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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第五章
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予想外の初仕事 7

「それでは、こちらから行きましょう!」

 デイビッドが剣の切っ先を霧矢に向け、霧矢に向かってゆっくりとした足取りで近づいてくる。霧矢は唾液を飲み込むと、何とかデイビッドの動きを見極めようと、額に汗を浮かべながら、目を細めて出方をうかがう。

 剣自体のリーチは霧矢の方が長い。何とかその利点を生かして反撃したい。

 デイビッドが動くと、霧矢も剣を動かす。振り下ろされた剣を霧矢は同じく剣を構え受け止めるが、強すぎる力で弾き飛ばされる。

「ぐっ! ぐああああああ!」

 そのまま吹き飛ばされた霧矢はガッシャーンという音とともにステージ脇のテーブルに衝突し、割れた皿とともに床に叩きつけられた。その瞬間視界に閃光が走った。

 全身を襲う激しい痛みで、視界が滲む。そのまま気を失いかけたが、走り寄ってくる足音が聞こえた。

「霧君! しっかり!」

 目の焦点が合わない中、ぼんやりとした半雪女の顔が視界に飛び込んでくる。霧矢は歯を食いしばりながら上体を起こす。

「くっそ…野郎、やりやがる……」

 くらくらする頭を気合で何とかしながら、剣を支えに、霧矢は起き上がった。

「この一撃は割と力を込めたんですが、気を失わないとは、なかなかやりますね」

「お褒めの言葉ありがとうだな。結構効いたぜ、今の一撃は」

 打撲で足が痛むが、霧矢は気合で押さえつける。痛みを抑えるため低めの体勢で霧矢は再び、デイビッドに向かい合う。

 まわりを見回してみると、美香とレイは霧矢を心配そうな目で見ていた。頭は打たなかったので、それほどダメージは負っていないが、それでも今の霧矢の身体能力は一時的に痛みのせいで低下している。

「やはり、可憐な花は無骨な田舎者より、この華麗な私に相応しい」

「うるせえよ。誰が無骨な田舎者だ。確かに僕は雪深い山奥の出身だが、お前ごときに田舎者呼ばわりされる覚えはないぞ!」

 デイビッドの隙を突き、持ち前の素早さで一気に相手の懐へ飛び込むと、霧矢は剣を至近距離で振り回した。剣は相手に命中する。

「ぐっ!」

 真剣なら深手の傷を負わせるところだが、模造剣のため腹部が切断されることはなかった。ビリビリとマントが破れる音が響き、痛みで命中した箇所をくねらせながら、デイビッドは一歩下がる。

