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Absolute Zero 3rd  作者: DoubleS
第五章
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予想外の初仕事 6

 午前一時。パーティー会場は相変わらずデイビッドの仕掛けた術式によって、静まり返っていた。理津子や淳史も影となって固まっている。

「面倒だ…」

 会場を見ると、デイビッドが自信満々といった表情で待ち構えている。塩沢と水葉がそれぞれ仕切り役として、レイと北条は見届け人として「賞品」である美香に付いていた。

 デイビッドの付き人は彼岸、霧矢の付き人は霜華と、それぞれ両陣営、ペアで向き合った。

「さあ、参られたな。わが好敵手、三条霧矢!」

「……なあ、やめてくれないか? そういう無駄に高いテンション」

 高らかに霧矢に宣戦布告のポーズをとる男を霧矢は呆れたような目で見つめ、懐からずしりと重いカードを取り出す。光とともにカードが剣に変わり、霧矢の右手に出現する。

剣を構えて霧矢はデイビッドに向かい合った。

「そんななまくら剣で、私と戦おうとは、なめているのですか?」

「模造剣こそ、僕に適してるね。まあ、詳しく話すのは面倒だけど」

 塩沢が霧矢に真剣ではなく、模造剣を渡したのは霧矢にとって非常に喜ばしいことだった。

 霧矢の不殺の精神を塩沢は認めたのではないか。

 もちろん、単なる偶然だということはわかっている。でも、霧矢はそんな感じもしていた。模造剣という自分にぴったりの武器を渡してくれたことで、霧矢の塩沢に対する評価は悔しいが、多少上昇したと言える。


「それで、決闘のルールは何なんだ。どうやって勝敗を決めるつもりだ?」

 まさか、どちらかの息の根を止めるまでなどというルールだと困る。霧矢はギャラリーに向かって問いかけると、水葉が口を開く。

「自分の負けを認めるか、あるいは、立ち上がれなくなった方が負けでいいわ。せいぜい、お互いとも気を付けてちょうだいね。死人だけは願い下げだから」


「それでは、一旦構えを解き、お互いに礼」

 塩沢が楽しそうな口調で宣言する。霧矢も不本意ではあったが、剣を下ろし、デイビッドに一礼する。デイビッドも霧矢に向かって一礼した。

「この決闘、見届け人は塩沢雅史、古町水葉、北条柳都、大崎礼子の四名である。勝者が、ここにいる片平美香に求婚する権利を得る」

(…そんな権利はいらないよ)

 内心で愚痴をつぶやきながら、霧矢はため息をつく。一方でデイビッドは目を輝かせている。しかし、勝ったところで、彼の望む展開にはならないだろう。

 あくまで塩沢たちが勝者に提供するのは「美香に求婚する権利」であって「美香と結婚する権利」でも「美香を連れ去る権利」でもない。それを望む場合は、彼らは相川探偵事務所の名に懸けてもその者を排除するだろう。それを彼は理解しているのだろうか。


「それでは、始め!」

 霧矢は上着を脱ぎ捨てると、剣を中段に構え、突きの体勢を取る。その一方で、デイビッドは余裕の姿勢を崩さず、身構える様子はない。マントをひらひらさせながら、霧矢に挑発するような表情を見せた。

「おい、吸血鬼。素手で戦う気か?」

「私が、魔族だということをお忘れですか?」

 次の瞬間、デイビッドの影が巨大になり、そこから人のシルエットが浮かび上がってくる。実体化した影は、何体もの人間の形になり、霧矢に向かって立ちふさがる。

「魔生体か!」

 魔生体は魔族が自分の魔力を使って作り出す自律制御の操り人形のようなものだ。基本的に魔力を大量に消費する割には扱いが面倒ということで、物好きでなければあまり使うことはない術式だと聞いている。

「まあ、今晩はこのような格好で参上いたしましたから、ゾンビを操る吸血鬼の気分に浸らせていただきます。さあ、踊っていただきましょう。わが魔生体は数であなたを圧倒する」

 デイビッドは得意そうな表情を浮かべた。霧矢はロングソードを構えながら、十数体の魔生体をかいくぐってデイビッドを攻撃する機会をうかがう。

(……くそ、数が多すぎる…)

