第一話 あれ、世界が……
「あー、やっとか」
あっという間のようで、実に長い眠りだった。石棺の蓋を豪快に蹴り上げ、久しぶりの外気を胸一杯に吸い込む俺。さすが森の中にある遺跡だけあって、ほのかに木の香りがする空気は実にうまい。首をコキッと鳴らして肩を回すと、胸を反らせてもう一度思いっきり深呼吸をする。
俺の名前は高橋光輝。全世界に一億二千万人ぐらい居る量産型の日本人の一人だった。しかし何の因果かこのファンタジーな異世界エルトネカに召喚されて、伝説の勇者なるものにされてしまった。その名も勇者ハイブリッジ。名付けたのは自分だが、もはや黒歴史なんてレベルを超越している。
けれど無駄にチートスペックになっていた勇者ハイブリッジこと俺は、ボンキュッボンでちょっとタカビーな姫に命じられるまま立ちふさがる魔王軍をガンガン撃破。人類すべてを魔力に変換し、我が糧としてくれよう!などと叫んでいた、邪悪なオーラ出しまくりの骸骨風の大魔王もあっさり倒してしまった。
そうして邪魔者をすべて倒した俺はハーレムを作ってウハウハ……のはずだった。だが現実は大魔王が五百年後に蘇り、再び世界をわが手に握る!などと宣言して死んだものだから大変。その言葉を真に受けた仲間たちや王国の連中によって、俺はこの遺跡の時の石棺とやらに押し込められてしまった。以来五百年、意識こそなかったものの本当に長い……長い年月の間封印されていた。
「行くぜ! 俺の時代が待っている!」
陰気な遺跡を抜け出ると、そこは深い森。五百年前どころか一万年ぐらい前からずーっと変わっていなさそうな湿っぽくて暗い森が延々と続いている。太古の昔から生きる大魔獣とか、そんな奴らが好みそうないかにもって森だ。まあそんな連中に出会ったところで、チートの俺は問題ない。むしろ、素材とか手に入れば先立つものになる。
一応、俺を封印した王家の連中とかはまだいると思うが……あいつらのことは当てにならないからな。また持ち上げられて魔王退治とか言うのも困る。だから、今のうちにとっととこの場所を出ていってしまったほうがいいだろう。幸い、何故か棺の管理人などはいないようだし。
そうしてスキップしながら森を進んでいくと、ギャアギャアと聞き苦しい雄たけびとパパパッと連続する重低音が響いてきた。これは……お約束なフラグだ。心配半分、期待半分で体に強化をかけ、俺は木々の間をすり抜けていく。やがて俺の視界に飛び込んできた景色は……予想の斜め上だった。
「……ヤバい、別の世界に来ちまったか?」
武装したゴブリンの群れに襲われている女の子。ここまではいい。だが、両者の武装の内容が問題だった。ゴブリンの方はサビまみれのマシンガンらしき銃を手にひっさげ、迷彩柄のぼろきれを纏い三角錐の鉄帽を被っていた。少女の方は何やら流線型のフォルムをした全身装甲を身にまとい、頭だけが露出している。その腕の部分にはビーム砲のようなふくらみがあって、背中にはブースターを背負っている。
エルトネカはこってこての中世ファンタジー世界だった。というよりむしろ俺がやっていたファンタジー系のVRMMO、フェアリーストーリーとそっくりの世界だった。おかげで何故か自キャラのステータスになっていた俺は、チート無双をできてたんだけど……世界変わりすぎだろ。
こうして俺がいろいろ考えていると、女の子の方がどんどん押され始めた。集団で気勢を上げながらマシンガンを乱射するゴブリンに打つ手がない。弾丸の方は何かシールドのようなもので防いでいるようだが、それで精いっぱいのようだ。
「ファイアーボール!!」
炎の弾丸が直撃すると同時にゴブリンの頭がぶっ飛んだ。よし、肉体の方は全く変わっていないようだ。少し安心すると、俺の存在に気付いたゴブリンたちが一斉に銃口を向けてくる。
「ギャギャ! ギャギャギャ!」
無数の銃声が響いた。しかし俺は動じない。こんなものぐらい……!
「アタタタタタアァ!!」
残像が見える勢いで手を動かす俺。しばらくして、ゴブリンたちが銃撃をやめたころには俺の手は弾丸でいっぱいになっていた。
「ギャギャ!? ……グガッ!」
間抜け面を晒したリーダーゴブリンに弾丸をまとめてお返ししてやった。少し力を入れ過ぎたせいか、餓鬼のごとくふくらんだ腹に鉛がめり込む。ゴブリンはそのまま弧を描いて木の上の方にぶつかると地面に落下し、まったく動かなくなった。
「セヤッ! ハアッ!」
リーダーがぶっとばされて動揺しているゴブリンたちをまとめてなぎ倒す。緑の身体が紙っぺらのように四方八方にぶっ飛んだ。長い間眠っていたせいか、体が力加減を忘れてしまっている。あとでちゃんと修正しないと。そう思って少女の方を見ると、彼女の顔はすっかり蒼くなっていた。そして油が切れかけた機械のように首を動かすと一言。
「や、野蛮人!!」
……印象は最悪のようだ。
勢いで見切り発車!
でも後悔はしてないです。
誤字脱字などの報告は大歓迎です、作者嬉し泣きします。