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小鳥遊竜稀 保健室登校(前編)

作者: 灰猫

ガラッ


「北斗先生ベット貸して」


と、言ったが早いか彼女はベットにシャッと入り込む。


「んー・・・」

「北斗先生ー。机の上の書類持ってきてくださーい」

誠史郎が北斗を呼び込む。


本当は書類なんかないのに北斗は数枚のプリントを持って相談室に行く。



「彼女、一日も教室に行ってませんねー」



「はい。1-Dの小鳥遊竜稀タカナシタツキさんです。

小学校の頃にいじめにあっていたせいもあって、中学に入ってもクラスに

なじもうとしません」



「ふむ。でもちゃこちゃんには口を利くんですね」

「口を利くというほどでは」


「今度ーねー来たらベットに入る前に彼女に触ってみてください。

手でも、腕でも、いけそうならハグでも、他人に触られることに慣れさせてくださいな」


「はぁ?わかりました」


それ以来北斗は少しでもベットを貸すときも手を握って導いていた。


「何かさあ最近北斗先生あたしによく触んない?」

「さ?きっと気のせいよ。ふふ」



あわせて北斗は少し違和感を感じていた。誠史郎は

小鳥遊が居るときは必ず自分を北斗先生と呼び、

相談室にこもってほとんど姿を見せない。

そして業を煮やしたのは小鳥遊のほうだった。


「北斗先生!あの人誰!」


ずるぺったんずるぺったん

「『初めまして』スクールカウンセラーの桜井誠史郎です。

何か困ったことがあったら相談を受け付けるよ」

いつもの笑顔はなくメガネ越しに静かに問いかける。


「そんなもんないよ」

バシッと思いきりドアを閉め小鳥遊は出て行った。



「先生。またなにかありますね?」

北斗がチロリと誠史郎に視線をおくる。



「突っ込むねー。ちゃこちゃん」

誠史郎がニッコリ微笑む。

「住好町ってココの学区?」


「ええ、そうですね」


「じゃあほぼビンゴだ。

たぶん小学校であの子カウンセリングしてます」


「え?でも初めましてって・・・」


「環境変わりましたからね。小学校の頃は社会不安障害と判断して、陽性転移してるんです」


「陽性転移・・・」

「陽性転移って!!」

北斗が驚く。


「あれ?言ってませんでした?僕、精神科医持ってますよ?基本でしょ?」

誠史郎がにんまりと言う。

北斗は目を見開いて固まっていた。

『そうだった!臨床心理士だけじゃなかった!』


「だからしばらくしばらく知らんぷりんしてますわ。

ただ、このまま毎日保健室では単位が取れないですね~」

う~ん。と誠史郎は考え込む。



ずるぺったんずるぺったん

「坂上先生~」

「あ、桜井先生」

「そちらのクラスの小鳥遊さんなんですけど~」

「ええ出席がほとんど保健室になってしまって・・・」


「クラスでいじめは?」

「いや、ないと思います」

「それはクラス全員の責任ですね。傍観してるだけでいじめです。無関心というね」

「はあ・・・」


「んーどうしようかなあ」

「家庭訪問もしたんですが、お母さんが本当に無関心で・・・」

「あいかわらずか・・・」

「え?」

「あ、いやこっちの話」


また今日も彼女はカーテンを閉めてこもっている。


「ねえ小鳥遊さん、どうせ寝てないんだし教科書とかのぞいてみない?」

北斗が小鳥遊に声をかける。


「興味ないよ」

ベットの上で北斗に悪態をつく。


「その割には時間割通りに持ってきているようですが?」

ひょいと誠史郎がかばんを覗く。


「何人のモノ見てんだよ!ばかやろー!」


小鳥遊は桜井を蹴飛ばしバシンとドアを閉めて出て行った。


「お家の方と話されてみるのは?」

北斗がたずねる。


「あそこ母親が軽いネグレストなんですよ」


「よくご存知ですね」


「地獄耳ですからね~。ちゃこちゃんの3サイズも知ってますよ」


誠史郎はバシンと日誌で叩かれた。

「セクハラですよ。桜井先生!!」


今日も小鳥遊はベットにこもる。

「小鳥遊さんいらっしゃい。ねえ。教科書見てみようよ~」

今日は誠史郎が声をかける。

「うるさいなーそんなの見ないって言ってるだろ」

「ところが見るんですね~」



カーテンを開けて誠史郎が来る。


「勝手にあけるんじゃねーよ」



「はいこれ。プレゼント」


プリントを一枚出す。

「コレ現国の小テスト。坂上先生からもらったの。

教科書見ながらでいいからやってごらん?

