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第09話:満を持して!リルホーリー登場!(3)

「――闇の気配を感じるトプ!」


 一夜明けての朝食後。

 ボク達は外に出て闇の存在のいる場所に向かう。

 人間体にならずにカエンの頭に乗って連れて行ってもらう。



 そこはいつもの広場。


 大男が立っている。初めて見る顔だ。


 その顔は「鬼」だった。鋭い牙と額から生える左右一対の角。肌の色は濃い灰色、眉間にしわを寄せて鋭い眼光で睨んでいる。

 頭に被っているのは黒い軍帽。がっしりとした体格に軍服を着て、布地がはち切れそうな程に腕、胸、太腿の筋肉が存在を主張する。


 やはり【危険察知】が警告を鳴らしている。



 ――【ステータス鑑定】

 名前:ゴウガイ 種族:闇の存在 性別:? 年齢:?

 職業:闇の将軍



 この闇の存在の職業は闇の将軍。指揮官か幹部だと判断して間違いない。

 やはり魔王の幹部クラスはボクの【ステータス鑑定】が上手く働かないようだ。


 ゴウガイの周りにはドンテシターおよそ50体。

 身体をウネウネと動かして今にも襲い掛かろうと身構えている。


「俺はドノタウガ様の部下ゴウガイ将軍だ。昨日までのクズとは一味違うぞ。リルプレアだったか? 今日はお前たちを苦しまずに封印してやるから大人しくするんだな。 ……まぁ、小手調べだ、行けドンテシター!」


 ボク達の姿を見つけていきなり手下共をけしかけてきた。


「ドンッ」「テシ!」「タ~?」


「カエン! コユキ! 変身するトプ!」


「任せてっ!」「んっ……」


 闇の存在の相手を二人のリルプレアに託す。

 二人は並んで左腕を水平に前に出して、力強く変身のキーワードを叫ぶ。


「「ネクストステージ! ――リルプレア!!」」


 目を閉じるカエンとコユキ。

 二人のプレアリングが光を放ち変身を始める。

 髪の毛が光り髪型が変わる。

 白いシャツに大きなリボンにフレアスカートとベレー帽。

 そしてそれぞれの装備品。手には武器が現れる。


「――進撃のマジカルヴァルキリィ! リルフレイム!!」

「――殲滅のマジカルヴァルキリィ……リルアイス!」


 二人並んで変身が終了する。

 最後にリルフレイムの決め台詞。


「闇の者達よ! 光に抱かれて眠りなさい!」


 いつもより多いドンテシターはリルプレアを取り囲むように移動する。

 二人のリルプレアは背中合わせになってドンテシターの攻撃を迎えるように構える。


 そして黒タイツ達の全方位からの一斉攻撃。


「ドンッ」「テシ!」「タ~?」


 一瞬二人の少女の姿が黒い影に覆われて見えなくなる。


「たぁっ!!」「……んっ!」


 しかし次の瞬間には半分のドンテシターが身体を捻じ曲げながら吹き飛び、もう半分の手下共は黒い紙ふぶきの様に風に飛ばされる。


 それを成したのはリルフレイムの両手剣の一閃とリルアイスの眼にも止まらぬ刀捌き。

 そして50体もいたザコ敵達は「ドンッ」「テシ!」「タ~?」と最期の言葉を残して、光の粒子となって空に還っていった。


「なんだと……。思ったよるやりよるな。だが、俺の作ったゲンメツンにはどうかな? 強力な魔獣をゲンメツンにしたのだ。こいつは強いぞ。――行け! ゲンメツン!」


「ゲ~ンメツッ!」


 闇の将軍ゴウガイの後ろに控えていたゲンメツンが前に出てくる。

 その姿は巨大なサソリ。



 ――【ステータス鑑定】

 名前:ゲンメツン 種族:闇の存在 性別:? 年齢:?