 人のシルエットをした魔生体は手を前に突き出しながら、霧矢に迫ってくる。ロングソードで応戦しても、取り囲まれるのがオチだろう。

「霧君! 魔生体なら力砲!」

 後ろから霜華の助言を受け、霧矢はロングソードを左手に持ち替え、右手でベルトのホルダーから力砲を抜き取る。そのまま、迫り来る魔生体に力砲を向け、引き金を引いた。

 霧矢の水の魔力が一般人には見えない強力な青い閃光の矢と化し、力砲の銃口から勢いよく放たれる。一直線に飛んでいく魔力の矢は弾道上にあるすべての魔生体を貫通し、最後は式場のテーブルに命中し、粉々に破壊した。それでも勢いは衰えず、テーブルの破片が四方八方に撒き散らされる。

「な……」

 デイビッドが意表を突かれ、絶句している間も、霧矢は残りの魔生体を始末していく。

「始末完了。これでお前は、裸の王将だ」

 すべての魔生体は破壊され、光の粒となって消えた。デイビッドは一気に劣勢に追い込まれるが、そこで彼に一つの疑問が生じた。

「なぜ、あなたはその銃で私を撃たないのです? それほど強力な武器を有していながら、何ゆえ、そんな模造剣に頼っているのです?」

 デイビッドがその質問を口にすると、見届け人である塩沢はため息をついた。霧矢は堂々と答える。

「決まってるだろ。こんなものを人に向けて使ったら、運が悪けりゃ相手を殺しちまうからだ。僕は、敵を殺さない。戦いではそれを守ることにしている」

 霧矢は力砲を指先でくるくる回すと、再びホルダーにしまった。

「なあ、やっぱり男らしく戦うんだったら、近距離での白兵戦だろ?」

 ロングソードを構え直し、霧矢はデイビッドの方へ一歩踏み出す。

「その答えを待っていましたとも。望むところです」

 デイビッドは自信満々の表情で右手を虚空へ突き出す。


「わが力、具現せよ。その形は剣! 影の闇よ、わが戦の礎となれ!」

(…痛い、痛すぎる…)

 わざとらしい台詞を高らかに叫ぶと、デイビッドの右手に漆黒の剣が出現する。霧矢の細く長い突剣とは異なり、大ぶりの斬ることに重点を置いたやや短めの太めの剣だ。

「いざ、尋常に勝負!」

 デイビッドは剣を片手で構え、霧矢は両手で構える形で、それぞれ相手に向き合う。

(……できるな。こいつ)

 剣を握りしめながら、霧矢は額に汗を浮かべる。剣で一対一の勝負になったにもかかわらず、デイビッドは余裕の表情を崩していなかった。

 直感で、霧矢は彼が剣に関しては相当な手練れだと理解した。それに対して、霧矢は件に関しては素人も同然だ。棒状の武器の扱い方は雨野から手ほどき程度のことしか習っていない。

 しばらくにらみ合いが続く中、霧矢が先に動いた。剣を構え、デイビッドに向かって走り出した。相手の腹部を狙い、一撃必殺をと考えた。

「うおおおお!」

「甘いですよ!」

 しかし、霧矢の動きは速いものの単調が過ぎ、あっという間に攻撃を見切られてしまう。

 カチンという剣がぶつかり合う金属音が響き、霧矢の腕は上方へ跳ね上げられる。そのまま、霧矢はバランスを崩し、後方へ仰け反り尻餅をつきそうになるが、何とか踏みとどまった。そのままバックステップで後方へ下がり、再び距離をとった。

「……やるな」

 単純な腕力でも、明らかにデイビッドの方が上だ。剣の扱いの技量も同じだろう。霧矢がデイビッドよりも優れていると思われるのは敏捷性くらいで、そんな状況で、霧矢が勝つには相手の弱点を突くか、不意打ちを食らわせるしかないと思われる。

 そして、最悪の場合は、霜華が提示したプラン。至近距離で急所を外しながら力砲を使用するということをしなければならない。

(…負けてもいいんだけど…それはそれで、なんか嫌だな)

 霧矢は奥歯を噛みながら剣を強く握りしめる。

 先ほどは突き攻撃を仕掛けて失敗した。ならば、逆に今度は力任せに切りつけてみれば上手くいくかもしれない。模造剣なので切りつけても鈍い傷しかつかないだろうが、一応のダメージは期待できるだろう。

「行くぞ!」

 霧矢は剣を上段に構えて、斬りかかる。デイビッドは先ほどよりもさらに素早い霧矢の動きに驚いたようだったが、それども負けずについてくる。霧矢の斬撃を弾き返し、霧矢の頬を剣がかすめる。弱いが鋭い痛みが走ったかと思うと、赤い血が滲みだす。

 血の滴る頬を手で拭うと、霧矢は再び距離をとり、デイビッドのまわりを時計回りに回りながら攻撃のチャンスをうかがう。霧矢はデイビッドの奇妙な格好を改めて視界に入れた。

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