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第八話 怪我人と村

 ユキノさんの車に乗って、ライセン市から南へひた走ること約三時間。深い森の中の道を走っていた俺たちの視界が、急に開けてきた。ようやく、目的地であるアクス村へ到着したのだ。山々に囲まれた盆地に位置する小さな村で、二階建てほどの家がポツンポツンと建っている。

 村の端にある空き地に車を止めると、俺は早々に扉を開けて助手席から降りた。頭の中が、何だか嫌な浮遊感に襲われている。オープンカーから車輪を取り払ったようなデザインをしているユキノさんの車は、車輪で走るのではなくて空を飛ぶ。いわゆる、空飛ぶ車というタイプの乗り物だ。それがいけなかったのか、乗ってるうちに軽い乗り物酔いを起こしてしまったらしい。


「大丈夫か? ずいぶん顔が青いが」


「ちょっと酔ったみたいです……。でも、すぐ治りますよ」


 俺はそういって手を振った。ユキノさんはまだ若干心配そうな顔をしていたが、ウィンドウから地図データを出すと俺を先導するように歩き始める。


「ひなびた感じの良い村だな。空気もうまい」


「そうですね。ただ、やけに武器を持ってる人が多くないですか?」


 俺たち以外にも、冒険者と思しき連中がちらほらと道を歩いていた。のどかな田舎の一本道を、物々しい武装をした人間が往来しているというのは何ともおかしな風景である。


「私たち以外にも依頼を出しているのかも知れんな。よくあることだ」


「そうなんですか?」


「ああ。高い報酬を提示してそこら中のギルドから冒険者を集めるというのは、金のある依頼人がよくやることなんだ。今回も、もしかするとそうなのかもしれん」


「へえ……」


 こうして俺たちが話していると、やがて村の中心部にたどりついた。小高い丘に村長の家とおぼしき広い屋敷があり、その前にちょっとした広場が広がっている。その広場を取り囲むようにいくつかの商店があって、それなりに繁盛している様子だった。

 そんなにぎやかな雰囲気の場所に、少し趣の違う建物があった。ログハウス調のこじんまりとしたその建物は、グランド魔法医院というこれまた小さな看板を出している。その狭い軒先にはあちこち怪我を負った冒険者たちが列をなしていた。

 いったいなんだろうかと思って俺が目を奪われていると、建物から一人の男が出てきた。驚いたことに、全身血まみれだ。


「ぼったくり! 悪魔野郎!」


 男は拳を突き上げながらそう叫ぶと、足を引きずって歩き始めた。彼の着ている服には血がじっとりとしみていて、彼が歩いた後ろには足跡のごとく赤い斑点がついていく。周囲の冒険者はその怪我のひどさに慌てて彼を止めようとしたが、男はそれを振り切って歩き去ってしまった。


「まずい、あの男……!」


「待って!」


 俺は飛び出していこうとしたユキノさんの肩をつかんだ。さすがに高レベル冒険者だけあってすごい力だったが、俺は彼女をどうにか押しとどめる。


「下手に関わらない方がいい。それにほら、大丈夫だ」


 男の後を追って、医院の建物から一人の少女が飛び出してきた。彼女は白衣をはためかせて、すぐに男の去って行った道の方へと走っていく。ここで下手に騒ぎを起こすよりも、このまま関係者らしき彼女に任せておいた方がいいだろう。


「……仕方ない。私たちは、できるだけ早く依頼を完遂しよう」


 ユキノさんはそういうと速足で歩き始めた。俺もそのあと追って、屋敷の方へと急いだのであった。




 ◇ ◇ ◇




 洋風の広い屋敷の中は、田舎らしからぬ白を基調とした品の良い造りとなっていた。その応接間に通された俺たちは、革張りのやわらかいソファに腰掛けながら依頼主の村長が来るのを待つ。そしてしばらくすると、重い木の扉を押しあけずいぶんとガタイのいい男が現れた。短く刈り込まれた白髪頭は年齢を感じさせるが、鍛えあげられた肉体はとても若々しかった。

 俺たちはソファから立ち上がると、彼に頭を下げた。彼もまた、こちらに向かって軽く会釈をする。


「村長のゲイザーだ。よろしく頼む」


「ライセン第三ギルドのユキノです。今回はよろしくお願いします」


「同じく、ライセン第三ギルドのタカハシです。よろしくお願いします」


 俺たちは軽く握手を交わすと、再びソファへ腰を下ろした。するとゲイザーさんはすぐに手慣れた様子でウィンドウを取り出すと、地図データを表示させる。アクス村が中心となっているその地図は、村のやや南西に当たる部分が赤く点滅していた。


「さっそくだが、依頼の内容は把握しているかね?」


「もちろん。オーガの掃討でしたね」


「そうだ。現在、村の南西のこのあたりに大量のオーガが住み着いている。おそらく巣を作っているのだろう。君たちにはこのオーガをできるだけ駆除してもらいたい。成功条件はそうだな、二人合わせて五十体以上だ」


「期限はいつまでに?」


「一週間だ。だが、できるだけ早くやってくれるとありがたい」


 ゲイザーさんはそれだけいうと席を立とうとした。説明することは他に何もない、と言わんばかりの態度だ。俺は慌てて手を上げると、去っていこうとした彼を呼び止める。


「待ってください!」


「なんだね?」


「さきほど怪我をしている冒険者を多数見かけたのですが……あれは?」


「ああ、オーガを舐めてかかった連中のことか。自分の実力をわかっていない奴らが依頼を受けるから、ああなるんだよ。君たちもできるだけ気をつけてやると良い」


 村長はそういい残すと、扉をくぐって立ち去ってしまった。その何となく険のある様子に、俺とユキノさんは額にしわを寄せたのであった。




 ◇ ◇ ◇




 こんな胡散臭い村、できるだけ早く立ち去りたかったのだがその日はもう時間が遅かった。俺とユキノさんは仕方なく、村はずれの宿屋へと向かう。やがて見えてきた宿屋は辺鄙な場所にあるにしては大きくて、外観は観光地にあるペンションのようだった。


「そういえばユキノさん、お金あります?」


「依頼に出る前に経費として少し借りてきた。三日分ぐらいの宿賃はある」


 そういうとユキノさんはどうだとばかりに胸を張った。別に自慢することじゃないんだけどな。というかそもそも、ユキノさんが無駄遣いさえしていなければこんなことにはならなかった気がするが。


「すいませーん」


 大きな扉を開けるとすぐに帳場があり、四十前後と見える女将さんが座っていた。彼女はすぐに愛想の良い笑みを浮かべると、俺たちの方に頭を下げる。


「いらっしゃい。部屋なら空いてるよ」


「一人部屋で食事を二人分……というのはできるか?」


「できるよ。食事は朝夕……」


「ちょっと待った!」


 俺は慌ててユキノさんと女将の間に割って入った。このままではエライことになってしまう。


「一人部屋じゃなくてせめて二人部屋、できれば別室にしましょうよ!」


「なんだ、ベッドが狭いのが嫌なのか? すまんがあんまり予算がないんだ、今日のところは私と一緒に寝よう」


 そういうとユキノさんは、強引に部屋を取ってしまった。ユキノさんと寝ること自体はいい、いいんだけど……いろいろと欲望が……! 俺はユキノさんの和服の上からでもはっきりわかる特大スイカを凝視しながら、煩悩に苦しんだのだった。


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