拝啓、勇者の皆様方にはご迷惑をおかけしております
拝啓、魔王へ、
新緑芽吹く春の月が忌々しい季節となりいかがお過ごしでしょうか。
父さんの息子である私、エルマは毎日活き活きと冒険者を倒しております。
国盗りには興味がないので興味がでたら取り掛かる次第です。
先日教えていただいた父さんの言葉どおりに倒した男の冒険者達は譲り受けたダンジョンの増築する為の労働力として活用しております。
女性は奴隷にして毎晩いい夢を見ております。先日送った蕾はいかがでしたでしょうか。
送ると言えば、先日送られてきました大和の妖刀『夜叉』の切れ味はオリハルコンすら違和感なく断ち切れ、機能美共に武器とは驚く美しさです。
危うくダンジョンまで切りそうでした。
ここからが本題なのですが近隣王国国内で勇者が現れたと信頼できる部下から報告がありました。
これは私の魔力探知ネットにも引掛りがありましたのでその存在は事実だと思われます。
勇者の魔力は四番目のお兄さん程度ではありますがどうやら色々な知識を保持しているようで聞きなれぬ言葉使いと倫理、論理の違いから今度の勇者は私と同じ渡来の者が判明しました。
名前はヤハジマ・シロー。自分はニフォンと称される国から来たのだといっておりました。
身分はコウコウセーイで聞いたことのない身分です。
この勇者の特出すべき点は目新しいものを作ること言わば創造力が他を圧倒し抜き身出ていることです。
一例をあげるなら私が昔作り上げた魔道具シリーズの第一番『魔筒』ににた『銃』を作ったそうです。
なんでも、魔筒と違い誰にでも扱えるそうです。威力はあまりなく中級魔物をやっと倒せるといった具合らしいです。
しかし、油断大敵ですよ。お気を付けください。
さて、あまり長いとお父様の有意義な時間が無くなってしまいそうなのでここまでとさせていただきます。
魔王さまを含み皆々さまの破壊と殺戮の狂乱の日々が末永く続きますように。
敬具
エウストラーデ担当魔王 エウス・ストレング・バーミリオより
追伸
どちらが先に喧嘩の発端を生んだのかはわかりませんが父さんと母さんは喧嘩などなさらぬ様に。
エウストラーデまで喧嘩の余波と瘴気が来ておりますよ。
喧嘩するほど仲がいいとは思いますが兄弟たちのダンジョンまで壊されるのはどうかと思いますよ。
今度、勇者を倒したぐらいに帰省しようかと考えておりますのでその時にでもじっくりとお話を。
歩いていくのでくれぐれも直々に迎えに来る又は迎えを送るなどしないでくださいね。フリではありませんよ。
エウスは幻獣グリフォンの羽で出来たペンを置き魔力でインクを乾かし耐水等に優れた封印魔法を施した真っ白な封筒に便箋を詰め
封蝋をした。印璽に刻まれたエウスのシンボルである叢雲に住む龍と魔法陣が刻まれている。魔法陣は決して身内にしか開けられないように
するためのものだ。
最後に封をした手紙を空間魔法で作り上げた家族専用の小さなワームホールに投げ込み手紙の配送は完了する。
「…ふぅ、これで終わり。奴隷がいるとか嘘を書くのは忍びないけど父さん達ならバレても安心だしいいか、先日送った子も実は戦争孤児だとは書けない…」
(考えてもしかたないか、どうにでもなるでしょ)
椅子から立ち上がりぐぐっと背と手を伸ばす。
溜まっていた力がどこか遠くに運ばれていくような気がしないでもないエウスである。
が、実際は魔力を異常に外に向けて排出していた。
エウスが一般的な魔力量であれば問題にはならないのだが彼は魔王の身分。魔力量が一般的などと平凡に片付けられるものではない。
一般人が保持する魔力は二十。魔術師なら差はあれども五十~百なのだがエウスは全人類を魔術師に変えて集めたとしても一割も満たさない魔力を持っている。
言うなれば無限とでも言うべきか。
ここが魔王の個人の書斎であろうが部下やダンジョン攻略に勤しむ冒険者には冷や汗ものであった。
熟練冒険者ご一行の場合
『おい! この途方もない魔力はなんだ! 見てこいカルロ!』
『わ、わかりました。私もこれほどの魔力は感じたことはありません。化け物だ……本当の化け物が上にいる』
