第11話:急転直下!ビスクにダンジョンに女王様?(2)
今回も挿絵(アニメーションGIF)があります。
コユキが踊っていますが、本文中にコユキが踊るシーンはありません。
付録と思ってください。
翌日はビスクの言った通り闇の執事ビヨルンが現れた。もちろん朝食後。
白仮面を被ってシルクハットとスーツ姿の魔王の幹部。
念のためとスキル【ステータス鑑定】を行う……。
――【ステータス鑑定】
名前:ビヨルン 種族:闇の存在 性別:? 年齢:?
職業:闇の執事
HP 1656/1656 (現在値/最大値)
MP 0/ 0 (現在値/最大値)
物理攻撃力 48
物理防御力 68
魔法行使力 0
魔法防御力 48
器用値 32
敏捷値 38
幸運度 18
移動力 32
跳躍力 28
スキル
【闇の加護】レベル1
【ボトル管理】レベル1
技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)
【ボトル操作(ボトル管理レベル1)】
今までビヨルンに対しては効果のなかった【ステータス鑑定】が成功して、見えなかった能力値が判明した。これは予想外の成果だ。
理由は……、スキル【ステータス鑑定】にレベルが付いてレベル2になったからだ。
今、自分のステータスを見たらそうなっていた。
昨日千人近くの鑑定をしたからだろう。無駄ではなかったのだ。
そして、もうひとつの驚愕の事実があった。
ボクの――【ステータス鑑定】
名前:ムトップ 種族:妖精 性別:オス 年齢:10歳
職業:支援妖精
HP 30/ 30(現在値/最大値)
MP 20/ 20(現在値/最大値)
物理攻撃力 1
物理防御力 10
魔法行使力 15
魔法防御力 10
器用値 2
敏捷値 2
幸運度 30
移動力 2
跳躍力 1
スキル
【言語認識】レベル5(MAX)
【危険察知】レベル3
【肉体変化】レベル2
【雷魔法】レベル1
固有スキル
【ステータス鑑定】レベル2(UP!)
【 ? 】(LOST!) ← ココに注目!
技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)
【人間体変化(肉体変化レベル1)】
【本質体変化(肉体変化レベル2)】
【サンダーショット(雷魔法レベル1)】
おわかりにいただけただろうか。
そう、【プレアリング作成】が無いのである。無くなっているのである。
血の滲む思いで身に着けたあのスキルが……。
ボクは体の色が少し紫色になってしまった。
しかし今は魔王の幹部ビヨルンを前にしている。
身体の色は隠せなくても動揺の色は隠す。それがボクのやり方。
伊達メガネを光らせビヨルンの能力値を考察する。
その結果は――これならリルプレアでも戦える。
物理防御力の値が特に高い。これはリルフレイムでも簡単には突破できない。
しかし彼の魔法防御力。確かに値は48でかなり高いが、それでもシズクの魔法行使力ならば確実にダメージを与えられる。
効果のある攻撃方法がわかった。この成果は大きい。
「昨日はビスクが仕事をサボったようですね。まぁ、サボらなくてもビスクでは碌な仕事ができるハズもありませんから、どちらにせよ私に役目が回ってきたでしょう。今日は私ビヨルンが相手です。あなた達に未来はありません。――行きなさい手下どもよ」
周りにはドンテシターおよそ30体。
「ドンッ」「テシ!」「タ〜?」
念のための【ステータス鑑定】の結果はいつもと同じ。
ビヨルンの背後、前回ビヨルンが連れてきたゲンメツンとそっくりな姿。
巨大なガラス瓶に手足が生えている。瓶の身体からはみ出して宙に浮いている目と口。
――【ステータス鑑定】
名前:ゲンメツン 種族:闇の存在 性別:? 年齢:?
職業:闇のシャンパン瓶
HP 756/756 (現在値/最大値)
MP 0/ 0 (現在値/最大値)
物理攻撃力 48
物理防御力 56
魔法行使力 0
魔法防御力 36
器用値 19
敏捷値 18
幸運度 13
移動力 18
跳躍力 13
スキル
【闇の加護】レベル1
「今日のゲンメツンは前回のワイン瓶とは違って肉厚ガラスのシャンパン瓶です。あなた達の攻撃などではかすり傷すら付けられないでしょう」
ボク達は真剣に戦い方を話し合ってきた。一昨日も、昨日も。
速い敵に対して、固い敵に対して、特殊攻撃する敵に対して、ザコ敵が多い場合等々……。
だから、もうこんな奴らに遅れは取らない。
ビヨルンに聞こえないように注意して、ボクは【ステータス鑑定】結果を皆に知らせる。
「ドンテシターはいつも通りトプ。シャンパン瓶のゲンメツンは大サソリより防御力は低くて、攻撃力はクマのぬいぐるみより低いトプ。大丈夫、みんななら勝てるトプ。――あとビヨルンのステータスもわかったから、そっちはゲンメツンを倒してから考えるトプ!」
まずは移動と敏捷に優れる前衛リルアイスが先陣を切る。
「――氷をまとえ【氷雪刀】!」
ザコ敵ドンテシターの間を縫うように駆け抜ける。煌めく氷の斬撃。
「ドンッ」「テシ!」「タ〜?」
全てのドンテシターは紙ふぶきの様に舞い散っていき、そのまま光に還る。
30体の闇の手下はあっけなく消えていった。
シャンパン瓶の相手はリルフレイムとリルホーリー。
後衛はリルホーリー。大砲のように拳大の水球を放つ。
「水弾よ飛べ!【ウォーターショット】! 水弾よ飛べ!【ウォーターショット】! ……」
「ゲ……ゲ〜ンメツゥ……」
牽制のつもりで放った水球が数発ゲンメツンに直撃する。
前衛として飛び出すリルフレイムは己の攻撃力を高める。
「炎をまとえ!【爆裂剣】!!」
リルアイスが雑魚を殲滅して綺麗にした戦場をゲンメツン目指して突貫する。
そしてリルホーリーの魔法で狼狽えている巨体の正面から勢いのまま全力の一撃。
グガッッガーンッッ!!
