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第13話:急転直下!ビスクにダンジョンに女王様?(4)

「――ムトップ、聞こえますか?」


 突然、良く知る声がボクの名前を呼ぶ。

 ボクがこの世界に転送される直前に聞いた優しい声。その女性の姿は見えない。

 みんなに目配せをしてから、声に答える。


「はいトプ、女王様」

「ムトップ……本当にすみません。あなたの望みは知っていたのに、何も言わずにこのような目に合わせてしまい申し訳ないと思っています」


 ボクの故郷「魔法の国」の女王様。


「女王様、ボクは今しっかりと理解しているトプ。なぜ女王様が何も言わなかったのか、なぜボクだったのか、そしてこの世界でボクが何をすればいいのか、全てわかっているし、そして全て納得しているトプ」


 憧れの「日本」を諦めて、異世界へ行ってくれと言われれば泣きながら断っただろう。

 異世界で会話をするには、ボクの【言語認識】レベルMAXが必要不可欠だ。

 この世界の闇の存在を光に還す任務は、誰かがやらなければならなかった。

 わかっているし納得している。


「ムトップにならわかってもらえると思っていました。それでも言わせてください。――ありがとう」


「ボクは恨んでなどいないトプ。確かにいきなりここに送られたときは体の色が紫色になったけれど、今はボクを彼女たちに会わせてくれて、彼女達リルプレアの妖精にしてくれて感謝しているトプ」


「ムトップ、ありがとう……。話をする時間に制限があって残り少なくなりましたので、急いで要件を伝えます。明日の朝にその家の正面に、今あなたが望んだモノを届けます。そこに私からの手紙と、送ったモノの説明書を添えておきますので確認してください」


「というと馬車用の客車トプ?」


「そうです。あぁ、もう時間がありません。また条件が整えば話ができるでしょう。それからその世界のリルプレアの皆さん。あなたたちの活躍を祈ります」


「はい!」「……はい」「はい」


「それではムトップ、後をお願いします。それでは……」


 女王様の声が消えて、一瞬だけ静寂が部屋を包む。


 話ができたのは本当に短い時間だけだった。

 けれど女王様の考えでこの世界に送られたとの確証が得られた。

 ボクの今の思いも伝えられた。十分な結果だ。


 なぜボクが客車を必要としていると知っていたのかはわからない。

 それもつい今しがた決まった話だから、ボク達の話を聞いていたのは確かだ。

 そしてそれがすぐに用意できると言う。

 それが何故かの答えは必要ない。今はやるべきことがある。


「――聞いていてわかったと思うけれど、今の声はボクの故郷『魔法の国』の女王様トプ。あの方がボクをこの世界に送ってくれたトプ。今は感謝しているトプ」


 カエン、シズク、コユキがボクを見て頷く。ビスクも女王様の話の中で経緯がおぼろげながら理解できたのか一緒に頷いている。


「今の話で、先程までの懸案事項だった客車の問題が一応の解決を見たとして……、別の話をするトプ。――ビスク、君にはこれからの行程で、夜の見張りとか皆のサポートとして当てにしたいトプ」


 ボクは自分の持つ能力【ステータス鑑定】を説明して、ビスクの能力を知っていると隠さずに話した。

 戦力としては心許ないが、ダンジョン攻略に同行できる能力があるだけでありがたい。

 少しでも人手が欲しい今はやってほしい役割はいくらでもある。

 まずその了解が欲しかった。


「はい、是非ともその役目やらせてください!」


 ビスクの目が輝く。


「夜の見張りなら、私はほとんど睡眠を必要としないように造られましたので、一日に一時間ほど目を閉じて休憩する時間があれば問題ありません。それに私はメイドとして生を受けました。皆様のお手伝いをができれば本望です」


「それは役目にピッタリの能力トプ。お願いするトプ。――じゃあ、もう少し全員の能力を教えあうトプ」


 ボクは他のスキル【危険察知】や【肉体変化】を説明する。


 ちなみにボクは既にビスクを信頼しているし、力になりたいと思っている。

 まぁ、【危険察知】レベル3が何も反応しないという理由もあるけれど、やはり悲しむ少女の力になりたいという気持ちがボクにとって大事だから。

 ただ、少女かどうか若干疑義がある。……32歳だから。でも見た目は少女だから。


 それはさておき、知りたかったビスクの能力について聞いてみる。


「【人形操作】ってどんな能力トプ?」


「はい、事前に操作する人形を作っておく必要がありますが、その人形を自在に操れる能力です。作る人形にもよりますが、しっかりと知能もありますので、命令して従わせるというほうが近いと思います」


「今は人形はあるトプ?」


「いえ……、今はありません。作るとしても、身体を作る素材と魔石が必要で、作成に数日必要になります……すみません」


「わかったトプ。謝る必要はないトプ……、ビスクはみんなと仲良くなることを最優先にするトプ。しばらくは人形を作るよりも、みんなと一緒に行動するトプ」


「それなら皆で出かけてさ、町で人形を作る材料を集めてこようよ。お店に人がいなければ、お金を置いてくればいいよね!」


「賛成ですわ」「……んっ」


 カエンのアイデアに皆が賛成した。


 ビスクはまだ色々と遠慮をしている。

 早く慣れてもらって意思疎通がしっかりできるようにならないと、余計な気遣いが原因で不測の事態になりかねない。部屋で話すより、気分転換に外を出歩いた方が良いかもしれない。