『いやだぁ~、もうグレメシアちゃんはお家にかえるぅ~』
『寝言いうんじゃねぇよ。アタイ達はこのダンジョンを二十階まで来たんだぜ。少しばっか温いと飽きてたところだったのさ! 面白いじゃねぇか』
『………俺は最強、俺は最強、転生ものじゃ俺は魔王を倒せる。コイツと仲間さえいれば勝てるゼ』
幹部達の場合
『今月もダンジョン修繕費が…かさむぅ…』
『そう落ち込むなって、ウェルス。迅雷のウェルスのが泣くぜ』
『ニャハハハ! ウェルスその顔面白いニャー。慰めにかかるコルトはもっと面白いニャー』
『さすがエウス様。あぁ、もう私、スペトレスはイってしまいそうですぅ』
『ぐうぅ~zZZZ。ハッ! 寝てない。私寝てないよ。私寝てないからね! 一切寝てな――zzZZZ」
当人と一人を除いて慌しい限りであった。
「さて、やることやったし俺はどうしようかなー。ダンジョンから上がってくる奴はわりと強いからダンジョンから離れなれないしな~」
エウスは魔王としては些か気が抜けている。
昼行燈と部下に揶揄されたこともあるほどで、のほほんとしている。その性格がダンジョンにも表れているのか五十三階中五の階層では休憩所がなぜか作られており。
魔物が経営する店などが立ち並びさながら商店街のような賑わいがある。
支払はエウストラーデで流通している王国金貨も対応してる良心設計で王都より物価が安いこともあってか時々攻略パーティーの中に商人が混じりもする。
時々、エウスが五層に降りて遊んだりしていると攻略組とばったり出会い交戦に流れ込むこともある。
大抵の冒険者は名前を名乗ってワンパンチでエウスに沈められるのだが殺さない優しさに冒険者は救われている。
魔王にやられ意識を刈り取られたが次に目を覚ましたら自分の家にいた! なんてこともあったりするほど行動原理は部下を含み誰にも分らない。
(面倒だから会いに行って倒してみるか? でも、部下にも手柄を立てさせないとここの所商業ばかりだし腕が鈍ってそうだからな、大胆に紛れこんでみるか! そうしよう! そうとなれば――)
魔法はこの世界では一般的だが流派があったと奥が深いものだ。幻術魔法もエウストラーデ内でも多数存在し細かい部分を除けばみな同じ効果が得られるのだが詠唱が違っていたり魔道具を媒介としたりと様々だ。
魔物、魔族に縛りはなく、詠唱は人間より早く。中級から魔王クラスから無詠唱が当然になってくる。
「こんなものでどうだろうか――うむ、我ながら完璧だ」
汚れ一つない純白な甲冑は西洋風なのか露出された顔以外は元の少年ぽさをなくし美男子とでも言うべきか。
規律ある顔立ちは新人の若々しさを表し元とはだいぶかけ離れた長身は頼りがいのある雰囲気を持たせつつもおっとりとどこか抜けている。
屈強な戦士の様相に変化するのではなく聖騎士へとエウスは外見を変化させた。
質感、雰囲気すら現実と差し支えないほどに強力な幻術を掛けた。
さすがに剣や盾を幻術にしてしまうと攻撃の姿がおかしそうなので魔術で木刀の形に魔力の塊を作成し上から被せる様に幻術を掛けた。
盾も刀同様に作成させた。
魔力を喰らうモンスターが近寄ってきそうだがエウスの魔力を齧っただけで恐らく濃度が高く死にいたるだろう。
そんな好き勝手に振る舞うエウスを書斎に入る扉の鍵穴から覗く一人の老体――お目付け役シジェンは「またはじまったのかと」頭に手を当て呆れていたことにエウスは気づいているのだろうか。
「さて、彼らが居る近くまで瞬間移動して合流しようかな。設定は仲間と逸れたということで」
なにがと言うわけなのか説明を求めたいシジェンだが関せずが最善策と長年の付き合いで導いていた。
鍵穴から目を離し、腰に手を当て杖伝いにシジェンは奥の自室へと戻っていった。
「万が一に書き置きを残しれっつごー!」
閃光に書斎が包まれ、光が消えるとエウスはいなかった。
波乱の波はいつも自分が起こしていることに彼が気づくのはこれから数十年先のことであるのだが今は、冒険者達を憐れみたくはないだろうか。
やっつけで書きましたので誤字脱字がないことを祈っております。