爆発音とともに吹き飛ぶゲンメツン。
「ゲ……ゲ〜ンメ……ツ……」
圧倒的な力の差を見せつける三人のリルプレア。
たったこれだけの戦闘で既に勝負が見えている。
間を置かずに一旦後方に大きくジャンプして距離を取るリルフレイム。
放たれる宣誓はリルフレイム究極技の祝詞。闇の存在を光に還す圧倒的なパワーの始動。
空を見上げ「熱い炎が」
両手で剣を上に高く掲げて「闇を切り裂く!」
正面を向いて左足で地面を蹴って、右足を前に送り剣をゆっくり正面に振り下ろす。
力を帯びた赤い光が、振り下ろした剣先の軌跡をなぞる形で三日月に残る。
「リルプレアーッ!!」
剣の軌跡を示す三日月の赤い光が、剣を中心に八枚の開いた花びらのように増殖する。
「フレイム! スッラーーッシュッッ!!」
身体ごと剣を突き出す。八枚の炎の刃が煌めきながら解き放たれる。
そして虚脱しているゲンメツンに直撃する。炎の光に包まれる巨体。
シャンパン瓶は、口を開け、顔を上に向けて両手を宙に浮かせる。
「キ、キボウガー……」
ゲンメツンの最後の一声。
その姿はやがて薄れていき、砂粒のような光で描かれた姿になる。
その光の姿が拡散して空に舞い上がり消えていく。
ゆっくりと、音も立てずに。
それは闇の存在が光に還っていく光景。
その姿を静かに見守る三人の少女達。
――進撃の魔法戦乙女リルフレイム。
――殲滅の魔法戦乙女リルアイス。
――聖女の魔法戦乙女リルホーリー。
その後に残るこぶし大の輝く球体――エレメント。
「つっ、次はこんな風にはいきません……、首を洗って待っていなさい!」
ビヨルンは陽炎のように消えていった。これぞ捨て台詞。
まあいい。今日は奴のステータスがわかった。大収穫。
そしてリルプレア達の連携もうまくいった。
みんな落ち着いて戦っていて、安心して見ていられた。
「みんな、お疲れトプ」
「コユキ、ドンテシターと戦っている時、凄いカッコよかったよ!」
「……ありがと」
「カエンもゲンメツンとの戦い、なんていうか風格みたいな力強さがありましたわ」
「そ……そうかな……、シズクだって、あのウォーターショット! 威力が凄くてゲンメツンが目に見えて弱っていったよね」
戦いが終わり、変身を解いて健闘を讃えあう少女達。
ボクは戦いで得たエレメントをエレメントオルゴールに入れる。
いつものように可愛らしい音色が鳴り響く。
「トプ!」
思わず声を出してしまったが、誰にも気づかれなかったようだ。
今のでプレアリングが作成できる量が貯まったのだけれど……。
ボクのスキル【プレアリング作成】が無くなったのを思い出す。
その事実を忘れている間に元に戻った体の色が、また紫に成りそうなのを必死で抑える。
しかし事実は変わらない。
そう、今のボクはプレアリングが作成できない。
――ボクはメガネを光らせ考察する。
この世界に来てから【プレアリング作成】は一度も成功していない。
シズクの為に作成しようとした時。
その後にシズクの為と念じるのを止めて試した時。
その夜に改めて試した時。
全て失敗している。
その時には既にボクの【プレアリング作成】は無くなっていたのではないか?
