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第六話 勇者とゴーレム

 勢い勇んで洞窟に突入したのはいいが、目的の鉱石であるランデウム鉱石はなかなか見つからなかった。もしかしたら、もっと奥に鉱脈があるのかもしれない。そう思った俺は、洞窟の壁の隅々まで眼を光らせながら、ゆっくりと奥へ進んでいく。すると洞窟の奥から、何やら場違いな格好をした連中が走ってきた。

 お嬢様とその取り巻き……と言った雰囲気の彼らは、真っ青な顔をしながら俺の隣を猛烈な勢いで走り抜けていく。


「おい、なんかあったのか!」


「なんでもありませんわ!」


「明らかに何かあっただろ! ……行っちまった」


 おかしな三人組は呼びとめる間もなく走り去ってしまった。陸上選手も真っ青の、見事な走りっぷりである。洞窟の奥で何があったんだろう。俺は何となく嫌な予感がするが、奥へ行かないわけにはいかない。最初から依頼失敗なんて、これから冒険者としてやっていくのにさすがに恰好がつかないからな。

 そうして、少し警戒しながら洞窟の奥へと進むこと十分ほど。洞窟の最深部へと到着した俺は、どうしてさっきの三人組はあんなにあわてていたのかの理由を知った。


「こいつが原因だったのか」


 壁に空いた穴をふさぐかのように立ちふさがる青い巨体。宝箱の守護者、ストーンゴーレムだ。赤い瞳を爛々と輝かせながら地面を見下ろすその顔はいかめしく、並みの人間なら腰が抜けて動けなくなってしまいそうなほどの迫力だ。

 おそらく隠し部屋の扉が老朽化で崩れてしまったのだろう。その時の振動で、こいつは目覚めた。たぶん先ほどの三人は、俺と同じように鉱石採取にでも来てこいつと運悪く出会ってしまったに違いない。


「これは……チャンスかも」


 俺はまだこちらの存在に気づいていない様子のゴーレムの巨体を、じっくりと眺めた。その淡く輝く青の巨体は、間違いなくランデウムの塊だ。しかも、ここのゴーレムは破壊された箇所を洞窟内にある同じ鉱石で埋めて補完するという性質を持っている。つまり、これを上手く利用すれば採取なんてする必要ないな。

 カバンの中から剣を一本取り出した。バスタードソード、巨大な魔物を相手にするときに使う武骨な大剣だ。俺は大人一人分の重さはあろうかというそれを背中に背負うと、ゴーレムの前へと躍り出る。


「侵入者、攻撃開始!」


 唸りを上げたゴーレム。青い拳が勢いよく振り下ろされた。俺はそれを横に跳んで回避すると、ゴーレムの手首のあたりを剣で薙ぐ。ガキンッと激しい金属音が響き、火花が飛び散った。バスタードソードの破壊力に、ゴーレムの手が半分ほど吹っ飛ぶ。しかしたちまち洞窟の壁からランデウムの塊が現れ、ゴーレムに吸い込まれた。それと同時に吹っ飛ばしたはずのゴーレムの手が再生する。


「こりゃいいや! スラッシュ!」


 剣から斬撃が飛んだ。白い衝撃波がゴーレムの腕をざっくりと斬り飛ばす。ここのゴーレムは何回でも再生できる代わりに、耐久性自体はそれほどでもないのだ。吹き飛ばされた腕はその場にどさりと落ち、ただの石くれに戻る。一丁上がり、ランデウムの塊の完成だ。俺に利用されてることなどわからないゴーレムは再び腕を再生すると、また俺に殴りかかってくる。

 こうして十分ほど戦っていると、ゴーレムの再生速度が徐々に遅くなってきた。そろそろ潮時か。俺は一気にけりをつけるべく、大技を放つ。


「シャイニングブレイド!!」


 剣から光が迸った。溢れ出した光は一点に収束すると、協力無比な光条となる。俺が気迫を込めて剣を振り下ろすと、たちまち光がゴーレムの身体を二つに裂いた。さらに切断面から青白い爆発がおこり、青い巨体は粉々になっていく。


「さてと、詰めるか……ん?」


 周囲に散らばったランデウム鉱石の山をウィンドウにしまおうとした時、偶然、俺の視界に隠し部屋の宝箱が入ってきた。ゲームのイベント通りならば、すでに開け放たれてすっからかんになっているはずの宝箱が……何故かしまっている。勇者時代にはここのアイテムは必要なかったので来ることはなかったのだが……ゲームと違うのか?

