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龍神飛翔伝  作者: 鈴蘭
二章:待ち受ける運命
20/26

辿り着く先は

またまたご無沙汰更新となってしまいました

大学が春休みに入ったので、少しはペースアップしてお届け出来るのではないかと思っております


 「――……」

 目を覚ませば何事もなかったかのように薄い闇が支配する洞窟の中に横たえられていた。

 筋肉痛のように全身がピリピリと痛みを訴えたが、構わずそのまま起き上がる。ほんのり明るいかと思えば、薪とその番をする甜瑠の姿があった。

 「甜瑠」

 「目覚ましたか。もう外は日が暮れかけてるし、今日はここで休むぞ」

 まるでさっきまでの出来事がなかったかのような態度。ここで掘り下げたところで気まずくなってしまうのは必至なので、燐燐はその話題にあえて触れないことにする。

 辺りを見回してみると叔父達の姿が見当たらない。

 「あの人達は?」

 「ああ、気を遣ってか知らないが、居ないよ」

 「別に気を遣ったわけではない」

 間髪入れずに黎冥が否定し、姿を現す。

 「我々には我々のつとめ、なすべきことがあったから別行動をとっていたまで」

 冷たさを帯びた堅苦しい口調とは裏腹に、その表情は穏やかだった。厳しく言及されるのを覚悟していた燐燐は半ば拍子抜けだった。

 その代わり溜謎の方は納得がいかないと顔が物語っていた。

 「燐燐、甜瑠。お前達の覚悟はしかと見せてもらった。もう我々が口を挟み咎めるつもりはない。……二人で、一緒に行くがいい」

 「あ……」

 今更ながら互いの想いを認識し、顔を赤らめる。そう言えば普段口にしていないような想いをどさくさに紛れて口にしてしまっていたような……!

 初々しい二人に何故かうんうんと頷く黎冥。しかし横槍を入れるように溜謎がとうとう口を開いた。

 「――やっぱり、わたくしは容認出来ない」

 爪がくい込むかと思われるくらいの強い力で燐燐の肩を掴む。

 「どうして?どうしてその力を使わないわけにはいかないの?貴方の母親はきっと無事だし、わたくし達もいるのだから何も行動を起こさなくたっていいの。わざわざ、危険に身を投じる必要なんて、ないのに!」

 堰を切ったように溢れ出た涙が肩口に落ちた。

 彼女は別に意地悪とかではなく、本気で自分の身を案じてくれているのだとひしひし感じた。こんなに純粋な心を持つ妖魔が、かつて母達と敵対した者であるとは到底想像がつかないほどである。

 その思いを無下にはしたくない。けれど。

 「……ありがとう。私のことをここまで大切に思ってくれて」

 「!べ、別に、わたくしは……!」

 突然恥ずかしくなったのか口を尖らせてそっぽを向く溜謎。

 「でも、もう私は守られるのは嫌。自分の手で、守れるものは守りたいの。……たとえ待ち受けているのが破滅であったとしても、自分に出来る事を最後までやり遂げたいの。この試練こそ、私は命を懸けてやる価値があると思えるの!」

 母や父、そして甜瑠の助けの元、守られていただけの自分とは決別する。

 この試練に立ち向かうことで、燐燐は得られる気がしていた。両親達が持つ本当の「強さ」を。それはまさに命を懸けるに十分値する大事な大事なことであると直感していた。

 さっきまで迷いと混乱に澱んでいた瞳の煌めきが増していることに気付いた溜謎は、それ以上引き留める言葉を見つけることが出来なかった。それは昔、自らに課せられた使命を乗り越え、なお手を伸ばした天龍が見せた煌めきとそっくりだったからだ。

