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第二話 町へ

「あんた、いったい何者よ?」


 少女は何やら化け物でも見るような顔をしていた。彼女は腕のビーム砲らしき物体をこちらに向けると、徐々に後ずさっていく。


「ただの冒険者だけど」


「嘘! マシンガンの弾つかめる奴がただの人間なわけないじゃない!」


 ますます怪しい顔をする少女。昔はこれぐらいできる奴は結構いたはずなんだけど……時代は変わったらしい。


「そうなんだ……。俺の居る所じゃこれぐらいできる人いたんだけどな」


「いったいどこよそれ?」


「アルステイシアってとこ」


 アルステイシアとは、遥か東方の大魔境と呼ばれていた地域である。年がら年中瘴気が吹き荒れていた地域で、侵入不可能などと言われていた場所だ。凶悪な蛮族が住んでいるとされていたが、少なくとも五百年前の時点では誰もその存在を確認したものはいない。

 それを聞いた途端、少女の顔が何となく納得したようになった。彼女は胡散臭い者を見るような目を向けつつも、うんうんとうなずく。


「ふーん、信じらんないけど……それならギリギリ納得できるか。助けてもらった恩もあるし。私はリアーナ、よろしくね」


「俺はハイブリッジ……じゃなかった、タカハシだ。こちらこそよろしく頼む」


 リアーナはすっと手を差し出してきた。俺はそれをぎゅっと握る。ビニールのような素材で覆われた彼女の手は少し硬かった。


「じゃ、町に還りますか。タカハシもついてくる?」


「ああ、行くあてがないからな。よろしく頼む」


「りょーかいっと」


―――――――


 小一時間も歩くと、森を抜けて広い草原に出た。その草原の中央を、黒く滑らかな道路が横切っている。アスファルトのように見えたが、それよりもさらにつるつるとしていた。地球の標識によく似た形の標識がそのわきに立っているのが見える。それには「10リーグ先、ライセン市」と書かれていた。

 道をまっすぐに進んでいくと、やがて地平線の先に巨大な街が見えてくる。重厚な城壁にしっかりと囲まれたその町は外側から内側へと盛り上がる山のような形をしていた。中心部には高いビルのような建物が立ち並び、結構近未来的な造りになっている。さらに都市全体を何か透明なバリアのような物が覆っていた。


「あれがライセン市よ。結構立派な街でしょ」


「凄いでかいな。なんかバリアみたいなのあるし」


「あれは結界よ。このあたりは魔物が多いから、ああいうのが必要なのよ」


「へえ……」


 そうしているうちに、さらに町は近づいてきた。やがて大きな門とその前に立つ制服姿の男たちが見えた。彼らは通行人をいちいち止めては検問をしているようだった。


「やべ、身元を証明できるもんとか何も持ってないぞ」


「大丈夫よ、戦争避難民ってことにしておけば身分証がなくてもお金さえあれば入れてくれるから」


「……ごめん、金もない」


 空間圧縮カバンの中に、五百年前の金なら腐るほどある。しかし、それを出したところで通用しない可能性が高い。コンビニでいきなり小判を出しても、店員が受け取ってくれないのと同じ理屈だ。これだけ社会が変わっているのに流通している通貨が同じとは考えられん。


「しょうがないわね、貸してあげるわよ。だけど、あとでちゃんと返しなさいよね!」


「ありがと!」


「ったく、一文無しってどうやって旅してきたのよ……」


 リアーナはあきれながらもポケットからお金を出してくれた。硬貨ではなく、お札だ。日本の一万円札よりは、アメリカのドルに似たような感じのデザインとなっている。俺は何気なく受け取ったその札に描かれていた人物を見て、思わず噴出した。


「ちょ、これ……」


「どうかしたの?」


「いや、なんで勇者ハイブリッジ!?」


 お札に書き込まれていた人物は、まぎれもなく俺だった。何故かヘタウマな感じにデフォルメされた俺の平凡顔が紙幣の半分以上を占拠して、異様な存在感を出している。何だか恥ずかしくて穴にこもりたいような気分になった。黒歴史ノート大公開なんてものじゃない、もっとヤバい状態だ。なんといっても、国中で自分の顔が出回っている。

 リアーナはため息をつくと、俺の方を見た。田舎もん恥ずかしい、といったような顔をしていた。


「そりゃあ、勇者ハイブリッジといえば大英雄だもの。お札になって当然よ。そういえばあんた、若干ハイブリッジに似てるような気がするけど全然違うわね。オーラとか全然ないし」


 リアーナよ、これが現実の俺だぜ。たぶん、頭の中では金ぴかの鎧でも来て白い馬に乗った俺を妄想してたのかもしんないけど、リアルはほとんど徒歩移動で鎧は茶色だったんだぜ。

 何だか猛烈に現実を教えたくなった俺だったが、ここで変なことを言って町に入れなくなっても困る。とりあえず黙って検問の列に並ぶと、俺は周囲の人間の動きを出来るだけ観察した。そして怪しまれないように、自然な感じを装う。


「はい、次。身分証出して」


「ほい」


「犯罪歴なしっと。次の方」


 リアーナの番がさらっと終わると、検問の男は俺の方を向いた。ここで彼の正面に立っていたリアーナが、頭をかきながら俺と男の間に割って入る。


「彼、私の連れなんですけど戦争避難民なんですよ。それで避難する時に何も持ち出せなかったらしくて。身分証がないんです」


「じゃあ、滞在登録証を書いて登録料の三千ガメルを払ってください」


 検問の男が手渡してきた紙には名前と年齢、それから身元保証人を書く欄があった。そのうちの身元保証人の欄をリアーナが書き込むと、そのまま俺に手渡してくれる。あって間もない俺の保証人になってくれるとは、なかなかいいやつなのかもしれない。俺の中でちょっとリアーナの評価が高まった。

 文字の方はほとんど変化していなかったので、問題なく書くことができた。俺がそれを手渡すと、検問の男はぽんと判子をつく。


「はい、滞在登録証だよ。これをなくすと不法滞在になっちゃうから、しっかり管理してくれ」


「わかりました!」


 俺はそれをすぐさま空間カバンに放り込んだ。そして大人十人が並んで歩けるほどのバカでかい門をくぐり、町の中へと入る。するとなんともはや、SFとファンタジーが入り混じったような街並みが広がっていた。石造りの建物の合間を、流線型の空飛ぶホバークラフトの様な物に乗った人々がすりぬけていく。さらに上空には高速道路のような道路が町の結界に沿って円を描くように走っていた。


「すっげー!」


「はいはい、あんまり田舎者丸出しにしないでよ。ところでタカハシはどこも行くあてなかったわよね?」


 俺の頭の中で、王家の連中のことが思い浮かんだ。が、それを俺はすぐに振り払う。今度こそ、俺は自由にこの世界を満喫するんだ!


「特にないな」


「じゃあ、うちのギルドへ来なさいな。お金も返してもらわなきゃいけないし」


 リアーナは返事も聞かずに俺の手を引いた。こうして俺は、ひとまずギルドに登録することとなったのであった。

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