中であればライノセ号後部にある幌と浴槽を展開して入浴もできる。

 水と熱は魔法技術で使い放題。


 キッチン前にある床下収納みたいな蓋を開けると魔方陣が描いてあって、小さな空間に大量の物品を収納できるアイテムボックスという魔法機能になっている。

 約300食分の食べ物が既に収納されていた。

 収納されている間は劣化しないらしい。


 車内に折り畳み二段ベッド、天井裏に三人が寝られるスペースがある。

 楽に5人、多くなって8人ぐらいまでは旅ができるだろう。人数が増えても大丈夫だ。


 そして停車中は簡易結界が働いて、存在を薄くすると同時に心理的な効果で侵入を阻む。

 弱い敵は簡易結界で、結界の効かない敵はボクの危機察知能力で早めに発見してみんなで対処すればいい。夜中もなんとかなる。

 しばらくすればビスクの人形索敵もできるし。


「それでは、少し動かしてみましょう」


 そう言って一旦三頭身のサイ妖精の姿に戻る。

 そしてライノセ号の前方に出て、スキル【肉体変化】レベル2を発動する。


 ブワッ……と、ボクの身体が白い煙に包まれる。


 煙が晴れる頃には肉体の変化は終了。

 四人の少女にボクの体長4m弱のサイの姿を披露する。

 少女達は「おおっ!」と声を上げて驚いて、ボクの身体をペタペタ触り始めた。

 止めて欲しい。

 ちなみに背中のリュックは胸元に移動している。



 この姿で自分を【ステータス鑑定】すると、


 名前:ムトップ(サイ型) 種族:妖精 性別:オス 年齢:10歳

 職業:支援妖精

 HP   50/  50 (現在値/最大値)

 MP   20/  20 (現在値/最大値)

 物理攻撃力  10

 物理防御力  15

 魔法行使力  18

 魔法防御力  15

 器用値     1

 敏捷値     1

 幸運度    30

 移動力     8

 跳躍力     1

 スキル

 【言語認識】レベル5(MAX)

 【危険察知】レベル3

 【肉体変化】レベル2

 【雷魔法】レベル1

 固有スキル

 【ステータス鑑定】レベル2

 技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)

 【人間体変化(肉体変化レベル1)】

 【本質体変化(肉体変化レベル2)】

 【サンダーショット(雷魔法レベル1)】



 HPと攻撃と防御、そして移動力が上昇するのだ。器用と敏捷は下がるけど。

 ちなみにこの姿でもセリフの語尾は「トプ」だ。


「ビスク、ボクの身体にハーネスと梶棒をつけて欲しいトプ」


「はい、かしこまりました」


 ビスクが説明書を見ながらボクの巨体にハーネスを付けて、ライノセ号の梶棒――車体を牽引するための長い柄――を繋げる。


「みんな、ライノセ号に乗るトプ」


 ビスクは真っ先に御者台に座る。喜び勇んでという言葉がぴったりだった。

 御者台は二席ある。カエンはビスクの様子を見て、空いている方の御者台に座る。

 シズクとカエンは車内に入って行った。


 ボクはゆっくりとライノセ号を牽引する。


「乗り心地はどうトプ?」


「はい、振動も少なく素晴らしい乗り心地です」


「問題ないよ!」


「はい、揺れが少なく快適ですわ」


「……いい」


 ボクの身体にも負担が少ない。これなら大丈夫だ。

 車軸にサスペンションがあるみたいだ。

 それはこの世界の技術なのか。それとも神様からのサービスなのだろうか。有り難い。

 そう言えば車輪もゴムが巻かれている。いいのか?