 「――やっぱり、貴方はれっきとした応龍ね」

 「?」

 「ああ、貴方は分からなくてもいいのよ」

 何故そのようなことを言われたのかまったく理解していない燐燐を余所に、溜謎は意味深で妖艶な笑みを浮かべるのだった。

 ――こんなに輝きを放つ星なのだから、きっと幸福の光も容易く掴めるわ。そう、わたくしも黎冥も、信じる。信じてる

 「ところで、父親と連絡はとっているのか?」

 「そうだ、父さん!敵のことを知らせなきゃ!」

 とは言え、別行動を取ると言って別れたきりだ。行き先も知らないのだから連絡の取りようがないのは明白だった。

 「そうか……あやつがそう簡単にやられるとは思っていないが、敵が敵である以上早急に連絡をとる必要があるだろう。我が捜しに出よう」

 本物の龍である彼であれば衿泉一人捜すことくらい朝飯前だろう。ここは自分で捜すなどと見栄を張ることなく素直に頼むことにする。

 「溜謎は知る限りの情報を与えてやってほしい」

 「そうね、せめてそれくらいの助力ならいいわよね?」

 どうやら二人は敵方についての詳しい情報を持っているようだ。

 黎冥が踵を返し外界へと姿を消した後に、三人は薪を囲んで座った。

 教える、と言った割には溜謎はすぐに話し出そうとはしなかった。躊躇い、と言うよりもどう言えばいいのか表現に悩んでいる、と言った様子だった。

 ようやく思考が整ったのか、吸い込まれように光る狐目がまっすぐ二人を見据えた。

 「あの先に居を構えているのは、ある呪術師の一族よ。この国の建国に関わった由緒正しき一族としてその地位を確たるものとして繁栄してきた」

 呪術師。龍のようにこの世のありとあらゆるモノに存在する気を理解し、呪術として扱う者達のこと。一時期あまり書を読まないはずの母が読んでいた書物を覗き見た時に書かれていた存在である。

 「しかし栄華ある者には必ず裏がある。あの一族は裏で妖魔を飼いならし、近辺の村々をわざと襲わせ、功績をでっちあげていたのよ」

 「!」

 「わたくし達の統制をも凌駕したその呪術で妖魔を操るだけでなく、巧みに証拠まで隠滅する。けれど黎琳に証拠など関係ない。即座に呪術師を殲滅しにかかった」

 必要とあればどんな存在であろうと制裁にかかる。彼女は人と妖魔が共に手を取り合い暮らすこの国を、世界を守るためになすべきことをなしたのだ。

 「当然よね。母さんは皆の平和を崩す脅威を排除したのよ、応龍として」

 明るい燐燐と対照的に、重苦しく甜瑠が言った。

 「けれどそれが今回の事件に繋がる因果を残した……そうですよね、溜謎?」

 「!……恐らくそうだ、とわたくし達は踏んでいるわ」

 「え――」

 正しいことをした母が恨まれる筋合いはない。そのはずだが。

 「黎琳も流石に全てを無に帰せるほど無慈悲ではないから。黎琳の粛清によって一族は没落同然に、挙句平和になり始めた世の中では呪術師という本業も必要とされなくなってきていた。路頭に迷うこととなった末裔は黎琳さえいなければ、って憎しみを向けても不思議じゃないからね」

 「そんな……」

 もしかして強大な力を持つはずの母がこうも逃れられないのは力の問題ではなく、自分自身に非があるという心の問題のせいなのかもしれない。

 辿り着く先に居るのは敵というよりも、被害者であると溜謎は言いたいようだ。

 「これを聞いてもぶれない覚悟が貴方にはある?燐燐」

 「……私、尚更敵の本拠地に行かなきゃ。行って、親玉を一発殴って、きっちり話を聞かなきゃ納得出来ない!」

 思わず甜瑠は地面に滑り込みそうになった。

 「私は難しい理屈だとか、心理だとか考えるの好きじゃないの!だからまっすぐ突っ込んで、単刀直入に洗いざらい聞いてしまえばいいわ!」

 「――ぷっ!」

 とうとう腹を抱えて豪快に笑い出した溜謎。一方当の本人は何かおかしいことを言ったかと言わんばかりに不思議そうに目を白黒させていた。

 「貴方、本当に面白い子ね!気苦労、絶えないでしょうけど、よろしく頼むわ」

 ばしばしと十の尾が甜瑠の背中を叩いた。内心もう少し手加減してくれと思いながらも、ようやくいつもの彼女らしさが炸裂したことに喜びの笑みを浮かべ、小さく言った。

 「言われなくても」

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