 ボクは早速人間型に変身する。


「それでは外に出て、散歩がてら人形の材料を集めに行きましょう」


 ――ビスクの人形について。


 いまの能力だとビスクより強い人形は作れない。

 制御できる数は、ビスクと同程度の強さで一体、小さくて弱い人形なら四体。

 制御はビスクと人形の間だけで通じる思念でやり取りするので他人にはわからない。

 思念は距離や障害物の影響をほとんど受けないので、制御範囲は数十kmはあるらしい。


 その条件で考えてボクは提案する。


「であれば索敵に使える人形が良いのでは。小さいのが四体でどうでしょうか?」


「それが良いですわ。ムトップの【危険察知】もありますけど、負担が減らせますから」


「じゃあ、それで!」


「……可愛い人形がいい……」


 コユキが珍しく希望を言ったので、可愛い人形四体が採用になった。


「その人形って人と会話できるのですか?」


「いえ、他の人との会話はできません。思念で私と会話ができるだけです。……でも、人形術の力が上がれば、会話する能力を与えられると聞いています」


「シズク――、この世界に遠くの人と話せる魔法アイテムとか普通にありますか?」


「いえ、聞いたことがないですわ」


「それなら、ビスクの人形が会話できるようになれば、遠距離の連絡ができるようになりますね。人形を持っていれば、遠く離れても人形を介してビスクと意思疎通ができるのですから」


「それは便利だね」「そうですわね」


「会話できなくても人形の身振り手振りでなら、なんとかできるかも知れません」


「そうですね。では、しばらくはそれでいきましょう。遠距離連絡は必ず役に立ちますから。――そして話せるようになれば、一段と貢献してもらえますね。ビスクの人形術のレベルが上がるのも楽しみです。……でも気負いすぎるのはダメです。なるようになるぐらいで」


「――わかりました」



 ◇ ◆ ◇



 それから服屋とか家具屋とか金物屋に行って、人形の材料になりそうなモノを探して回る。大概の店は誰もいないけれど閉まってもいない状況で、シズクが書いたメモとお金を置いて欲しいモノを持ち出した。


 最初はトウモトの町の様子に責任を感じたビスクは表情を暗くしていたが、カエンとシズクが慰めたり諭したり注意したりで「わかりました」と納得して、それからは平静を保つように努力していたようだ。


 カエンとシズクはしきりにビスクに話しかけていた。

 話題はトウモトの町、人形、リルプレア、ボク、ダンジョン、魔王等々。


 話にだけ出てきたダンジョンマスターの容姿についても根掘り葉掘り聞きだしていた。

 封印された人の話をして落ち込まないかと心配したが、カエンもシズクもコユキもみんな身内やほぼ身内が封印された身の上だった。判断は彼女たちに任せよう。

 コユキも要所要所で的確に短い意見を言って自己主張をしている。


 ビスクの表情から暗い影が少しずつ消えていく。


 ボクはみんなの平穏な様子に安心しながら、別の件を考えていた。


 闇の存在達が持ちかけてきた提案の意図は何か。その理由の考察は終えている。

 彼らは極上の絶望を求めている。

 その標的が、このトウモトの町ではなくリルプレア達に移った。

 だから、この申し出になったのだろう。

 そうでなければ、奴らはこんな回りくどい手段はとらない筈だ。


 だからトウ草原のダンジョンで待ち受けているのは……、少女達を絶望に落とす策略。


 ボクはそれに気づいていながら、彼女達が罠に向かうのを止められない。

 残る手段は町の住民を見捨てて逃げるという選択肢だけだから。


 それを少女達は選ばない。


 それならボクは彼女達を支援する。リルプレアの支援妖精として少女達の意志を尊重する。

 だから先に考えておこう。伊達メガネを光らせて。

 ボクは自分にできる最後の手段とは何かを密かに検討し始める。


 まだ少女達の散歩しながらの語らいは続いている。


 そういえば封印された人の姿――あの白い看板――が無くなっている。町全体でも保護が終わったようだ。相変わらず動く人の姿はほとんど見かけないけれど、少しずつ少しづつ前に進んで欲しい。希望を持つだけで闇の存在に対抗できるのだから。


 そうしてボク達は満足できる分の人形の材料を集めてから、夕焼けの中で帰路に就く。


 家に帰るまでにビスクの顔に笑みが浮かぶことはなかったけれど、それでも最初の硬い表情からはずいぶんと和らいだ雰囲気を見せ、この散歩が無駄ではなかったとボクは思った。


「明日も頑張るトプ」


 ――今日も無事に一日が終わる。


<次回予告>

ビスク

「魔王退治は私も協力させていただきます。よろしくお願いいたします。

 ムトップ様が牽引される乗り物が手に入りました。名前はライノセ号。

 座り心地の良さそうな御者台です。気に入りました。

 ――準備が整ったので、ダンジョンのあるトウ草原に向けて出発です。

 途中で魔物の大群に遭遇。その数――およそ1000体。

 そして魔物から逃げている少女を発見。一体どうなるのでしょうか……」



ムトップ

「次回『向かうはトウ草原!四人目のリルプレア発見?』 四話に分けてお送りするトプ」


 ~・~・~・~・~・~・~・~・~


 明日は本編の更新の後に、特別篇「動く図解『ライノセ号』!その1」の掲載を予定しています。よろしくお願いします。


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