 気になった俺は隠し部屋に入って宝箱を開けた。するとそこには何やら黒い球が入っている。水晶玉の中に黒い霧を閉じ込めたかのような球で、中で黒い光が怪しげに蠢いている。まさか……俺は魔王が死に際に言い放った「五百年後によみがえる」という言葉を思い出した。ただのはったりだと思っていたのだが、もしかしたら違うのかもしれない。


「持っておくか」


 これがなんであるにしろ、俺がもっておけば安心だ。もしこれが魔王復活に関わるようなものだったとしても、俺が握ってさえいれば魔王の復活などあり得ない。ここで放置して、悪人の手にこれが渡ったりすると厄介そうだし。

 こうして俺は黒い球をしまうと、そこら中にできた鉱石の山を回収してギルドへ戻ったのであった。




 ◇ ◇ ◇




「すんごい量持ってきたわね。ウィンドウいっぱいに鉱石詰めて帰ってきた冒険者なんて初めてよ」


「はは、たまたまたくさん落ちてたんですよ」


 容量いっぱいになったウィンドウを見せると、エイミさんは呆れたような顔をした。当然といえば当然だよな。何せこのウィンドウ、軽トラ一台分ぐらいの荷物が入るんだから。それを満杯にするだけの鉱石なんて、それこそ重機でも使って採掘したのかというレベルである。


「ちょっと量が多すぎるから、依頼主さんのとこ以外にも卸すことになるわ。提示されてた買い取り金額より少し下がっちゃうけど大丈夫?」


「ええ、大丈夫ですけどすぐに売れますか? 俺、一文無しなんで……」


「任せて、十分もあれば捌けるわ。奥の部屋にソファーと本棚があるから、その間そこで適当に時間潰してるといいわよ」


 エイミさんはそういうと部屋の奥へ行き、PCを立ち上げた。するとたちまち彼女の指がキーボードの上で踊り始める。ブラインドタッチとかそんなレベルじゃない。弾丸タイピングとか、キーボードクラッシュとかそんなレベルの速度だ。顔もさきほどまでの何となくだらけた雰囲気とは一転して、鋭い目つきになっている。

 その場に居づらい雰囲気となった俺は、言われた通り奥の部屋のソファで本を読むことにした。俺はとりあえず、難しい本の中に何故か紛れていた「週刊冒険チャンプ」という派手な背表紙の本を手に取る。内容は……やっぱ漫画雑誌だ。




 ◇ ◇ ◇




 冒険チャンプの内容が予想以上に面白かったので、俺はいつの間にか三十分以上もソファの上で過ごしてしまっていた。約束の時間の十分はとうに過ぎてしまっている。いけね、早くしないと。俺は本をすぐに棚へ戻そうとした。するとその時、部屋のドアがギッと音を立てながら開く。少しびっくりした俺は、チャンプを手にしたまま固まってしまった。


「大物新人が来たと聞いたが……それを選ぶとはさすがだな」


 部屋に入ってきたのは、見知らぬ女性だった。和服姿で長く伸びる黒髪をポニーテールにした、凛々しい印象を与える美人さんである。歳は俺より少し上ぐらいに見える彼女は、どこか風紀委員の様な雰囲気を身にまとっていた。俺はとっさに、手にしていたチャンプを背中側に隠す。すると――。


「まて、別に隠さなくてもいいだろう? 私も大好きだぞ、チャンプ。超大型新人って聞いたからどんな奴かと思ったが……良さそうな奴じゃないか。チャンプ読者に悪い奴なんていないしな! ところで今週の連載はどうだった? 私としてはやっぱ大秘宝推し――」


 ……まさかこの人、見た目と職業に反してオタ?

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