ではシズクの水色のプレアリングはどうやって作成されたか。
背負ったリュックの中にあるエレメントオルゴールに意識を向ける。
――原因はお前なのか。
ボクは再考する。
エレメントオルゴールがボクからスキル【プレアリング作成】を取り上げたのなら……。
……何故かは判らないが……それなら、それでいい。
お前が持っていてくれ。シズクの時のように確実に働いてくれれば良い。
取りあえずボクはその結論で心を落ち着かせる。
戦い終わっていつもの帰り道でみんなの笑顔を見ながら。
その晩、改めて【プレアリング作成】を行うが失敗。
念のためエレメントオルゴールに【ステータス鑑定】を実行するが、もちろん反応しない。
スキル【ステータス鑑定】は生物相手にしか使えないから当然だ。
でも大丈夫。ボクの考察に間違いはない。そう言い聞かせる。そうでないと困る。
ボクは不安を握りつぶす。
◇ ◆ ◇
また翌日。いつものように朝食後、ゴウガイ将軍が現れる。
昨日はビヨルンに【ステータス鑑定】が成功したので、期待を込めて目の前の軍服姿の灰色鬼にも試してみる。
ゴウガイ将軍――【ステータス鑑定】
名前:ゴウガイ 種族:闇の存在 性別:? 年齢:?
職業:闇の将軍
HP 1926/1926 (現在値/最大値)
MP 0/ 0 (現在値/最大値)
物理攻撃力 72
物理防御力 48
魔法行使力 0
魔法防御力 48
器用値 28
敏捷値 30
幸運度 16
移動力 28
跳躍力 16
スキル
【闇の加護】レベル1
【魔獣使い】レベル1
技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)
【魔獣操作(魔獣使いレベル1)】
よし、【ステータス鑑定】が成功した。
物理攻撃力が飛び抜けているが、その他の能力値を見れば、それほど脅威ではない
対策を考えておけば、昨日のビヨルンと合わせて幹部の二人、リルプレアで戦える。
あと一人の幹部ビスクは……。
ゴウガイがボク達を睥睨しながら、鋭い牙を持つ口を開く。
「リルプレアとか言ったか。お前らに提案がある。ちまちまとこの街で戦うより、直接我々のアジトで決着をつけようではないか。今日より10日以内に我々のアジトに来るがよい。それまではこの街を襲うのを止めてやろう。まぁ、そちらにとっても悪い話ではあるまい」
確かにこの巨漢の提案は悪い話ではない。勝てるのであればだが。
ただ恐らく、……この提案は飲まなければならないだろう。
「10日の間にアジトに来なければ、その時は全勢力で持って、この街の残りの住民を封印してやる。――それと、これは土産だ。受け取れ」
ゴウガイが抱えていたモノを放り投げる。
それは、メイド服を着たビスク。
ロープで身動きできないように縛られている少女が、音を立てて地面に投げ出される。
彼女は気を失っていて、その顔色は青白い。
「その女は不遜にもドノタウガ様に逆らうような真似をしたのだ。それ故に魔王様の闇の加護を取り去って、元の脆弱な存在に戻してやった。お前らにくれてやる。道案内にでも使え」
地面に横たわったビスクを顎を使って指し示し、侮蔑の視線を送るゴウガイ。
「言っておくが、この街で封印されている奴らの三分の一はこの女がやったのだからな。恨みを晴らしたいなら、それも良いだろう。なんなりと好きにするが良い」
灰色の鬼が言い放つ。
ボクは横たわるメイド服の少女に【ステータス鑑定】を行う。
ビスク――【ステータス鑑定】
名前:ビスク 種族:人造人間 性別:女 年齢:32歳
職業:メイド
HP 1/ 42 (現在値/最大値)
MP 0/ 44 (現在値/最大値)
物理攻撃力 20
物理防御力 14
魔法行使力 24
魔法防御力 14
器用値 10
敏捷値 8
幸運度 19
移動力 10
跳躍力 8
スキル
【人形術】 レベル1
技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)
【人形操作(人形術レベル1)】
種族が人造人間。
これは……魔物なのか? 見た目はカエンやシズクと変わらない年齢に見えるが……32歳。これも魔物だからなのだろうか。
職業が闇のメイドではなくメイドになっている。闇の加護がないからだ。
あの闇の加護とは魔王の闇の支配力に違いない。であれば光の存在である妖精のボクが闇の加護を受けたら消滅してしまう。ちょっと怖い。
ビスクのステータス値はドンテシター程度。幹部のゴウガイよりも弱い。しかし冒険者並みには強いとも言える。
スキル【人形術】はボクの故郷「魔法の国」でも稀に見かけた能力だ。
そして……幸運度は高い。これは偶然か、それとも意味があるのか。
言いたいことを言い終えると、ゴウガイ将軍は高笑いしながら陽炎のように消えていった。
その場に取り残された気絶したままのビスク。
彼女をどうするか皆と相談しようとしたのだけれど、それよりも早く三人の少女は縛られた少女に駆け寄って行った。
もちろん彼女に報復するためでなく、戒めを解いて回復するために。
リルフレイムとリルアイスがロープを解いている間に、リルホーリーが呪文を唱える。
「聖なる癒しの水よ! 【リカバリー】!」
まぁ、そうするだろうなと思っていた。
ボクはビスクを介抱する少女達の姿を微笑ましく見守った。
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<挿絵「コユキが踊る」>