 ◇ ◆ ◇



 魔獣車があるこの世界。


 巨大サイの姿でも、客車を牽引していれば町中でおかしくはないとカエンとシズクが言うので、そのままの格好で避難所に向かう。


 綺麗な石畳の道を進むサイが牽く車。やはり通りを歩く人はまだ少ない。

 それでも幾つかの商店が営業をしていて町が動き始めたのを感じる。

 ボクを見て目を丸くする人はいるが騒がれはしなかった。


 避難所に到着する、


 人目が無くなった時を見計らって人間型に戻ったボクは、ビスクにライノセ号の番をお願いして、カエン、シズク、コユキを連れてまとめ役のコウセクさんに面会を申し出る。


 応接室には既にコウセクさんが待っていた。

 カエンがボクを膝の上に載せて無理やり二人席に四人が腰かける。

 その様子にコウセクさんが微笑みを見せる。

 それも束の間、すぐに真面目な顔になって用件を問い掛けてくる。


「よく、いらっしゃいました。何か動きがあったようですね。お話を聞かせていたただけますか」


「はい、昨日魔王の幹部がある提案を持ちかけてきました――」


 昨日のボク達とゴウガイ将軍とのやり取りを知っているらしい。

 ボク達はコウセクさんに状況を説明する。


 魔王達は10日間は攻撃をしない。

 代わりに直接アジト「トウ草原のダンジョン」に来いと指示してきた。

 そこで決着をつけると。

 来なければ10日後に総攻撃をする。


 昨日の時点での10日なので、残りは9日。


 説明を聞いたコウセクさんは真剣な表情になる。

 言葉を濁す必要はない、ボク達の決意をはっきりと伝える。


「ボク達は行きます。そうしなければ町を守れない。大丈夫です。必ず勝って帰ってきます」


「君たちが出かけている間に町が襲われる事態はあり得るでしょうか?」


 その心配は無理もない。

 ただボクにはそれが起こらない確信がある。


「彼らの標的は彼女たちに移っています。現に彼女たちと戦わないで町を攻撃できた筈ですが彼らはそうしなかった。そして今日は彼らは襲ってこなかった。少なくともあと9日の間は、この町を襲わないと思います」


「そうですか……。何れにせよ私達に否はありません。魔王との戦いはお願いするしかないのですから。もちろん全面的に協力しますので、必要な物があればおっしゃってください」


「いくらか必要な物資をお願いしたいです。それとダンジョンへの地図とかダンジョン内の地図とかがあれば有り難いのですが……」


「わかりました。地図は冒険者ギルドから持ってきましょう。それと物資も欲しいモノをまとめていただければ用意しますが」


「必要な物資はこの紙に書いてあります。よろしくおねがいします」


「了解しました。……御出発はいつの予定ですか?」


「明日の朝を予定しています」


「じゃあ、必要なものは……夕方までに用意しておきますから、またここに来ていただけますか。それと、馬車は用意しなくていいのですか?」


「はい夕方また来ます。馬車は特別製が用意できましたから」


「――必ず生きて帰ってください。この前私が伝えた言葉を忘れないで下さい」


 そして、一旦避難所を後にする。


 ライノセ号の番をしていたビスクが恭しく礼をして「お疲れ様でした」と仕える者としての態度を見せる。

 ビスクに番をさせたのは失敗だったか。

 どうやらメイド魂のスイッチを入れてしまったようだ。どうしよう。


 ビスクが御者台に座る。


 ライノセ号はボクが進行方法を決めている。

 前輪に直結している梶棒をボクの身体に繋げて牽引する仕組みだ。

 御者台の役割はライノセ号の後輪ブレーキ操作だけ。急ブレーキや急な下り坂の時だけ、ライノセ号の車重によるボクへの負担を減らす役目がある。

 だから、ほとんど仕事はない。今のところ後輪ブレーキを使用する機会はない。


 ただ、どうもビスクは望んでそこに座っているようだ。使命感を感じる。

 客車の中にいるのが気後れするとか、遠慮しているとかではなく。

 そう、目が輝いている。こここそが自分の役目と思い定めた気配がする。

 なぜだ。なぜそこまで。仕える者の定めか、従う者のサガか。


「ビスク……、ライノセ号の中でくつろいでいていいトプ」


「いえ! 私はここでムトップ様のお世話をいたします!」


 元気になったのはうれしいけれど……。まあ、いいか。とりあえず、


「様は止めるトプ」


「はい……ムトップ……」


 小さな声で聞こえないように「さま」と言っている。

 いつの間にかボクを主人として対応するようになっている。

 他の少女達は友達感覚だけれど、ボクだけ色々指示をするからだ。

 何とかしたいが何ともできない。


 ちなみに大型サイに変身中のボクは視野が広いので、ライノセ号を牽引していても少し首を巡らすだけで御者台が見える。草食動物だからね。


 夕方になってコウセイさんから物資を受け取る。


 対応をビスクに任せた。その理由は幾つかある。

 なるべく人と触れ合うようにして欲しいとか、しっかりしているから任せられるとか。


 けれども一番の理由は、彼女は仕える者として働く時にこそ、幸せな表情を見せるから。


 それならやってもらう以外にあるまい。

 だからボクを主人扱いするのを止めさせられない。


「私はムトップ様の代理を務めさせていただきますビスクと申します。この度は物資の支給を賜りまして誠にありがとうございます。この車――ライノセ号に積み込みますので、ご協力よろしくお願いいたします」


 また「様」をつけている……。まぁ、仕方がないか。

 それよりも、ビスクが魔王の元幹部だとバレないか心配していたのだけれど、誰にも気づかれなかった。


「当然ですわ。最初に町にやってきた時のビスクと、今の彼女は誰が見ても別人ですから。雰囲気がまるで違いますわ」


 シズクに聞いたら当たり前のように言われた。


 ボクは巨大サイの姿でただの牽引魔獣の振りをしていた。

 コウセイさんは「サイ? ムトップさんは?」と首を傾げて呟いている。

 他の大人達、そして避難生活している子供が客車を牽くボクの姿を見て笑顔になる。

 引きつった笑顔の人もいたけど。

 皆の笑顔や希望が力になる。


 ボクは守るべき人たちの姿を目に焼き付けた。


 本日はこの後、準備が整い次第、特別篇「動く図解『ライノセ号』!その1」の掲載を予定しています。


 よろしくお願いします。

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