 職業:闇の大サソリ

 HP  912/ 912 (現在値/最大値)

 MP    0/   0 (現在値/最大値)

 物理攻撃力  42

 物理防御力  68

 魔法行使力   0

 魔法防御力  38

 器用値    14

 敏捷値    18

 幸運度     8

 移動力    16

 跳躍力     6

 スキル

 【闇の加護】レベル1

 【毒攻撃】レベル1



 固そうな紫色の外骨格と両手の巨大なハサミ、そして尾にある毒針を前面に出して二人のリルプレアを威嚇する。スキルの毒攻撃が危険だ。


「防御力が高いトプ! それと毒攻撃に注意するトプ!」


「炎をまとえ!【爆裂剣】!!」

「……氷をまとえ【氷雪刀】」


 二人はボクの声を聞いて攻撃力を上げるため魔法剣を発動する。


 リルフレイムの【爆裂剣】がゲンメツンの身体で爆発を起こす。

 リルアイスの【氷雪刀】がゲンメツンの身体に氷の軌跡を描く。


 しかしゲンメツンは二人の攻撃を己の外骨格で平然と受け止める。


「ゲ~ンメツッ!」


「攻撃が効いてないの!?」

「んっ!」


「ぐはははは! ただでさえ強度のある魔獣の身体が、ゲンメツンになってさらに強度が上がっているのだ。そんな武器で傷が付くものか! よしゲンメツンやってしまえ!」


「ゲ~ンメツッ! ゲ~ンメツッ!」


 ゲンメツは両手のハサミでリルプレアに攻撃を仕掛けながら、サソリの尾を正面に向け紫色の液体を2発打ち出す。


 その時、リルプレアの二人は効果のない己の攻撃を目の当たりにして焦っていた。

 戦闘経験の少なさが露呈してしまい、少女二人はサソリの毒攻撃をもろに喰らってしまう。


「うああぁぁぁ!!」

「んっっ!!」


「どうだっ! その毒液の効果は! どんなに強くてもその毒には対抗できまい! がはははは!」


 ゲンメツンの毒攻撃の効果で顔色が紫色に変色する。

 やがて毒に苦しみ地面に倒れ込む二人のリルプレア。


 その姿を見てゴウガイとゲンメツンは大笑する。


「あぁっ……!」


「シズク! 待つトプ!」


 その姿を見て駆け出そうとするシズクを、ボクは苦渋の思いで引き止める。

 どうすればいいか思いつかない。しかし、少なくとも彼女を行かせる訳にはいかない


「でも私の回復魔法で!」


「シズクの回復魔法は毒状態は直せないトプ!」


「それでも体力だけでも回復させれば!」


「あの毒を生身で受けたら身体が持たないトプ!」


 ボクの【危険察知】があの毒の危険性をはっきりと告げている。

 それでもシズクはボクを振り払おうとする。


「ここで私がやらなければ! こういう時のために私は回復魔法を覚えたのですからっ! 私の回復魔法で助けられるのなら、それで倒れても本望です!」


 全身全霊で激しく叫ぶシズク。


 その時――、





 突然ボクの背後から綺麗な音色が聞こえてくる。


「えっ……」


 その調べを聞いてシズクは驚きの声をあげる。


 それはエレメントオルゴールが奏でる旋律。


 ボクは背負ったリュックから急いでオルゴールを取り出して蓋を開ける。

 途端に中から光の粒子が溢れ出す。


 その眩い光の中から飛び出してきたのは――水色に輝くプレアリング。


 ボクとシズクの間に浮かぶ。


「シズク! プレアリングが……君のためのプレアリングができたトプ!」


 驚きに目を丸くしてプレアリングを見つめる水色の髪の少女。

 そしてゆっくりと手に取って喜びの表情を浮かべる。


 その姿にボクは問い掛ける。


「シズク……、変身のセリフは知ってるトプ?」


「もちろんですわ!」


 力強く返事をしたシズク。


 そして水色のプレアリングを左腕にはめて水平に前に出す。

 羨望の中で何度も聞いた変身のキーワード、――思いを込めて自分の口で唱える。



「ネクストステージ! ――リルプレア!!」



 その瞬間、プレアリングが水色の光を放つ。


 目を閉じる水色の髪の少女。

 髪の毛が輝きロングヘアの髪の毛がまとまって背中の位置で括られる。

 服装も光を帯びて順番にリルプレアの装備に変わっていく。

 ノースリーブの白シャツに胸元に大きな水色のリボン。

 ひざ上丈の水色のフレアスカート。

 頭上に現れたのは水色のベレー帽。

 白衣はくえの袖だけが飾りのよう腕を覆っている。

 足には白いひざ上丈のハイソックスに赤い鼻緒の小さな草履。


 そして最後に手元に木製の杖。一振りすると水滴が舞い散る。



「――聖女のマジカルヴァルキリィ! リルホーリー!!」



 静かに立ち優しく微笑んでポーズを決めるシズク――リルホーリー。



 ――【ステータス鑑定】

 名前:リルホーリー 種族:聖女の魔法戦乙女 性別:女性 年齢:14歳

 職業:巫女

 HP 222/222 (現在値/最大値)