やる気ないんだったら教科書もってこなくていいじゃない?」

「やる気あるの?無いの?」

いつもより冷たい口調で誠史郎はプリントをひらひらさせる。


「うるさい!」

小鳥遊は初めて保健室で教科書を開き、プリントに手を伸ばした。



その間誠史郎はずっと

保健室にいて時々小鳥遊が顔を上げると必ず目を合わせて微笑んでいた。

「ほら!やったよ」


バシンとテストを叩く。

「はいご苦労様。これごほうび」


誠史郎はポケットから小さいチョコやキャンディを取り出す。





「脳を使ったら糖分ね」





・・・・・・


「はい。32点。次の小テストは数学だからちょっと厳しいね~。坂上先生呼びつけてみていいよ」

「うるさいな。だまっててよ!」



その日あたりからベットではなく小鳥遊は机に向かう日々が増えていった。



「北斗先生~」


「え、あたし?保健教諭だもの歴史は無理よ」


「おいスクールカウンセラー」


「僕は授業をやりません」






・・・「ん、歴史40点順調に上がってきてますね」






『でも自己流じゃ限界があるなあ』

桜井が渡り廊下で人を待つ。3人の少女が現れる。


「やあ、こんにちは。君たちにお願い事をしていいかな?」

ごにょごにょ

「はい。大丈夫です。やれます」




「失礼します」

と3人の少女が入ってきた。小鳥遊が慌ててベットに行く。




「小鳥遊さんあたし達同じクラスの飯島です。高木です。赤木です。

今日やった授業のコピーなのでよかったら使ってください」

カーテン越しにプリントを入れる。


「じゃあ失礼します」

3人は去っていった。



「おいスクールカウンセラーオマエの仕業か」

「さぁね。3人の好意ムダにするとまた赤点じゃない?」


ぶすっとベットから出てコピーを見る。

3人は毎日コピーを置きに来た。

ある日、北斗が言う。


「ねえ、なにかしてもらったら向こうも喜ぶんじゃないかしら?」

北斗先生まで向こうにまわりやがった。と思いつつ、



いつもの時間にカーテンを開けたベットにすわり、3人が来ると目が合った。


「い、いつもありがとう」

と一言言ってカーテンを閉めた。



「おい今回の数学は60点だ平均よりちょい上だぞ」

「まじで?」

「はいごほうび」



小鳥遊はテストが終わったときと返される時に

少しだけもらえるオヤツがいつの間にか好きになっていった。




「これくらいだったら親に見せていもいいんじゃない?」



小鳥遊の顔が凍る。

「3人組にお礼を言ったように

自分から話かけることも大事だよ。報告は義務ね。よろしく」



小鳥遊は重い足取りで家路に着く。



母に「テストで60点取ったんだけど・・・」

何も言わず母は洗い物をしていた。



「父さんあたしテストで60点取ったんだけど・・・」



「ん?テスト。お前ちゃんと学校で勉強してるのか?」



「ん、今回のは平均よりちょっとだけ高かったんだって」

「そうか、すごいな。じゃあ次は100点だ!」

「無理だよ100点なんてさ」

「いーや竜稀はやればできる。100点取ったらごほうびやるぞ!」

「ほんとうに?なんでも?」

「そうだ。がんばれ」


竜稀は父に抱きつき少しだけ目をにじませていた。



「は?」

「えっと、途中まで一緒に帰ろうかなって思ったんだけど、イヤかなあ?」

「え・・・あの」


「もちろん大丈夫よ。よろしくね」


北斗がぐいぐい背中を押す


『あのスクールカウンセラーだな』



むっとしながらも竜稀はみんなの後をついて行く。

「ねえ、昨日のドラマ見た?」

「佐伯の?」

「えーあたしミュージックS見てた~」


「小鳥遊さんは好きなTVとかある?」


「別に無い」



「あ、あたしココまでだからまた明日ね~」


「また明日~」


「今度みんなでショッピングとか行かない?」


「いーねー」


「小鳥遊さんはカワイイ系とカッコイイ系どっちが好き?」


「別に無い」



「あ、あたしここまでだからまた明日あ~」


「明日ね~」


「今度さ、駅前のショッピングモール遊びに行こうよ」



「・・・」




「あ、あたしもここまでだ。また明日ね~」



思いっきり高木が手を振る。一人の帰り道だったが、足は少し軽かった。




・・・・・・



「一緒に帰って欲しいんだけどさあ」

3人は誠史郎に頼まれていた。


「はい」

「絶対にクラスの話はしないで。彼女はクラスの内情知らないから」

「はいわかりました」



何回か一緒に帰っているうちに竜稀も小さく、

「また明日」

が言えるようになってきた。


いつのまにか小テストは80点になっていた。

「なんだ竜稀80点なんてすごいじゃないか前祝しよう!何か欲しいもんあるか?」


「んー海に行きたい」


海に着いて父娘静かに波を見る。


「すごいな竜稀は小学校も中学校も

ちゃんと行って中学はだいぶ勉強も出来るようになって、

友達も作ってすごくがんばってるなあ」



「うん。先生達も助けてくれてる。あのね、おねだりしていい?」




「ん?どうした」

「お小遣い欲しい。お友達がショッピングしようって誘ってくれたの・・・」

「あー、いいよ。いいよ。2万か?3万か?」

「中学生にそんなにいらないよ(笑)あとあたし前より学校嫌いじゃない」



父は娘の頭をクシャっとなでた。




「家の様子はどうです?母親には無視されるけど、父さんとは学校のこととか話す」



小さくうなずく竜稀。


「それはまあまあですね竜稀さん」

「え?」

「小学校では大変だったけど、中学でずいぶん自分で解決する事を覚えましたね」

「なっ!知って!何で?」


「忘れるわけないでしょう?小学校で会ったの覚えているかな?

今回はよくがんばってるね」


その時、小鳥遊は誠史郎が初対面でない事に気付く。



「うわああああぁぁぁぁぁ・・・うぐっ・・えぐっ・・うっ・ううっっ・・・」

竜稀は思いきり誠史郎に抱きつき泣いた。

誠史郎は、くいっと小鳥遊のあごを上げ、前髪を上げる。


「前髪はもう少し切ってもいいかな?僕の顔もお友達の顔も良く見えるでしょ?」


涙でぐしゃぐしゃになった顔で小鳥遊はうなずく。


コピーを持ってきた飯島が驚く。


「ほら、お迎えが来たんだから顔を整えて帰りなさい」



「また明日。ぼくはいつでもここにいるよ」




「うーん。ひとやま超えたかなあ?」

誠史郎は思いきり伸びをしてコーヒーに手を伸ばす。

「桜井先生は何故あの3生徒を選ばれたんですか?」

北斗が問いかける。


「ん。簡単。以前のアンケートで今のクラスに若干不信感を抱いていたからね」


『・・・600人分目を通しているのかしら桜井先生・・・』










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