「見事。それでこそわが恋敵」

 敗れたマントを脱ぎ、デイビッドは脇に放り投げる。霧矢はとりあえず一矢報いたことで、気分が少し上向きになっていた。

「恋敵だあ? 僕としては、別に美香が欲しいわけじゃないけどな。ただ、お前は気に食わない。ただそれだけだな」

 霧矢はロングソードを構え直すと、デイビッドをにらみつける。デイビッドも楽しくなってきたという表情を浮かべる。戦いを純粋に楽しんでいるといった感じだった。

 二人ともニヤリと笑うと、お互いに走り出した。そのまま、剣のぶつかり合う音がパーティー会場の中にこだまする。二人とも剣に力を込める。

 ギチギチという剣をぶつけてお互い力で押し合う音を響かせながら、二人とも力を振り絞る。

「よう、ストーカー。そんなに勝ちたいか?」

「無論ですとも。この戦いに勝ったものが、可憐な花を求めることができるのです。それこそ、男たる者の願いではありませんか?」

 霧矢は鼻で笑うと、力を込めるために、立っている床が踏み抜けるほど足に力を入れた。

「勝負に勝つとかよりも大切なものがあるだろ。相手に好かれるためにどうすればいいかくらい、何百年も生きていればわかっているだろう!」

 床と接している足の骨が圧力で砕けるのではないかと思うくらいの力を込めて、霧矢はデイビッドの剣を押し返す。込めた力を剣に向けて一気に放った。

「うおりゃあああああ!」

 デイビッドの体が、押し上げられて少しだけ浮き上がり、そこに一瞬の隙ができる。

「おら、ストーカー! 急所が、がら空きだぜ! そして―」

 霧矢は一旦言葉を切ると、剣を脇に放り捨て、左足を軸に体を捻じ曲げる。男は身を守ろうとする動きをとろうとするが、霧矢が攻撃に移る方が早かった。

「正々堂々とアタックするため、出直して来い!」

 そのまま、霧矢は自分の足で、男の腹に自分の出せるだけの、すべての力を込めて回し蹴りを入れた。

「ぐはああああ!」

 腹部を蹴りつけられ、男は唾液を吐きだして仰け反る。そのまま、仰向けに倒れた。

「………勝った」

 大の字に倒れているデイビッドの顔を覗き込むと、ぼそりと霜華はつぶやいた。


「霧君! 勝ったよ!」

 全員から、霧矢への拍手が送られる。霧矢は緊張が解け、その場に座り込んだ。

「はは……やったぜ」

「お見事です。三条さん。それでは私どもは、失礼いたします。主がご迷惑をおかけしました」

 彼岸は気を失っているデイビッドを背負うと、霧矢たちに一礼し、会場から歩き去った。

「ちなみに、会場にかけた術式は、そのうち解けますし、かけられた客の記憶も都合よく修正されますのでご安心ください」

 会場の戸が閉まると、霧矢は仰向けになる。霜華が助け起こそうとするが、霧矢はその手をつかまずに、シャンデリアの飾られた天井を眺めていた。

 そのまま、寝てしまいたい気分になったが、塩沢の顔が視界に侵入してきた。

「ほらほら、求婚する権利を得たんだ。君はそのチャンスを取るのか捨てるのか、どっちだ? どちらにしても、それは、ちゃんとご本人の前でその意志を示さないとな」

「…ったく。面倒くさいったらありゃしないな。これじゃ十五万でも割に合わないぜ」

「だから、片平美香という賞品がプラスαでついてくるんだろう。違うか?」

 意地の悪い笑いを見せながら塩沢は霧矢を無理やり助け起こす。まわりを見ると、水葉、レイ、北条の三人は素晴らしいものを見せてもらったという表情で霧矢を見ており、霜華はなぜか不安というか、心配そうな表情で霧矢を見ていた。霧矢は霜華の方を向くと、

「大丈夫だ。ケガは大したことはない。絆創膏で済む」

 と澄まして答えるが、霜華はそうじゃないといった表情で霧矢を見ていた。

「ほら、騎士殿。お姫様の下へ行ってこい」

 塩沢は霧矢の背中を強く押しだす。おっとっと、とよろめきながら、霧矢は満身創痍の状態で、美香の正面に立った。


「……申し付け通り、決闘して、勝ってやったぜ」

「よく頑張ったわ。それでこそ、私の護衛を依頼した甲斐があるものだわ」

 霧矢は息を吐くと、美香の近くに転がっている剣を拾い上げ、背中で答える。

「あくまで最初の依頼の内容は、あんたの話し相手と、護衛の方は水葉さんのサポートだったよな。決して、剣で、しかも一対一でストーカーと戦うなんて依頼書には書かれてなかったはずだ。まったく、追加料金貰わなきゃ、やってらんないよ」

 霧矢は面倒くさそうに吐き捨てて横を向くと、剣に念じる。剣は光となって重さはそのままのカードに戻る。カードをポケットにしまうと、霧矢は美香の目を見る。

「それで、わがままお嬢様。これは冗談なのか、真剣なのか、答えてくれますか?」

 美香はニコリと笑う。霧矢は気分が一瞬遠のいていくのを感じた。

「真剣と答えたら、霧矢、あなたはどうするの?」

「…それは…その……何というか…」

 霧矢は口ごもる。先ほどからずっと、どう答えるべきかを考えてきたが、結局煮詰まらないまま、この場を迎えてしまった。

「とりあえず、上着を着ろ。正装できちんと向かい合え」

 塩沢が助け船を出そうとしたのか、脱ぎ捨てた上着を霧矢に差し出す。霧矢は上着に着いたほこりを払うと、上着に腕を通し、ボタンを留めた。

 霧矢はもう一度美香を見ると、美香は相変わらずニコニコと笑っている。

「…悪い。僕としては、冗談であることを望んでいる」

 霧矢がバツの悪そうな顔で答えると、美香の表情が曇る。

「それは、他に誰かいるから?」

「…そういうわけじゃない。今の僕には必要ないからだ。これから先、どうなるかはわからないけど、少なくとも、今はその必要はないんだ」

「必要ない…か。やっぱり、そういうことには興味がないのね」

 霧矢は黙ったままうなずく。それを見て、美香は残念そうな笑みを浮かべた。

「だったら、とても残念だけど、この話は、新年の冗談、私の得意のわがままということにしておくわ。決闘なんかに巻き込んでしまってごめんなさいね」

「わがままも大概にしておくんだな。お・じょ・う・さ・ま!」

 霧矢は疲れて近くにあった椅子に座りこむ。美香はニコリと笑うと、

「水葉さん。とりあえず、これで終わりにしてもよろしいかしら。私は、もう部屋に戻ります」

 とお嬢様モードに戻って、部屋に戻る意志を示す。霧矢も最後まで護衛を果たそうと、椅子から立ち上がろうとしたが、緊張が一気に解けてしまい、立ち上がることができなかった。

「…水葉さん、悔しいですけど、僕はもう体力が限界です。彼女を部屋まで連れて行くのを、よろしくお願いします」

「はいはい。かっこよかったわよ。霧矢君」

 美香は歩き去る前に、霧矢の耳元にささやく。


「……まあ、でも、あきらめないから」


 霧矢がその言葉に呆然とする中、美香は霧矢にウィンクし、水葉と一緒にパーティー会場から歩き去った。

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