 MP 240/240 (現在値/最大値)

 物理攻撃力   24

 物理防御力   36

 魔法行使力   60

 魔法防御力   42

 器用値     18

 敏捷値     24

 幸運度     48

 移動力     24

 跳躍力     24

 スキル

 【神聖術】 レベル1

 【水魔法】 レベル1

 固有スキル

 【ホーリーシャワー】

 技・魔法(カッコ内は必要スキル・レベル)

 【ウォーターショット(水魔法レベル1)】

 【リカバリー(神聖術レベル1/水魔法レベル1)】



 闇の存在と戦う者――魔法戦乙女マジカルヴァルキリィリルプレア。

 そこに新たな戦士が再び生まれた。

 聖女の魔法戦乙女マジカルヴァルキリィを冠した水色の髪の少女――それはシズクが変身した姿。

 その名はリルホーリー。

 水魔法と癒しの術を得意とする高い魔力を誇る聖なる巫女。



「君はいま闇を消し去り希望の光をもたらす者『リルプレア』に変身したトプ。大丈夫。その力を使って闇の存在を光に還すトプ!」


「わかりましたわ!」


 キッと表情を変え、苦しむリルフレイムとリルアイスの方に向き直り、素早く駆け寄る。

 そして右手で杖を振り上げ叫ぶ。水色の胸のリボンが揺れている。


「聖なる癒しの水よ! 【リカバリー】!」


 杖の周りに光が集まる。


 魔法【リカバリー】は体力の大幅な回復に加え、各種の状態異常を治癒する万能回復術。


 大きくなった光が収斂するにつれて、リルフレイムとリルアイスの周りを無数の水滴が球状に囲み回転する。その後すぐに水滴は消え二人のリルプレアの顔色は普通に戻る。


 お互いに顔を見合わせて無事を確認しリルホーリーに笑顔を向ける。


「ありがとう! リルホーリー!」

「……ありがとう、リ……リルホーリー」


 その光景を見てゴウガイ将軍が喚きだす。


「なんだと! また増えたのか、節操のない奴らめぇ! ……だが、ひとり増えたところでゲンメツンに攻撃が効かなければどうにもできまい、捻り潰せ。 ゲンメツン!!」


 HPの回復と毒状態からの回復はしても、猛毒によって受けた身体に残る疲労は癒えない。


 リルフレイムリルアイスは再び魔法剣を発動してゲンメツンに攻撃を仕掛けるが、身体のキレをなくした攻撃では大サソリの巨体は全く怯まない。


 リルフレイムが剣を右手だけで持ち魔法を唱える。


「熱き炎よ!【ファイヤーボール】!」


 正面に向けた左手の平に拳大の炎の塊が生まれ、ゲンメツンに向かって飛んでいく。

 命中した火の塊は大サソリの外骨格で弾けて消える。


「魔法も効いてない!?」


 リルアイスも魔法を試す。刀を下げて魔法を唱える。


「氷よ貫け【アイスジャベリン】」


 正面に向けた左手の平に生まれた三本の小さな氷の槍が、ゲンメツンに向かっていく。

 命中するがやはり効果がない。


「ばかめ! そのゲンメツンは魔法耐性も高いのだ、剣で傷つけられないのに魔法が効くわけがないわい」


 二人のリルプレアは魔法剣を使った攻撃を再び始める。

 サソリの尾からの毒液攻撃は注意深く避けてはいるが、決め手に欠けて膠着状態に陥っている。


 その最中、リルホーリーは自分の武器――木の杖――をじっと見る。


「ムトップ! 私の武器がなんか弱そうなんですけど!」


 その杖で戦えるのか……。

 リルホーリーの物理攻撃力は28。大サソリの物理防御力68を突破できる筈がない。


 ボクは伊達メガネを光らせて考える。

 彼女の得意とするのは魔法行使力――値にして60。

 結論は……、彼女の水魔法の威力を信じるしかない!


「リルホーリー! 君は魔法の力が強いトプ!」


「でもあの軍人鬼が今日のゲンメツンは魔法耐性が高いって言ってましたわ!」


「大丈夫トプ! 君の魔法の力は物凄く高いトプ!」


「わかりましたわ……やってみます」


 杖を振り上げ魔法を唱える。


「水弾よ飛べ!【ウォーターショット】!」


 リルホーリーの杖の先にこぶし大の水球が生まれて、ゲンメツンに向かって音を立てて「ドンッ!」飛んでいく。

 衝撃を感じる音がして、ゲンメツンに命中、巨体を後方に押しやる。


「凄い威力ですけど、傷を与えられていませんわ!」


「続けるトプ!」


「わかりましたわ!」


「水弾よ飛べ!【ウォーターショット】!」ドンッ!

「水弾よ飛べ!【ウォーターショット】!」ドンッ!

「水弾よ飛べ!【ウォーターショット】!」ドンッ!


 何度か繰り返してウォーターショットで攻撃すると目に見えて大サソリが弱りだした。


「ゲンメツン! 何をしておる!」


「外側が固いなら内部に衝撃が向かう重たい攻撃が有効トプ! そしてリルホーリーの強力な魔力が外骨格を超えてダメージを与えたトプ。リルホーリー、そろそろ決め技を使うトプ!」


 水色の髪の少女はその言葉に頷いて、両手で杖を持ち捧げるように前に出す。


 光を放つ宣誓はリルホーリー究極技の祝詞。闇の存在を光に還す圧倒的なパワーの始動。


 目を閉じて静かに立ち「聖なる水よ!」


 杖を右手で持ち両手をゆっくりと広げる。「闇の浄化を!」


 広げた両手を上に掲げる。

 後方で両手で抱えるほどの太さの水流が上昇し、頭上に巨大な水球が生まれる。


「リルプレア!」


 巨大な水球がタユンタユンと音を立てるように波打つ。


「ホーリーシャワー!!」


 杖を振り下ろす。


 水球から無数の水滴が豪雨の様に動きを止めた大サソリに降り注ぐ。

 そして光に包まれる巨体。


「キ、キボウガー……」


 ゲンメツンの最後の一声。


 その姿はやがて薄れていき――砂粒のような光で描かれた姿になる。

 その光の姿がゆっくりと拡散して空に舞い上がり消えていく。


 それは闇の存在が光に還っていく光景。

 その姿を静かに見守る水色の髪の少女――聖女の魔法戦乙女マジカルヴァルキリィリルホーリー。


 その後に残るこぶし大の輝く球体――エレメント。


「くそう……次はこんな簡単にはいかないぞ」


 ゴウガイ将軍は陽炎のように消えていった。



 リルホーリーに駆け寄るボクとリルフレイムとリルアイス。


「ムトップ、ありがとうございます! 私もリルプレアになれましたわ!」

「おめでとうトプ!」


 リルホーリーの心底幸せそうな顔にボクは心のそこから安堵する。

 色んな意味で。


「リルホーリー、これからも一緒に頑張ろう!」


「リ……リルホーリー……がんばろ」


「リルフレイムとリルアイス。これからよろしくお願いします!」


 ボクは大サソリが残したエレメントをエレメントオルゴールに入れる。

 戦いの終わった広場に可愛らしい音色が響き渡る。


<次回予告>

コユキ

「……お姉ちゃんの機嫌がいい。ずっと、お歌を歌っている。

 ……敵のメイドさん? ……なんか大変になった……。

 ……みんな難しい話をしている。……。……んっ、かわいい人形を作って欲しい」


ムトップ

「次回『第10話:急転直下! ビスクにダンジョンに女王様?』 四話に分けてお送りするトプ


~・~・~・~・~・~・~・~・~・


2015.7.19修正しました。

(前)それはエレメントオルゴールが鳴らしている奏でる旋律。

(後)それはエレメントオルゴールが奏でる旋律。



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